News

2017年5月20日(土)

【電撃PS】SIE・山本正美氏のコラム『ナナメ上の雲』を全文掲載。テーマは“箱の中身は?”

文:電撃PlayStation

 電撃PSで連載している山本正美氏のコラム『ナナメ上の雲』。ゲームプロデューサーならではの視点で綴られる日常を毎号掲載しています。

『ナナメ上の雲』

 この記事では、電撃PS Vol.638(2017年5月11日発売号)のコラムを全文掲載!

第107回:箱の中身は?

 もともと本を読むのが好きでしたが、ここ数年、読書量が目に見えて落ちてきているなあという自覚があります。理由は大きく2つ。まず1つは、会社のオフィスが引っ越ししたことにより、通勤時間が短くなったこと。会社の引っ越しなんて自分でどうこうできるものではありません。だから電車に乗っている時間が大幅に短縮されたことはラッキー以外のなにものでもないのですが、一番の読書場所でもあった電車の車内にいる時間が短くなったことは、読書量の低下に見事に直結したのでした。

 もう1つは、なんといってもスマートフォンを手にしたことによる影響です。通勤時間が短くなる以前から、TwitterやFacebookといったSNS、ブログ、ニュースアプリの巡回、それに加えてゲームアプリのログボ稼ぎなどに勤しむことが増え、ルーチンをこなすだけであっという間に時間が経ってしまうのです。これはまずい。上記に挙げたような情報を浴びることは、もちろん日々消費する知的エネルギーとして身体に蓄えておくことが必要なのですが、基本的には流れていってしまう情報も多く、どちらかというと瞬発力に役立つ方向性のものが多かったりします。一方“本”は、時間を掛けて深く思索を巡らせた結果の成果物、という趣が強いためしっかりと向き合うことが必要です。だから情報源としての瞬発力には欠け、楽しむのに時間は掛かりますが、その分、自分の中に残る“想いの滞在時間”は長いのです。

 というわけで、今年からちょっと読書量を戻そうというキャンペーンを自分の中で始めています。まずは緩めに、月2冊のペースで本を読むことを課しているのですが、今のところは順調で、村上春樹さん7年ぶりの長編『騎士団長殺し(上下)』に始まり、映画も話題になった朝井リョウさんの『何者』、そのスピンオフ小説『何様』、スタジオジブリ鈴木敏夫さんの『ジブリの文学』、数々のヒット番組を生み出したテレビプロデューサー古川圭三さんの『たけし、さんま、所の「すごい」仕事現場』、直木賞と本屋大賞の二冠を達成した恩田陸さんの『蜜蜂と遠雷』と、多様な本を楽しませてもらっています。僕は元来、本のチョイスが雑多な人間で、物語も好きですしエッセイも好き、対談やインタビュー本も好きですし新書も好き。とにかくそのスジのプロフェッショナルが考えていること、考えたこと、編み出したことに触れるのが好きなんですよね。

 そんなキャンペーン中の僕が最近読み終わったのが、前回の近況コーナーにも書いた、岩木一麻さんの『がん消滅の罠 完全寛解の謎』という本です。タイトルだけだと一件医学書的な風情もありますが、れっきとしたミステリ小説です。“寛解(かんかい)”という言葉、僕も始めて知りましたが、簡単にいうと、“がんが軽減した状態”のことだそうで、がんが消滅し数値的にも平常時に戻ることを、完全寛解というのだそうです。この完全寛解と保険金の関係を巡り、さらなる展開へと繋がっていく……という極上のエンタテイメント、それがこの本でした。

