2017年10月6日(金)
【ネタバレあり】『FLOWERS』冬篇をクリアした感想をスギナミキ氏にぶつける1万文字インタビュー
Innocent Greyより、9月15日にシリーズ最新作『FLOWERS』冬篇が発売されました。
徹底してネタバレ対策が行われている本作ですが、今回はあえてネタバレありのカタチで、筆者のクリア後の感想をイノグレ代表/監督兼原画家のスギナミキ氏に直接お届けしつつ、今後の展開についてもお聞きしてきました。まだプレイされていない方や、プレイ途中の方はくれぐれもご注意ください。
リプトン熊田(以下、リプトン):さて、まずは今回の企画趣旨からご説明させていただきます。先日発売されたシリーズ完結作『FLOWERS』冬篇ですが、内容的にネタバレ要素が多く含まれていて、発売前はイベントCGも一切公表しないという徹底したネタバレ対策が行われていました。
スギナミキ氏(以下、スギナ氏):イノグレファンはものすごく訓練されているので、1枚でもCGを出すといろんな憶測が飛び交ってしまいますから(笑)。秋篇まではそれでも問題なかったんですが、さすがに冬篇だけはまっさらな状態でプレイしていただきたかったので、あえて“ノンプロモーション作戦”を敢行させていただきました。
リプトン:当然、発売後のSNS等でもネタバレ発言は規制されています。が、クリアした側としてはやはり具体的な感想を言いたい! 聞きたい! という想いがあるかと思います。というか自分も1プレイヤーとしてそういった想いがありますので、今回は僭越ながら自分がプレイヤー代表としてネタバレありの感想を直接、スギナ先生にぶつけてみたいと思います。とはいえ、うっかり未クリアのまま本記事を見てしまう方もいらっしゃるでしょうから、重大なネタバレについては避ける方向で。個人的な趣味丸出しなので、多少内容が偏る部分はご容赦ください。
スギナ氏:スタッフや関係者からの感想は聞いたのですが、プレイヤー的な立ち位置の人から直接感想をお聞きするのは初めてなので楽しみです!
リプトン:関係者の人たちからはすごくおもしろかったというお話を聞いていたものの、関係者ゆえに気を使ってくれたのかも的なことを仰ってましたよね(笑)。それを聞いて、ツッコミどころがあればこの場でどんどん指摘しようと思っていたのですが……残念ながら本当に見つからなくて、ちょっと悔しいです。
スギナ氏:ありがとうございます(笑)。強いて言うなら、学院の謎に迫る部分が冬篇に集中しすぎてしまった部分はあるかな、と思っていて。
リプトン:確かに、冬篇で初めて出てくる情報はかなり多かったですね。
スギナ氏:ただ、季節ごとのカップリングをしっかり描きつつ学院の謎まで散りばめてしまうと、どうしてもどっちつかずの内容になってしまうんですよね。それを回避するために起点となる春、そしてまとめの冬に謎を集約させるカタチを取らせていただきました。その分、夏と秋はカップリング重視の内容で。
リプトン:冬篇はマザー関連やバスキア一族の過去など、新しい情報がどんどん出てきましたからね。その偏りが気になる人は確かにいたかもしれません。自分はカップリングをメインにこの作品を楽しんでいるので、そこは特に気にならなかったですが。
スギナ氏:作り手側としてもカップリングを軸に、あくまでもキャラの成長や友情をメインとして描きたかったので、そこを突っ込まれなくてよかったです(笑)。
リプトン:むしろ蘇芳たち3人が揃った平和な日常をようやく見られた、という満足度が非常に高かったです。なにせ4年越しですからね。
スギナ氏:そこは期待を裏切らない締め方ができたのではないかと、こちらも自信を持っています。実際にプレイしてみて、最後のグランドフィナーレってどうでした?
リプトン:そこはぜひ、最後に回させてください! まずはいくつかテーマというか、“問題点”を挙げてきましたので、それについて物申していきます。まずはこちら!
蘇芳さん、たらしすぎ問題
リプトン:蘇芳さん、全方位にフラグ立てすぎだと思うのですが!
