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2017年10月28日(土)

【ディバインゲート零】Black Chaos編・“喪失の向こう側”~魔力界にて

文:電撃オンライン

 ガンホー・オンライン・エンターテイメントがサービス中のiOS/Android用アプリ『ディバインゲート』の新章『ディバインゲート零』。そのキャラクターストーリーを追っていく連載企画をお届けします。

 今回お届けするのは、Black Chaos編・“喪失の向こう側”。Black Chaosは、前回お届けした音楽バンドDie Gesetzweltをライバル視している魔力界の軍事組織。彼らの対抗手段である“魔奏楽器”とは?

Black Chaos編・“喪失の向こう側”

テキスト:沢木褄
イラスト:黒澤トモ

 『自信』ってもんは、どうしてこう簡単に消えていっちまうんだろう。ちょっと前まで、そこにあったはずなんだ。けど、目を離した瞬間……ほんの数秒だぜ?気がついたらなくなってる。……あんなにがんばったのに。なくなる時は、一瞬なんだな。

※    ※    ※

 ヴァイクはハーモニカを奏でながら空を見上げた。

 うっすらと濁ったみたいな中途半端な色の空は限りなくダサい。こういう空が、ヴァイクは一番嫌いだ。目を閉じても、まぶたでチカチカ閃くようなビビッドな色とか、逆に暗いなら暗いで悪魔でも降臨するような禍々しい色とかであってほしい。とにかく、こういう薄ら白けた空はロックじゃない。

「ねーえー、あたしたちー、本日終了?」

 コリンの言葉に、しゃがんでいたヴァイクは顔を上げた。けれど、何も言わなかった。『終了』という単語が、思いのほか衝撃的に頭の中に響いていた。

「ヴァイクぅ、いったいどーなるんだろうねぇ」

「あぁ?そんなこと知らねぇよ。上が決めることだろうよ」

 ヴァイクたちは、魔力界各国のエリートが集結する『旅団』の一員である。対理力界の軍事組織であり、魔力界の中枢組織の直下に置かれた、この世界の趨勢を左右する重要な機関だ。

「ねぇーねぇー、クビになったらさぁ……」

「っせぇよ、バーカ。ちょっと黙っとけ」

「……キゲンワリー」

 コリンは金網に寄りかかる。

 その『ガシャン』という音さえ、今のヴァイクにはイライラするものに感じられた。

 ヴァイクたちが所属する『Black Chaos』は、調査セクションに関する部隊の一つ。しかし、その存続は危ういものになっている。

 理力界に出撃すること十数回。全て『Die Gesetzwelt』とかいう、目障りなバンドに敗北し、目的だった『魔奏楽器』の運用データ収集は、当初の計画より半分も取れていない。

 現在、隊長のミラダが前回の作戦失敗の経緯について、上層部に申し開きをしているところだった。

「……まあ、ミラダの帰りを待とう。隊長が万事うまくやってくれる」

 ラッゼルは目を閉じて、腕を組んだ。

「ずいぶん遅くなーい?いつまで外で待ってなきゃなんないのー?」

「寒いなら、施設の中に入ってろ」

「じゃなくてぇー、なんかここ砂っぽいって言うかぁ」

 コリンとラッゼルの会話を、ヴァイクはあまり聞いていなかった。

 ミラダは『音響兵器研究』の第一人者で、他部隊で落ちこぼれだったヴァイクたちを、特務部隊へと拾い上げてくれた女性だ。とはいえ、ヴァイクは自分が落ちこぼれだと認識したことはなく、特務部隊に任命されたのも、自分の能力なら当然だと思っていた。

(ようやくオレの才能に気づけるレベルのやつが現れたか)

 部隊に誘われた当時は、そう思ったものだ。だから、ミラダが自分たちを救ってくれた『恩人』みたいに考えているコリンやラッゼルたちを、ヴァイクは白けた目で見ていた。

(才能があり余り過ぎて、時代がついてきてなかったこのオレを埋もれさせなかったことだけは、評価できるけどな)

