2017年9月21日(木)
【電撃PS】『北斗が如く』など、『龍が如く』シリーズ新作の話を名越総合監督へ聞いてみた!
8月26日(土)に開催された“龍が如くスタジオ新作発表会”。そこで発表された『龍が如く』シリーズ新作の、PS4用ソフト『龍が如く 極2』、PS4用ソフト『北斗が如く』、PC/iOS/Android向け『龍が如く ONLINE』について、シリーズ総合監督である名越稔洋氏にお話を伺いました。
技術のコラボから作品全体のコラボに到った『北斗が如く』
――先日の“龍が如くスタジオ新作発表会”にて多くの新作タイトルが発表されましたが、一度に発表した意図を教えてください。
名越稔洋氏(以下、敬称略):すべてのタイトルには、開発エンジンの横展開などの関連があるので、別々に発表するよりも1度にすべて説明したほうがユーザーのみなさんが理解しやすいと考えたんです。時期的に言えば発表が早すぎるものもありましたが、あえてこの形を取りました。
――これら新作の構想は、『龍が如く6 命の詩。(以下、龍6)』開発の終わりくらいから動いていたのでしょうか?
名越:『龍6』の開発が佳境を迎えたあたりで、話が動き出した感じですね。ただし、『北斗が如く』に関しては、もともと“『北斗の拳』のゲームを作りたい”というプロデューサーが“龍が如くスタジオ”以外の部署にいたので、最初は別軸で動いていました。他社の同原作ゲームのこともあり、“セガらしさ”を出すにはどうしたらいいかを模索していくなかで、僕のほうから「龍が如くスタジオと、もっと技術や素材をコラボレーションしたらどうだろう?」と提案しました。とはいえ、その段階ではまだ『龍が如く』でおなじみの声優を起用しようという動きはありませんでした。どちらかといえば、技術を応用するという段階に留まっていたのですが、時間が経つうちに「どうせやるんだったら中身のコラボ感も高めたほうがいいのでは?」という方針になり、その段階で黒田崇矢さんの名前があがった形です。
桐生一馬とケンシロウの根っこの部分は似ていると感じたんですね。それを受けて、ほかの声優に関しても、『龍が如く』のキャストで固めるのもアリだなと。もともと、僕自身はそこまでの“北斗の拳”マニアではなかったのですが、プロジェクトが立ち上がったあとに“北斗の拳”という作品が、これまでもいろいろなチャレンジをしてきているのを学びました。そういう背景があったので、我々も新しい提案を先方にぶつけてみるのもアリだろうと。結果的に、それを認めてもらえたということですね。
――原作者の原哲夫先生側も“龍が如くスタジオ”がやりたいことを柔軟に受け止めつつ、“北斗の拳”の世界をガッツリと監修をしていると発表会でも話がありました。実際に原哲夫先生にお会いしたときの印象はいかがでしたか?
名越:漫画家さんは寡黙な方が多いのですが、原先生もそういうタイプでした。ただ、長く愛されている作品を描き続けてこられているので、作品へのコダワリを持っていることは僕らも理解しています。互いの作品に対するコダワリというのは同じ立場として理解していたので、許される範囲までチャレンジと、それを壊していけるところのボーダーラインを丁寧に話し合わせていただきました。
――最初のプレゼンには、黒田さんのボイスを持ち込んだともありましたが?
名越:「『龍が如く』で桐生一馬の役を演じている黒田さんをご存知ですか?」というアプローチは弱いので、事前に黒田さんの演じたケンシロウを収録してその音源を持っていくことにしました。
――発表会で実際に声が付いた映像を見たファンも、「黒田さんの声だけでなく、世界観やゲーム性といった部分も含めて、『龍が如く』と“北斗の拳”がここまでマッチするのか!」と驚かれた方も多いと思います。
名越:そういう思いで作っているので、そう感じてもらえて安心しました(笑)。ただ、発表会で公開したPVは調整中の部分も多々ありまして。ケンシロウのテイストなどを含めて表現としてどこまで攻めようかということは、現時点でも悩んでいて。例えば、発表会の時点では女性キャラクターの表現がイマイチだったんですよ。一応できあがってはいたのですが、これは過去の“北斗の拳”作品の延長線上でしかない……と感じるものでした。
もう1枚脱皮したいという思いもあり、発表会のトレーラーからはあえてはずしたんですよ。目指すべきテイストが見えてきましたが、最後の最後までベストなテイストを探っていきます。まずは、東京ゲームショウでより進化した映像を公開できると思います。
新たなコンシューマ作品へとつながる新シリーズ『龍が如く ONLINE』
――新たな『龍が如く』シリーズの展開も発表されましたが、やはり最大のインパクトは新主人公の春日一番というキャラクターです。名越さんとしては、この主人公が固まりきる前は桐生一馬の後継としてどういう人物がふさわしいとお考えでしたか?
