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2018年1月2日(火)

【おすすめDLゲーム】『This Is the Police』で“ヒーローではない”男のドラマに惹かれる

文:キャナ☆メン

 ダウンロード用ゲームから佳作・良作を紹介する“おすすめDLゲーム”連載。今回は、日本向けにはPC版が配信中の『This Is the Police』を取り上げます。

『This Is the Police』

180日で50万ドルを稼ぐ羽目になった男

 『This Is the Police』は、腐敗に満ちたフリーバーグ市を舞台に、警察署長ジャック・ボイドとなって180日間を過ごすアドベンチャー+シミュレーションゲームです。配信当初は日本語に対応していませんでしたが、2017年4月に対応され、現在は日本語でプレイできるようになっています。

 本作のゲームプレイは、警察署長として署員をマネジメントし、街で起きる事件に対処していくシミュレーション部分が大半を占めます。ですが一番のおもしろさは、権力者の陰謀によって追い詰められ、それに抗うジャックの姿を描いたストーリーにあると思います。そして何より、物語を引き立てるジャックのキャラクター性でしょうか。このあたりは、記事後半で述べていきます。

『This Is the Police』
▲シミュレーション部分の遊び方はシンプルながら、常にプレイヤーの判断が問われる内容になっています。
『This Is the Police』
▲彼が主人公のジャック・ボイドです。外見は禿げ頭のおじいさんですが、渋くカッコよい一面もあります。

 物語の舞台となるフリーバーグ市は、ロジャーズという市長があらゆる手を尽くして権力の網目を張りめぐらせ、長年にわたって帝王のごとく君臨する街です。ある登場人物の言葉を借りれば「汚職にまみれた役人を何十年もの間許してきた街」であり、悪徳の連鎖はすでにフリーバーグ全体へと広がっています。

『This Is the Police』
▲ジャックのクビを宣言した、フリーバーグの独裁者ロジャーズ。弱者に厳しく、私利私欲のためは誰を犠牲にすることもいとわない人物です。

 その街で警察署長を務めるジャックは60歳を迎え、市長からクビを宣告されます。一般的な定年退職というものではなく、市長の思惑が絡んだ話であり、ジャックはロジャーズから「(退職までの)180日間おとなしくしていろ」と迫られます。

 市長の決定を覆す力はなく追い詰められたジャックは、退職資金を名目に、残された期間で50万ドルの金を集めることを目指し、これがシミュレーション部分における目標にもなってきます。

『This Is the Police』
▲なぜ50万ドルなのか? ジャックの真意はストーリーを進めることで明かされていきます。

どうやって50万ドルを稼ぐか? モラルとの葛藤

 シミュレーション部分は1日が1サイクルとなり、市内で発生する事件に対し、適切な人数と能力の警官を送り込み、それを解決させることが基本かつメインになります。事件の通報には勘違いやイタズラといった誤報もあるため、その見極めも必要になってきます。

 さらに署員は、“怠け癖”や“アルコールの依存度”などの隠しパラメータを持ち、明らかなウソをついて休もうとしたり、2日酔いでまともに働けなかったりすることがあります。署員のわがままに悩まされるのは、ちょっとした人間味を感じておもしろいところです(笑)。

『This Is the Police』
▲警官の能力は数値で示され、平均は150。序盤はその値と警官の能力値の差分を大まかな目安にすると、適切な人数を割り振りやすいです。
『This Is the Police』
▲事件によっては、選択肢が発生することもあります。選んだ行動は解決の成否に影響してきます。
『This Is the Police』
▲怠けたがる署員は「小説の続きを読みたいから」などと、しょーもない理由で休もうとすることもあります(笑)。

 また、市長の意向で役所が無茶な要求をねじ込んでくることもしばしばで、これに人を送るとその警官の手を1日中割かれてしまい、非常に厄介です。

 ただし、市庁舎との関係が悪化し過ぎると警察署のアップグレードが通らなくなるのでマネジメントが不利に……市長に対するヘイトは、ジャックだけでなくプレイヤーの中でも高まっていくに違いありません。

