泰明「よかった、戻ってきたのだな…」

　空から舞い降りてくる主人公に手を伸ばす。
　その手が柔らかな温もりに触れた。

泰明「お前を失うかもしれないと……そう思うと、胸が痛んだ」

　温もりを引き寄せ、包み込む。
　確かにここにいるということを確かめるように、抱き寄せる手に力がこもった。

泰明「そばにいたいと、心から願った。だから…」

泰明「私の願いを叶えてくれ。お前の名を呼びたい。ずっと…そばに……」

イノリ「家族を守るのは当たり前のことじゃん」

　病弱な姉を懸命に支えるイノリ。
　それは負担ではないのだと、その笑顔からも伝わってきた。

イノリ「父ちゃんの頭の上から見えた景色がすっげぇ高くてさ、いつもより空が近かったんだ」

イノリ「隣には母ちゃんがいて、姉ちゃんがいて……。みんな、笑ってた」

　懐かしむように、家族の想い出を語る。
　両親がまだ健在だった頃の、大切な想い出を。

イノリ「父ちゃんや母ちゃんの分まで、オレが姉ちゃんを守って、幸せにするって決めてんだ」

　そのために早く一人前になるのだと、前を見据えている。
　その姿はいつもより大きく見えた。

詩紋「あははっ、やめてってば。もうー、くすぐったいよ」

　凶暴な野犬がいると聞いた河原院に向かうと、楽しそうな笑い声が聞こえる。
　そこには犬とじゃれ合う詩紋の姿があった。

詩紋「確かに、身体が大きくて見た目は怖いかもしれないけど…」

詩紋「…悪い犬なんかじゃないんだよ」

　元の世界でも京でも見た目のせいで避けられている詩紋。
　だからこそ、見た目だけで決めつけたくないと思う。

詩紋「間違った噂のせいで退治なんてしちゃいけないんだよ、絶対」

　純粋な蒼い瞳は、まっすぐに相手を見ていた。