名越:最初に思ったのは、“桐生と似ていないこと”でしたね。『龍が如く』の初期の初期は、裏社会モノで期待できる展開を描きたくて、この作品を立ち上げました。ここで求められる主人公というのは、シブくてかっこよくて強くて、侠気があるキャラクター……つまり桐生は、そういう“期待に応える設定”で構成されている部分が多いんです。結果として、狙いどおりかっこよくはなったのですが、そのぶん最初の段階から煮込んであってブレようがないんですよ。もちろん、それだけではおもしろくはないので、『龍が如く』ではストーリーではなくてあえてゲームの部分を遊ばせることでブレを作っています。
そんな桐生が終わりを迎えるとなったときに、今度は“未完成な人間が一人前になっていくという、RPG的な要素を現代劇でやりたい”と感じました。設定ありきではない、世の中が求めるステレオタイプな期待値じゃないところから主人公を作れるチャンスなので、“桐生と並び立つ存在でありながら桐生とは違う魅力を持つ”、そういうキャラクターを作りたかったんです。わかりやすい違いとしては、桐生と異なり彼はよくしゃべりますよ。
――外見の印象だけでも、桐生とは真逆ですね。
名越:もちろん、桐生が主人公の『龍が如く ONLINE』もアリだとは思いました。この場合、過去作のストーリーを踏襲する場合と、踏襲しない場合の2つの選択肢があります。ただ、踏襲するなら過去作を遊んでもらえばいいですし、踏襲しない場合も『龍6』で最終章と銘打った時点で“次に何を提案できるのか”ということを考えていたので、そっちのほうに時間と知恵を使いたいという思いがありました。であれば、もう主人公から違うまったく新しい話を作ってしまおうという流れになったわけです。責任者としての発言ですが、ゲームのゴールはコンシューマの作品だと思っています。『龍が如く ONLINE』では“オンラインゲームとしてのおもしろさは追求しつつ、みんなに楽しんでもらう”ことを絶対に守るべき部分として作っています。
ですが、同時に『龍が如く ONLINE』はあくまで春日一番という男が作る展開の序章とも考えているんです。なので、新作発表会で発表したタイトルは『龍が如く 極2(以下、龍極2)』『北斗が如く』『龍が如く ONLINE』だけではなく、いずれコンソール版も含めた4タイトルの発表になってますよね。
――今後控えているコンソール版がどうなるかが気になりますね。
名越:そうですね。そこでゲームとしても物語としても、マンネリ感の打破も含めて、春日一番が背負っているものは大きいと思います。がんばってもらわないとですね(笑)。
新鮮さと懐かしさの共存を図る! 『龍が如く 極2』
――発表タイトルのなかでは最初に発売される『龍極2』ですが、1作目の『龍が如く 極(以下、龍極)』が発売されたことで、『龍が如く2』も『極』シリーズとして出してほしいという要望が多かったのでしょうか?
名越:とても多かったです。そもそも『龍極』が想定以上の結果を残しまして。十年前に発売されたもの、かつ廉価版も2回出している作品にもかかわらず、きちんとリメイクすれば多くの方に遊んでいただけるという事実は、ビジネス面で1つの成功事例になりました。ここ最近、ゲーム業界で多くのリメイクものが出ていますが、成功しているケースは少ない。そんななかで、『龍極』は非常に好調でした。この前例は、ビジネス面でも見逃せなくなっています。ユーザーからも『龍が如く2』もぜひと言われていますし、会社の上層部からも「当然あるでしょ?」という声もありまして(笑)。『龍極』が好調なセールスを記録したことで宿命付けられた感じは、正直ありましたね。
とはいえ、過去のエンジンを使っていた『龍極』は効率よく作れましたが、『龍極2』ではドラゴンエンジンというかなり使いこなすのが難しいエンジンで作る必要がありました。このエンジンは、『龍が如く6』でようやく産声をあげたものの、何作か使い倒してやっと使いこなせるようになる類いのものなんです。まだまだ発展途上な段階のエンジンで、『龍極』と比べたら2倍以上のボリュームがある『龍極2』を作るというのは、正直「ツライなあ」とは思いました(笑)。たまに言ってはいますが、僕自身の本音を言うと次の作品に注力したかったというのもあり、多少ですが憤りはありましたね。
――『龍極』がヒットした要因としては、以前にプレイした人が楽しめる追加シナリオといった新要素の存在が大きいと感じます。『龍極2』では、真島の追加シナリオが発表されていますが、これはそういったファンの声を意識して追加したのでしょうか?
