2017年8月21日(月)
“VR×ライトノベル”で発見した新しい読書体験とは? VRを体験したことがない人ほど楽しめる
VRコンテンツの企画・開発を行うMyDearest Inc.から、“VR×ライトノベル”をコンセプトとする“FullDive novel(フルダイブ・ノベル)”の第1弾『Innocent Forest(イノセントフォレスト)』が、7月25日にGear VRでリリースされました。
VR空間に没入して読書を体験する“FullDive novel”とは、いったいどういったものなのでしょうか。ここでは実際に体験した様子をお伝えするとともに、開発スタッフにそのコンセプトなどを伺いました。
VR空間の中で文章を読み進める、まったく新しい“読書体験”
“VR×ライトノベル”というコンセプトを聞いて、皆さんはどういったものをイメージするでしょうか?
バーチャル空間の中でライトノベル的な物語が、3Dのキャラクターによって繰り広げられるアドベンチャーゲーム的なものを思い浮かべる人もいるでしょう。
ところがこの“FullDive novel”は、ノベルという言葉そのままの小説です。VR空間の中に浮かんだ半透明の領域に表示される文章を読み進めていくことで物語の世界に入り込むことができる、純粋な“読書体験”となっているのです。
こう説明すると「わざわざVRのゴーグルをつけて小説を読む必要があるの?」と思うかもしれません。筆者も正直言って、最初はそんなふうに感じました。ところが実際に体験してみると、これが想像した以上に、物語の世界に集中することができるのです。
VR空間に没入しているため、読み進めているあいだは自分の周囲に広がる現実世界の様子に気を取られることがありません。またVR空間では文章だけでなく、小説の内容に応じた背景が自分の周囲360度を取り囲んでいるほか、環境音やBGMも聞こえてきます。
まるで自分自身が作品の世界に移動して、そこで物語を読み進めているような感覚……というと大げさかもしれませんが、自宅の部屋や電車の中といった日常生活の空間で本を広げて読むのとは、まったく異なるレベルの没入感を味わうことができるのです。
ここで、“FullDive novel”の第1弾である『Innocent Forest』の内容を、少しだけご紹介しましょう。この物語は不思議な少女ルクレイと、来客者たちの記憶を巡るファンタジー作品です。
この森では、記憶は鳥に姿を変えて、人々の胸の巣箱を飛び立ちます。森に迷い込んだ純朴な青年ケイが、森に住み、鳥を集めるルクレイと出会うところから、物語は始まります。
トレイラーを見た方はおわかりのとおり、本作では森の少女ルクレイを日高里菜さんが、来訪者ケイを小林裕介さんが演じています。
またインコのパッセ役で吉岡茉祐さんも出演しています。小説を読み進めていく際には、声優の皆さんが演じる各キャラクターのセリフを聞くことができるのです。
また物語の要所では、VRを駆使したアニメーションを楽しむこともできます。これがライトノベルでいうところの“挿絵”にあたるわけです。このVRアニメーションが、じつに印象的なんですよ。
文字の世界に没入しながら物語を読み進めていると、VRならではのリアルな距離感で、物語の舞台となる空間やルクレイ本人と接することができるわけです。
頭の中で思い浮かべていた光景が、急に目の前に出現したような気がして、そのギャップがすごく新鮮でした。
総プレイ(もしくは読了)時間は、文章を読み進めていくスピードにもよりますが、全部で1~2時間ほど。スマートフォンを利用したVRであるGear VR向けに、すでに配信が開始されている他、8月からは全国のネットカフェで体験できる“バーチャルゲート”でも配信開始される予定です。なお、『Innocent Forest』のコンテンツ料金は無料となっています。
VRの時代に“文字”のエンタメを再定義したかった
さて、ここからは、『Innocent Forest』を開発したMyDearest Inc.の代表である岸上健人氏に、“FullDive novel”の企画意図や、今後の展開などを聞いてみましょう。
▲MyDearest Inc.代表の岸上健人氏。 |
MyDearest Inc.はVRコンテンツの企画・開発を目的として、2016年4月に設立されたベンチャー企業です。また同社には、『ソードアート・オンライン』をはじめとする電撃文庫の人気小説を多数手がけている編集者の三木一馬氏が、アドバイザーとして参画しています。
――“FullDive novel”のアイデアは、どういったところから生まれたのでしょうか?
岸上健人氏:僕の中では“文字”、“絵”、“音”が、エンタメの3要素だと思っているんです。その中で“絵”と“音”のVRはすでにいろいろなものがあるのですが、“文字”に関してはまだ誰もやっていません。
僕自身、本をはじめとする文字のエンタメが大好きですし、趣味でシナリオを書いたりもするので、そんな文字好きの人間がVRに参入できないのは悔しいと思ったんです。
そこで、VRやARの時代における文字エンタメの再定義として作ったのが、この“FullDive novel”です。
――個人的な感想を語らせてもらうと、文章にすごく集中して入り込んでいく感じが、PCの美少女ゲームでビジュアルノベルが登場した初期のころを思い出して、どこか懐かしかったです。
まったく同じことを、他の人からも言われました(笑)。PCのビジュアルノベルを経験されている方は、そういうふうに感じるみたいですね。
7月の上旬に、ロサンゼルスで開催された“アニメ・エキスポ 2017”で本作を出展したのですが、海外の人たちからも“ビジュアルノベルの進化形だね”と言われました。
海外のアニメファンにとっては、ビジュアルノベルは新しいものなんですよ。PCのSteamで海外でも発売されるようになったのが、わりと最近のことなので。だから10代のアニメファンの子たちが、ビジュアルノベルにすごく反応してくれているんです。
でも自分としては、今回はあえてライトノベル、つまり本であるという点を強調しています。
――声優さんのセリフやVRアニメーションが自動的に流れるのではなく、プレイヤー自身が指示しないと流れないというのも、あくまで読書だから、ということですか?
