2017年12月19日(火)
2017年の9月23日(土)~24日(日)の2日間、東京国際フォーラム ホールAを借り切って行われた、『ファイナルファンタジーXIV』の単独オーケストラコンサート“交響組曲エオルゼア”。これまで『FFXIV』の冒険を彩ってきた映像と、東京フィルハーモニー交響楽団による演奏の相乗効果で多くの光の戦士が涙したあのコンサートの感動が、この冬、Blu-rayでよみがえる――。
今回は、12月20日の発売を目前に控えたタイミングで、おなじみ『FFXIV』サウンドディレクターの祖堅正慶氏にインタビューを実施。“Eorzean Symphony: FINAL FANTASY XIV Orchestral Album”の魅力や制作秘話はもちろん、オーケストラコンサートについてのお話など多くのエピソードをうかがってきました。
――明日(12月20日)発売となる"Blu-ray『Eorzean Symphony: FINAL FANTASY XIV Orchestral Album』"ですが、聞くところによると当初の予定よりもかなりボリュームが増えたそうですね。
祖堅正慶氏(以下、敬称略):もともと『ファイナルファンタジーXIV(以下FFXIV)』のアレンジアルバムの展開の1つをオーケストラで出す企画がありました。あくまでアレンジアルバムなので、収録する内容としては新規収録したものをメインに、オマケとして“FINAL FANTASY XIV ORCHESTRA CONCERT 2017 -交響組曲エオルゼア-”の一部楽曲を入れる程度に考えていたんですよ。“交響組曲エオルゼア”をエクストラにしようとしていたのには理由がありまして、新規収録した楽曲については、東京オペラシティという“コンサートホール”で収録しているんです。音の印象で言うならば、東京国際フォーラムで収録したコンサートの音と大きな違いはないんですよ。
ですが、“交響組曲エオルゼア”は僕たちの予想よりも、素晴らしいコンサートになりました。会場を訪れてくれた方たちの熱量がすごかったこともあり、それに演奏者たちが鼓舞される形で普通のオーケストラコンサートにはない“何か”が生まれていたと感じました。僕自身、さまざまなオーケストラコンサートに何百回と足を運んでいますが、こんなコンサートは生まれて初めてでした。そしてコンサートが終わると、見終えた人たちから“アルバムにはコンサートの模様、全部入るんですよね?”という声がものすごく上がったんです。
その数週間後に本DISCのマスタリング作業があり、そのときにマスタリングチームと話し合いの場を設けたんです。そこで、僕から「企画をちゃぶ台返しさせてくれないか」と相談しました。「会場を訪れてくれた光の戦士たちが求めているものと、我々が作ろうとしているものが違っているかもしれない。なので、今回は当初予定していた10曲も入れるけれども、エクストラとして入れる予定だったものも、本編と同等の扱いとして入れよう」と。まぁ、みんな絶句してましたね……(笑)。そこからは戦いの日々で、すごく大変な作業でしたが、最終的に当初の予定の3倍くらいのボリュームになりました(苦笑)。
ビジネス的に見るならば、当初予定していた10曲と“交響組曲エオルゼア”の楽曲はもちろん別のアルバムで出したほうがいいんです。でも、お客様が求めているものはそれじゃないということがわかってしまったので、いろいろなところに頭下げて一緒にしました。なので、「僕がプレイヤーだったらうれしいな」という内容になっています。しかも、値段は据え置き……たくさん売れるとうれしいですね(笑)。
――たしかに、オーケストラを全編収録というのは豪華ですね。
祖堅:Blu-rayの映像を見ると、最初の10曲は収録バージョンということでゲーム内映像を全面に押し出したシーンがいくつも挿入されています。もちろん、間違えたところがあれば収録し直しもしていますし、画を音に合わせる形で流しているのでプロモーション映像のようになっています。逆にコンサートパートの映像については、ゲーム内映像が全面に出ることはなくコンサートの模様だけをじっくり見れるようになっているので、その部分で違いがあります。
――話を聞く限り、相当大変な作業だったのでは……?
