2017年9月23日(土)
千葉・幕張メッセで開催されている“東京ゲームショウ2017”。ここでは9月21日に開催された基調講演“日本におけるe-Sportsの可能性”の模様をレポートします。
まず冒頭に、一般社団法人コンピュータエンタテインメント協会(CESA)の岡村秀樹会長が登壇。2020年にはe-Sports人口が世界で5億人を超えると予測されているなかで、日本でもe-Sportsの本格的な普及を進めていかなければならないと訴えました。
そして9月19日に、一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会(CESA)、日本オンラインゲーム協会(JOGA)、日本eスポーツ協会(JeSPA)、e-sports促進機構、日本eスポーツ連盟(JeSF)の5団体が、日本におけるe-Sportsの普及・発展とe-Sports産業の振興を目標に掲げて、e-Sports団体の統合・新設に向けた取り組みを開始したことを、改めて語りました。
2022年に中国・杭州で開催されるスポーツイベント“アジア競技大会”では、e-Sportsが公式メダル種目となることが発表されています。岡村会長によると、国際大会への選手団の派遣や国産ゲームタイトルの供給に向けて、日本オリンピック委員会(JOC)への加盟を目途として、業界統一の団体設立について協議したいとのこと。
岡村会長は、新団体ではプロライセンスの発行などを行うことで、e-Sports選手が世界で活躍できる環境の整備や、e-Sports選手の育成や地位の向上に務めていきたいとした上で、ぜひ皆様のご理解、ご協力を賜りたいと語っていました。
岡村会長の言葉に続いて、この基調講演のパネリストが登場。NEWZOO マーケットアナリストのピーター・ヴァン・デン・ハーベル氏、Blizzard Entertainment『オーバーウォッチ』コミッショナーのネイト・ナンザー氏、Signla Ventures ファウンディング・パートナーのサニー・ディロン氏、Cyber Z取締役の大友真吾氏です。また、日経テクノロジーオンライン副編集長の山田剛良氏がモデレーターを務めました。
▲写真左より、山田剛良氏、ピーター・ヴァン・デン・ハーベル氏、ネイト・ナンザー氏、サニー・ディロン氏、大友真吾氏。 |
まずは、オランダのゲーム市場調査会社“NEWZOO”でマーケットアナリストを務めるピーター・ヴァン・デン・ハーベル氏から、海外におけるe-Sportsの現状が紹介されました。
e-Sportsについて早い段階から注目してきたハーベル氏によると、不安定ながらも急成長を続けてきたe-Sportsの幼年期は終わり、2017年の現在は思春期に入ったところなのだそうです。しかし、リアルスポーツ業界のような成熟期に達するには、まだしばらく時間がかかるとのこと。
ハーベル氏は来たるべき2018年のe-Sportsについて、キーとなる3つのポイントを予測しています。まず1つ目は、TVや映画、インターネットといった、世界的な大手メディア企業が、e-Sportsに参入してくることが予想される点です。
リアルスポーツの業界に比べれば、e-Sportsの市場規模はまだ小さいために、大手メディア企業にとっては参入障壁などが少ないのだそうです。そこで現在も海外で見られるような、e-Sports関連企業を大手のメディア企業が買収するといったことが今後も続くだろうとのことでした。
しかしこれは、決してよい面ばかりではなく、これまでは熱心なファンの集まりだったe-Sportsの世界が、よりビジネスライクなものになっていく可能性もあるそうです。
2つ目のポイントは、e-Sportsが盛んになることでゲームの収益化戦略が変化していく点です。これまでのように、ソフト自体の販売やDLCの少額課金でゲームをプレイする人間から収入を得るだけでなく、実況動画やe-Sports大会の中継などの視聴者からも、収益が得られるようになるとのこと。
その内訳も、広告やブランドのパートナーシップ、放映権などで間接的な収入を得るだけでなく、寄附やカメラビューのオプションなどで、視聴者から直接収入を得ることも考えられる層です。
最後の3つ目は、コンシューマゲームでe-Sportsが活発化するという点です。e-Sportsは参加者の公平性などから、ダウンロード販売で継続的なアップデートが行われるPCゲームが、おもに利用されてきました。
しかし現在ではコンシューマでも同様の形態が定着し、PCで人気のe-Sportsタイトルがコンシューマでも広く遊ばれるようになっているため、今後はコンシューマゲーム機でもe-Sportsが活発化し、さらなる広がりを見せるようになるとのこと。
