2017年9月11日(月)

『乙嫁語り』外務省で開催された原画展では原作者・森薫さんがイラストボードにサインを入れる一幕も

文:電撃オンライン

 中央アジアを舞台に暮らす人々の生活と文化を描く漫画作品『乙嫁語り』の初となる原画展が、8月28日・29日の2日間、東京・千代田区の外務省で開催された。

 本記事では、本原画展のレポートをお届けする。

異例づくしの原画展をレポート!

 外務省は、2004年より中央アジア5カ国(カザフスタン、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタン)と日本の交流を図る“中央アジア+日本”対話という対話スキームを行っており、その10周年となった2014年、中央アジアが舞台の作品を描く森薫さんに各国をイメージしたキャラクターイラストの執筆を打診。

 中央アジア各国の国旗をイメージして描かれたキャラクターは、“中央アジア+日本”対話の広報や文化事業といったイベントに登場し、大きな反響を呼んだ。そのイラストは壁紙として外務省の公式サイトで公開されているので、ぜひチェックしてみてほしい。

 会場入り口には、2014年に描かれたキャラクターのイラストボードが展示されていた。左から、日本さん、カザフさん、キルギスさん、タジクさん、トルクメンさん、ウズベクさん。命名は森さん。ちなみに、外務省の担当者さん曰く「二次創作OKなので、夏冬のイベントなどでゼヒ」とのこと。

『乙嫁語り』

 1枚のイラストがきっかけではじまった外務省とのコラボレーションは続き、中央アジアが独立して25周年となった昨年(2016年)は、大使館のオープンイベントや映画祭、音楽祭など、たくさんの企画が実施され、そこではポストカードやクリアファイルの配布が行われたとのこと。

 そして、今年は中央アジア各国と日本が外交関係を樹立して25周年を迎えた記念の年。中央アジアをもっと好きになってもらうためには、各国の魅力を知ってもらうのが一番だと考え、紹介動画の制作とともに今回の原画展開催が企画されたそうだ。

 ただ、それならばわざわざ庁舎内で行う必要もないはず。それについて、企画者の1人である外務省欧州局中央アジア・コーカサス室の兼盛玉輝さんにたずねたところ、「外で会場を借りて原画展を開催するのは、まあ普通にできますよね。でも、外務省で過去に一度やったことのないことをすること、つまり、外務省の通常の枠を超えることで中央アジアのみでなく外務省にも愛着をもってもらいたかったんです。そして原画展では中央アジアの紹介映像も上映していましたが、原画とあわせて舞台となる国々について知っていただき愉しんでもらいたかったのです」とのこと。

 会場は各国要人が集まって国際会議も行われるという普段は立ち入ることのできない大会議室。確かに背筋が伸びるというか、普段のイベント会場では味わえない独特の空気に包まれた雰囲気は印象的だった。

『乙嫁語り』
▲会場となった外務省庁舎内の大会議室。中央には大型モニターが設置され、当日は各国の紹介動画が流されていた。

 今回の原画展は展示方法も独特で、原画はアクリルパネルの額縁に納められ机の上に設置。上から見下ろす形で原画を鑑賞する。つまり森さんが絵を描いている状態に極めて近い角度、距離から原画を鑑賞できるというわけで、来場していたファンにも好評だったようだ。

『乙嫁語り』
▲1日3回の時間制で行われた原画展は各回の定員が50名。ゆっくり時間をかけて鑑賞できると好評だった。
『乙嫁語り』
▲原画はこのような形でテーブルに設置されており、来場者は見下ろす形で原画を鑑賞する。

 原画展ではなんと撮影が自由! SNSへの投稿も可能とのことで、来場された方の多くは熱心にカメラに納めていた。

『乙嫁語り』

 原画を鑑賞したファンの方、数人に感想をたずねたところ、「本で見るよりさらに美しくて感動しました」、「線の修正がほとんどなくて、すごい美しい原稿で驚きました」、「タッチの美しさと力強さが伝わってきます。あの原画を間近で見られたのはすごい感動です」と、皆さん感心しきりの様子。

『乙嫁語り』 『乙嫁語り』
『乙嫁語り』 『乙嫁語り』
『乙嫁語り』 『乙嫁語り』
▲ため息がでるほど美しい原画の数々。

 今回の展示用に用意された原稿24枚は作品内でも印象的なシーンが選ばれているとのことで、見た人たちは作品を読んだときの感動を思い出したことだろう。

料理漫画の連載もスタート

 外務省の公式サイトでは、原画展に続く企画として各国の料理を紹介する漫画『みんなで作ろう!中央アジアクッキング』の連載もはじまるとのこと。描くのはもちろん、森さんだ。

 第1話はすでに公開中で、全7話がこれから順次公開されていく。

『乙嫁語り』
▲現在公開中の第1回(画像は公式サイトから)。続きはぜひ外務省のウェブサイトで。

 普段の外務省からは正直想像できないゆるふわな施策の意図について兼盛さんにたずねると、笑顔でこう答えてくれた。

 「従来のように、堅く難しいことをして中央アジアを知ってもらうことに限界を感じ、我々(外務省側)が国民の皆さまの目線になって考えたときにできることを考えていたら、このような企画になりました。きっかけは料理でも音楽でも漫画でも、なんでもいいと思っています。まずは中央アジアに興味をもっていただけたら。そして魅力を知り好きになってくれる方が1人でも増えてくれたのなら、我々はそれが一番嬉しいんです」

『乙嫁語り』 『乙嫁語り』
▲2日目に来訪された森さんが、入り口のイラストボードにサインを入れる一幕も。あっという間にアミルを描いていくペン先の速度と正確さに、見ている人たちからは感嘆の吐息が洩れていた。

 外交という重要な責務を担いつつ、枠にとらわれない発想で企画を立案し実現するには担当者全員に相当な熱意が必要だったことだろう。その熱意が次にどのような形で姿を現すのか。次の展開への期待も高まる原画展だった。

関連サイト