「やっと終わったよぉ……。ああ……寿命が縮んだなぁ……」

 重々しい扉が開いて、ミラダが施設から出て来た。普段から「雪山で遭難でもしたのか?」ってくらい青白い顔が、いっそう青くなっている。

「お帰り。隊長」

「ミラダぁ!おっかえり~!」

「寒かったよね、長いこと待たせちゃってごめんねぇ……」

 ラッゼルとコリンはミラダに駆け寄った。ヴァイクも腰を浮かせかけたが、こらえて、平静を装う。

「で、どうなんだ?いよいよクビか、オレたち」

「んー、結論を言うとさぁ……。次の結果次第だってぇ……」

「けっ、余命宣告ってやつかよ」

(胸糞悪ぃ。オレの才能にも気づけなかった節穴な連中のくせに、上から目線かよ)

 ヴァイクは、気持ちを落ち着かせようとハーモニカを奏で始める。哀愁の漂う音色に、湧き上がる怒りが収まっていくのを感じた。

 しかし、それと同時に、激しい虚脱感が襲った。

(――結果を出せなかったのは、自分じゃねェか……) 

 理力界のクソバンドに、負け続けている。それは紛れもない事実だ。

「ぶっちゃけぇ、『DiG』にはもう勝てないでしょぉ」

「口を慎め、コリン!」

「ごーめーんーなーさーい」

 ラッゼルの叱責は、いつもより弱々しい。コリンは素直に口にしてしまったが、ラッゼルも薄々そう感じているのだろう。

 自分たちがどんなに練習して力をつけても『DiG』の連中はさらにその上を行く。敵わない。……敵わないんだ。

【ディバインゲート零

「……ミュージシャンとして、ここらが限界なのかもな」

 ほらまた。今さっきまで確かにあったはずの『自信』が、なくなってしまった。

 誰にも認められなくて、落ちこぼれだとか言われて、自信がなくなって、それでも歌い続けて、自信を取り戻して、だけどまた、いつの間にかなくなって。それを何度も繰り返してきた。

「ヴァイク……」

 ラッゼルが辛気臭い顔をする。いつもギャーギャーうるさいコリンは、口をぎゅっと結んで、何かを耐えるように押し黙っている。

 ヴァイクはハーモニカに唇を当てる。練習を始めたばかりの頃は、ブツブツと音が切れて、息継ぎができず苦しくなったこれも、今ではなめらかな旋律が奏でられるようになった。

 けれど、今日ばかりは、その途切れない音色が物悲しかった。『Black Chaos』がなくなっても誰も困りはしない。響き続けるハーモニカの音が、『Black Chaos』の幕引きの演奏に聴こえてくる。

 吹いていて、久しぶりに息苦しさを感じた。

 誰か、誰か止めてくれ。

「私が信を置く同士の諸君。君たちは旅団の中で、最も演奏に秀でている人材だと、私は高く評価している」

 ハッとして、ヴァイクは顔を上げる。しけた演奏を止めてくれたのは、いつもとは口調の違うミラダだった。ラッゼルもコリンも、ミラダを見て驚いた顔をしている。

「私は諸君の演奏力を知り、部隊への参入を強く希望した。……それは、諸君なら『魔奏楽器』を自在に使役し、更なる威力向上を望めると判断したからだ」

 相変わらず青白い顔をしているが、いつものミラダとは違う芯のある声。はっきりとした眼差し。ヴァイクたちは、ミラダから視線が離せなかった。

「魔影蝕の内部から、音によって対象を魅惑し操作できる。私は、この『魔奏楽器』の有効性を証明する責務がある。……何より、諸君の諦めの悪さを買っている。だから失望させないでくれたまえ」