祖堅:ヤバかったですね! あっはっは(笑)。コンサート映像の編集も苦労しました。定点カメラが15機くらいあり、それを1つ1つチェックしつつ「譜面を見ながら、チューバが鳴っているからチューバの人に画面をフォーカスしよう」というような作業をしていました。
――ちなみに、もともとメインとなる予定だった部分は、公演終了後に収録したのでしょうか?
祖堅:じつは、コンサート公演の3カ月前に、メインとなる予定だった10曲ぶんの収録は終えていました。コンサートに向けて「『FFXIV』の曲はこういうものである」ということを、公演よりも前から演奏者のみなさんに把握してもらいたかったからです。みなさんの身体に『FFXIV』の音楽を染み込ませる意味合いもあって、3カ月前に収録した形になります。
――奏者の方々の反応はいかがでしたか?
祖堅:とくに、コーラス隊の方々には影響が大きかったようですね。というのも、オーケストラコンサートでこれだけ大人数のコーラスを入れることは、かなり特殊なことなんです。コーラス隊の方のお話しだと、通常のオーケストラは「ア~、ハ~」といった隙間を埋めるような手法が多いらしいんです。それと較べて『FFXIV』は、コーラスが前面に出てくる楽曲が多いんですよ。しかもその中でソロパートがあったり。コーラスのなかでソロを立たせることはかなりめずらしいので、先に歌っておかないとわからないという部分は、けっこう大きかったと思います。
あとは、通しで映像を見ていただければわかると思いますが、曲ごと、フレーズごとに“どの楽器をフィーチャーさせるのか”というテーマが決まっているんです。例えばグリダニアの“静穏の森”という曲ではクラリネット、“忘却の彼方 ~蛮神シヴァ討滅戦~”では弦楽四重奏の4人などですね。それを理解していただくためにも、先取りの収録は必要だったかなと思います。
――ちなみに、オーケストラコンサートの公演をされるときは、事前の練習はみっちり行うのでしょうか?
祖堅:演奏してくれる方々はプロなので、全員で集まって「せーの」で練習するのは、前日の1回だけです。今回はクオリティを高めたかったので、指揮者の栗田(博文)さんとは春先から綿密に打ち合わせを重ねて、「僕たちが表現したいオーケストラコンサートというのは、こういうものです」という趣旨をお伝えした感じですね。その過程で感じたのが、オーケストラ演奏で生活しているプロの方々が求めているオーケストラ像と、僕らみたいなゲームユーザーが求めているオーケストラ像は、けっこう乖離しているということでした。
これは想像ですけど、単に譜面をお渡ししてオーケストラコンサートをやってもらうだけならば、繊細さを追求するコンサートになっていたかもしれません。でも僕はそこではなくて、“これだけの人数が息を合わせる迫力を1番大事にしたい”ということを、何度も念押しさせていただきました。それでも、そこを共通認識として持っていただくのは、けっこう時間がかかりました。
――『FFXIV』としての熱量を伝えたい! ということですね。
祖堅:そのとおりです。もちろん、繊細さも大事ですけど、今回に限っては人数で押し出す音の圧というのを大事にしたかったんです。日頃からオーケストラに触れている人たちがメインの客層ならば、繊細さに耳を傾けることもできるかもしれません。ですが、それは“ゲームを楽しむ”というポイントとは離れていています。みなさんがゲームを遊んだときに体験した印象を、音でより大きく表現することが僕のやりたかったことでした。
――たしかに、オーケストラを聴いていてゲームでの感動を増幅させられた感じがしました。
祖堅:ゲームって、いろいろな想いを馳せながら遊びますよね。だから栗田さんには、来場者のみなさんの喜怒哀楽という感情を最大限動かすことができる演奏にしてほしい、とお願いさせていただきました。
――喜怒哀楽を刺激するという部分は、全体の編曲などにも生かした感じですか?
