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2017年8月1日(火)

山内一典さんが語る『グランツーリスモSPORT』のこだわり。コース作りやスケープスのポイントに迫る

文:Z佐藤

 7月26日、都内にあるポリフォニー・デジタルの東京スタジオにて、PS4用ソフト『グランツーリスモSPORT』のスタジオツアーが開催された。今回の記事ではスタジオツアーの模様と、山内プロデューサーへのインタビューをお届けする。

『グランツーリスモSPORT』

 『GT SPORT』は、世界中のレースゲームファンから絶大な支持を集めるドライビングシミュレータ『GT』シリーズの最新作。実写の映像を思わせる高精細かつ美しいグラフィックと、臨場感たっぷりに表現されたレースシーンを楽しめる。

 当初、2016年秋の発売が予定されていたが、制作の都合上で延期に。先日、待望の発売日が10月19日であると発表され、メディア向けにスタジオツアーが開催された。

『グランツーリスモSPORT』
『グランツーリスモSPORT』

 記事では、メディアツアーのレポートに加えて、『GT SPORT』完成直前バージョンをプレイした感触、さらに山内プロデューサーへのインタビューを掲載。インタビューでは本作の見どころはもちろん、発売延期の理由についても踏み込んで聞いているので注目してほしい。

車1台の制作には6カ月かかる!

『グランツーリスモSPORT』
『グランツーリスモSPORT』

 メディアツアーは、最初に『GT SPORT』の概要やコンセプトなどについて山内プロデューサーから解説され、製品版ベースのゲームデータを使ったプレゼンテーションが行われた。

『グランツーリスモSPORT』
『グランツーリスモSPORT』

 その後、山内プロデューサー自身によるガイドでスタジオ各所をめぐり、レーザースキャナーによって超精密に組み上げられる車のモデリングやコース制作のプロセスなどが実際の開発機材を使って説明された。その中では、車1台を制作するのに6カ月の時間を費やすことも明かされた。

『グランツーリスモSPORT』
『グランツーリスモSPORT』
『グランツーリスモSPORT』
『グランツーリスモSPORT』
『グランツーリスモSPORT』
『グランツーリスモSPORT』

 スタジオには試遊スペースが設けられており、ハンドルコントローラーを使って完成間近のバージョンをプレイすることができた。車体には、事前に送付した画像データをデカールとして登録してもらっていた“電撃PlayStation”と“DENGEKIONLINE”のロゴマークを添付。まるで本物のレースカーのスポンサーになったかのような気分でコースを走ることができた。

『グランツーリスモSPORT』
『グランツーリスモSPORT』

 驚いたのは写真撮影の機能が非常に充実していたところ。レース後に再生できるリプレイ動画を一時停止して撮影できたり、その画像にエフェクトをかけたりする。“スケープス”で世界各地の絶景の中に車を配置して撮影できるため、「レースは苦手だけど車は大好き!」という人にオススメの要素となっている。

『グランツーリスモSPORT』

 その他“ブランドセントラル”の“ミュージアム”では、各メーカーの創業からの歴史と世界的な出来事などが関連付けて収録されており、こちらも見ごたえのある作りになっていた。

細部にまで込められたこだわりについて山内プロデューサーに聞く!

――まずは改めて『GT SPORT』を『GT7』としなかった理由について教えてください。

『グランツーリスモSPORT』

 『SPORT』と名付けた経緯はそれほど大きな意味はなくて、その当時、スポーツで頭がいっぱいだったんです(笑)。結果的にできあがったものは何かといいますとスポーツの成分は全体の10%~15%程度入っていますけれども、残りの部分はスポーツとは関係のない、これまでの『GT』のよい部分のエッセンスだったり、あるいはスポーツ以外の新しいチャレンジになっています。それが『GT SPORT』というものの現在の姿です。

――開発を進めていく過程で、内容的な部分にも変化があったのでしょうか?

