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2017年3月25日(土)

【電撃PS】SIE・山本正美氏のコラム『ナナメ上の雲』を全文掲載。テーマは“アキバの教え”

文:電撃PlayStation

 電撃PSで連載している山本正美氏のコラム『ナナメ上の雲』。ゲームプロデューサーならではの視点で綴られる日常を毎号掲載しています。

『ナナメ上の雲』

 この記事では、電撃PS Vol.634(2017年3月9日発売号)のコラムを全文掲載!

第103回:アキバの教え

 鋭意開発中の『V!勇者のくせになまいきだR』。アートのメンバーが作ってくれている楽しいグラフィックリソースもかなり内容が詰まってきて、魔王はもとより、魔物、勇者、そしてステージと、バリエーション豊かにテストプレイができる状態になってきました。それに加えて、声優さんによるボイス収録も完了し、喋りまくる魔王に導かれながら、そしてイジられながら、日々チェックを繰り返しています。まだまだゲームバランスの調整などはこれからですが、一日も早く皆さん遊んでいただけるよう、(株)アクワイアの精鋭達とともに、疲れで椅子から崩れ落ちるのをこらえながら頑張っておりますので、今しばらく楽しみにお待ちいただければと思います。

 そんな感じでガシガシ制作中の『Vなま』。僕とプロデューサーの鳥山君は普段品川のSIEオフィスで仕事をしていて、メディアさんへのプレゼンなど大げさなミーティングではアクワイアスタッフに品川にきてもらうこともしばしばですが、週次の定例ミーティングなどは、アクワイアがある秋葉原に、鳥山君と僕で伺うことが通例です。なんといっても現場のみんなに移動してもらう時間が惜しいですからね。複数タイトルを背負っている場合は開発会社から開発会社へとミーティングを渡り歩くことになりますが、会社にいるより現場百篇。それが外部制作プロデューサーの仕事の基本です。

 さて、そんなわけで毎週秋葉原に行く日々が1年以上続いているのですが、アキバの街ってホントに短期間でコロコロ様変わりするんですよね。アクワイアのオフィスは駅から1分以内という立地なのですが、そんな距離でもコンビニが入れ替わったり新たなラーメン屋ができたり、相変わらずメイドさんはあちこちにいるし、通っていて飽きません。そもそも駅に出る前、つまり“エキナカ”から地方の物産展をやっていたりするので、打ち合わせそっちのけでちょっと寄ってみようかと思ったり、何かと誘惑が多いのです。

 先日は、そんなアキバのエキナカで“ガシャポンフェア”なるものに遭遇しました。この“ガシャポンフェア”、実は結構な頻度で出くわすのですが、要は駅構内にガシャポンマシンがずらっと並んでいるだけといえば、それだけ。しかし最近のガシャポンは種類も豊富でヒット商品なども多いですから、毎回たくさんのお客さんが集まっています。僕もずいぶん前ですが、子供の要望に応え一度アキバのガシャポン専門店に行ったことがあるので、“アキバ=ガシャポン”という親和性の高さを受け止めつつ、それ以上のことは特になにも感じずに、毎度ガシャポンフェアを眺めていたのでした。

 そんなとき、こんなニュースを目にしました。なんと、“成田空港のロビーに、大量のガシャポンマシンが設置された”というではありませんか。海外からの旅行客が最後に立ち寄る場所といえば、もちろん空港です。海外旅行の経験がある方ならおわかりかと思いますが、どうしても使い切れない現地通貨の小銭って残ってしまいますよね。日本の多彩なキャラクターって世界でも人気ですし、ウケ狙いも含め、ちょっとしたお土産として最後100円を投じてもらうには、ガシャポンって実は最適なインフラなんですね。なるほど、うまいなあと思いました。で、ふと思い至ったわけです。アキバエキナカのガシャポンフェアも、“海外の旅行客に小銭を使ってもらうために存在する”のではないかと。

 なぜなら、秋葉原といえば世界有数の電気街です。毎週体感していますが、本当に色んな国の人を目にします。視界に入る瞬間によっては、日本人より海外の人のほうが多い時もざらにある。しかも、ロケーション的に、買い物をした直後の可能性が高い。エキナカだから、切符を札で買えばさらに小銭は財布にあるはず。そこでガシャポンです。アキバにくるような旅行客なら、きっとガシャポンに入っている“ネタ”への理解度も高い。というような要件が重なって、あの人だかりができるわけですね。すごいなあ。

 ここで面白いのが、この“意図”を知らずとも、これまでアキバエキナカで目にしたガシャポンマシンの列に、僕はまったく違和感を受けなかった、ということです。それは、“秋葉原駅にガシャポンが置かれていることの親和性”に、なんらイメージ上の疑問を挟む余地がなかったからですが、一方で、この“意図”を知らずに、先ほどの成田空港でガシャポンマシンがずらっと並んでいる光景を見たとしたら、確実に、まずは「え、なんで?」と感じたのだと思うのです。空港にあるとナゼ? と感じるけどアキバだとそうは感じない。“環境との馴染み具合”って、違和感がないほど真の目的を見えにくくする、ということなのですね。

 現在制作中の『Vなま』も、特にUIの部分で日々、この“馴染み”の問題を解決しながら作っています。VRゲームは、その新しさゆえに、“なぜそうなっているのか?”を見つけるのも楽しみのひとつです。完成の暁にはぜひ、仕込まれた意図を探っていただけると嬉しなあ。

ソニー・インタラクティブエンタテインメント JAPANスタジオ
エグゼクティブプロデューサー

山本正美
『ナナメ上の雲』

 ソニー・インタラクティブエンタテインメント JAPANスタジオ 部長兼シニア・プロデューサー。PS CAMP!で『勇なま。』『TOKYO JUNGLE』、外部制作部長として『ソウル・サクリファイス』『Bloodborne』などを手掛ける。現在、『V!勇者のくせになまいきだR』を絶賛制作中。公式生放送『Jスタとあそぼう!』にも出演中。

 Twitterアカウント:山本正美(@camp_masami)

 山本氏のコラムが読める電撃PlayStationは、毎月第2・第4木曜日に発売です。Kindleをはじめとする電子書籍ストアでも配信中ですので、興味を持った方はぜひお試しください!

データ

▼『電撃PlayStaton Vol.635』
■プロデュース:アスキー・メディアワークス
■発行:株式会社KADOKAWA
■発売日:2017年3月30日
■定価:639円+税
 
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