祖堅:そうですね、そこは意識して編曲を行っています。ゲームはループする曲が多いのですが、今回オーケストラアレンジをするにあたっては、各楽曲を2ループ分の長さで用意しました。というのも、まず1ループ目はゲームで鳴っている音を再現するようなアレンジをして、2ループ目は「オーケストラだとこんなアレンジができる」というのを表現した形です。これには理由がありまして、オーケストラコンサートでは「さぁ次の曲はコレです」というアナウンスがないですよね。一応ゲーム内の映像が流れているとはいえ、原曲とかけ離れたアレンジがいきなり流れると、何の曲なのかわからなくなってしまう方もいるかなと。サウンドってゲーム体験に深く紐付いているはずなので、「あ、あそこの曲だ!」とわかったうえで聴いてほしかったんです。なので、1ループ目はゲームで聴こえる音をなるべく再現するよう、意識して編曲しました。
――たしかに2ループあれば、曲の聴き比べができていいですね。
祖堅:そこで、先程の話にあった喜怒哀楽を表現した……つもりです(笑)。全体を通して見ると、1ループ目にワーッと盛り上がって、2ループ目に少し落として、最後のクライマックスでまた盛り上げる……というパターンが多いかな?
――ちなみに、2ループ目のオーケストラならではの音作りを意識したとのことですが、曲ごとに強調する楽器を変えるなどでしょうか?
祖堅:例えば“試練を超える力”という“大迷宮バハムート:邂逅編”でよく流れていた曲では、バイオリンにフィーチャーしました。バハムートにもいろいろ悲しい過去があるじゃないですか。それを表現するために、1ループ目の盛り上がりを2ループ目に入った途端ピタッと勢いを止めて、ソロのバイオリンが物悲しさを感じるメロディを奏でる形にしています。
――そこまで考えてコンサート用に編曲し直されているんですね。
祖堅:そうですね、コンサートの譜面は完全にオリジナルです。そもそも僕が作曲するときはゲームに合わせる事しか考えてないので、コンサートではそのままじゃ演奏できない譜面も多いんですよ(笑)。その楽器が出せない音域の音を使っている場合もありますし。なので、演奏できるように音を間引いたり、別の楽器に転換したりしています。そんなに違和感がないようにはしたつもりですが、意外と難しかったですね。
――アレンジといえば“メビウス ~機工城アレキサンダー:天動編~”の時間停止ギミックは楽しませていただきました。この演奏中に停止するアイデアは、祖堅さんの発案ですか?
祖堅:オーケストラが止まる部分までは吉田(吉田直樹氏。プロデューサー兼ディレクター)の発案で、そのときは“THE PRIMALS”(祖堅氏が率いる公式アレンジバンド)の公演のように“ピッピッピッポーン”という音を入れようという話でした。ただ、個人的には「単純に動きを止めてもおもしろくないな」と思ってしまって(笑)。せっかく『FFXIV』のユーザーが集まっているのだから、なにかエンターテイメント性が高いことをやりたいなと考えました。なので、最初は時間停止中に、僕らと植松(植松伸夫氏。ファイナルファンタジー音楽の生みの親)さんがステージの上手から下手に歩くという演出を提案しました。そうしたら吉田が「その間、僕は何するの?」と聞いてきたので、「太鼓をたたけばいいじゃないですか」と。すごく躊躇していましたが、なんとか説き伏せました(笑)。
ただ、実際のステージを考慮して考えると、意外と動けるスペースがなかったんです。その後国際フォーラムの会場に行ってみたら、意外と中央通路が広いことに気づきまして。そこで急きょ客席の間を行進することになりました。ただ、中央行進が決まるとまた吉田が抵抗して、開催するギリギリまでゴネていましたね。無視しましたけど!(笑) 楽器についても「大太鼓なんて、どうやって運ぶんだよ!」って愚痴っていましたから。そのときはスルーして、前日リハーサルのときに「ちんどん屋さんの太鼓」を吉田に初めて見せたんです。そうしたら、彼が練習をしたがりだしまして。正直、気持ちはわかるのですが、僕はその練習よりももっと大事な練習があったので、全力で断りましたけどね(笑)。結局、当日の公演直前に初めて太鼓の練習ができたのですが、「できねえ!」という言葉に「キメるしかないね!」と返しました。今だから言いますけど、僕としてはあまり上手になってほしくなかったんです。ちょっと失敗するぐらいがいいなって思っていました(笑)。
――植松さんは行進についてはどんな反応をされていましたか?
祖堅:植松さんには、事前に「なにかやってもらいます」とは伝えてあったんです。前日「トライアングルをたたいてください」とお願いをしたら、笑顔で快く引き受けてくださいました。
――アレンジの10曲とオーケストラで演奏した18曲は、同時に選曲を行ったのですか?