名越:『龍極』の評価の高かった理由の1つが追加シナリオだったので、そこは応えていかないと、とは考えていました。じつは、初代『龍が如く』のときに、僕には心残りがあったんです。ものすごいストーリーが作れたという手応えはあったものの、本来であれば錦山彰の葛藤を描いておかないと感情移入としてはもう1段足りないかなと感じていたんです。じつは『龍極』で錦山と真島の2人の話を少しずつ足そうかという話もありました。
ですが、それでは中途半端になってしまうため、そのコストを全部錦山に注ぎ込んだという背景があります。結果としてそれは正解でした。そういった経緯があったので、『龍極2』では真島のエピソードで固めているんです。
――しかも、今回は真島を実際に操作できるとのことで、そこもファンとしては楽しみです。
名越:ドラゴンエンジンらしいゲームの遊び方も追加できたかなと思います。『龍極』よりも、もう1段上のリニューアル感を得られると思います。
――オリジナル版の『龍2』だけでも、かなりのボリュームでした。郷田龍司との対決、狭山薫とのロマンスという2本の大きな軸がありましたが、そこも本作では変わらない感じですか?
名越:変わりません。
――メインストーリーのなかで桐生の恋愛関係を描くというのは、『龍2』が唯一でした。その部分は、オリジナル版を遊んだことがない人にとっては新鮮な要素かもしれないですね。
名越:なるほど、かもしれないですね。作品を重ねると登場人物が多すぎるので、色恋は描ききれないなという部分もありましたからね。
――ちなみに、真島の追加シナリオ以外にもシナリオの補完はあるのでしょうか?
名越:シナリオ面ではあまりないです。ただ、シリーズを重ねていったことで人気が出た要素やミニゲームなど、ゲームとしての追加要素は可能な限り盛り込んであります。
――ドラゴンエンジンで描かれる新しい街の中の遊び方は、現時点で公開されていません。イメージとしては『龍6』のように、シームレスで探索できる形でしょうか?
名越:もちろんです。それは絶対やるべき要素ですので。
――キャスト陣が一部変更されていますが、その狙いを教えてください。
名越:単純に同じことばかりではおもしろくないなというのがあったので、どこか変えたいというのがスタートですね。楽曲もそうですけど、僕としてはフレッシュに見せる要素として役立つものは、できるだけ変えたほうがいいと思っていました。極端な話、ストーリーに関しては普通に遊ぶだけで懐かしんでもらえると思うんです。そこに『極』らしさをどう味付けして届けるのか、という部分で新しくキャストを変更しました。瓦次郎役の寺島進さんもフェイシャルとしての出演は前回はなかったですからね。また、キャストだけでなく声優も含めて、ボイス関係はすべて撮り直しています。ただ、ジレンマも感じていて。11年ほど前にオリジナルを作っていた頃と比べて、我々の演出の表現力はとても上達しています。
『龍2』には、すごくオトクなぐらい長いドラマが入っているのですが、あらためて見ていくと演出がムダに長いなと感じる部分もあるんです。そこをシンプルにしてスピード感があるように調整したりすることも、正直に言えばできます。ですが、それを短くすることがファンにとっていいことをしているのかどうか、というのはまた別の問題でして。もしかしたら、逆効果になってしまうかもしれないと、けっこう早い段階から悩んでいました。
――たしかにその部分での調整は難しいですね。
名越:結果的には、質は上げてもテイストそのものは変えないでいようということで、昔のままにしようとルールを決めました。ただ、アクションシーンで尺も演出も同じだけど捌き方がちょっと雑な部分などは、もっと丁寧にかっこよく作り直しています。
――顔のモデリングを作り直したことで、寺島進さんの瓦次郎や白竜さんの高島遼など、明らかに印象が変わりました。一方で、郷田龍司はもとのイメージをしっかりと踏襲したモデルになっていますね。