スギナ氏:あぁ、たらしてますねぇ(笑)。
リプトン:ニカイアの会の会長になって物怖じしなくなったことが、さらにたらしっぷりを加速させているのではないかと。
スギナ氏:本人は無自覚のまま、周りが勝手に赤面していくんですよね。沙沙貴姉妹ですら、ついに射程範囲に入れましたし。
リプトン:特にえりかとは何度もいい雰囲気になって、そのたびに千鳥や立花が「んんっ!」って言うわけじゃないですか。これは問題ですよ。プレイしててニヤニヤしちゃうので。
スギナ氏:アレですよ。時には刺激も必要じゃないですか。えりちどだけでイチャイチャするのもいいですけど、そこに蘇芳さんというスパイスが入ることで千鳥の嫉妬というアクセントが加わるわけです。ただ、えりかに関しては気が多すぎるかなとも思いますね。蘇芳さんだけでなくバスキア教諭もいますから。……あれ、これって蘇芳さんじゃなくてえりかの方に問題がある気がしてきました。
リプトン:蘇芳さんのたらしすぎ問題が消えるわけではないですが、確かにそちらも問題ですね。
スギナ氏:まぁでも、えりかに関しては全部違う“好き”なんですよ。劇中でも言ってましたけど、千鳥は家族でそれ以上で相棒だと。蘇芳さんは書痴仲間で……なんか自分で言ってても言い訳じみてますが。蘇芳さんの方はもう、ああいう人なのでしょうがないというか(笑)。
リプトン:そうですね、蘇芳さんですからね(笑)。では次の問題にいきます。
サブキャラかわいすぎ問題
スギナ氏:これ、イノグレ作品ではいつものことじゃないですか(笑)。
リプトン:そうなんですけど、言わずにはいられないというか(笑)。今まで名前がちらちら出るくらいだった娘が、急にビジュアルとボイス付きで出てきてものすごいインパクトでしたし。
スギナ氏:ちなみに、サブキャラで特に気になったのは?
リプトン:ビジュアル的には萩原先輩が好きなんですけど、キャラ的には外間先輩が強いなと。
スギナ氏:外間先輩は、なんか人気ありますよね。
リプトン:なんかっていうか、めちゃあざといじゃないですか!(笑)。
スギナ氏:すみません、あざといです(笑)。外間先輩はスタッフ間でも人気があって、デバッグ中もみんなかわいいって言ってましたし。ドラマCDを聴くと、よりあざとさがわかりやすいですよね。あ、この人計算で動いてるなっていう。
リプトン:ドラマCDにはあとで改めて触れますが、立花と外間先輩とブッキーの話は本当にズルいと思いました。
スギナ氏:おもしろいお話っていうのは、サブキャラが魅力的じゃないといけないと思うんです。メインキャラが魅力的なのは当然として、ときにはそれを喰うくらいのサブキャラがいないと。特に外間先輩や萩原先輩、石蕗さんはまったくの新キャラではなくて、名前だけ出ていたキャラを引き上げたっていうところも効果的だったのかなと思っています。
リプトン:サブキャラの存在感はイノグレ作品全体で意識されているんですね。それでは次はこれと関連する問題へ行きましょう。
立花モテすぎ問題
スギナ氏:あぁー、蘇芳さんとは別の意味でモテすぎですよね。
リプトン:でも本人これっぽっちも気づいてないじゃないですか(笑)。
スギナ氏:ほんと、大概にせぇってくらい鈍感ですから。立花は蘇芳さん好きすぎなんですよね。マユリがいるからLOVEではないんですけど、LIKEとして好きすぎっていうか。それもあって、どんな場面でも蘇芳さん支えまくりますしね。
リプトン:そうそう、すごい有能で周りのこともちゃんと見てるのに、自分への好意は全然見えてないところがなんとも。
スギナ氏:蘇芳さんしか見えてないのが彼女の根本的な問題ですね(笑)。
リプトン:でも冬篇では特に頼もしい存在になったというか、事情を話して味方になってくれた時の心強さは本当に印象深かったです。
スギナ氏:あそこはアツいですよね! 秋篇に続き、自分の中で立花はMVPだと思ってます。
リプトン:自分も途中まではそう思ってたんですけど……。
スギナ氏:お、過去形ですね?
