8月30日~9月1日にかけてパシフィコ横浜で開催されたゲーム開発者向けカンファレンス“CEDEC 2017”で、“PlayStation VR コンテンツ開発情報”をテーマにしたセッションが行われました。
このセッションでは映像作品『傷物語VR』の開発話をベースに、PS VRコンテンツ制作時に有用になる情報や抑えるべきポイントについてなどを紹介。さらにゲーム・ノンゲーム問わず、VRに存在する新しい可能性をお話ししています。ここではその内容をレポートします。
VRコンテンツの高い制作基準が制作現場に浸透
セッションの前半を担当するのはソニー・インタラクティブエンタテインメントジャパンアジア ソフトウェアビジネス部次長兼制作技術責任者の秋山賢成氏。集団体験型VRサービス“VirtuaLink(バーチャリンク)”や“ワンピース グランド クルーズ”など、VRに関するイベントや体験会について語っていました。
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▲セッション前半を担当する秋山 賢成氏
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▲スカイツリーやお台場 ダイバーシティで楽しめる集団体験型VRサービス“VirtuaLink”や、東京タワーで先行体験できる“ワンピース グランド クルーズ”。どちらもマルチプレイで楽しめるVRとして紹介。
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秋山氏がVRコンテンツ制作においていちばん気を付けなければならないとしているのは“酔い”について。さまざまな原因で発生する酔いですが、これらを解決するための方策やこの酔いに関するチェックサービスを紹介していました。
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▲どんなに斬新でおもしろい演出だとしても、酔いの発生を避けられないならばきっぱり諦めたほうがいいと語る秋山氏。酔いに対する徹底した姿勢がうかがえます。
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▲秋山氏が紹介するのは、デジタルハーツ社が提供するVR酔いスコアリング&デバッグサービス。
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次に重要なことは没入感を超える実在感だと語る秋山氏。それを表現するために必要な技術や表現方法について解説していました。
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▲情報遅延が大きいと実在感を阻害されるとし、最低でもフレームレート60Hzは必要と語っていました。
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▲未来の視界を予測して描画することで遅延時間を短くする技術“リプロジャクション”機能についても紹介。
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▲VR上の仮想空間では設定上の身長や技術的に正しいことが正しいとは限らないとのことです。
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また、実在感を得るために重要なことは、視聴者を置いてきぼりにせず、世界に入り込めるような工夫が必要だと語る秋山氏。それが行われていないVR作品はVRである意味がほとんどないという思いを口にしていました。
と、ここまでさまざまなVR制作技術を語った秋山氏ですが、VRコンテンツの制作現場ではこれらは当たり前の基準として浸透したため、これからのVRはコンテンツの面白さや体験のすごさをもっと追及することができるようになったと、今の状況を説明していました。
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▲これまで、そしてこれから発売されるPS VRタイトルを多数紹介した動画を公開。
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映像体験は鑑賞から干渉の時代へ
セッション後半では面白法人カヤックのクリエイティブ・ディレクターの天野清之氏が、『傷物語』の開発話や、そこで使われているVR技術について解説していました。
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▲セッション後半を担当する天野清之氏。
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映像体験は鑑賞から干渉の時代へと移り変わりつつあるとし、VR体験はその手助けをし、自分たちの生活を変える魔法のデバイスになりえると未来への展望を語っています。
同氏が手掛けた映像作品『傷物語VR』では、VRプロジェクションマッピングを用いることで、変実的な空間で感じられる、迫力のある映像体験を実現しています。
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▲プロジェクションマッピングとは、コンピュータで作成したCGとプロジェクタなどの映写機で建物や物体に映像を映し出す技術。『傷物語VR』ではこの技術をVR空間上で行うことで新たな体験を目指していると天野氏は話していました。
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▲『傷物語VR』では視聴者に実在感を持ってもらうためにあらゆる工夫がなされており、それら工夫の形を実際の動画と交えて解説。
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また、完成された表現を追求するために、先進的な技術開発が求められると語る天野氏は、『傷物語VR』で使用されている“オールラウンドマルチディスプレイ”“ショートディスタンスサウンド”“バーチャルフラット・シェーダー”という3つの技術を紹介していました。
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▲オールラウンド・マルチディスプレイとはVR空間上に自然な方法で配置される映像表現で、何に映像が表示されているか分かりやすくする効果があります。
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▲ショートディスタンス・サウンドとは、立体空間での位置関係や演出との連動で音を拡張する技術のこと。
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▲バーチャルフラット・シェーダーとは立体空間と組み合わせた陰影処理を行う技術です。
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今日はまだVR黎明期であり、視聴者がまだVRに慣れておらず、VRならではの斬新な表現をいきなり見せるやり方は受け入れられないと考える天野氏。なので、“傷物語VR”では構成を没入感を段階的に上げていくような仕組みにしたと話していました。
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▲キスショットと映像を見るという目的を共有し、段階的に演出を高めていく構成にすることでより視聴者が入り込みやすい仕組みになっていると語る天野氏。
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その後、天野氏から再び秋山氏へと交代し、マルチプレイの可能性やゲーム以外のさまざまな開発の可能性など、VRの今後の展望を語り、本セッションを締めくくりました。
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▲VRコンテンツ制作の基本が浸透し、これからもっとVRの展開が広がっていくと語る秋山氏。VRの今後の展望に思わず期待してしまう、そんなセッションだったと感じました。
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