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2018-03-11 16:15

津田健次郎さんが飴を使い造形美を作り出す“飴細工師”の魅力に迫る

文:ガルスタオンライン

 津田健次郎さんが教授となり、毎回気になるカルチャーを学ぶ本コラム。2月10日発売の電撃Girl’sStyle2号では、日本伝統飴細工の専門店“あめ細工 吉原”の飴細工師の吉原孝洋さんに見た目でも、味でも楽しめる飴細工の世界を教えていただきました。ここではその世界をさらに深掘りし完全版をお届けします!

『津田健次郎の文化ゼミナール』
『津田健次郎の文化ゼミナール』

江戸時代から親しまれている飴細工の世界

――飴細工の歴史について教えてください。

吉原孝洋さん(以下:吉原):人飴細工は1700年ごろから、江戸の町で行商が売り始めました。飴の造形や素材は当時から変化していますが、お客さまの前で“ガマの油売り”のような口上をしながら飴細工の実演し、それを見て満足してくださった方に買っていただくという大道芸的な部分はずっと変わっていません。

津田教授(以下、津田):お菓子を売るだけでなく、見せることも含めた商売ですね。

吉原:おっしゃる通りです。作る過程を含めて、楽しんでいただけるのが醍醐味です。

津田:素材が変化しているというお話ですが、最近はどのようなものを使うんでしょう。

吉原:昔は、水あめを使っていました。水あめはデンプンから作る日本古来のもので、今主流の甘味料である砂糖は外国から入ってきたものです。水あめは砂糖と比べると、どうしても甘さで負けてしまうんですよ。そのためレシピを調整して、食べたときに美味しいものを作っています。色についても昔は紅花で色づける程度でしたが、そこも進化しました。

津田:かなり、カラフルになっているんですね。

吉原:着色料があるので、ほとんどの色が作れます。ただご家庭によっては着色料を食べさせたくないという場合もあると思うので、飴細工ではないですが昔ながらの製法で作った無添加のものも販売しています。

津田:なるほど。細工は、どのようにしていくんですか?

吉原:和ばさみを使用して、左手で飴のついた棒を持って細工していきます。

津田:お裁縫で使うようなはさみですね。飴はどんどん固くなっていくので、時間との勝負な部分もありそうです。

吉原:そうですね。細工前の飴は専用の箱に入れていて、約80度に温まっています。

津田:けっこう高い。

吉原:水分を加えず熱だけで飴を溶かしているので柔らかくなるだけです。だいたい3分くらいで固まってしまうのでその間に細工をし、そのあとに着色します。

津田:着色はあとなんですね。

吉原:飴全体に色がついているものは、最初に練りこんであります。目など、細かいパーツを追加する感じです。

津田:技術面も進歩しているんじゃないですか?

吉原:細工に入れるはさみの量が変わっています。今は竹の棒を使っているのですが、昔は葦の茎を使用していました。葦はストローのように茎の中が空洞になっているので、風船のように膨らませてコトリなど今より大きな形を作っていたんです。今は息で膨らませるのは衛生的に厳しいので、使用されない技術になりました。

飴細工職人になる入口探しは大変!?

津田:吉原さんがこの世界に入ったきっかけは?

吉原:子どものころ、縁日で飴細工を見てやりたいと思ったのがきっかけです。でも飴細工の世界への入り方がわからなくて、イタリアンの料理人になりました。せっかくだから本場を見たいと海外に飛び出したときに、現地の人や旅行者との会話のなかで自分が日本人であるということを改めて実感したんです。でも自分の国について知らないことも多いし、聞かれたことで興味を持つ部分もありました。そのなかで自分の国に関係する仕事をしようと考え、子どものころ憧れたものを思い出して飴細工師になろうと思ったんです。

津田:師匠に弟子入りした形ですか?