沙沙貴姉妹、天使すぎ問題
リプトン:沙沙貴姉妹、特に苺の株が爆上げしたんですよね。秋篇では林檎の方が少し目立ってたと思うんですけど、冬篇は苺が誰よりも周りを見て気遣ってるじゃないですか。
スギナ氏:そこは密かに狙っていたところなので、気づいてもらえて嬉しいです。秋篇で成長したとはいえ、そこだけで終わらせたくなかったんですよね。なので冬篇では姉妹、特に苺の方をもっと描きたいなと。トリックスター的な立ち位置は変えずに、秋篇での失恋を経て強くなったところや、常に周りを見て小さな異変に気付く感じを出したかったんです。
リプトン:えりかが怪我をしちゃった時に、教室で千鳥と諍いみたいになるじゃないですか。あんな修羅場でも最終的に丸く収めるのは苺なんですよね。あとすごくズルいなと思ったのが、そのすぐあとのイベント。蘇芳さんがひとりぼっちで食堂にいる時に、沙沙貴姉妹が隣に座って普通に世間話を始めるんですよね。いやもう天使かよと。あそこはちょっと涙腺やばかったです。
スギナ氏:打算じゃなくあれができるのが沙沙貴姉妹なんですよね。
リプトン:そういえば蘇芳さんの友達1号と2号だったっていうのを思い出して、ここでそれが立ち上がってくるのかと。秋篇からの流れもあるんでしょうけど、冬篇における姉妹の立ち位置はすごく成長した感があっていいですよね。
スギナ氏:姉妹に関しては実は立花ほどわかりやすいカタチでは成長具合を出していなくて、ポイントで差し込むような感じだったんですよね。だから今言っていただいたようなところも、サラッと読んじゃうと気づかれにくい部分なのかなと。なので春篇で最初に友達になったことや、秋篇でのことを踏まえた上で先ほどのくだりに気付いてもらえると、響く人には響いていただけるのではないかと。
リプトン:春篇からの“積み重ね”という部分については、今回の冬篇は沙沙貴姉妹を始めいろんなところでそれに気づかせてくれるんですよね。そこもプレイしていてスゴイなと思いました。
スギナ氏:ありがとうございます! そこもすごくこだわったところなので、言っていただけて嬉しい限りです。
リプトン:といういい話のあとで言いにくいのですが、まだ問題点ございます。次はこちら!
お義母さん喋りすぎ問題
リプトン:冬篇のお義母さん、主張しすぎだと思います! 背後霊なのかっていうくらい。
スギナ氏:えー、仰る通りです(笑)。開発側としても背後霊とかスタ○ド的なイメージで作っていました。声はネリネ役の西口有香さんにお願いしたんですけど……。
リプトン:西口さんの演技がまた上手くて怖いんですよね。
スギナ氏:実は冬篇ではネリネよりボイスの数が多いんですよ。
リプトン:えぇ……(困惑)。
スギナ氏:さすがにお義母さんの方がボイスが多くなるのは問題なので、志水さんにも何度か相談したんですけど、スケジュールなど諸々事情があって結局は増やせずじまいで。
リプトン:ネリネの隣には常に譲葉がいましたからね。短時間でセリフを増量するのは確かに難しそうです。
スギナ氏:しかも、ドラマCDを含めてもまだお義母さんの方が多いですからね。お義母さんが喋りすぎなのは確かに問題だと思います(笑)。
リプトン:蘇芳さんがなにかやろうとすると、必ず喋るじゃないですか。ビジュアルも相まってかなり怖かったです。
スギナ氏:夏と秋では姿を潜めていたんですけど、蘇芳さん視点に戻った途端、まぁ出てくること出てくること。あと演出も難しかったんですよね。
リプトン:と言うと?
スギナ氏:志水さんの指定では本当に背後霊的に見せたいということだったんですけど、それだとギャグっぽく見えかねないので、どういう風に見せるかは結構悩みました。極力姿は見せずに、音声にエコーを掛けて耳元で囁いてる感を出しつつ、たまにビジュアルも出したりして。
リプトン:念のため一応確認なのですが、あれはお義母さんが喋っているわけではなくて、蘇芳さんが無意識のうちに喋らせている的なものなんですよね?