祖堅:まず先にオーケストラの18曲を決めて、そこからアレンジ用の10曲を選んだ形です。
――そうとう悩まれたのでは?
祖堅:す~~ごく悩みましたね。だって、400曲の中から18曲ですよ!?
――たしかに(笑)。さらに、そこから10曲厳選ですものね。
祖堅:そうですね。まずは、オーケストラで演奏してもらいたい曲を何も考えずに18曲決めました。ただ、オーケストラにアレンジする際に問題が出てくる曲もあったので、それはあとから入れ替えるなどしました。
――曲のセレクトの基準などあれば教えてください。
祖堅:やはりプレイヤーの記憶に刻まれている曲というのが基本ですが、正直理由はいろいろです(笑)。あとは、開発の主要メンバーが集って曲を選んでいたのですが、主に僕と吉田で意見のぶつかり合いになりましたね。
――単純にCDで聴くのとは違って、曲単体のよさをだけの選曲ではなく、オーケストラ全体のバランス感覚を重視した選曲だったということでしょうか?
祖堅:全体の流れはすごく意識しました。要はラストに向かってどうクライマックス感を出すかとか、どこで一回静かにするかとかは、すごく綿密に話し合って決めました。曲が決まるまでどれくらいかかったかな……。最終決定までは3カ月ぐらいかかったと思います。すったもんだ、でしたね!
――「入れ替えた曲もある」とのことですが、もともとの案ではどういった曲が選ばれていたのでしょうか?
祖堅:ダンジョンでは“シリウス大灯台”の曲が候補にありましたね。あとは、いくつかの蛮神の曲でしょうか。“タイタン討滅戦”の曲を使うという案はもちろんありましたが、それも含めて「オーケストラで演奏しても微妙かな?」という曲ははずしました。
――たしかに“タイタン討滅戦”の曲は“THE PRIMALS”が演奏するハジけた印象が強いですね。
祖堅:演奏できないことはないんでしょうけど、やるにしてもかなりアレンジしないと成り立たないと思うので。やはり、大規模なアレンジをよしとするか悪しとするかはかなりモメました。1回目だし、まずはゲームに忠実にやろうという意識が強く、もともとオーケストラ調で書かれた曲が多めです。
――蛮神の曲といえば“忘却の彼方 ~蛮神シヴァ討滅戦~”の弦楽四重奏には、鳥肌が立ちました。
祖堅:あれは狙いました(笑)。映像が必須のコンサートなので、そこと紐付けられているのも大きかったと思います。その弦楽四重奏のところの映像も、かなり意識して作ってもらいました。
――そこは、あえてバイオリンだけにすることで、物悲しさが強調されるための四重奏だったのでしょうか?
祖堅:そうですね。もともとの発想は、北海道にあるHMV札幌ステラプレイス店で2016年3月に行われたミニライブでヒントを得た感じです。そこで、“Oblivion 忘却の彼方~蛮神シヴァ討滅戦~”をピアノで弾いてみたら、意外とうまくハマっちゃいまして。その後の“THE PRIMALS”のアルバムにもバラードバージョンを入れてみたのですが、こちらもかなりの好評をいただきまして。それらを受けて、オーケストラでも「この流れがいいな」と思って弦楽四重奏にした感じですね。イゼルの物語は悲しいものなので、そうすると美しくも悲壮感漂う四重奏がベストかなと。
――これまで、多くの『FFXIV』の曲をアレンジした経験があったからこそ、オーケストラで選択肢が広がった感じですね。
祖堅:そうですね。それこそ、HMV札幌ステラプレイス店でのミニライブがなければ、そんなアイデアも思いつかなかったと思います。
――“絢爛と破砕 ~クリスタルタワー:シルクスの塔”は、植松さんご自身もコンサートで演奏したことがないというお話で、そこはちょっと意外でした。
祖堅:意外ですよね。じつは、曲目を決めるときに、過去の『FF』曲のアレンジは1~2つ入れたいという話をしていました。そのなかで選ばれたのがクリスタルタワーで、クリスタルタワーといえばシルクスの塔かなと。“悠久の風”と悩みましたが、1ループが短くて断念しました。ちなみに、収録されているゲーム映像は、高井(浩氏)と前廣(和豊氏)が頑張って撮ってきてくれたんです。ちゃんと、そのコンテンツのレベル帯に合った装備をしているんですよ(笑)。気づかないところでがんばっていますよね。
――コンサート用に撮ってきたんですか?