吉原:そうです。飴細工職人になろうと決意したあとも方法がわからなかったので、まずは飴細工師の方に会いに行ってお話しを聞くということを繰り返しました。当時は全国に10人くらいしか職人さんがいなくて、会いに行っても同じ方ということも多かったです。そのなかで教えてくれるという方が表れて、弟子入りしました。

津田:独り立ちまでどのくらいかかったのでしょうか?

吉原:ピッタリついて教わったのは1年で、2年目くらいで師匠に追い出されました(笑)。私の場合は師匠が息子さんと一緒に仕事をされていたので独立になりましが、そのまま師匠と一緒にやる方もいます。開業の形はさまざまですね。

津田:職人の世界だと、かなり早い気がします。

吉原:わからないことだらけなので大変でしたね。師匠のもとにいたときは給料はありませんでしたが、技術が身についていくと師匠の仕事が重なったときに分けてもらえることもありました。でも独立すると自分で営業しなければいけないので、最初は本当に厳しかったです。修行仲間でも、やめていく方も多かったです。

津田:そうですよね。昔ながらの職人の世界という感じがします。ちなみに、いまは職人歴何年目なんですか?

吉原:生業にしてから13年目で、お店は2008年からなので10周年を迎えます。最初は事務所だけ構えて、イベントに参加する飴細工本来の仕事スタイルをしていました。でも、法律の改定で外で食べ物が作れなくなってしまって……。もともと法律改定前から商売をされていた方は許可されるんですが高齢の方は引退してしまいますし、新規参入も難しく、職人も減りましたね。

津田:飴でお腹を壊すというイメージはないですが、食品のガイドライン的に厳しいのでしょうね。外で見られなくなったのは、とても残念。

吉原:それならお店ならできるなと思って、常設販売店舗を構えました。飴細工の文化を残していきたいし、お店があることで来て、知ってもらうきっかけになると思ったんです。最初は千駄木ではなく、原宿など若者に身近なおしゃれスポットを考えていました。でも最終的には今の場所に落ち着いたので、ご縁があったのかな(笑)。

津田:僕も好きでよく散歩に来るんですが谷根千の雰囲気と、飴細工はよく似合いますよね。

吉原:地域として勢いが出てきたのは、ここ5年くらいですね。お店ができたころが、地元の方中心でした。今でも住んでいる方的には、うちは千駄木、うちは谷中というこだわりがあるようですよ(笑)。

『津田健次郎の文化ゼミナール』

リアルタイムで反響がわかる楽しさと怖さ

吉原:お客さまの目の前で作るので、反応がすぐに返ってくること。自分が作ったもので喜んでもらえるのがうれしいです。反面難しいのは、失敗すると下手だなという評価に直結する点です。職人になりたてのころは失敗することも多かったので、落ち込みましたね。

津田:材料費よりも、メンタル的な痛手が大きそうです。

吉原:大勢の前で失敗すると、「あー」ってため息が聞こえてきたり(笑)。今はほとんどないですが途中でパーツが取れたり、ぶつかってしまったりして、いろいろ失敗しました。緊張から、ピリピリしながら作っていたことも……。

津田:飴細工屋さんがピリピリしていたら、商売的にちょっと問題ですよね(笑)。

吉原:怖がられてしまいます。そのためたくさん練習して体に覚えさせ、話しながらでも作れるようにしました。

津田:そこが黙々と作業するほかの職人さんと違うところですね。

吉原:職人さんの真剣に作業に打ち込む姿はかっこいいです。飴細工の場合は、子どもを喜ばせることも大事な仕事。たとえばカブトムシをお願いされたときに、作業しながら「家で飼っているの?」と話すなどショウ的なニュアンスもあります。店舗ではすでに完成した作品も販売していますが、ほとんどのお客さまが実演した商品を買っていきます。やはり、目の前で作ってもらうのが楽しいんですよね。

子どもたちに喜んでもらうことが飴細工の未来を創る

津田:お弟子さんはいるんですか?