スギナ氏:そうですね、あれはあくまでも幻影でしかありません。蘇芳が心の中で勝手に膨らませているだけで、実際にお義母さんがいるわけでも、過去にそういうやり取りがあったわけでもないですね。
リプトン:ありがとうございます。では問題点はここまでということで、次のテーマはこちらになります。
冬篇の「いいな」と思ったところを思いついた順に挙げてみる
リプトン:先ほど“積み重ね”というのが出ましたが、冬篇って誰かが困ったり悩んだりしてると、必ず他の誰かが気にかけたり手を差し伸べてくれるんですよね。特に苺とか千鳥とか。春篇から積み重ねてきたものがあるからこそ、蘇芳さんを取り巻く友人グループ全体でこの流れができているのかなと思ってちょっと胸が熱くなりました。
スギナ氏:もし『FLOWERS』がワンパッケージだったら、また違う感じになっていたかもしれませんね。季節ごとに区切ったからこそキャラ同士のやり取りを丁寧に描くことができて、最後の冬篇でそれを収束させることができたのかなと。
リプトン:しかも単に仲がいいっていうだけじゃなくて、ちゃんとケンカしたりもするじゃないですか。そういう部分も、キャラをしっかり描いてきた土台があるからこそできたっていう感じはします。えりかの怪我イベント周辺は、そういう見どころがすごくたくさん詰まってますよね。
スギナ氏:そうですね。特にケンカのシーンは作中でもかなり珍しいと思います。あそこまで声を荒げて言い合いをすることってなかったですし。
リプトン:そして最後の謎を解く際に、全員の力が結集されるのもすごくアツい展開で印象的でした。
スギナ氏:これは完全に裏話なんですが、実は完成プロットの段階では最後の謎解きに姉妹はまったく絡んでなかったんですよ。
リプトン:えぇー!
スギナ氏:秋篇での譲葉とネリネとの関係性の問題で、ここでは絡まずに最後の図書室のところだけ、譲葉たちの説得に出てくるという感じだったんです。自分としては沙沙貴姉妹も当然いるものだと思い込んでいたので、チェックの時に気づかなくて……。
リプトン:沙沙貴姉妹だけが蚊帳の外になってると(笑)。
スギナ氏:それで急遽流れを修正してもらって、ギリギリではあったんですけど、なんとか今のカタチに持っていくことができました。
リプトン:それは危なかったですね。あそこって全員で謎を解くから意味があるのかなと思いますし。
スギナ氏:そうですね。姉妹2人に譲葉とネリネのことを話した上で、一緒に立ち向かうっていう展開にできたのは幸いでした。今のカタチにできたからこそ姉妹の強くなった部分を見せられたと思いますので。
リプトン:今まで謎解きというと、蘇芳さんやえりか、譲葉の独壇場だったじゃないですか。でも冬篇の謎だけはみんなの知識やスキル、感性が集まったからこそ正解に辿り着けたっていう流れなんですよね。これこそ最後の謎解きに相応しいなと思いました。
スギナ氏:無理なカタチじゃなく、それぞれの特性を生かした上でそれがやれたのは大きかったですね。たとえば手紙のくだりで林檎と苺が違和感に気付くところとか、姉妹の独特な物の見方っていう部分もうまく入れられましたし。
リプトン:謎解きにおいては立花の活躍もかなり目立っていましたよね。過去の証言をしてくれる先輩を見つけてくれて、手紙の存在を教えてくれて、テディベアの年代識別までやってくれて、かなり重要な立ち位置だったと思います。
スギナ氏:それもこれも、やっぱり春篇の“失敗”があればこそというか。あの立花の生々しい感じが苦手で、『FLOWERS』から離れてしまった人もいらっしゃったようで。そういう人でもまた好きになってくれるくらい、立花というキャラを大切に育ててきたつもりです。なので春篇で離れてしまった人にはなおさら、夏以降の立花の成長を見ていただきたいという気持ちはすごくありますね。
リプトン:別のインタビューで『FLOWERS』のメインテーマはキャラの成長だって仰ってましたけど、冬篇は本当に各キャラの成長がしっかりと見える作りになっていますよね。春篇から4年間プレイしてきたユーザーにとっても嬉しいというか、感慨深いものがあります。