これらのことから、2018年はe-Sportsにとって決定的な年となるだろうと、ハーゲル氏は締めくくりました。
続いて登場したBlizzard Entertainmentのネイト・ナンザー氏は、日本でも人気のFPS『オーバーウォッチ』の世界大会である“オーバーウォッチ ワールドカップ”の主催者です。
Blizzard Entertainmentと言えば、米国や韓国で圧倒的な人気を誇るRTS『スタークラフト』の大会などで、10年以上前からe-Sportsの歴史を牽引してきたメーカーです。
しかしナンザー氏は『オーバーウォッチ』の短編アニメの場面を引用して、「今日の世界を見るのではなく、明日の世界を見よう」と語り、『オーバーウォッチ』におけるe-Sportsのビジョンを紹介しました。
ナンザー氏によると、『オーバーウォッチ』には対戦プレイのエコシステムが存在しており、普通に対戦を行っているプレイヤーが、腕前次第でプロとして活躍できるようになるためのはっきりとした道筋が用意されているとのこと。
その中には、リアルスポーツのように世界各地の都市を本拠地としたチームも作られており、参加12チームによる“オーバーウォッチ リーグ”が行われているそうです。
一方でナンザー氏は、そうした都市チームがない日本のような地域のプレイヤーも、“オーバーウオッチ ワールドカップ”の国別代表選手として、世界を舞台に活躍できる機会があると解説。実際に、今年の夏に開催された“オーバーウォッチ ワールドカップ 2017”では日本代表チームがめざましい活躍を見せて、世界を驚かせたそうです。
このようなプレイヤーのいる日本のe-Sports市場が、今後どのように成長していくのか大いに期待していると、ナンザー氏はエールを送っていました。
次に登場したサニー・ディロン氏は、Signla Venturesでファンドを立ち上げて、モバイルゲームやVRゲームなどを手がけるさまざまなゲーム会社への投資を行っています。
またディロン氏は、プロのe-Sportsチームに対しても投資を行っているそうです。なかでも『League of Legends』や『オーバーウォッチ』で活躍している“Cloud 9”は、「e-Sportsにおけるメジャーリーグチームのような存在になれる」とかなり期待しているようです。
しかし一方でディロン氏は、以前に投資していた『League of Legends』のプロチーム“Team Ember”が、メディアの放映権やマーチャンダイジングの関係で参加していたリーグのレギュレーションが煩雑に変更された煽りを受けて、チームが解散することになってしまったという経験もしているそうです。
e-Sportsが発展する過程においてはそのような問題も起こりうることを、ディロン氏は自身の体験から警告していました。
最後に登場したのは、日本のCyberZ取締役である大友真吾氏です。CyberZはスマートフォンの広告代理事業を行う一方で、ゲームに特化した動画サービス“OPENREC.tv”や、e-Sports大会“RAGE”を運営しています。
大友氏によると、2016年1月に開催された“RAGE Vol.1”は来場者150人、視聴数13万件という規模だったそうですが、2017年9月に開催された“RAGE Vol.5”では来場者1万1000人、視聴数211万件という規模まで、急成長を遂げているそうです。
この基調講演のモデレーターを務めている山田剛良氏も、こうした日本の現状を受けて、「e-Sportsをやると言えば、人が集まる状況がすでに来ている」と語っていました。
ここからは、パネリストによるディスカッションが行われました。最初のテーマは、プロゲーマーをいかに育成していくかについてです。
ナンザー氏によると、アメリカにはプロライセンスのような制度はなく、そうした点では韓国のほうがより進んでいると語っていました。
その一方で、外国人選手がアメリカでプロとして活躍するには、スポーツ選手や芸能人と同じように“P1ビザ”が必要となり、以前は申請の際に不審がられたとのこと。しかし最近ではe-Sportsの知名度が上がったために、手続きもずいぶんとスムーズになったそうです。
またナンザー氏は『オーバーウォッチ』でプロとして活躍しているプレイヤーに対して、最低賃金保証や退職金、健康保険などで、活動環境に対する投資をしていきたいと語っていました。