 埃っぽい風が吹いた。次の瞬間、ミラダはへにゃあと肩を落とす。

「このしゃべり方疲れるんだからぁ……いちいちへこたれてないで、適当に上手くやってよぉぉぉ……」

 軍人然としゃべり出したかと思えば、突然元の情けない声に戻ったミラダに、ヴァイクはあっけに取られてしまった。

 普段、上層部とはこんな風に渡り合っているのかと思うと、ミラダの苦労がちょっとだけ分かる気もする。

「ミラダ……」

 そして、空っぽになっていたはずの心が、確かに熱を持ち始めているのを、ヴァイクは感じていた。

「……へっ、ネガティブなミラダに、ここまで気概みせつけられちゃな?」

「……だな」

「いっーがーい!ミラダってカッコイイ声してるんだね、キャハハハ!」

 ラッゼルとコリンに声を掛けると、心の炎がさらに熱く猛けるのが分かった。

 自分が自分を信じなくて、どうするんだ。

「ミラダ、今から伝えるチューニングを『魔奏楽器』にキメてくれ」

 ヴァイクはハーモニカをポケットの中に押し込むと、矢継ぎ早に、『魔奏楽器』の調整について伝える。

「ええぇぇ……それはいくらなんでも危ないよぉぉ……」

「うるせェ。黙ってやりやがれ!そんくらいやらねェと、『DiG』にゃ勝てねェんだよ!!」

「しかしヴァイク。その出力だと、我々の演奏もレベルの高いものを求められるぞ」

「願ったりじゃねェか」

「マジで?こんなに飛ばしちゃうのぉ?ヤバくなーい!?」

「コリン、ビビってんのか?」

「ううんっ、興奮してビリビリしてんだよぉー!キャハハハ!」

「んだよ、ビリビリって……」

 ヴァイクは苦笑した。

「ラッゼル、お前はひよってんのか?」

「まさか。俺たちならノリこなせる。なにせ旅団で一番の演奏力だ」

 ラッゼルと目が合って、ヴァイクは破顔した。普段は無口で何を考えているか分からない男だが、今この時ばかりは、『同じ気持ち』だと分かった。ラッゼルの心にも、ミラダが火を灯した。

「あったりまえー!キャハハハハハハ!」

 コリンも同じだろう。ミラダから『自信』をもらったのだ。

「うう……わかったわよぅ……」

 ヴァイクたちの熱意に圧され、ミラダはうなだれると、

「君たち……ホントに諦め悪いよねぇ……」

 そう言って、少しだけ嬉しそうに笑った。

 こうして、限界まで出力を高め、ピーキーに設定された『魔奏楽器』を使い、『Black Chaos』を語る上では外せない、代表曲が生まれたのだった。

「す、凄い曲だ。……これなら勝てるぞ、やったなヴァイク!」

 最高の一曲が生まれた直後、まだドラムの余韻が残っているのに、ラッゼルは珍しく興奮した面持ちで立ち上がり、拳を高く突き上げる。

「次こそアイツらの泣き顔見れんじゃん!?キャハハハ!」

 コリンはギターを今にも放り投げそうなほど、高く掲げた。

「……疲れたよぉ……。軍人しゃべりの会議よりかはマシだけどさぁ…………」

 ミラダはベースを床に立てて、へたり込む。

 ヴァイクは、叫んだ。心の底から湧き上がる『自信』を感じながら。

「フハハハハッッ、オレを誰だと思っている!?」

※   ※   ※

 気づくと自信ってのはなくなっちまう。だけど、この世で『オレ』を最高まで高められるのは、『オレ』しかいないんだぜ? 

 まぁそりゃあ、限界ってのはあって、どうにもダウナーになる時もあるけどよ、自分を信じてくれるやつが一人でもいるなら、そいつがたとえ青白い顔の情けねぇやつでも、力をもらえるんだ。

※   ※   ※

「オレ様の声にひれ伏せ。聴従しろ。待ってろよ『Die Gesetzwelt』!!!」

――果ての果て、音圧の向こう側、魔力界へと連れ去ってやる。

「Vooooooooooooooooooooi!!!!!」

カズシ編・第一章

日常編

ルーニ編

Die Gesetzwelt編

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