2017年12月30日(土)
『ライフ イズ ストレンジ』の魅力は時間を戻すシステムと見事な世界観の構築。前日譚に向けたコラムを掲載
スクウェア・エニックスから発売中のPS4/PS3/PC用アドベンチャーゲーム『Life Is Strange(ライフ イズ ストレンジ)』の企画記事をお届けします。
おもしろいゲームを遊ぶと、誰かに教えたり、同じ感覚を共有したくなったりします。編集という仕事をしているのも、そんな理由があるからなのか、もしくは単に“選択を間違えてこの職についてしまった”だけなのか……。
今回は『ライフ イズ ストレンジ』の魅力を、ゲームシステムと世界観という2つの視点から見ていきたいと思います。本作の前日譚である『Life is Strange: Before the Storm』の日本語版発売が決まっているので、その前にプレイするきっかけにもなればと思います。
なお、本記事はゲームシステムや基本的なキャラクター情報はありますが、物語の激しいネタバレは含まれていません。
結果を見て時間を巻き戻す……ゲームならではのシステムが秀逸
RPGの戦闘で手こずった時やSLGでこちらの攻撃が外れた時、思わずリセットしてしまったことはありませんか? 当然です。ゲームなので、やり直せばいいのです。
ただ、実際の生活では選んだ選択肢は変えられません。もし変えられたとしても、時間を戻すことはできません。
本作のパッケージの裏には、こう書いてあります。
「人生は選択の連続、その選択肢が運命を決める、でも、もし選び直すことができるとしたら?」
時間を戻して選択肢を選び直せるのが、本作『ライフ イズ ストレンジ』です。
主人公である少女・マックスは、写真を学ぶために5年ぶりに戻ってきた故郷のアルカディア・ベイで、時間を巻き戻す力を手に入れます。
時間を戻すと何ができるのか、ちょっとした例をあげたいと思います。
マックスは、ブラックウェル高校で写真を教えているジェファソン先生から質問を受けるのですが、答えがわかりません。そのため、選択肢に正しい答えがありません。他の生徒が答えたのを聞いて、「なるほど」と学びます。
知識として情報を得た後、時間を巻き戻すことで選択肢が加わります。それを選べばジェファソン先生からほめてもらえます。未来を見たことで、正しい回答がわかるようになるのです。
個人的には、再会をはたした親友・クロエに能力を説明するため、彼女のポケットに入っているものを当てようとするシーンが印象的です。
もちろん当たりません。マックスも当たらないことはわかっているので、そこからがある意味でスタートとなります。中身を記憶して、時間を戻してそ知らぬ顔で中身を言い当てようとします……当てようとするのですが、クロエも簡単には信じてくれません。
わりと細かいことを聞いてくるので、こちらが困ることもあります。そのたびに時間を巻き戻したり、しっかり覚えたりすることになります。中でも驚いたのがコインを数えるシーンです。
いくら持っているのか聞かれるのですが、おそらく多くの日本人プレイヤーは突っ込むと思います。
「コインの数え方ががわからない!」
こんな時、ボタンを押すと出る説明文に機能に助けられます。後ほど話しますが、このローカライズも本作を語るうえで外せないポイントです。
結果としてクロエは何度か驚くことになるのですが、マックスとプレイヤーは結果を見ているので、未来を知らない他の人が驚く様子を、ちょっとした優越感に浸りながら見ることができるのです。
この能力がおもしろく、また表現方法としてのゲームと相性がいいんですね。ドラマや映画だと自分が選んだ結果を映像にすることが難しいですし、ノベルだと違いをテキストだけで表現することになり、迫力に欠けます。結果を見たうえで正しい道を進めるようにキャラをナビゲートするのは、ゲームならではの仕掛けで印象的です。
個人的には、子どものころに遊んだゲームブックを思い出しました。ゲームブックというのはテキストに書いてあるページや番号に進んでいくもの。右に行く場合は何ページに進み、左に行く場合は何ページに戻るなどと書いてあるのです。
時には、進んだ場所でよくないことが起き、慌てて前の選択肢まで戻ってもう一方に進むこともありました。それを見ていた知り合いは「ずるいなあ」と言っていたのですが、「ゲームだし、やり直せたっていいのでは?」と毎回思っていました。
本作は、そんな童心ながらに感じていたことをゲーム内で、数多の演出とともに楽しめるようなものではないでしょうか。
では、プレイヤーが望む結末だけを選んでいけるのかといえば、そうではありません。
選択肢にはこれまでに紹介したような正解までを導くタイプと、その選択がのちに影響するタイプがあります。どちらも時間を戻して選びなおすことができるのですが、後者はすぐに結果がわかりません。
こちらのシーンがのちに影響するシーンの1つ。マックスが目撃したシーンを学校の校長に伝えるのか、ごまかすのかを選びます。選んだ後の校長の態度を見ても、どちらが正しい行動なのか、わかりにくいです。
ただ、未来がまだ見えないからこそ、プレイヤーの意思で選択することが重要であり、おもしろいところでもあります。自分の選択がキャラの運命を変える可能性があるので、いろいろと考えて進めていくことになります。
とはいえ、選択から導かれる結論、未来は輝かしいものだけではありません。だからこそ、ゲームというコンテンツの強み、手法である“2周目”を楽しめるのです。自分が望む結末、見ていない可能性を確認できるという意味でも、ゲームとの相性はいいと思いました。
プレイヤーを没頭させる世界観の構築
本作でもう1つ好きなところは、ゲームの世界に自然に入れるような作りです。
