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2017年6月10日(土)

【電撃PS】SIE・山本正美氏のコラム『ナナメ上の雲』を全文掲載。テーマは“現代のタイムマシーン”

文:電撃PlayStation

 電撃PSで連載している山本正美氏のコラム『ナナメ上の雲』。ゲームプロデューサーならではの視点で綴られる日常を毎号掲載しています。

『ナナメ上の雲』

 この記事では、電撃PS Vol.639(2017年5月25日発売号)のコラムを全文掲載!

第108回:現代のタイムマシーン

 たまに、無性に過去のゲームの曲を聴きたくなることがあります。事務作業でひたすら手を動かすときなど、仕事のペースを後押ししてくれたりするんですよね。今でもよく聴くのは、『リッジレーサー』のIとII、『ファイナルファンタジー』のIV、V、VI、『イース』のIとII、あとは、『ワルキューレの伝説』や、スーパーファミコンの隠れた名作、『イーハトーヴォ物語』などなど。これらの曲を聴いていると、まさに捗るのです、仕事が。

 通常の音楽とゲーム音楽の違いって、専門的には色々とあると思いますが、一番の違いはなんといっても“繰り返し聴く”ことにあると思います。繰り返し聴くから、体への浸透圧がハンパじゃありません。ゲーム内容はイマイチ憶えていなくても、音楽だけはしっかり憶えていることってよくありますよね。テレビを見ていて、ものすごく久しぶりに耳にするのに、“あ、これってあのゲームの曲だ!”と一発で気づくこともよくあります。

 そういえば、スマートフォンのゲームは音楽があまり聴かれない、という話を聞いたことがあるのですが、だとしたらもったいない話ですよね。目から飛び込んでくる情報、指先で感じる体感、すべてを増幅し、記憶として定着させる音楽。これらが揃ってこそのゲーム体験だと思うので。

 僕は、遊ぶデバイスに関わらず、音楽をしっかり聴きながらプレイします。たとえば、最近スマートフォン用にリリースされた、『アナザーエデン 時空を超える猫』というゲームを遊んでいるのですが、このゲーム、どこか往年のJRPGを彷彿とさせる内容になっていて、それに輪をかけて、光田康典さんのタイトル曲はじめ、音楽が素晴らしい。ぜひ曲を聴きながら遊んで欲しいなあと思います。

 ゲーム音楽は、昨今ひとつの音楽文化としても大きな広がりを見せています。ゲーム音楽をテーマにしたコンサートだけでみても、2006年から10年続いた“PRESS START”、参加型のゲーム音楽フェスティバル“ゲームタクト”、4年に1度のゲーム音楽フェス“4starオーケストラ”など、様々な試みが存在します。

 Japan Game Music Orchestra、略してJAGMOという、日本初のゲーム音楽プロ交響楽団なども誕生していて、まさに花盛り。かつては、“ピコピコ”と表現されたゲームの“音”が、今や、大きなホールでそのスケール感を楽しめる、クラシック音楽と遜色ない領域までその裾野を広げている。これも、作曲家の皆さんや、ゲーム音楽に魅了された皆さんの努力のたまものだと思います。

 そんな中、我がJAPAN Studioも、ゴールデンウィーク真っ只中の5月3日、“GAMESYMPHONY JAPAN 23rd CONCERT~ PlayStation(R) を彩るJAPAN Studio 音楽祭 2017~”と銘打って、これまでJAPAN Studioが世に送り出してきた名作の、宝石ともいえる楽曲の数々を披露させていただくコンサートを開催しました。

 Game Symphony Japan(ゲーム・シンフォニー・ジャパン、略称:GSJ)は、アイムビレッジ社が主催する、ゲーム音楽に特化した、プロフェッショナルなコンサートシリーズの名称ということで、指揮者の志村健一さん自ら運営を率いられています。これまでも、このGSJとコラボしているゲームタイトルがたくさんあり、その“23rd”として、我々のスタジオがご一緒させていただいたわけです。

 ……いやー、本当に感動しました。制作を担当している僕らは、作曲家に生み出していただいた楽曲の用途について、当然ながらゲームに実装されプレイと渾然一体になるところまではしっかりイメージして作っています。

 しかしそれがその後、今回のようにフルのオーケストレーションが加わり、大きなホールで、しかもそのゲームを楽しんだ人たちと一緒になって聴く、ということになると、想像を一気に越えた感情が襲ってくるのです。

 僕は撮影用のビデオ班の横で、観客の皆さんのことを眺めながら、珠玉の音楽たちに聴き入っていました。見回すと、『PATAPPON』の曲に合わせリズムに乗っている人、『ワイルドアームズ』の曲で一緒に口笛を奏でている人、『人喰いの大鷲トリコ』の曲でそっと涙を拭いている人。たくさんの風景が飛び込んできて、僕も感極まってしまったのでした。

 これはゲーム音楽に限らずですが、音楽には、時間を飛び越える力が備わっていると思います。若いころゲームを遊んでいたときの感情、部屋、友達の顔。そういった記憶が、一気に蘇る。その意味で今回のコンサートに参加してくださった皆さんは、また新たなタイムマシンを手に入れたはず。アイムビレッジの志村さん、音楽祭プロデューサーの伴君、素敵な時間をどうもありがとうございました!

データ

▼『電撃PlayStaton Vol.640』
■プロデュース:アスキー・メディアワークス
■発行:株式会社KADOKAWA
■発売日:2017年6月8日
■定価:694円+税
 
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