 そうですね。開発を進めていくと、どうしてもアレもコレも加えたくなってしまうんです。これまでの『GT』でもそうでしたが、実は『プロローグ』だからこの内容、『GT7』ならこれくらい、という作り方はしていないんですよ。

 今回は十分時間をかけたいと思いましたので、結果的に『GT7』を超えるものになってしまったような気がします(笑)。

――当初、2016年11月の発売が予定されていましたが、発売を延期された理由というのは?

 過去に発売した『GT』のなかには「もっとクオリティを高められたかな?」と感じられる段階で手を離れてしまったチャレンジというものがいくつかありました。おそらく、あの段階で発売していたら、その繰り返しになっていたと思うんです。

 でも今回延期するという決断をしたことで、根幹になる部分はそれほど大きく変わっていませんが、それでも熟成は進みましたし、新しいチャレンジの部分も、誰が触っても快適なくらいに、デザイン上の美しさというか、そういうものになった気がします。

――デザイン上というのは、ゲームデザインことでしょうか?

 全体のデザインと同時にUI(ユーザーインターフェース)まわりのデザインもそうですし……『GT』というのはある意味、ちょっと混沌とした部分もあるゲームなんですけど、今回『GT SPORT』というのは、ものすごく多機能になっています。ただ、多機能なものが整然とデザインされているように思うんですね。これは過去の『GT』にはなかった特徴だと思います。

 1度作って壊さないと、ああいうデザインにはならないんですよ。作って作って作って、そのまま完成させてしまうと混沌が残るんですけど、1度作ったものをバラバラにして、もう1回整理しなおすと、整然としたものが見えてくるんですね。

――今回プレイさせていただいたバージョンは、ほぼ製品ですか? また現在の開発状況はどれくらいですか?

『グランツーリスモSPORT』

 ほぼマスターバージョンになります。現在の開発状況ですが、作業量としては98%くらいですね。ここに最後のブラッシュアップとか、バグのフィックスというものもあります。それを行うことでグッと完成度がアップしますので、この1カ月でまたグッと伸びると思います。現在は数時間おきにそういうことが起きている時期ですね。

――作業の内容や工程なども見せていただきましたが、まだまだ作業をされているスタッフの方もいらっしゃいまして、全体でブラッシュアップの作業を進めている感じでしょうか?

 そうですね。ただ『GT SPORT』は、リリース後にアップデートですとかDLCも計画がありますので、そちらの作業に携わっているスタッフもいます。そういう意味では、どこかで終わりがくることはないんですよ。

――今回リリースしたあとの、アップデートの予定とかは?

 バグフィックスのようなアップデートは予想がしにくいところですので、そこは適時対応していきたいと。DLCについては、発売してからそれほど時間が過ぎる前に第1弾を配信しようと思っています。

――具体的には、どんなものが用意されているのでしょうか?

『グランツーリスモSPORT』

 車種やコースの追加であったりします。やはり今回はスポーツモードをきちんと楽しんでもらうという理由で、わりと序盤のラインナップはレーシングカーが多いんですよ。ただ、少し古い車やクラシックカーなど、世の中に美しい車はたくさんありますので、『GT』としてはそういった車も加えたいと思っています。

――1台を制作するのに6カ月かかるとお聞きしましたが、新車を追加するのも大変ですよね。

 その部分は『GT5』の時から変わっていませんね。あのころから1台に6カ月です。開発の効率自体は上がっていますが、それと同時に要求されるクオリティも上がっていますので、なかなか6カ月を短縮するのが難しいですね。

――発売当初のバージョンで収録されている車の数とコースの数はどれくらいになりますか?

『グランツーリスモSPORT』

 車が150台以上で、コースが17ロケーション、28レイアウトです。これに逆走を加えると40レイアウトくらいになりますね。

――コースを制作する際には、あらかじめ逆走も想定されているのでしょうか?

 順走と逆走を同時にイメージしながらデザインしています。おおむね今回のコースは、順走だとそれほど難しく感じませんが、逆走だとすごく難しいコースが多いです。コースのアップダウンなどがすべて逆になりますので。

――開発作業は、どこかで終わりがくることはないとおっしゃられていましたが、山内さんとしては5年先、10年先を見ながら開発を行っているのでしょうか?

