2018年4月3日(火)
“吉田直樹×日野晃博”特別対談全文掲載! 日本が誇るコンテンツを手掛けた2人の語る“RPG観”とは?
海外でも高い評価を得ているRPG『ファイナルファンタジーXIV』と『二ノ国II レヴァナントキングダム』。
日本が誇るコンテンツを手掛けたキーパーソンに、RPG制作の“今”を尋ねる――。電撃PlayStation659号(3月29日発売)に掲載された対談企画を全文掲載!
吉田氏と日野氏のゲーム観に迫った注目のインタビューとなっていますので、全国のゲームファンの皆様はぜひ本記事で内容を確認してみてください。
※このインタビューは3月8日に実施されたものです。
吉田直樹氏
(スクウェア・エニックス『ファイナルファンタジーXIV』プロデューサー兼ディレクター)
プロジェクトが傾いていた『旧FFXIV』の品質向上のため同作品のプロデューサー兼ディレクターに就任し、見事“新生”を遂げさせた成功の立役者。無類のゲーム好きとしても知られる。
日野晃博氏
(レベルファイブ『二ノ国II レヴァナントキングダム』ストーリー/ゼネラルディレクター)
株式会社レベルファイブ代表取締役社長。『イナズマイレブン』や『妖怪ウォッチ』などの仕掛け人としても広く知られる。『二ノ国II』ではストーリーのほかプロジェクト全体を統括。
――お2人はプライベートでも仲がよいですが、普段からお2人で連絡を取り合っているのでしょうか?
吉田直樹氏(以下、敬称略):最近はあまり会ってなかったですね。いつ以来かな、福岡でのイベントへ呼んでいただいて、その夜に食事して以来ぶりですかね?
日野晃博氏(以下、敬称略):イベントなどで会うことはありますが、プライベートな時間でゆっくりと話すというのは、かなり久しぶりですね。
吉田:新年会もやれてないのですが、最近は、日野さんがいろいろなものの追い込みに入っちゃっていましたしね(笑)。
日野:そうですね。でも、この業界ではみんな忙しいのは一緒なので。あとは、「ココだ!」と決めて会う感じですね。
――お2人でお食事をされているときは、どのようなことを語り合っているのですか?
日野:やはりゲームの話ですね(笑)。
吉田:ゲームの話しかしないですよ、本当に。よく話題にあがるのは、お互いが 仕掛けた“おもしろいこと”について、「どうやっているの?」「どうしてそうしたの?」といったことですね。
日野:『FFXIV』は、新しいシステムをどんどん入れていくじゃないですか。そのたびに、いちユーザー目線で、好き勝手にそのよし悪しについてお話しさせていただいてます(笑)。
吉田:レベルファイブさんは、すごい数のプロジェクトをクロスメディアで走らせています。恐ろしいことに、日野さんはそれらすべてにかかわっているわけで。しかも、プロデューサーだけではなく、脚本などの制作としてプロジェクトに入っていますし……、僕からすると「どうやってスケジュール管理してるの!?」という純粋な疑問をぶつけたりしてますね。
――今回の『二ノ国II』でも、シナリオ&ゼネラルディレクターとしてかかわっていますが、具体的にどのようなことをしていたのでしょうか?
日野:メインのシナリオを自ら書いたり、プランナーが提示してくれたシステムをジャッジしたりしています。ときには、自分で「こういうシステムを入れよう」といった提案もしました。
ただ、正直に言うと、『二ノ国II』の開発においては、常に頭を悩ませていましたね。最終的にかなりいいものになったと感じていますが、作る過程はかなり試行錯誤の連続でした。そういう意味では、僕のなかではかなり仕事した感はあります。
ものすごく大きいプロジェクトでしたので、「ここが遅れます」といったことを言われたときには、すでに時間が足りずリテイク対応が追いつかない状態になっていたり……。もちろん、そういったことが起こらないような動かし方があるのですが、今回僕はそのスケジュール管理をまかせてしまっていたので、とても大変でしたね。
――今回は、いつも以上に指示を出したということなのでしょうか?
日野:いえ、いつも口は出すのですが、楽しく指示できていたんです。「お、いいじゃん。でも、こういうやり方もあるんじゃない?」みたいな。ですが、今回はちょっと違いましたね。
――日野さんは、メディアミックスを含めたプロジェクトとして、規模の大きなものばかりを扱っている印象があったので、かなり意外です。やはり、手法が異なると制作の感覚も違ってくるのでしょうか?
日野:ぜんぜん違いますね。吉田さんがやっていることはあこがれですよ。レベルファイブにとって、“大きいプロジェクトを動かす”ということを勉強しなければならないという課題が明らかになりましたね。
僕がプロジェクトにおいて“いろんな人たちをまとめている”のは、プロジェクトをまとめているというよりもアニメ会社やおもちゃ会社というように、クロスメディアを成立させるために、さまざまな会社との関係をまとめているんです。
――そういう意味で、吉田さんは新生して5年、開発期間を含めればもっと長い間『FFXIV』の大きな開発チームを動かしていますが、そのあたりはいかがですか?