 さて、そんな『がん消滅の罠 完全寛解の謎』。物語とはまったく関係ない部分で面白かった一節がありました。それは、“パンドラの箱”に関する記述についてです。

 パンドラの箱にまつわる逸話って、皆さん何かしら聞いたことがありますよね。すごく端折って書くと、ギリシャ神話に登場する神ゼウスがパンドラという女性に箱を渡し、「絶対開けるな」と告げます。パンドラは、よせばいいのに持ち前の好奇心からその箱を開けてしまい、箱の中に閉じ込められていたこの世のあらゆる悪が解き放たれてしまう。しかし、箱の中には1つだけ残されたものがあった。それが希望である。というあの話です。概ね、僕が知っているのもそんな感じだったのですが、『がん消滅の罠 完全寛解の謎』で、パンドラの箱について登場人物がこんなやりとりをしていました。ギリシャ神話では本来、最後に残されていたものは“エルピス”というものであった。エルピスにはさまざまな解釈が存在するが、それが“希望”であるという説と、“未来を見通す力(予兆)”という説の2つが有力である、と。僕はポカンとなりました。エルピスってなに……? と。

 パンドラの箱の話を僕が知ったのは小学生のころなのですが、その後のRPG大流行とともにギリシャ神話的な話にはたくさん触れてきたので、より深くアップデートされるチャンスは限りなくあったはず。なのに、パンドラの逸話について、エルピスという概念が存在していることなどまったく知らなかった。人から聞いたこともなかったのです。しかし今回ふとスマホでググってみると、わんさかエルピスに関する解釈が調べられる。これってつまり、自分の知識の中に、いわば更新パッチが当てられず淀んだ状態のまま放置されている知識がたくさんある、ということに他なりません。僕が本を読んだり情報に触れたりするのって、それら箱を開けることで、自分に更新パッチを当てようとしているのかも。そんなことを思いつつ、さて次はどの箱を開けようか、と思うのでした。

ソニー・インタラクティブエンタテインメント JAPANスタジオ
エグゼクティブプロデューサー

山本正美
『ナナメ上の雲』

 ソニー・インタラクティブエンタテインメント JAPANスタジオ 部長兼シニア・プロデューサー。PS CAMP!で『勇なま。』『TOKYO JUNGLE』、外部制作部長として『ソウル・サクリファイス』『Bloodborne』などを手掛ける。現在、『V!勇者のくせになまいきだR』を絶賛制作中。公式生放送『Jスタとあそぼう!』にも出演中。

 Twitterアカウント:山本正美(@camp_masami)

 山本氏のコラムが読める電撃PlayStationは、毎月第2・第4木曜日に発売です。Kindleをはじめとする電子書籍ストアでも配信中ですので、興味を持った方はぜひお試しください!

データ

▼『電撃PlayStaton Vol.639』
■プロデュース:アスキー・メディアワークス
■発行:株式会社KADOKAWA
■発売日:2017年5月25日
■定価:694円+税
 
■『電撃PlayStation Vol.639』の購入はこちら
Amazon.co.jp

関連サイト

電撃PlayStation

最新号紹介

  • 電撃PlayStation Vol.668

    電撃PlayStation Vol.668表紙画像

    [ 11月号 ] 2018年9月28日発売
    特別定価:880円+税

    【表紙&攻略冊子&コード付録】閃の軌跡IV
    【毎号付録】デンプレコミック #22
    【Gallery】アサシン クリード オデッセイ
    【特集】日本ファルコム×アクアプラス
     『閃IV』『うたわれ斬』発売記念対談
     歴代表紙タイトルの“今” [ Vol.445-665 ]
    【PS4超新作ラインナップ 2018-2019】
     JUDGE EYES:死神の遺言 / GOD EATER 3
     キャサリン・フルボディ / DMC5 ほか
    【POWER PUSH】勇者ネプ / SAO FB
    【電撃特報】ラピス・リ・アビス
    【MONTHLY DEEP】CRYSTAR -クライスタ-
     CoD:BO4 / ソウルキャリバー6
     ロックマン11 / RDR2
    【BRAND NEW】うたわれるもの斬
     無双OROCHI3 / EDF:IRON RAIN
     ゆらぎ荘の幽奈さん 湯けむり迷宮
    【Online】バトオペ2 / ボーダーブレイク
     FFXIV / FFXI / PSO2
    【電子書籍データ付録】
     PS&PS2 全ソフトカタログ 特別編集版
    【コード付録】うたわれるもの斬
     無双OROCHI3 / DDON / MHF-Z

    >> 詳細はこちら