2017年11月11日(土)
【おすすめDLゲーム】『VA-11 Hall-A』の個性豊かな客たちに感じる“人間味”。プレイ後の余韻が心地よいADV
ダウンロード用ゲームから佳作・良作を紹介する“おすすめDLゲーム”連載。今回は、PS Vita版の発売に合わせてパッケージ化を果たした注目作『VA-11 Hall-A(ヴァルハラ)』のレビューをお届けします。
『VA-11 Hall-A』は、207X年の未来都市グリッチシティを舞台に、場末のバーで働くバーテンダー“ジル”と客の人間模様を描いたPS Vita/PC用アドベンチャーゲームです。PS Vita版が11月16日に発売されることに合わせて、Steamでの日本語アップデートも行われます。
▲彼女が主人公のジルです。こう見えて27歳。 |
プレイヤーはジルとして、バーを訪れた客にカクテルを出し、世間話から深刻な身の上話までさまざまな話に耳を傾けストーリーを進めます。客たちは性格にクセがありながらも人間味があり、その感情のリアリティこそが、本作の大きな魅力でしょう。
ちなみに、ゲーム開発は日本のポップカルチャーを愛するというベネズエラのSukeban Gamesが行っています。後述しますが、その愛がゲームにちりばめられているのもポイントです。
▲ゲームを始めると、このような画面が表示されます。小さな気遣いがうれしい。 |
会話主体のゲームなのでシナリオに深く触れるわけにはいきませんが、極力ネタバレを避けつつ、ここからは本作のおもしろさを紹介していこうと思います。
目で見る以上に強く感じる世界観
本作でまず惹かれるのは世界観で、ストーリーが基本的にバーの中で進行するにも関わらず、ゲーム全体に退廃的なサイバーパンクの雰囲気が漂います。
巨大企業に牛耳られて腐敗が蔓延し、人とロボットが共存する奇妙な社会構造。
バーを訪れる客たちの愚痴を聞いたり、仕事の話を聞いたり。彼らが何を考えて“暮らして”いるのかを知ることで、ビジュアルで見せられる以上に、街の歪みが生々しく浮かび上がってきます。
▲ビジュアルで街を見られるのは、基本的にオープニングの数カットですが、テキストの力で世界観を強く感じます。 |
世界観はタイトルにもよく表れていて、“VA-11 HALL-A”とはジルが働く店の名前なのですが、これは本来、認定番号VA-11ホールAという記号的・機能的な意味に過ぎません。
そこに人間が“ヴァルハラ”という呼び名を付け意味が生まれる行為こそ、皮肉が効いていて、退廃的な世界観とそこに救いを求める人間の性をよく表していると思います。ゲームを始めると、この店の説明を読むだけで、グッと世界観に引き込まれます。
▲ヴァルハラの店長は、元プロレスラーの女性・ディナ。レスラー時代の異名は“赤い彗星”だったらしい(笑)。 |
登場人物の“人間味”に惹かれるストーリー
本作は、バーテンダーと客という特殊な状況で人間関係を描いているだけに、ゲームシステムやシナリオの展開にも、その特徴がよく現れていると思います。
会話で進行するアドベンチャーゲームでありながら、選択肢はなく、提供するカクテルが客の気分に適うかによって、会話の展開やエンディングに影響する。このシステムはユニークで、カクテルを出すことにおもしろさを感じます。
▲カクテルはレシピを見ながら作ることができ、時間制限もないので、何を出すかに集中できます。 |
また、バーを訪れる客の顔ぶれが多彩で、それぞれに個性的……を超えて変人ぞろい(褒め言葉)なのも、ゲームとして楽しいところです。
▲荒んだ客、マジメな客、ジルとなじみの人物など、さまざまな客がいます。しかし、誰もがひとクセある……! |
ジルは仕事にマジメで理想主義者なので、マイペースな客たちに翻弄されたり、対照的であったりする会話は、読んでいて共感を覚えつつもニヤリとできます。
それに変人ぞろいな客たちの話も、ただアクが強くてキャラとしておもしろいだけではありません。彼・彼女らが時折さらけ出す本音、言葉の端々に含む鋭さには、どこか現実と通じるものがあり、そこが絶妙に人間臭さを生み出しています。
▲ジルと深くかかわらない客ですら、セリフにある種の真実を突いた言葉があり、人間味を感じさせてくれます。 |