ここでディロン氏に対して、投資の対象とするチームをどのような基準で選んでいるのかという質問がありました。それについてディロン氏は、メディアの放映権やチケットの収入といったチームの収入源が明確になっていることはもちろんだが、チームや選手がチームを支える投資家の価値を理解してくれることも必要だと回答していました。
さらにディロン氏は、「選手の活躍を見る観客は、楽しむために集まってきている」と語ったうえで、人々から尊敬されるようなプロゲーマーの選手を育成できるような環境を作ることが大事になると強調していました。
大友氏は自身の運営するe-Sports大会“RAGE”において、選手によりフィーチャーすることで、エンターテインメント性を追求していきたいと考えているそうです。選手をファンの憧れの存在とするためには、選手自身をシンプルに格好よく伝えられるかどうかが重要だと語っていました。
大友氏によると、同じ選手でも予選を勝ち上がった時の顔と、ファイナルを終えてステージを下りる際の顔とでは、まったく違って見えるそうです。
人前に立って“見られる”立場を作るだけで、選手の意識もガラリと変わることを実感している大友氏は、選手がプロ意識を持てるような場を今後も提供していって、ソーシャルな場での振る舞い方などもしっかりとアドバイスしたいとのことです。
続いての話題は、e-Sportsをいかにして利益の上がるビジネスとしていくかという点です。ハーベル氏によると、以前はまだマーケティングの段階でしかなかったものが、今では実際に利益を上げつつあるとのこと。
なかでも海外では近年、TVなどのメディアへの放映権が高く売れるようになっているそうです。その理由としては、リアルスポーツを見る層とは違う、若者たちが視聴者となっていることが挙げられます。
モデレーターの山田氏から「e-Sportsは、スマートフォンで動画配信を見ているミレニアル世代にリーチする、新しいコンテンツとなっているのではないか」という指摘が行われたのに対して、パネリストの皆さんも大いに同意しているようでした。
なかでも大友氏は“RAGE”だけでなく、ゲーム特化型の動画サービス“OPENREC.tv”も運営しています。大友氏によると、CyberZ社の意識調査で10代~20代男性のe-Sportsの認知度は過半数を超えているそうで、今後は若年層を中心に、ゲームを観戦するという楽しみ方が一般化してくるはずだと語っていました。
最後の話題となったのは、冒頭の岡村会長の挨拶にもあったように、アジア競技大会でe-Sportsが正式種目に選ばれたという件です。モデレーターの山田氏によると、アジア大会だけでなく、2024年のパリ五輪や、2028年のロサンゼルス五輪で、e-Sportsが正式競技になる可能性もあるとのこと。
この点について聞かれたナンザー氏は、「そもそも“e-Sports”は“スポーツ”ではない」と回答。そもそもe-Sportsとは総称であって個別の競技ではないので、どのようにカテゴライズするのか興味があると語っていました。
その上でナンザー氏は、「もしオリンピックにe-Sportsが採用されるとしても、それは“本物”でなければならない」と強調。
世界オリンピック委員会のバッハ会長が「銃で撃ち合うゲームは五輪競技にはできない」とインタビューで回答したことに触れて、「e-Sportsのファンが本当に望んでいるものが選ばれなければ、成功はできないだろう」と語っていました。
この発言を受けてディロン氏も、たとえe-Sportsが五輪競技に選ばれなくても、ファンは今と同じように、YouTubeやTwitchやニコニコ動画でe-Sportsの実況動画を見るはずだとコメント。
それに対して大友氏は「アジア競技大会やオリンピックの種目にe-Sportsが選ばれるという話が出てきたことは、e-Sportsにとって非常にポジティブなこと」だと語っていました。
そのことによって人々が、「自分の息子をプロゲーマーにしたい」「自分自身がプロゲーマーになりたい」と思うようになり、ゲームやe-Sportsに対する世間の見方が大きく変わってくるという点に、かなりの期待感を持っているようでした。
いずれにしても、CESAをはじめとする関連団体が大きな動きを見せたこともあり、日本におけるe-Sportsを取り巻く状況も、ついに大きく動く時代がやってきたようです。今回の基調講演は、そのことを強く実感させてくれるイベントとなっていました。
■東京ゲームショウ2017 開催概要
【開催期間】
ビジネスデー……2017年9月21日~22日 各日10:00~17:00
一般公開日……2017年9月23日~24日 各日10:00~17:00
【会場】幕張メッセ
【入場料】一般(中学生以上)1,200円(税込)/前売1,000円(税込)
※小学生以下は無料