News

2017年9月2日(土)

【電撃PS】優れたゲームを遊んだことであれこれ考えた話。山本正美氏コラム全文掲載

文:電撃PlayStation

 電撃PSで連載している山本正美氏のコラム『ナナメ上の雲』。ゲームプロデューサーならではの視点で綴られる日常を毎号掲載しています。

『ナナメ上の雲』

 この記事では、電撃PS Vol.644(2017年8月10日発売号)のコラムを全文掲載!

第113回:勝敗の行方

 先日、なに気なく“世界水泳 ブダペスト2017”を見ていて思ったことがあります。オリンピックの中継のときにも毎回感じるのですが、水泳のレースって、誰がどのレーンを泳いでいるか、わかりにくくないですか?

 スタート直前はレーンごとに国旗が表示されていたりして、“あ、ここがお目当ての選手ね”と思いながら観戦するのですが、スタートして真上からのカメラに切り替わった瞬間に、“あれ、どこだっけ?”と見失い、「〇番レーンが〇〇!」などといった実況を頼りに右からレーンを数えることになります。

 が、困ったことに右端のレーンが1番なのか、それとも8番なのかで迷い、あれ、そもそも、お目当ての選手は何番レーンを泳いでいたっけ? などとマゴマゴしているうちに、50メートルのターンで進行方向が変わり、またさらにどこが誰だかわからなくなるのです。

 生で観戦している人は選手をずっと目で追えるので見失うことはないと思うのですが、中継で見ているとそうもいかない。そもそも、選手はほとんど水中にいるししぶきが飛んでいるので認識しづらいことは確か。

 でも、少なくとも帽子の色はレーンごとに固定するとか、もう少し判別しやすい工夫があるのでは、と思ってしまうのです。

 誰がどこを泳いでいるのかわかりにくいと、“勝敗”もわかりにくくなりますよね。選手をはっきり識別できているときは決着したときに“よっしゃ!”となるのですが、“え、なになに、どこ?”となっている状態で銅メダル! とかになると、今一つ喜べず、テンションが下がります(勝手か!)。

 さらには、1位だ! と思ってもまだ予選だったり、予選トップでもタイムがイマイチだと次のレースに不安が残ったり……。このあたりは陸上も同じだと思いますが、観戦するタイミングや選手が出した記録という要素によって、その“結果”をすっきりと楽しめない気持ちが、どこか観戦者にはつきまとっている気がするのです。

 その点、たとえば柔道は勝敗がわかりやすいですよね。投げたー! イッポン! ガッツポーズ! と。細かくはそんなに単純じゃないにせよ、まず1対1の勝負なので選手の判別が簡便、さらにはルールも相手の背中を畳につければ勝ち、とわかりやすく、観戦者を勝敗の行方で迷わせないストレートさがあります。

 フィギュアスケートなども、詳細な演技はともかく、4回転をうまく飛べたか、というわかりやすい観戦ポイントがあるので盛り上がる。他方、ボクシングなどは、倒した倒されたという基本ルールはわかりやすいのに、判定になると急に納得度が下がったりします。

 それらの競技は、審判という名の“判定者”が存在することで、遺恨が残る結果となることもよくありますよね。

 ゲームも、他者と競い合うことが本懐のゲームなどは、この“勝敗のわかりやすさ”と“判定のフェアさ”のバランスがキモになります。

 昔ゲームセンターに、じゃんけんで勝つと女性が服を脱ぐ、という今ではかなり無茶な“野球拳”のゲームがあったりしましたが、どう考えても一発では勝てないようになっていた気がして、じゃんけんなので勝敗はこのうえなくわかりやすいぶん、判定のフェアさがどうも怪しく、あまりプレイする気にはなれませんでした。

 麻雀ゲームでも、まさかここでその牌ツモるかコンピュータ!? という感じで負けてしまうことが往々にしてあって、しょぼんとしてしまうことも度々でした。

 相手がコンピュータの場合、プレイヤーが勝てないようにゲーム側で細工をすることは簡単なわけですが、不自然な結果が続くと、どうしても勝敗に疑念が残り、それが、プレイモチベーションそのものを喪失させてしまうことに繋がったります。

 しかしこの“細工具合”は使いようで、たとえばレースゲームを人と対戦しているとき、後ろの車のほうを速くすることにより、常に拮抗したレース展開を演出し、最後までゲームを盛り上げることもできます。

 逆に、対戦格闘でそれをやってしまうと興醒めしてしまいますが、しかし飽きさせないゲーム展開のためには一発逆転の要素は必要。で、どうするかというと、細工具合を外的要因、たとえばランダムで登場するアイテムや、ダメージが蓄積すると使える必殺技として用意するなど、工夫を凝らすわけですね。

 勝敗は、勝ったほうの満足度もそうですが、負けたほうの納得度も高くないと、次のプレイに繋がりません。一本のタイトルには、数限りない知恵の結晶が詰め込まれているのです。

 色んな要素が蓄積され収しゅうれん斂された結果の“勝敗”は、わかりやすいほどいい。現在『スプラトゥーン2』を遊び倒していますが、やはりすごい。

 勝敗が、塗った色の範囲によって一目でわかる。しかもタイマンではなく、4対4の乱戦であっても、結果が一目でわかるのです。これに匹敵するわかりやすさって、他には“大きさ(デカいほうが勝ち)”や“数(多い方が勝ち)”などが考えられますが、さてどうでしょう。

 優れたゲームを遊ぶと、あれこれ考えてしまいますね。

ソニー・インタラクティブエンタテインメント JAPANスタジオ
エグゼクティブプロデューサー

山本正美
『ナナメ上の雲』

 ソニー・インタラクティブエンタテインメント JAPANスタジオ 部長兼シニア・プロデューサー。PS CAMP!で『勇なま。』『TOKYO JUNGLE』、外部制作部長として『ソウル・サクリファイス』『Bloodborne』などを手掛ける。現在、『V!勇者のくせになまいきだR』を絶賛制作中。公式生放送『Jスタとあそぼう!』にも出演中。

 Twitterアカウント:山本正美(@camp_masami)

 山本氏のコラムが読める電撃PlayStationは、毎月第2・第4木曜日に発売です。Kindleをはじめとする電子書籍ストアでも配信中ですので、興味を持った方はぜひお試しください!

関連サイト