登場人物に人間臭さを感じる点は、世界観の果たしてる役割も大きいでしょう。グリッチシティの歪みに満ちた社会は現実に対する皮肉を想起させ、それが言葉のエッジを磨き、セリフがより深く心に刺さってくるように思えます。
もちろん、何を思うかは受け止める側次第のところもあります。ただ個人的には、現実や未来に対する風刺を含むことは、サイバーパンクの魅力の1つだと感じるので、その意味では、本作はとてもいい味を出していると思います。
▲サイバーパンクの世界に付きものと言える社会の腐敗、歪み。セリフの奥にある意味を考えさせられることも。 |
一方で、Sukeban Gamesのオタク文化に対する愛やネタが、ゲームの随所にちりばめられているのも本作の魅力です。セリフの裏に感じる人間臭さ、言い換えればリアリティに対して、パロディネタのフィクションを強調した笑いが、いい具合にストーリーの緩急を作っていると思います。
▲ストレートなネタもあれば、パロディやオマージュもあり、多彩なオタクネタが頬を緩ませてくれます。 |
登場人物たちの人間臭さに引き込まれ、オタクネタでほっとする笑い。この絶妙な塩梅で描かれる物語こそが、ヴァルハラが提供する最高のカクテルではないでしょうか。
……という書き方は狙いすぎだとしても、登場人物たちのやり取りが何かしら心に残るストーリーなのは確かです。
登場人物が心に残る余韻の心地よいゲーム
世界観とストーリーにばかり触れましたが、仕事を開始する時にジュークボックスで流す曲(BGM)を選択できるのも、バーテンダーらしさを演出するシステムでいいと感じました。曲の数も多いので、きっとお気に入りが見つかると思います。
▲公式サイトで触れられていますが、何気に『シルバー事件』の曲も収録されています。 |
それと個人的には、7、8年前に新宿のゴールデン街へ少し通っていた時期があって、プレイしている内に、当時のことを思い出すゲームでもありました。
某漫画の元ネタを主張する自称格闘家のおっさんとか、メイドバーに通うゲイバーの店員とか……。バーって、ほんとおもしろい出会いがあって、人生の悲喜こもごもを感じる場所なんですよねぇ。
▲人は酒を飲むとシモの話に走りやすいもの。本作でも普通に会話の流れで出てきます。 |
ちなみに12月3日までは、『VA-11 Hall-A』のコラボバーが東京・秋葉原で展開されています。Rabbit Lovers Cafe、Bar Sekirei、秋葉原アニソン DJ BAR ある けみすとの3店で、ゲーム内に登場する“シュガーラッシュ”というカクテルを飲めるので、ゲームをプレイしてバーへ出かけたくなったら、そちらへ足を運ぶのもおすすめです。
と、ゲームから少し話がそれましたが、個人的にバー体験を思い出して重ねるくらい、『VA-11 Hall-A』は“バーらしさ”に没入できる部分があると思います。もちろん、シナリオ的にはそれだけじゃないゲームになっているので、ぜひエンディングまでプレイしてほしいタイトルです。
もしかすると万人受けする題材、内容ではないかもしれませんが、お酒や人生にほろ苦い経験のある人は、本作をプレイすると共感できる部分も多いはず。きっと、誰かのセリフや行いが心に残るような、プレイ後の余韻が心地よいゲームに感じられると思いますよ。
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データ
- ▼『VA-11 Hall-A(ヴァルハラ)』パッケージ版
- ■メーカー:PLAYISM
- ■対応機種:PS Vita
- ■ジャンル:アドベンチャー
- ■発売日:2017年11月16日
- ■希望小売価格:3,240円(税込)
- ※開発:Sukeban Games
- ▼『VA-11 Hall-A(ヴァルハラ)』ダウンロード版
- ■メーカー:PLAYISM
- ■対応機種:PS Vita
- ■ジャンル:アドベンチャー
- ■配信日:2017年11月16日
- ■価格:2,000円(税込)
- ※開発:Sukeban Games
- ▼『VA-11 Hall-A(ヴァルハラ)』日本語版
- ■メーカー:PLAYISM
- ■対応機種:PC
- ■ジャンル:アドベンチャー
- ■配信日:2017年11月16日
- ■価格:1,500円(税込)
- ※開発:Sukeban Games