1つは演出です。先ほどあげたような時間を巻き戻した時、同じカメラワークで進行するのではなく、少し違ったアングルになることがあります。時間は戻ったのですが、違う流れであることが映像からもわかります。
また、サウンド面での演出も印象的。ところどころにボーカルつきの曲が流れるのですが、マックスがイヤフォンをつけると音楽が流れ出します。この演出はわりと序盤に発生するため、カメラアングルを含めて、海外ドラマを自分で操作しているような感覚を味わえます。
先ほどもあげたのですが、本作を語るうえで外せないのはローカライズです。海外で発売されたゲームを遊んでいて「この単語の意味がわからない」や「ポスターの文字が読めない」ということがあるかと思います。それでも遊べるのですが、人によっては冷めてしまうこともあるかと。
本作ではポスターに書いてある文字を翻訳したテキストを読むことが可能。実際の世界でもポスターの情報なんて、読まない人が多いかと。もちろんゲーム中でも読まなくて成立することが多いです。ただ設定を含めて、自分がその世界に入っているような没入感を味わえるうえに、テキストがおもしろく、思わず読んでしまいます。
ポスターを見ると、マックスが自分の感想を述べてくれます。気が弱いように見えて、芯が強く、ちょっとクセのある彼女の感想とともに、この高校の情報を手に入れられることで、自分も生活しているような気持ちを味わえます。
▲確認したポスターなどは、メニュー画面から見ることが可能。写真をテーマにしたデザインもいいですね。 |
ローカライズにも関係するのですが、キャラの作り込みもすばらしいです。実はプレイを始めた序盤、キャラが多くて覚えられなかったのです。ただ、どのキャラもいい意味でアクが強く、ゲームを進めていくと忘れられなくなります。
主人公のマックスとクロエは話に絡んでくるので、あまり触れないようにしますが、それ以外のキャラで個人的に好きなキャラをあげたいと思います。
まずはウォーレンですね。科学ヲタクでまっすぐな性格。少し周りが見えないこともありますが、頼りになる存在です。ゲーム内にあるメールの会話も彼らしさが出ています。
もしアルカディア・ベイに自分がいたら、『猿の惑星』を見に行っていたかと。まあ彼はマックスと行きたいと思っているでしょうが。
2人目はクロエの母親であるジョイスです。夫をなくした悲しみを乗り越えて、海岸沿いのダイナーで働いています。新たな伴侶である軍曹・デイビッドとクロエの間を持ちつつ、自分の考えを出す強さを持っている彼女。マックスとしても、頼れる母親のような存在です。
3人目はジャスティンです。上記2人と比べると絡みは少ないのですが、セリフの1つ1つに味があるうえに、ちょっと斜に構えている様子を見て「クラスに1人はいるよなあ」とか思いながら、セリフを読んでいました。
ゲームとはまったく関係ないのですが、見た目がうちの喜一に似ていると思いませんか? 本人に聞いたら「え~~、そうですか? スケボーとかやってないですよ」と言っていました。ちなみに中身は似ていません。
また、声優陣による演技もすばらしいです。マックスの気は弱そうに見えるが芯の強いところや、クロエの勢いのあるところとやや打たれ弱いところをはじめ、クラスメイトや教職員、それこそ町の住人まで、それぞれの“人物像”がしっかりと演技に出ていて、世界観の構築にひと役買っていたと思います。特に学校にいる時の普通の演技を、普通のようにやっているのが印象的でした。
▲登場人物について確認すると、マックスによる日記のようなテキストを見られます。いいところだけでなく、彼女なりに気になっているところも見られて、ちょっとおもしろいです。 |
運命はひとつしかないって誰が言ったの?
いろいろなエピソードはあるのですが、大きな目的は行方不明になっているクロエの親友・レイチェルを探すということ。その過程でマックスとクロエは周囲の人とふれあい、ぶつかり、悩み、苦しみ、葛藤しながら、進んでいきます。
プレイ時間はそこまで長くはなく、集中してプレイすれば2~3日で終えることはできると思います。短いかと思うかもしれませんが、プレイ体験としてダラダラとしているのではなく、充実しているという感じでした。
ただ、個人的には時間ではなく、あまり情報を入れずに考えながら楽しむのがいいかなと。物語の大きな結末だけでなく、ちょっとしたキャラの展開が変化する要素も用意されているので、それらを含め、読み進めてほしいと個人的には思います。
こんな記事を最後まで読んでくれたということは、少なからず本作に興味を持ってくれている人だと思います。ぜひ、アルカディア・ベイでの生活を始めてみてくだください。きっと濃密な時間を体験できるので。
タイトルにある“Strange”を日本語にすると、「奇妙な、不思議な、変な、得体のしれない、おかしな」という意味になります。どの意味が適しているのか、それを選ぶのかはあなたです。人生とはStrangeなもの。それをゲームでぜひ味わってください。
Life Is Strange (C) 2015, 2016 Square Enix Ltd. All rights reserved. Developed by DONTNOD Entertainment SARL. Life is Strange is a trademark of Square Enix Ltd. Square Enix and the Square Enix logo are trademarks or registered trademarks of Square Enix Holdings Co. Ltd. All other trademarks are property of their respective owners.
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