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2017年8月21日(月)

【電撃PS】『龍が如く6』ブースから感じた日本人だから生み出せるもの。山本正美氏コラム全文掲載

文:電撃PlayStation

 電撃PSで連載している山本正美氏のコラム『ナナメ上の雲』。ゲームプロデューサーならではの視点で綴られる日常を毎号掲載しています。

『ナナメ上の雲』

 この記事では、電撃PS Vol.642(2017年7月13日発売号)のコラムを全文掲載!

第111回:E3 2017

 少し間が空いてしまいましたが、先月ロサンゼルスで開催された『E3 2017』に行ってきましたので、今回はそのレポートをば。

 E3はこれまで、開発者やメディア、販売店など、いわば業界関係者向けの“見本市”という趣が強いイベントでした。それが今年は、初めて一般のお客さんにも開放されるということで、果たしてどんな空気になるかと思いきや、いやー例年にも増しての大混雑。発表によると、6万8千人を越える来場者だったそうで、昨年の約5万人と比較してもその盛況ぶりが伺えるかと思います。

 欧米の開発者って、お気に入りのゲームのTシャツやノベルティグッズをガンガンに身に着けているので、誰がクリエイターで誰がユーザーなのかほとんど見分けがつかないんですよね。まさに、一丸となって楽しんでいる感じがエンタテインメントの本場であることを実感させてくれます。

 今回僕が一番印象に残ったのは、ここ数年インディーゲームを大きく展開しているXboxとPlayStation陣営が、そのなりを少し潜めていたところ。特にPlayStation陣営は、直前にPS4の販売台数が6000万台を突破したとのニュースもあり、E3の一般ユーザーへの開放ということも相まって、『スター・ウォーズ バトルフロントII』や『God of War』といったAAAタイトルを全面展開するブース構成になっていました。

 PS4も発売から4年目に向けてというところで、まさに収穫期に入ろうかというタイミング。フラッグシップになるタイトルを全面的にアピールすることで、よりハードのインストールベース拡大に繋げようという戦略でしょう。

 といいつつ、インディーゲームがまったくなかったかというとそんなことはもちろんなく、“INDIECADE”という、インディーゲームを一カ所に集めたコーナーは今年も健在で、相変わらず沸々と熱いエネルギーが蠢いておりました(そこにいた時間が一番長かったかも……)。

 それともう1つ感じたこと。EAやUBI、Bethesda Softworksなど、技術力がハンパじゃないメーカーが作るゲームは相変わらずクオリティが凄くブースも大盛況だったのですが、それとは別に僕がふと足を止めたゲームがありました。

 それは、JOYFUN GAMEという、中国は北京にあるメーカーの、『神舞幻想』というゲームでした。プレイアブルではなく大きなスクリーンで映像を流していたのですが、なぜか心惹かれるものがあったのです。

『ナナメ上の雲』

 写真だけだと伝わらないかと思いますが、中国文化をベースとしたその神話性、世界観と宗教観、そしてキャラクターなどのデザインセンスが、E3のような欧米文化が強いコンテンツの中にあって、とても輝いて見えたのです。

 技術力がもたらす表現力は、各国のメーカーやスタジオが切磋琢磨してここまで磨き上げてきたわけですが、いよいよそういった分野での差ではなく、作り手が何に依拠して生きてきたか? というような部分での差が、コンテンツに反映されるようになってきたんだなあと感じ入ってしまいました。

 僕がアジア人だから、ということに限らず、アジア文化を“作り込んだ”ゲームは、あまり目にしたことがない。だからこそ今、他にはない新鮮さでアピールする力になる。そんなことを思いました。そしてその思いを確かにしたのが、このブースです。

『ナナメ上の雲』

 そう、皆さんご存知『龍が如く6』のブースです。欧米でのタイトルは『YAKUZA 6』。日本一の歓楽街、歌舞伎町をモチーフとした舞台、神室町をイメージしたブースを作り込んでいたのですが、これにはやられました。日本の景色を象徴する上で、京都の街並みや富士山、そして東京のネオン街は、よく扱われます。

 よく扱われますが、しかしあの歌舞伎町の雰囲気をブースとして作ろうとはなかなか思い切れません。しかし、歌舞伎町に行ったことのない海外の人にとってあのブースが放つ猥雑さは、確実にある種の魅力的なファンタジーとして受け入れられていたのです。

 技術力による表現の差を埋めるがための安易な欧米追従ではなく、日本人が、日本人だからこそ生み出せるもので勝負できる土俵がやってきた。そんな可能性をひしひしと感じた、今年のE3なのでした。

ソニー・インタラクティブエンタテインメント JAPANスタジオ
エグゼクティブプロデューサー

山本正美
『ナナメ上の雲』

 ソニー・インタラクティブエンタテインメント JAPANスタジオ 部長兼シニア・プロデューサー。PS CAMP!で『勇なま。』『TOKYO JUNGLE』、外部制作部長として『ソウル・サクリファイス』『Bloodborne』などを手掛ける。現在、『V!勇者のくせになまいきだR』を絶賛制作中。公式生放送『Jスタとあそぼう!』にも出演中。

 Twitterアカウント:山本正美(@camp_masami)

 山本氏のコラムが読める電撃PlayStationは、毎月第2・第4木曜日に発売です。Kindleをはじめとする電子書籍ストアでも配信中ですので、興味を持った方はぜひお試しください!

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