2017年11月19日(日)
【電撃PS】『V!勇者のくせになまいきだR』企画時の裏話。山本正美氏コラム全文掲載
電撃PSで連載している山本正美氏のコラム『ナナメ上の雲』。ゲームプロデューサーならではの視点で綴られる日常を毎号掲載しています。
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この記事では、電撃PS Vol.648(2017年10月12日発売号)のコラムを全文掲載!
第117回:V!勇者のくせになまいきだR
さて皆さん!! あさって10月14日、遂に『V!勇者のくせになまいきだR』が発売となります!!(編集部注:本コラムは10月12日発売号掲載のものです)
いやー、短いような長いような……実際短い制作期間ではありましたが、色んな方々のご協力のおかげで、ようやくここまでたどり着くことができました。
実は僕、ここ5年間は外部制作部門の部長という立場だったので、その間、『ソウル・サクリファイス』や『フリーダムウォーズ』、『俺の屍を越えてゆけ2』や『Bloodborne』など、部門長としてそれらのタイトル制作に関わりはしていたものの、自分が直接“プロデューサー”として現場を張ることはありませんでした。
しかし今回、『勇なま』をVRで復活させるにあたって、すみませんが現場復帰させてください、と上司のアラン・ベッカーにお願いし、久々にダイレクトな制作業務に関わることができました。なので感慨もひとしおなのです。
そもそもこの『Vなま』のスタートは立ち上がりの経緯も面白くてですね。数年前のある日、皆さんご存知吉田プレジデントと会食に行くタクシー車中でのこと。吉田さんがこう仰るわけです。
「日本でウケそうなPS VR用のいい企画ない?」、と。
わかりました、現場のプロデューサーと検討してみます、とお返事をした、その会食の次の日……。たまたま(株)アクワイアさんにまったくの別件で打ち合わせに行ったのですが、いつもの会議室に、どうも見慣れない機材が置いてありました。Oculus Riftでした。
不思議に思っていたら、その打ち合わせには出席する予定じゃなかった『Vなま』ディレクターの大橋君が会議室に入ってきて、「山本さん、本題に入る前に、ちょっと遊んでもらいたいデモがあるんです」と言いながら、Oculusを起動し始めたのです。
あ、こいつ俺をハメようとしているな、とは思ったのですが、面白そうなので乗ってみることにしました。
Oculus Riftを装着すると、目の前に現れたのは、こじんまりとした部屋。そこにはテーブルがひとつあり、そのテーブルの上に、どこかで見たようなRPGっぽいフィールドが広がっていました。
緑の大地をベースに、左手前に塔、中央付近に町、右奥に城があります。城からは小さな勇者が出てきて、塔に向かって歩いてくる。テーブルの左側にはサイドテーブルがあり、そこには3体のモンスターが鎮座していて、コントローラでそのモンスターをつかみ緑の大地に配置します。
モンスターは勇者を倒し、城に向かって攻めていきます。そして、最終的に城を陥落させると花火が打ち上がる。それだけのデモでした。
それだけのデモだったのですが、「なんだこれ、すげえ面白いじゃん!!」僕は、HMDを装着したまま叫んでいました。
デモで使われているグラフィックアセットはすべてアリもので構成されていて、見た目に『勇なま』らしいポイントなどありませんでした。部屋の中に魔王もいません。それでも、「これはVRで遊ぶ『勇なま』だ!」と確信できたのです。
前日に、吉田さんから「PS VRのいい企画ない?」と言われたことが、まるで奇跡のように思えました。あるじゃん、ここに!僕はすぐ、アランさんと吉田さんの予定を押さえ、大橋君にPCを持ち込んでもらってプレゼンテーションをしました。そうして無事企画スタート。長くも短い戦いが始まったのでした。
僕が『Vなま』を作るにあたり、久々のプロデュースワークとして気を付けたのは大きく2点。まず、VRタイトル制作は僕も初めてだったので、参考としていろんなVRゲームを遊んだのですが、そのどれもこれもが、「体験」としてのパワーがめちゃめちゃ凄く、人に薦めたい力に溢れていました。
しかし一方で、「自分で繰り返し遊ぶ」という、ゲームそのものの面白さを併せ持ったコンテンツがあまりない気がしました。『Vなま』はまず第一に、これまでのシリーズがそうであったように、しっかりと「“ルール”が面白いゲーム」にしよう、そう思いました。
2点目は、「キャラクターの存在感を見誤らない」ようにしよう、ということでした。VRゲームについて語るとき、しばしば“クロスモーダル現象”ということが言われます。端的には、視界をすべて覆われることで脳が騙される現象のことで、キャラクターでいえば、そばにきたときに息を感じた「気」になる、といったものです。
それは、VRコンテンツがもっとも注力すべきポイントではありますが、開発中盤、魔王とムスメが画面に表示され始めたときこう思ったのです。「あ、彼らはあくまで“ゲーム”のキャラクターでなくてはいけないんだ」、と。
VRが達成する実在感を極めようとすることで、表出してしまう違和感。同じセリフを複数回しゃべったり、特定のモーションで動くキャラクター制御など、ゲームであることで生まれる数々の制約。その制約が生んでしまう違和感は、VRと相性が悪い。ならばその違和感ごと、「そういうものだ」と思ってもらえる立ち位置にすべきだ。そう思ったのです。
『勇なま』は、あらゆるエンタメをメタ化することで『勇なま』足り得ます。僕らなりのチャレンジを、ぜひ「体験」してもらえると嬉しいです。
ソニー・インタラクティブエンタテインメント JAPANスタジオ
エグゼクティブプロデューサー
山本正美 |
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ソニー・インタラクティブエンタテインメント JAPANスタジオ 部長兼シニア・プロデューサー。PS CAMP!で『勇なま。』『TOKYO JUNGLE』、外部制作部長として『ソウル・サクリファイス』『Bloodborne』などを手掛ける。現在、『V!勇者のくせになまいきだR』を絶賛制作中。公式生放送『Jスタとあそぼう!』にも出演中。
Twitterアカウント:山本正美(@camp_masami)
山本氏のコラムが読める電撃PlayStationは、毎月第2・第4木曜日に発売です。Kindleをはじめとする電子書籍ストアでも配信中ですので、興味を持った方はぜひお試しください!
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