祖堅:そうです。このコンサートのためだけの映像です。ちなみに、映像では演奏風景とゲーム画面が切り替わって展開していますが、じつはゲーム画面は曲全体を通して作られているんですよ。
――ピアニストとしてコンサートに参加されていたkeikoさん(大嵜慶子氏)は、東京フィルハーモニー交響楽団の方ではないですよね?
祖堅:完全にゲストで参加いただいた感じです。keikoさんは、『FFXIV』の楽曲との親和性が高いですし、過去に演目内の数曲はピアノソロで演奏してもらっているので、話が早いというのもあります(笑)。わりとピアノが大事な曲が多かったこともあって、お声がけしたところ快く引き受けてくださいました。しかし、Keikoさんはスゴイですね。じつはピアノソロとオーケストラでのピアノは、必要となるスキルが完全に違うんですよ。グラフィックの仕事で例えるならば、画を描く人とモーションを作る人くらい、同じ畑でも仕事内容がまったく違うんです。でも、とくにお伝えしなくても普通にこなしていました。超人ですね、あの人は。
――たしかにソロで聴かせる場合はずっと主役ですが、オーケストラは多くの楽器のなかでの1パートですから、まったく立ち位置も異なりますね。
祖堅:そうなんですよ。ソロは自分のペースで弾けますけど、オーケストラの場合は指揮者に合わせなければならないですし。それを知りつつもけっこう無茶ぶりをしてしまったんですが、終わったあとには「楽しかったです~」って言ってくださいました。ぜひ今後のファンフェスでも、またkeikoさんにお願いしたいです。
――ちなみに余談ですが、ご出演された方のなかに光の戦士はいらっしゃいましたか?
祖堅:じつは2人ほどいらしたんですよ。両方コントラバスの方なのですが、映像をよく見るとコントラバスの譜面台にモーグリがぶら下がっているのが見えると思います。その方が光の戦士ガチ勢の方ですね。
――ガチ勢なんですね(笑)。
祖堅:コンサート3カ月前の収録ときから参加してくださっているメンバーの方です。東京オペラシティでの休憩時間に、「祖堅さんですか?」と話しかけられまして。「この話しかけ方は……光の戦士だな!」と(笑)。そのときに「ご自身がクリアしてきたコンテンツの曲を、ご自身が演奏するのはどういう気持ちですか?」と聴いてみたら、「自分の音に集中しなくちゃいけないのに、いろんな想いがよみがえってきちゃって、集中できなくてヤバイ」とおっしゃってました。
――ギミックの記憶とかよみがえっちゃいますよね(笑)。
祖堅:あと、今回のコンサートが素晴らしかったということもあって、これを機に楽団メンバーの何人かが『FFXIV』を始められたそうですよ。
――やはり、吟遊詩人の“楽器演奏”を遊んでたりするんでしょうか(笑)。
祖堅:やってくださっているんじゃないですか? ただ“楽器演奏”はちょっとレイテンシー(発音の遅延)があるのが気になっています。なので、ちょっと改造中です。
――レイテンシー対策ですか?