 それほど厳密に予定を立てているわけではありません。ただ『GT』がどのように変化していくのか? ということではなく、もっと大きな枠組みで社会がどう変化していくか? とか、そういうことに関してはいろいろ想像していますね。

――山内さんは自動運転に興味を持っていますか?

『グランツーリスモSPORT』

 僕はスポーツカーにこそ自動運転がほしいと思っているんですよ。というのもサーキットまで行くのがすごく大変。スポーツカーはサスペンションもハードですし、渋滞のなかを走っていて快適な車ばかりではないので、そういう場所は自動運転。それで自分が走りたい場所に来たら自動運転を切って走るっていうのがいいんじゃないかと。

――ゲーム部分だけでなく、世の中の動きを見ながら、それに対応した部分も発展させていこうと?

 そう思いますね。やっぱり、目の前に現れた人たちを幸せにしたいっていうモチベーションが、僕も含めスタッフの間に凄く高いので今後、僕らの視界にどんな人たちが入ってくるのか? という部分かかわってきますね。

――ゲーム内の“ブランドセントラル”の項目に用意された“ミュージアム”では各メーカーの創業からの歴史が見られたり、“スケープス”でいろいろな場所に車を配置して写真を撮影できたりと、非常に興味深いコンテンツが揃えられていて、「実車を購入するためのカタログとしては最適なのではないか?」と思えるくらいでした。ゲームとしてだけでは、そういった部分の発展性も想定されているところでしょうか?

『グランツーリスモSPORT』

 結果としてそういうものになった、という感じです。例えば“スケープス”の写真の世界を自動車メーカーの皆さんお見せすると、これでカタログを作りたいと皆さん興味を持ってくださるんですね。

 おそらく『GT SPORT』を発売した後は、エンタープライズ向けの『GT』を作る必要があるのかな、とも思っています。それは“スケープス”のような美しい写真とか映像を作るための『GT』でもありますし、あと最近ニーズがすごく多いのが自動運転ですね。

 自動運転は僕らが望んでいなくても、実際、自動運転の開発に『GT』が使われていますので、そのあたりにも注力していけばサポートできるかなと思っています。

――ガレージなどで選択できる“クイックチューン”というのは、過去の作品にあったチューニングの簡易版でしょうか?

 そうですね。本格的な調整に関しても、わりと簡易な作りになってはいますが、必要なセッティング要素はすべて入れてあります。

――パワーと軽量化を調整することで車のランクが変化しますが、調整しだいで上のグレードのレースに出場できたりしそうですが。

 できます。そのあたりも世の中の変化に合わせているところなんですね。例えば『GT1』を発売したころであれば、エアクリーナーを交換するというだけで何をするか想像ができたんですよ。でも現在では「エアクリーナーって何ですか?」という世の中になりましたので、そのあたりも考慮してゲームデザインを変えています。

――“ドライビングスクール”や“ミッションチャレンジ”では、お手本の映像がYouTubeからの再生されているようですが、あれはYouTubeにアップされているものを再生しているのでしょうか?

『グランツーリスモSPORT』

 そうです。なので、あの作りのもくろみとしましては、もちろん僕らが最初にオフィシャルのチュートリアル映像というのを用意しておこうと思うんですけど、いずれもっとすごい走りをするユーザーが出てきたら、そのユーザーがYouTubeにアップした映像をリンクできるようにしようと思っているんですよ。僕らが用意した映像よりも凄いものだったら、それも見られるようにしようと。

――最後に発売を楽しみにしているユーザーにメッセージをお願いします。

 『GT SPORT』は、僕らがやり過ぎたタイトルで、やり過ぎたわりには整然とデザインされている『GT』なんですね。ですから初めて『GT』をプレイする方にはもちろん、以前に『GT』を遊んでいたけれども、最近は遊んでいないという人にとっては、もう1度『GT』のある生活に戻るチャンスかなという気がしています。

 『GT』というのは、プレイヤーの皆さんの人生を少しでも豊かなものに、おもしろいものにできたらいいなと。皆さんの人生の一部であってほしいと思って僕らは作っていますので、そこを楽しみにしていてほしいと思います。

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