『This Is the Police』
▲雇用できる警官の人数を増やしたり、SWAT部隊を強化したり、警察署機能のアップグレードを5日おきに市へ申請できます。なので市との関係もある程度大事に……。
『This Is the Police』
▲他にも刑事の捜査が必要になる事件があり、こちらは推理パズルのような遊びになっています。

 事件や役所の要請に対応して警察としての職務を果たしたとしても、それに対する報酬は週給1,200ドルです。それを考えるとジャックが180日で50万ドルを貯めることは容易ではなく、“汚職”や“マフィアとの癒着”が甘い香りを放ってきます。幸か不幸か、腐敗が蔓延したフリーバーグでは、そういった手段で金を稼ぐことが難しくありません。

 市内の業者のグレーなお願いを聞いて謝礼をもらったり、マフィアや悪徳企業の犯罪行為に荷担して謝礼を受け取ったり、事件で押収した武器・宝石・麻薬などをマフィアに横流ししたり……しかもマフィアや大企業などと癒着しておくと、彼らに金を支払って、マネジメントを有利にするサービスを利用できます。

『This Is the Police』
▲警官を殺すような穏やかでないサービスもありますが、進め方次第で必要になる状況もあります。サービスを利用できる組織は、ゲームの進行に応じて増えていきます。

 悪党と手をつなぎ悪事に手を染めるほど、ゲーム的に有利な恩恵が得られてしまう……この誘惑を振り払うことができるでしょうか?

 署員はわがままを言って休みたがり、役所は無茶な要求をぶっ込み、事件に回せる人手はつねに余裕がない。シビアなマネジメントを続ける日々でエサが目の前にあると、単にテキスト上でモラルを問われるよりも、非常に大きな葛藤を抱えます。

 しかし、この葛藤こそが本作のシミュレーション部分における醍醐味だとも思います。悪党とどう付き合っていくか、まさにプレイヤー次第なのです。

『This Is the Police』
▲押収物をマフィアに横流しすると、資金を得られます。しかも、その資金を署員と折半すると署員のやる気を上げられるので、マネジメントが有利に。
『This Is the Police』
▲50万を貯めるだけなら、主に犯罪組織を潰して得られるボーナスを集める手段もあるのですが……。悪党に荷担した方が、プレイはラクになります。

“静”が印象的で独特の味を持つイベントシーン

 さて、ストーリーが一番のおもしろさだと最初に書きましたが、本作ではそれを表現するイベントシーンに独自の味があります。ゲームを起動していくつかのシーンを見るだけでも、グッと来る人にはグッと来る作りになっているはずです。

『This Is the Police』
▲本作は全体的に静的で落ち着いた雰囲気の表現で統一され、淡々とした口調やシニカルなセリフ回しが渋く光るようなシーンの作りになっています。

 ビジュアル面では、マンガのようなカット割りでシーンを展開していく手法で表現され、切り絵のように造形されたキャラクターと相まって、静かで独特な雰囲気を持つ描写になっています。

 この静的な表現は、イベントでBGMを抜いてある点や声優のトーンを抑えた演技などにも見られ、非常に印象的に感じる部分です。追い詰められ、それでも淡々と逆境に耐えるジャックの境遇とマッチして、哀愁と退廃的なムードの漂う世界観が伝わってきます。

 テキストはジャックのモノローグとキャラクター同士の会話で構成され、日本語でも雰囲気まで表現されていると思います。理不尽に対して淡々と皮肉を投げかけるジャックのシニカルさと、皮肉に混じって見え隠れする自虐や迷い。そのセリフ回しが秀逸で、彼の“人間臭さ”を感じる部分です。

『This Is the Police』
▲シニカルなセリフと落ち着きある態度とは裏腹に、やたらと人間臭いところがあるジャック。

 ジャックのセリフに命を吹き込むジョン・セントジョン氏の演技もよく、ジャックの物事に動じない落ち着きを感じる口ぶりと、彼の抑えられた感情、抑えきれない哀愁が、英語の音声からもよく感じとれます。