吉原:3人おります。募集はしていなかったのですが、問い合わせがありました。私も入口がわからず苦労したので会社の形態を取って、アルバイトや社員として仕事をしながら修行ができるようにしています。

津田:これから、職人は増えていくと思いますか?

吉原:はい。今は全国的に見て50人くらいいるかと思います。

津田:すごく増えましたね。

吉原:今はインターネットがあるので、飴細工という職業を知る機会も増えています。

津田:調べられるというのは、大きいですね。入口がわかると、職人を志しやすい気がします。協会はないんですか?

吉原:増えたといっても、各都道府県に1人の割合なので少ないです。長年お付き合いのある職人さんたちとは交流していますが、小規模ですね。ここが常設販売店舗の最初なんですが、出来たことによって少し進んでいたらいいなと思っています。まだまだ始まったばかりです。

吉原:そうなるといいですね。今は新しい店もできて、若い職人さんたちが新しい形や独自のテイストを入れた飴細工を作っています。

津田:今後作風も大きく変わっていきそうです。

吉原:そうですね。でも、実演して喜んでもらうという基本はずっと守っていきたいです。過去の飴細工について記録した写真や絵画を見ると、かならず子どもがいます。これからもずっと、子どもに向けたものを作ることが大事だと思っています。

津田:今でも、子どもイベントなどに参加したりするんですか?

吉原:行きますね。また小中学校での講演もなるべく受けるようにしています。今までの経験上、お年寄りは子どものころの思い出をとても楽しそうに話すんですよ。いつまでも、楽しい記憶って残っているんですよね。だから子どもたちに飴細工は楽しいものだということを伝えられたら、文化としてずっと残していけるかなと思っています。

津田:日本の伝統工芸は大変なことが多いですが、飴細工の未来は明るそうです。

吉原:知り合いの職人さんのなかにも、作りたい作品と生活が両立できない方が多いですね。昔ながらの技術でいいものを作ろうとすると、どうしても時間がかかる。時間をかけたものは高くなり、売れにくいんですよね。続けたいのに続けられないというのはよく聞きます。

津田:僕も伝統工芸品が好きでよく見るのですが、やはり桁が変わりますよね。たとえば有名な鯖江の眼鏡なら、1万円ほど高くなります。

吉原:その分、使い心地が全然違うんですよね。うちのお店では、安いものと高価な商品の差をつけるようにしています。シンプルだけど500円くらいで買えるものから、細工が細かくて飾って楽しい3000円ほどのものまで。実際作る時間も500円のものと3000円のものでは、4、5倍違うんです。

津田:細やかな細工のものは、食べるのがもったいない感じもします。

吉原:冬場は長持ちしますが、夏場になるとどうしても溶けてしまいます。その前に、食べていただけると嬉しいですね。飴細工はどうしてもなくなってしまうので、キレイな思い出だけ残るんですよね。だからお年寄りの方の中では、かなり美化された飴細工の記憶が残っていたりします(笑)。でも、そこがいいんですよね。うちの飴細工は基本的にはバニラ味で、食べても美味しいです。

津田:いろいろな味があるんでしょうか?

吉原:レモンやイチコなど、味は飴を作る鍋単位。何キロもできるので、イチゴ味を作ったときにハートマークをたくさん作って飴細工と組み合わせるなど、子どもたちが興味を持つ遊び心はいれるようにしています。

津田:いろいろ工夫されているんですね。

吉原:素材のノウハウはかなり充実しています。

津田:飴細工について伝えたいことはありますか?

吉原:実演を見て驚き、飾って楽しめ、食べてもおいしい飴細工はいろいろな楽しさがあります。また飴細工の大きな魅力の1つが、一点ものであること。プレゼントや手土産にもっていくと、その人だけの特別な贈り物になるはずです。ペットなど趣味にちなんだオーダーに合わせてお作りします。ぜひ、贈り物の選択肢として飴細工も活用していただけたらなと思います。

津田:ありがとうございました。

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