スギナ氏:そこを感じていただけると、こちらとしてもすごく嬉しいです。
リプトン:そしてこちらも成長……というか大きな変化があってビックリしたのですが、先輩2人の登場シーンは色々と衝撃でした。なんというか、ダークヒーロー的な(笑)。
スギナ氏:まさにそんな感じでイメージしていました。冬篇で最後の謎に立ち向かうにあたって、ああいう壁になる存在がいた方が物語として引き締まるのかなと。『FLOWERS』ってこれまでも少ないキャラでお話を回してきたじゃないですか。なので、あそこで学院側のよくわからない新キャラを出すよりは、内情を知ってる上で動ける人間を出す方がらしいですよね。だとしたらあの2人しかいないですし、なにより秋篇までとのギャップがいいなと思って。
リプトン:譲葉は態度自体は以前と同じく飄々とした感じでしたけど、ネリネの方はすっごい悪そうでしたね(笑)。
スギナ氏:名演技だったと思います(笑)。中途半端に対立するくらいなら、いっそのことダークヒーロー的な感じで徹底しようと思って、あえてあそこまでやってもらいました。
リプトン:それにしたって、シリーズ前作のメインヒロインをよくあそこまで悪に仕立て上げましたね。
スギナ氏:それについては志水さんとも相当議論したんですよ。2人をああいう扱いにするっていうのはすでに決まっていたんですけど、どれくらいの匙加減でやるかっていうのはすごく悩みましたね。えりかがなにかしら怪我をすること自体も決まってはいたんですけど、それもどこまでやるかっていう加減が難しくて。蘇芳たちの前に立ちふさがるし敵対心はあるんだけど、本当に敵になっているわけじゃないっていうのも匂わせなくちゃいけないですし。
リプトン:その辺りの匙加減とか、あとはマユリ関連のいちばん大きな謎の真相とか、思っていたほど殺伐としていなかったなという印象はありました。変な話ですけど(笑)。
スギナ氏:バックボーンとしては重い話もあるんですけど、本編に関してはあくまでも童話的な雰囲気を崩したくなかったので。悲しみが強すぎるような展開にはしたくなかったんですよね。悲しくも美しいというか。マユリの落としどころも、まさにそんな感じで。
リプトン:とはいえ、シリーズの中ではシリアス度は高めでしたよね。でも深夜の怪談大会イベントみたいにほっこりするところもあって、すごくメリハリのはっきりした構成になったなと思いました。
スギナ氏:そういうメリハリの部分もそうですし、謎も追わなくちゃいけない、でも日常生活の描写も外せないというところで、冬篇は全体のバランス調整がすごく難しかったですね。少しずつ謎に迫りつつ、でもベースである日常生活の部分も大切にしたかったですし。
リプトン:日常生活の中でも、お義母さんがどんどん出てきますしね(笑)。
スギナ氏:落ち着いたと思ったら先輩たちが出てきて急展開とか、とにかく起伏が激しいんですよね(笑)。
リプトン:そういうのもあって、冬篇はシリーズの中でエンディングまでがいちばん短く感じました。もちろんボリュームはいちばん多いんでしょうけど。
スギナ氏:それはデバッグしていたスタッフも言ってました。どんどん引き込まれて行って、もう終わっちゃった的な。
リプトン:そしてエンディング、最後のグランドフィナーレがまたすごいんですよね。
スギナ氏:あ、最初に聞いた質問がようやくここで(笑)。
リプトン:まず1周目が終わって2周目が始まる時、同じイベントに見えて実は違う人物のイベントが始まるじゃないですか。最初それに気づかなくて、グランドフィナーレに辿り着けないなと思って何回も途中からやり直したんですよね。あそこで引っ掛けてくる感じで思い出しました。そういえばこれ、イノグレのゲームだったって(笑)。
スギナ氏:すみません、イノグレのゲームなので(笑)。あそこはまったく同じ構図で、ヘアピンの有り無しと季節の違いだけですからね。絵を見比べると一目瞭然なんですけど、冒頭に一度見てから2周目でもう一度見るくらいだとなかなか差がわかりにくいですよね。
リプトン:そして2周目でグランドフィナーレに辿り着いたわけですが、なんというか、流れが完璧だなと思って。
スギナ氏:よかった、ありがとうございます!