祖堅:レイテンシーに限定したわけではなく、そもそも“楽器演奏”がしやすくなる調整をしています。グループポーズと同じで、パッチごとによくなっていくと思ってください。
――グループポーズもそうですが、演奏機能のこだわりはもはやMMORPGの仕様とは思えないですよね(笑)。うまい方などは、現時点でもすごく使いこなしてましたね。
祖堅:じつは実装された翌日くらいに、グリダニアの野外音楽堂でフレンドと僕が練習をしていたんです。そうしたら、若葉マークの方が歩いてきて、しばらく僕の演奏を聴いてくれたんですよ。こちらも「よし!」と思ってがんばって演奏したら、拍手をいただきまして(笑)。舞台より緊張しましたけど、うれしかったですね。吟遊詩人のプレイを若葉マークの人に見せるわけですから、下手なことできないですし。
――今回、オーケストラだからこそできたという部分があれば教えてください。
祖堅:会場に来てくださった方ならわかってもらえると思いますが、人数が織りなす迫力と今ここで音や画を会場の多くのプレイヤー達と共有しているという一体感でしょうか。例えば、弦楽四重奏でイゼルの物語に触れて、たくさんの方が涙を流していました。普段でしたら家のモニターの前で泣いているだけなのが、会場に来たことで同じ空間で同じ気持ちを周りのみんなとも共感できている。そんなコンサートというのは、なかなかないと思います。今回開催してみて、そこはとても素晴らしいことだと感じましたね。僕は日頃から“ゲームに合うサウンドを構築すること”を意識しつつ作っているので、コンサートを経て「それをちゃんと届けられていたかな」と感じています。そこはうれしかったですね。
――ゲームの体験があったからこそ感動できたし、オーケストラのクオリティがあったからこそ、ちゃんと想起できたのかなと思います。
祖堅:いろいろな要素があるとは思いますが、このタイミングで、この会場で、この布陣で、熱量のあるお客様が来てくれたからこそ、こういう奇跡が起きたという感じですよね。オーケストラで印象的だったのが、演奏終了後、舞台袖で演奏者の方々にご挨拶をしていったとき、次があるかどうかもわからない状態なのに「次があったら、ぜひまた呼んでください!」と言ってくださる方がたくさんいらっしゃったことです。普通のコンサートの演奏者さんは「おつかれさまでした」と、挨拶をしたら会釈して帰る方が多いんですよ。彼らにとってコンサートなんて毎日のようにやっているものなので、それが普通の世界なんです。そういう世界なのに、「またぜひ!」と言ってくださる方たちばかりだったのは、なにか感じるところがあったのかもしれないですね。
じつは、その何人かの方に「コンサートはどうでした?」って聞いてみたんですよ。「プロとして演奏したオーケストラのなかで、こんなに感動したコンサートは初めてだ」と言ってくださる方もいました。さきほども話しましたが、コンサートに来てくださった人たちの熱量を演奏者のみなさんが感じ取って、それを音にしてお客さんに返し、さらに感動したお客さんがまた返して……というのが繰り返されて、そしてラストを迎えたんですね。「こんなに音に耳を傾けてくれて、最後には総立ちで拍手をもらって、いつまでも拍手が鳴り止まなかった」ことに、とても感動したそうです。
――最後の1人が袖に入るまで、拍手が続いていました。
祖堅:割れんばかりの拍手でしたよね。僕も袖で見ていてゾワゾワしましたし、本当に特別な空間だったと思います。やれるかわかりませんが、もし次回があるならもっとスゴイものにしたいですね!
――「あるなら」ではなく、ぜひやってください! 本当に素晴らしかったので、これは『紅蓮編』を聴かないと収まりませんよ。“神龍討滅戦”のBGMはとくに聴きたいですね。
祖堅:開発スタッフからも「あれの譜面はないんですか?」と言われるんですよ。もちろんありはしますが、大改造しないとダメですけどね(笑)。
――次回という意味では、おそらく海外の方からも公演を望む声が届いているかと思いますが……?
祖堅:めちゃくちゃありますね。「ウチのシティには、なんでこないの!?」的なメッセージも多くいただきました(笑)。なので、海外公演は「できるようにがんばります!」といった感じですね。今回の公演は成功したので、それをいい形にもっていければいいなと思っています。
――海外だといい会場も多そうですね。
祖堅:日本と比べると、海外は会場を押さえやすいかもしれないですね。ですが、単純に会場を取れれば終わりというわけではなくて、160人ぶんのマイクを仕込んだりしなければならないですし、音はどうする、指揮者はどうする……といった問題を、1つ1つクリアする必要があるんです。
――海外公演だと音響周りの調整が難しそうです。
祖堅:生音で演奏できるかどうか、という部分もありますしね。今回の国際フォーラムのように、会場が5000人規模になると生音だけでは聴こえないので、音響機器を使うことになります。指揮者の方、主催者の方、コンポーザーの方、それぞれの意向も考えなければならないですし。
――本アルバムの注目点の1つである“FLAC音源”とは、具体的にどういったものなのでしょうか?