名越:龍司は『龍が如く OF THE END』や『龍が如く 維新』などでも登場しているので、オリジナル以来というわけではないですしね。ただ、龍司には格別の貫禄があるので、それをドラゴンエンジンのグラフィックで見るというのは、僕は意外と新鮮でした(笑)。
――本作の楽曲はSiMさんが担当されていますが、彼らにお願いすることになった経緯を教えてください。
名越:クレイジーケンバンドさんの楽曲もとても好きなのですが、さきほど話したようにフレッシュな要素を盛り込みたいという想いがあったので、今勢いのある若いバンドを採用することにしました。桐生と龍司、関東と関西といったぶつかり合いを刺激的に彩ってくれる人がいいということで、パンチのある若手を探していった結果、SiMさんにたどり着いた感じです。実際にお会いして「ゲーム音楽に興味がある?」という話から始まったのですが、そこでボーカルのMAHさんが「全シリーズ遊んだことがある」と。これはちょっとした運命めいたものを感じましたね(笑)。それからは酒を飲みながら「こうしたい、ああしたい」と話を固めていきました。ここまで具体的な話ができるというすごくいいエネルギーを感じたので、そのままお願いする形になりました。正直、作品に対する説明がまったくいらないのはラクでしたね(笑)。
それからしばらくして、プリプロダクションの楽曲があがってきたのですが、要素が詰まりすぎてて熱いんだけど絶対にカラオケで歌えない曲になっていて(笑)。そこからもろもろ調整させていただいた形です。アーティストさんにもいろいろなスタンスがあって、アーティストさんがきちんと一回受け止めたものを自分のなかで消化して、「これだ!」と決めたものを出してくる方や、逆に意見を出し合って揉んでいくというキャッチボールをさせてくれるアーティストさんもいます。こちらはあまり多くはないですが、湘南乃風さんはこちらのタイプですね。今回も同じようにキャッチボールからスタートして曲の完成まで付き合えたというのは、とても幸せでした。
――テーマ曲だけでなく、劇中歌もSiMさんが担当されているのでしょうか?
名越:劇中歌だけでなく、エンディングも担当してもらっています。
――クレイジーケンバンドさんの変わりに入っている感じですね。となると、楽曲が入るイベントの印象も変わりそうです。
名越:美しい思い出は、それしか受け止められなくなりがちなのですが、それはそれとしてフレッシュに「これもまたいいでしょ?」と提案するのも大事ですから。新しく作る以上は、また新しく“いいな”と思ってもらえるものを作っていきたいと考えています。
――『龍が如く』シリーズ全般で共通している“挑戦するところは挑戦する”というスタンスは、『極』シリーズでも変わらないんですね。
名越:そうですね。
――ちなみに、タイトルを『龍が如く2 極』ではなく『龍が如く 極2』にした狙いを教えてください。
名越:たしかに、どちらにしようかという話はありました。ですが、僕は『龍が如く』と『龍が如く 極』は別のタイトルだと考えています。『極』というシリーズのなかのバージョン2であるという感じですね。
――では最後に東京ゲームショウ2017などで新情報も多く出てくると思いますが、これらのタイトルに期待しているファンに向けて、今後の“龍が如くスタジオ”の意気込みをひと言お願いします。
名越:今回発表した作品は、さまざまな要素が混じり合って生まれたものばかりです。作品というものは、アイデアと技術がマッチしたものです。我々は、これからもそれらのマッチングにチャレンジをしていくことで、コンソールゲームを愛しているゲームユーザーにいろんな提案ができるんだろうと信じています。もしかしたら『龍が如く』のエンジンに限らず、『ヴァルキュリア』シリーズのエンジンがほかの作品に応用されるかもしれません。今回は3つの作品を発表しましたが、さらに来年には4つ、5つとさらなる作品を発表していきます。新たな作品へのチャレンジはまだまだ続いていくので、これからも注目してもらえたらうれしいなと思います。
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