リプトン:劇中の季節が冬からまた春になって、春篇の主題歌である“FLOWERS”がアミティエ3人の合唱で流れて。春篇の冒頭では、蘇芳さんがアミティエが3人になったことを知らなくて戸惑ったりしてたじゃないですか。でも二度目の春を迎えた今、3人だからこそ上手くいくっていうのを身をもって実感するんですよね。この春篇からの全部の積み重ねが、綺麗に収束してく感じと言いますか。さらに各キャラの花言葉を見せつつ、お花やヒロインたちのビジュアルの先に出る『FLOWERS』のロゴとか。とにかく一連の流れが綺麗すぎてすごい泣けるんですよね。
スギナ氏:そのあと、タイトル画面に戻った時の曲も春篇のメインテーマなんですよね。あそこで流すBGMはもうこれしかないなと。僕自身も好きな曲ですし、ユーザーさんも好きな方が多いと思うんですよ。
リプトン:言葉にしちゃうと単純なんですけど、季節が巡ってまた春が来た感じがグッとくるというか。
スギナ氏:あの終わり方については当初からイメージしていたので、それをしっかりカタチにできたのはよかったと思います。三重唱もすごくやりたかったんですよね。
リプトン:蘇芳さんとマユリだけのお話だったら、こうはならなかったのではないでしょうか。
スギナ氏:そうですね。やっぱり3人でひとつのアミティエっていうのを軸として描きたかったので、そこがブレていたらあんなに綺麗にはまとまらなかったと思います。
リプトン:そんなわけでグランドフィナーレでひとしきり感動して、ずっと気になってたものをもう一度読み返してみたんです。
スギナ氏:お、なんでしょう?
リプトン:春篇の発売前にショップ等で配布されたパンフレットなんですけど、その中に書き下ろしのSSが載ってるじゃないですか。っていうか自分の方で作らせていただいたものなんですけど(笑)。で、SSの内容がパンフレット制作当時の2014年からずっと気になっていて、改めて読んでみたら冬篇のエンディングそのものなんですよね!
スギナ氏:細かいところで変わっている部分もあるんですけど、ほぼそのままですね。
リプトン:ということは、グランドフィナーレの内容は春篇発売前からもう決まっていたということですか。
スギナ氏:そうですね、決まっていました。最初と最後だけは初期の段階からしっかり決めていたんですよ。
リプトン:なるほど……。SSに出てくるお墓とかなんなんだろうってずっと気になってたんですが、ようやく理解できてすっきりしました。冬篇をクリアしていて、まだ春篇のパンフレットを見たことないという人がいたら、ぜひ見てほしいですね。それが2014年に作られたものだということを踏まえて。
スギナ氏:『FLOWERS』公式サイトからpdfデータがダウンロードできますので、ぜひ。
リプトン:それにしても、まさかシリーズ1作目の発売前に最終エンディングを掲載するとは思わなかったので、今さらながらビックリですよ(笑)。
スギナ氏:気づいてくれた人がニヤッとできる仕掛けを作りたかったので、3年越しの今、その成功を実感しています(笑)。意外とさらっと見過ごされてしまうかもしれなかったので、気づいてもらえてよかったです。
リプトン:あと冬篇のパンフレットについても、一見マユリのお話っぽく見えますけど実は……っていう内容じゃないですか。これもクリアした後に読み返して気づきました。
スギナ氏:実は旧聖堂の、火事が起こる直前のお話ですね。こちらもpdfがダウンロードできますので、ご覧になっていない方はぜひぜひ。
リプトン:というわけでエンディング→パンフレットという順番で見終わって、やっぱり彼女たちのその後のお話をもう少しだけでも見たいなと思って。少し寂しい気持ちで初回特典のドラマCDを聞いたら、まさにこちらの求めていたものがそこにあるじゃないですか。どんだけ完璧に仕込んでるんだろうこの人たちって(笑)。
スギナ氏:グランドフィナーレはあのカタチで終わらせたからこそ美しいと思うので、その後のお話ってどうしても本編には入れにくかったんですよね。それでドラマCDの方に持っていったんです。メインディッシュを食べ終わった後のデザート感覚で楽しんでいただければと。
リプトン:あー、まさにそれです。デザート感覚。そこまで食べ終わってちょうどお腹いっぱいになるみたいな。しかも5話入っていて、どれもいい話なんですよね。立花の話だけはちょっとイラっとしましたけど(笑)。
スギナ氏:モテすぎなのに全然気づいてくれませんからね(笑)。ドラマCDって毎回内容をどうしようか悩むんですけど、今回は立花のベタな恋愛コメディーも入れつつ、全体的にうまくまとまってよかったと思います。
リプトン:冬篇はこれからPS Vita版も出ると思うのですが、発売はいつ頃になりそうでしょうか?
