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2018年2月25日(日)

【電撃PS】クリエイターが“感性を磨いている瞬間”。山本正美氏コラム全文掲載

文:電撃PlayStation

 電撃PSで連載している山本正美氏のコラム『ナナメ上の雲』。ゲームプロデューサーならではの視点で綴られる日常を毎号掲載しています。

『ナナメ上の雲』

 この記事では、電撃PS Vol.655(2018年1月25日発売号)のコラムを全文掲載!

第124回:放電と充電

 皆さん、1月もあっという間に過ぎ去ろうとしておりますが、いかがお過ごしでしょうか。僕はといえば、新年早々家族4人中3人がインフルエンザに罹かかるという阿鼻叫喚なお正月となりました。しんどかったー。全国的にかなり猛威を奮っているらしいので、外出後にはぜひ手洗いうがいを忘れずに……。

 さて、熱が下がって菌が抜けるまでの間は寝ているしかない、というわけで、溜まった本や映画、ドラマを消化しまくりました。消化というのは作品に失礼ですね、ガッツリと楽しませていただきました。

 まず、寝ながら手の届くベッドサイドに、息子が置いていった伊坂幸太郎さんの「アイネクライネナハトムジーク」があったので読んでみる。「ふむふむ、短編集かあ」と思いながら読み進めると、そこは軽妙洒脱で有名な伊坂作品、単なる短編集ではなく、短編ごとの登場人物やエピソードが波紋のように重なっていき、最後には1つの物語の大波となるような、そんな構造の作品でした。

 お次は道尾秀介さんの「風神の手」。この作品も、大きくは3編からなる短編集、ともいえるのですが、やはり各編ごとの物語の円が折り重なり、登場人物全員にとっての大事な物語へと転換されていく、といった作品となっていました。自分が生まれてきた奇跡は、何かひとつ出来事が足りなければ起こり得ない。そんな因果律に思いを馳せたくなるような良作だったのです。

 この「風神の手」は2018年刊行。僕が年明けにネットで買った本です。先ほどの「アイネクライネナハトムジーク」は、奥付によると2014年に刊行されています。いつ買ったのかはわかりませんが息子の本です。たぶんベッドサイドになければ僕は読むことはなかった。それがインフルで寝込んだことによって偶然、この2冊を読むことになった。

 で、味わいはまったく違うけれど同じような構造で成り立っている物語だった。ということ自体が、この2作品の構造やテーマと重なっている気がして、ちょっと得した気分になったのでした。

 他には、今年の大河ドラマ「西郷どん」。公開になっている17話までのあらすじをガイドブックで読みましたが、結構スピーディーな展開。これは楽しみです。キャストもまだ発表になっていない人がいて、たとえば徳川慶喜を誰がやるのかなど、考えるだけでワクワクします。

 映画だと、「君の膵臓を食べたい」もこの機会に観ました。本で読んだときは大号泣だったのでさてどうなるか、と思いましたが、案の定泣きましたね。原作とは違った料理もしてあって、新鮮な気持ちで鑑賞できました。というか、なんといっても浜辺美咲さんがカワイ過ぎでしょ。近いうちに大ブレイクしますよ、きっと。などなど、他にもたくさんインフル中に楽しんだのですが、書ききれないのでこの辺にしておきます。

 思えば、開発末期になり忙しさのピークが続くタイミングになると、開発者は揃ってこんなことを言い出します。「放電ばかりで充電する時間がない」。事実、開発後半は、とにかく時間がいくらあっても足りません。

 アーティストはギリギリまでグラフィックデータのクオリティを上げ、ゲームデザイナーは神がかるまでバランスを調整します。エンジニアは、前線で削られまくった時間の中で、それでも最終防衛ラインとしてそれらを実装してくことになります。

 プロデューサー陣も、捌いても捌いても飛んでくるメールとの格闘、パッケージ、解説書の進行、メディア素材の確認、販売店へのプレゼン他、やることが山のように押し寄せます。

 解決するそばから新しい問題が起こり、みんなイライラして他愛のないことで一触即発な空気になることもある。すべてのパートで、あらゆる人が惜しみなく放電をした結果、火花がバチバチ飛び交うのです。だからこそ、マスターアップの瞬間は何モノにも代えられない達成感があるのですが、一方忙しさのピークに、他の作品を楽しむことを考えるような余裕はないわけです。

 で、みんな、仕事そのものとは別種の不安も抱え込むようになります。「こんな放電ばかりの状態じゃ、クリエイターとしてヤバいのではないか?」と考えてしまうのです。流行っているアレも、話題のソレも、遊びたいコレも体験していない自分って大丈夫なのだろうか? とぼんやりとした不安に駆られてしまうのです。そんなとき、僕は決まってこういいます。「今が、一番の充電タイムじゃん」と。

 モノを生み出そうとしているピークタイムに感じていること。それって、実はめちゃくちゃ貴重な「感性を磨いている瞬間」に他なりません。僕は、クリエイターにとって大事なのは、新しい情報を体内に入れること以上に、吐き出して、吐き出して、吐き出しつくしてもなお、「自分の中に何が残っているか」を知ることだと思っています。

 その残っているものが、他の誰もが持っていない自分だけの武器になる。「オレにはこれがある!」と気付くことこそ、最大の充電ではないかなあと思うのです。

 あ、それはそれとして病気は早めに治療しましょうね……。

ソニー・インタラクティブエンタテインメント JAPANスタジオ
エグゼクティブプロデューサー

山本正美
『ナナメ上の雲』

 ソニー・インタラクティブエンタテインメント JAPANスタジオ 部長兼シニア・プロデューサー。PS CAMP!で『勇なま。』『TOKYO JUNGLE』、外部制作部長として『ソウル・サクリファイス』『Bloodborne』などを手掛ける。現在、『V!勇者のくせになまいきだR』を絶賛制作中。公式生放送『Jスタとあそぼう!』にも出演中。

 Twitterアカウント:山本正美(@camp_masami)

 山本氏のコラムが読める電撃PlayStationは、毎月第2・第4木曜日に発売です。Kindleをはじめとする電子書籍ストアでも配信中ですので、興味を持った方はぜひお試しください!

データ

▼『電撃PlayStaton Vol.657』
■プロデュース:アスキー・メディアワークス
■発行:株式会社KADOKAWA
■発売日:2018年2月22日
■定価:694円+税
 
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