祖堅:今までもBDMは再生すればハイレゾ音源です。ですが、ダウンロード版はMP3で対応していたんですね。そのMP3自体も音質を最高まで上げた形のバージョンなので、CDと聴き比べても普通の方は違いがわからないくらい高品質になっています。ですが、じつはダウンロード版でもハイレゾ音源を聴きたいという要望がけっこう多くありまして。そんな折、音の解像度を最大限感じられるオーケストラ音源を扱うこのタイミングがきたので、トライしてみたくてFLAC音源を用意してみました。ちなみに、FLAC音源はMP3の音源の6倍いい音で聴けますよ。ただ、MP3と比べると容量がやや大きい点と、FLAC音源に対応している音楽プレイヤーでないと再生できない点には注意です。もちろん、対応している音楽プレイヤーでもその周辺機器がハイレゾ対応していなければ、意味がありません。ちょっと難しいので、普通の人はMP3でも十分聴き応えがありますので、関心のある方向けにFLAC音源を導入した感じです。『FFXIV』のプレイヤーには、こういった方面に詳しい方も多いので、発売後にどういう反応が返ってくるのか楽しみです。ちなみに、DISC再生音源の「2.0chステレオ」を「5.0chニア」に変更すれば指揮者地点での生音を、「5.0chファー」にすれば客席中央から聴こえる生音に切り替えることもできます。これらは、東京オペラシティで収録したので、音響機器を一切通さない、生の音になっています。
ですが、1つ謝りたいことがありまして……。今回、FLAC音源に加えてステレオ音源、さらにサラウンド音源を2種、それにオーケストラコンサートのすべての楽曲を入れてしまったので、DISCの空き容量が大変厳しくなってしまいました。その結果、オーケストラコンサートのMCはカットすることに。優先順位を考えると、こうするしかありませんでした。MC部分は会場に来てくださった方へのお土産ということでご理解いただければと思います。申し訳ございません。
――その他の機能としては、いつものコメンタリーも入っているのでしょうか?
祖堅:いつもサントラには各曲に対してひと言コメントを入れているのですが、今回収録した楽曲のオリジナルはサウンドトラック本編のアルバムに収録されているので、楽曲へのコメントは既出になってしまうんですよ。なので、今回は会場で販売したパンフレットに掲載した“その曲に対する僕と吉田の対談”を、すべての曲に対して入れてあります。
――それはありがたいですね。
祖堅:ちなみにこのDISCは海外でも販売されるので、英語の翻訳も入っています。
――では最後に、このBlu-rayは“FINAL FANTASY XIV ORCHESTRA CONCERT 2017 -交響組曲エオルゼア-”の最終展開だと思いますが、やり終えていかがでしたか?
祖堅:『新生編』が始まる少し前から企画を練っていたので、……長かったなという感じですね。正直に言えば、オーケストラコンサート自体への意識が、『FFXIV』チームには初めなかったんです。ですから、チームメンバーにまずオーケストラの素晴らしさに興味を持ってもらうところからのスタートでした。いろいろ人を“Distant Worlds music from FINAL FANTASY(『FF』シリーズのオーケストラコンサート)”に連れて行ったりして、「オーケストラっていいでしょ?」と布教していきました。そこから4年目にして、ついに開催できてホッとしています。というか、僕にとっては4年越しの想いだったので、やり遂げられてよかったと感じています。
――祖堅さんの意向と言いますか、『FFXIV』の曲のよさを打ち合わせを経て体現してもらって、プロフェッショナルを感じました。
祖堅:やはり、僕はオーケストラに対して特別な想いがあるので、「開催できてよかった」というのが一番大きいですね。ここまでくるのにいろいろなことがありましたが、1つの完成形を迎えたのはよかったなと思っています。ここまでクオリティの高いコンサートをできたので、海外なのか、新しいオーケストラコンサートなのかはまだわかりませんが、次につなげられたらうれしいです!
――今日はありがとうございました!
オーケストラコンサートにまつわるお話、いかがだったでしょうか。本日はこのあと20時半から吉田直樹氏&祖堅氏出演による公式生放送も控えていますので、ぜひ本記事とあわせて見てみてください!
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