スギナ氏:まだ正式に移植のお話をしたわけではないので明言はできませんが、大体いつも半年後くらいなので、問題がなければ来年の3月か4月あたりには発売できるのではないかと思います。
リプトン:ちなみにPS Vita版以外に、なにか今後の展開で発表できるものってありますか?
スギナ氏:来年になりますが、まずは冬篇のファンブックですね。あとは『FLOWERS』の画集を少しずつ進めています。こちらはかなり凝った装丁の本になるかと思いますので、正式発表をお待ちいただけたらと。あとはまだ企画段階ではあるのですが、『FLOWERS』の画展をやりたいなと思っています。まだ実現可能かどうかもわからない状態ですけど、一応動いてますということで。
リプトン:ゲーム自体はエンディングを迎えましたが、まだ企画が用意されていて嬉しい限りです。では最後に、冬篇をプレイしていて疑問に思ったことをまとめてみました。お答えいただけるものがありましたら、ぜひお願いできればと。
(1)譲葉の「もう義理は果たした」という言葉の意味
(2)春篇で譲葉を殴ったのはバスキア一族の誰だったのか
(3)血塗れメアリーの絵について、過去に辞めた三年生は本当に怪異を見たのか
(4)図書室の隠し部屋にいた人物は貴船さゆりだったのか
スギナ氏:劇中で明言されていない謎の真相はすべて、先ほど言った画集の方に詰め込みたいと思っています。どうせやるならシナリオの志水さんとも擦り合わせをした上で、しっかりとしたカタチで掲載したいと思いますので。ただ④番については、貴船さゆりで合っています! 劇中では名前の明言はしてないですが、よく読んでいただければ予測がつくような塩梅にしてみました。
リプトン:よかった。実は1回目のプレイでは確信が持てなくて、エンディング後にもう一度その場面以降をまるっと読み返してようやく確信できたんですよね。
スギナ氏:まさに狙い通りです。2回くらい読み返すとわかるくらいの薄め方をしたので(笑)。
リプトン:流れとしては、火事でアミティエを亡くしたことを自分のせいだと思い自らを閉じ込めた、ということでしょうか。
スギナ氏:ですね。自らを閉じ込め、あの部屋で最悪の選択を選んでしまいます。そしてそのことを知っているのは、隠し部屋の鍵を持つダリア先生だけです。なぜ先生しか知らないのか、ということについては他の謎と同じく、画集の方にまとめさせていただければと。
リプトン:ビジュアルだけでは終わらない、かなり内容の厚い画集になりそうですね。そちらの正式発表を待ちつつ、まずはPS Vita版を楽しみにしています。本日はありがとうございました!
(C) Innocent Grey / Gungnir All Rights Reserved.
データ
- ▼『FLOWERS - Le volume sur hiver -』(初回限定版)
- ■メーカー:Innocent Grey
- ■対応機種:PC(全年齢対象)
- ■ジャンル:百合系ミステリィADV
- ■発売日:2017年9月15日
- ■希望小売価格:4,800円(税別)