 60歳で禿げ頭で腹も出ているジャックですが、決してカッコ悪い人物ではありません。それは彼の行動を見て思えることですが、とはいえ、彼のことをよく知らない序盤からどこか渋さを感じてしまうのは、多分に演技の力も大きいと思います。

『This Is the Police』 『This Is the Police』
▲ゲームを起動すると流れる、ジャックが会員制クラブを訪れるアニメーション。人によっては、ここの映像やセリフで「お、いい雰囲気だな」と思えるでしょう。

“ヒーローではない”ジャック・ボイドの魅力

 ジャックは、ゲーム開始の前日にリストラを宣言され、挙げ句そのことを記者会見でさらし者にされ、1カ月前には奥さんに逃げられている不幸極まりない人物です。副署長ケンドリックはジャックにマフィアの後始末を押しつけるし、市長以外にもさまざまな悪党が出てきて、ジャックを追い詰めていきます。徹底していじめ抜かれる主人公なのです。

『This Is the Police』

 ただ、主人公だからと言って彼が善人というわけでもなく、警察署長としては市民に慕われてきましたが、実はある犯罪に手をつけた秘密を抱えています。ジャックもまた歴とした犯罪者で、間違ってもヒーローではありません。

 実際、登場人物の1人にも「マンガの中の犯罪者を倒すには、マンガの警官になるしかない。でもあんたはなれなかったんだよ」と言われます。なお、このセリフにある“マンガ”とは、作中に出てくる新聞連載されていたヒーローコミックを指し、旧友との絆や2人の初心を象徴する物語上の重要な小道具として役割を果たします。

 しかし、同じ人物が次のように続けるのです。

「何かにつけて苦しみ、疑問を持ち、恐れる。そして自分の中で葛藤している。それがあんただ。町の連中があんたの間違いを許すのも、それが理由だろう」

 ジャックは物語の主人公ですが、ヒーローではなく人間なのです。そして人間である彼は悪党に追い詰められても「俺は逆境に強い」と言います。ただ残念ながら、悪党としての才能や能力は周囲の方が秀でており、彼が持っている武器は“逆境に強い”ことしかない。

『This Is the Police』

 しかしだからこそ、周囲の人物が悪であれば悪であるほど、彼が追い詰められれば追い詰められるほど、ジャックの魅力が輝くのだと思います。耐えることを止めず、“逆境に強い”という唯一の武器だけを持って、己を翻弄する状況に立ち向かう姿。

 そんなジャックの不器用な一途さは、男気にあふれ、ハードボイルドに映ります。決して清廉潔白でもヒーローでもない、普通の人間と同じように弱い部分もある。それでも逆境に耐え抜く男の戦いは、人を惹きつけるドラマがあると感じます。

『This Is the Police』

刺さる人にはすごく刺さる作家性に富んだタイトル

 本作は、内容は紛れもなくゲームなのですが、ストーリーに限れば映画的なところがあるかと思います。表現や物語に作家性が強く出ているため、受け入れられる人はすごく好きになれるし、そうでない人は「うーん」と首をかしげて終わる、そんな尖った作品かなと。

 また、ストーリーを気に入って早く先が見たいと思っても、ゲーム自体はシミュレーション部分を基本に1日を繰り返して進めるので、少しテンポが遅く感じる部分があるかもしれません。単純に1日×180回とは違いますが、それでもクリアまでに相当なボリュームが用意されています。事件がランダム生成ではないのに、あれだけのボリュームを作り上げた開発元Weappy Studioの熱意はすごいです。

 個人的には、フィルム・ノワール的な作品を好むタイプの人なら、何かしら琴線に触れるものがあるゲームだと思います。また、プレイする時は一気に進めようとせず、少しずつ長期間をかけて遊ぶのがオススメです。主人公からしてかなり尖っているので、少しくらい間を空けてもストーリーが頭から抜け落ちることはないでしょう!

(C) THQ Nordic
(C) Weappy LLC

データ

▼『This Is the Police』
■メーカー:THQ Nordic
■対応機種:PC
■ジャンル:ADV+SLG
■配信日:2016年8月3日
■価格:1,480円(税込)
※開発:Weappy Studio

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