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2017年5月27日(土)

【電撃PS】高橋慶太氏のコラムを全文掲載。生きていくための仕事か、ゲームを作るための生き方か。

文:電撃PlayStation

 電撃PSで連載している高橋慶太氏のコラム『電撃ゲームとか通信。』。ゲームデザイナーとしての日常や、ゲーム開発にまつわるエピソードを毎号掲載しています。

『電撃ゲームとか通信。』
『電撃ゲームとか通信。』

高橋慶太氏PROFILE

 バンダイナムコゲームス(現BNE)時代に『塊魂』、『のびのびBOY』を制作。その後『Tenya Wanya Teens』を発表。GoogleのARプロジェクト“Tango”向けに『WOORLD』を開発、現在は『Wattam』を制作中。

 この記事では、電撃PS Vol.638(2017年5月11日発売号)のコラムを全文掲載!

『電撃ゲームとか通信。』

第九十一回:生きていくための仕事か、ゲームを作るための生き方か。

 どうも。昨年夏に申請していたグリーンカード(米国永住権)の処理がまだ始まっていなかった事実に少々驚いている高橋です。果たしてアメリカに永住するかどうかは別として、このままずっとビザのままでいることも可能なんですが、今のは最初の3年以降は毎年更新する必要があり、その更新にお金もかかるし、何しろそれの為の事務手続きが面倒臭い。あと1番大きなポイントは、ビザのスポンサーである会社の仕事しか出来ないこと。そういう縛りは嫌なのでグリーンカードを申請している次第です。しかし、どうやらそれが全然進んでないということで、この先どうなることやら。グリーンカードを申請したのに再度ビザも更新しないといけない、、、みたいな馬鹿げたことになるかもしれません。

 そして“仕事”つながりの話。度々このコラムに登場するAlice(絶賛制作中の『Wattam』のリードエンジニア)曰く、アメリカ西海岸(もしくはアメリカ全体)でのゲームエンジニアの平均年齢はかなり若い、なぜならエンジニアが家庭を持ったり養うべき家族が増えると、より安定した収入と充実した福祉厚生を求めて、GoogleやらFacebookといった巨大IT企業に移るため、現役バリバリのゲームエンジニアは大抵若く、20代か30代前半が多いとのこと。なので、大手IT企業で働いているシニアエンジニアでゲーム業界出身の人は少なくないらしい。

 自分がナムコに勤めていた時は、家族持ち40代のエンジニア係長とか課長が普通にいたから多少驚いたけど、納得もしました。こっちで生活する(特にサンフランシスコ)のには日本以上にお金がかかる。家賃も物価も高いし子供の教育費もバカにならない。特に私立大学の費用は日本の私立に比べてもべらぼうに高く、学費は1桁違うほど。そして教育熱心な親たちはその大学費用をどう捻出するか、子供がまだ小さい時から色々策を講じているらしいです。

 1つ合点がいったのが、学校でのボランティア。親の参加率が日本の学校に比べるとかなり高いのです。息子が通っている学校でも毎日のように親がクラスボランティアに参加しています。自分も仕事の合間を縫って先日参加してきました。といっても小一時間とかではなく朝から昼までぎっちりと。その日は、まず通常授業→休み時間/スナックタイム→裏庭での授業という感じでした。裏庭授業は、虫を探したり雑草を抜いたりしながら自然を学ぶというもの。女の子でもミミズに興味津々で、両手いっぱい集めてたりしてました。と、それはともかく、そのボランティアに親たちが頻繁に参加してて偉いなあと思ってたんだけど、どうやらそれも純粋な愛だけでやってるわけでもないらしいのです。親がボランティアやPTAに多く参加することが中学や高校への進学に大きな影響があるらしいのです。内申書的な面でも、資金的な面でも。ある程度優秀な子は親の経済状況があまり良くなくても国が学費をある程度補ってくれる制度があるそうで、そこで響いてくるのが親の学校への貢献度。そのポイントが高いと、学費補助制度を使える可能性が高まると。まさかキンダーガーデン(日本でいう幼稚園のようなもの)の時からそこまで計算してる親はあまりいないと願っているけど、案外すでに狙っているのかもしれません。

 個人的には正直そこまでしてサンフランシスコ/アメリカに住み続ける価値があるのか分かりません。可能ならもっと住みやすい場所に引っ越したいです。ここで話は戻ってIT企業に移るエンジニアの件。これ、パッと聞き、なんだか残念な話です。本人はゲームがつくりたいのに家族を養うためにIT企業に行かなければならないなんて、何というヒエラルキー社会なんでしょう。

 何でIT企業はそんなお金持ってるんだよ、とか思っていたら、どうやら過去にも似たようなことがボードゲームとビデオゲームの間でも起きてたことをTwittterで知りました。過去に、有名なテーブルトップゲームのデザイナーが家族を養うため、ビデオゲーム業界に入ることを決断したんだとか。いやー、これは盲点でした。確かにそうだ。それがいつ起きた話なのか分からないけど、そういう可能性を見落としてたのがカッコ悪い。ヒエラルキー的に下になることで、初めて今まで自分がそこに加担していたことを気づくなんてねえ。まー、誰もゲーム業界がIT業界よりも下とか上なんて考えてないと思うし、自分自身もそこまで強く感じているわけではないのです。

 ただゲーム業界からIT業界へと“お金”のため“家族のため”に移動してるのは事実。そして、その事実を自分にとって歪んだ禍々しいものにしている要素というが、ここでもやっぱりGoogleやFacebookはなぜあんなにお金を持っているのか、という素朴な疑問。

 両方の会社でそれぞれ知り合いが働いているので、その謎をぶつけてみました。が、そこで返ってきた答えは両方同じ。それは何かと言うと広告。やっぱり。それは当然やっぱりだけど、やっぱり全然それでもよくわからない。あのWebの左右に出てくる広告や検索ページに出てくる広告が収入源なの? 今までの人生で2〜3回くらいしかあの広告クリックしたことないんだけど。もしあれが主な収入源であるならば、自分以外の誰かがクリックしまくってて、かつ商品を購入しているんでしょうね。

 広告出してる企業としても価値があると認識しているからこの広告ビジネスは全然なくならない。いやー不思議。このお金の流れを頭で想像すると自分には謎すぎて思考が止まってしまいます。とはいえ世界的に見ても広告を牛耳る組織がお金や力を得ているわけで。どうにかしてモノ自体をつくる方が価値のあるような世界に戻せないか考えているところです。あ、、、結果的に全然関係ない話になって終わってしまった。。。

(C) Keita Takahashi

データ

▼『電撃PlayStaton Vol.639』
■プロデュース:アスキー・メディアワークス
■発行:株式会社KADOKAWA
■発売日:2017年5月25日
■定価:694円+税
 
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