そのとおりです。全部のセリフを声優さんにしゃべってもらうという意見もあったのですが、あえて一部に留めているのも、今回はあくまで本という部分を強調したかったからです。
――そうなんですね。VRで文字を読むのは疲れるかな? と思ったのですが、意外に読みやすかったので、驚きました。
文字の表示に関しては、調整を繰り返しましたから。一度に表示される文字数や、フォントの種類や文字の色など、疲れにくいように何度も微調整しています。文字そのものに演出を加える案もあったのですが、ヘタに文字をいじると読みにくくなるので止めたんです。
▲文章の表示領域は、プレイヤーとの距離などを自分で調整できます。また、表示領域をプレイヤーの姿勢に追随するよう設定できるため、寝転びながらでも体験できるとのこと。岸上氏自ら実演してくれました(笑)。 |
「VRで長時間文字を読むと疲れる」と、いろいろな人に言われたのですが、最終的には1時間ぐらいじっくりと読んでも疲れないものになっています。
今のVRのコンテンツはジェットコースター型というか、短時間でものすごく楽しめるんだけど、体験し終えた後にドッと疲れてしまうものが多いと思うんです。本作は逆に、長時間じっくりと楽しめるので、毎日でも体験することができるんです。
――プレイヤーを取り囲む背景も、雰囲気があってなおかつ、文章を邪魔しない絶妙なバランスですよね。
背景は3DのCGを使っているところもあるんですけど、360度の背景を2Dで手描きしている部分もあるんです。
――2Dの背景だと、本当に挿絵の中に入り込んだような、不思議な感覚でしたね。360度で天地もつながっている背景をどうやって描けばいいのか、ぜんぜん想像がつかなかったですけど。
そこはウチの絵師に練習してもらいました。3Dの背景を1つ作るのに1カ月ぐらいかかるんですけど、2Dの手描きだと1日で完成するんです。生産性は単純計算で30倍です(笑)。
ただし2Dの360度背景は、プレイヤーキャラが移動すると破綻しちゃうんです。そういう意味では、このノベル独特の技術なのかなとも思います。
日本らしい静かなVRコンテンツを作ってみたかった
――先ほど、ロサンゼルスの“アニメ・エキスポ 2017”に出展されたというお話がありましたが、海外での反響はいかがでしたか?
会場では、日本のVR作品が15作ほど出展されていたのですが、人気投票で本作が2位に選ばれてビックリしました。他はどれもゲーム的な要素の強い作品だったので、逆に目立ったんじゃないかなと思います。
欧米のVRというのは、FPSみたいに空間の中をグリグリと動き回る、動的なVRコンテンツだと思うんです。それに対して日本のVRは、キャラクターと同じ空間にいる雰囲気を味わうといった、静的なVRコンテンツが多くなるんじゃないかと思っています。
禅の精神というか、日本的な“間(ま)”を表現したVR体験を作ってみたかったというのが、本作を企画した理由の1つですね。欧米人は絶対に作らないものだと思うので。
本作は日本語だけでなく英語にも対応していますし、今後は中国語にも対応する予定です。プラットフォームにGear VRを選んだのも、海外で広く普及しているからです。
先ほどお話ししたように、ビジュアルノベルは海外でも人気ですから、世界的な盛り上がりに期待しています。
――なるほど。ちなみに『Innocent Forest』は、原案となる同人作品があるそうですね。
はい。ウチのディレクターが展示即売会“コミティア”で、記憶を題材にした独特の世界観と明確なコンセプトがVR映えする物語を見つけたと言ってきました。
自分でも読んでみて、しっとりした雰囲気の作品なので、自分自身が物語の空間にいるという没入感が高いと思いました。これならVRにぴったりだなと。
『Innocent Forest』はVRに落としこむにあたって、シナリオをVR映えするように作家様と二人三脚で再構築しています。
今後もいくつか企画があって、『Innocent Forest』の続刊も予定していますし、他にもサスペンスのような、VR映えのする作品を考えています。さらに、“FullDive novel”とはまた別の切り口のコンテンツも計画しています。
――それは楽しみですね! では最後に、まだVRを体験したことのない皆さんに向けて、本作のアピールをお願いします。
自分ではこの作品を「映画を読んでいるような感じ」と説明しています。映画並みの没入感で小説を読んでいくからと、ある人に言われたので、そのまま使っているんですけど。
本作はVRをまだ体験したことがない人ほど、楽しめると思います。今のVRコンテンツは、本気度の高いゲーマー向けのものが多いと思うんですが、これはその次にVRに入ってくる人たちのために作ったつもりなので。
VRをまだ体験したことがないという人が、VRに入ってくるきっかけの作品になれたら嬉しいです。VRのハードを持っていなくても、全国のネットカフェで体験することができますので、ぜひ体験してみてください!
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