吉田:ゲームの開発は、1つの角度から見ればいいというわけではなく、あらゆる方向から見えなければいけません。しっかり動きを想定してプログラムを組んだはずなのに、ぜんぜん違う挙動をすることがいくらでもあります。
レベルファイブさんの場合、日野さんの意見を絶対視しているスタッフも少なくないと思うのですが、それがゆえに日野さんの“本当の意図”に沿うように、「きっと日野さんの言いたいことはこうだろう」と、自分で判断して軌道修正しにくいのかもしれません。日野さんの意図や指示が、組織の下層に行くにつれて少しずつ欠落してしまう。これを繰り返していくうちに、最終的に日野さんの思惑とはかけ離れたものになる、というケースがあったのかなと。
日野:たしかに、完璧な仕様書を作ればまた違うのでしょうが、プロジェクトの中心メンバーとの会議で、ホワイトボードに描きつつ「こんな感じだよね」という指示を出すのですが、プロジェクトが大きいと、なかなか一スタッフまでその意図を伝えるのは難しかったようです。
吉田:そこをうまくこなす秘訣というのは、結局のところ“自分と近い価値観”で“自分のやりたいことを1ジャンルしっかりリードしてくれる”同志を集めることかもしれません。
幸い『FFXIV』にはそういうスタッフが多く、「なんでも吉田の言ってる通りにやれって話じゃない。吉田がこだわってるのは、そこの細部じゃないよ。それくらい自分たちで考えよう」と指示してくれるリードがいることが大きいかもしれませんね。
日野:でも、全員で最後の修正に取り掛かって、結果よいモノになってよかったです。
――ゲーム制作の流れで、吉田さんはゲーム開発以外にもプロデューサーレターLIVE(※1)などを定期的に行い、ユーザーとの交流を積極的に行っています。このように、ユーザーとの直に対面しているからこそ、ゲーム開発のヒントをつかめることも多いですか?
吉田:MMORPGの場合は、絶えずサービスを変えていかなければならなりません。そして、僕たちには開発している時間があり、自分たちでもプレイしているとはいえ、我々以上にプレイ時間が長いプレイヤーさんもたくさんいます。
すべてそのまま受け取ったりはしませんが、プレイヤーの皆さんが「どう思っているのか」「どこが便利になればよりコンテンツがおもしろくなるのか」と感じているのかは、僕たちの感覚と同じくらい大切です。
日野:プロデューサーレターLIVEを見ていると、僕は吉田さんがうらやましくて(笑)。ユーザーとのセッションする場を用意して、大規模なゲームを作ることを楽しんでいる。楽しませている人の顔を見ながら作れているというのは、ゲームを作る者としての醍醐味だなと。「いいよなぁ」と思いながらいつも見ています(笑)。
吉田:たしかに、僕らが楽しく開発するためにやっているというところも大きいと思います。その皆さんの意見に耳を傾けてできた成果が良く、それをより喜んでもらえれば、また僕らもがんばれますし。
日野:ユーザーが喜んでくれるので、それをやる気に変えられるというのは、やっぱり気持ちのうえで大きいですよね。『FFXIV』ユーザーの立場から言うと、作る側の楽しんでいる感がとても伝わってくるんですよ。ゲーム開発において見習うべき点として、楽しんで作るのが重要なんだなと思いますね。
吉田:視点の違いな気もしますけどね。日野さんは、『妖怪ウォッチ』のような1つの作品をさまざまなメディアで多展開させます。それとは逆に、僕は多展開するもののうちの1つをひたすらに集中して作っているという形なんです。日野さんは、1段上の俯瞰した視点で統合作品として見ていますから、その違いだと思いますよ。
日野:もちろん、仕事のやり方の違いで異なる楽しみがあると思います。ただ、ものを作るというときに、“ユーザーと一緒に楽しんでいる感”を味わえるものが、僕の持っている駒の中にはないんですね。僕はそこがうらやましい。がんばって配信番組をやっていますが、なかなか吉田さんのレベルには達しないですね(笑)。
――スタンドアローンは黙々と詰めていくイメージに対して、オンラインはユーザーからのフィードバックを受けて返していく、と。同じRPGでも、スタンドアローンの作品とオンラインでは、作り方が大きく違うんですね。
その括りとしての“RPG”についてですが、RPGの何が魅力かと言えば“物語をインタラクティブに体験できる”ことだと思います。ですが、今の時代はRPGに限らずアクションやFPSなどでも豊かな物語が展開することが当然になってきています。そんななかで、お2人が考える“RPGというジャンルが持つ独自の魅力”は何だと思いますか?
日野:根本的に、別の世界に降りて自由に楽しむのは現実ではできないことですよね。僕は、そういった“仮想の世界で違う体験をする”ということが好きですね。
吉田:小説を読めば物語を楽しむことはできます。ゲームのメジャーなRPGが世に出る間隔よりも、ヒット作家さんが生み出す作品のほうがサイクルも早い。しかし、とくにトリプルAと言われるような大作RPGは、画面的な作り込みもすごいし世界への没入感もあります。キャラクター個々人のエピソードが描かれていて、そのキャラクターを操作して“体験できる”。わざわざキャラクターを育てて、武器を買うためにお金を貯めて、出会いや別れがあって……。
そういった部分で、単に受け身のメディアでシナリオを見るよりも、何倍もの衝撃や印象を体験することができる。そういった体験を唯一、ダイレクトに味わえるのがRPGかなと思っています。“ロールをプレイできる”という意味なので、そこが大きいのかなと。僕の場合は、『FFXIV』でもスタンドアローンの作品と同じような体験があったほうがいいと思ってシナリオ面も重視して作っているのは、それが大きいです。
――『FFXIV』は物語性や世界観が相当に練られていますよね。『紅蓮のリベレーター』の制作にあたっては、メインシナリオライターの織田万里さんと石川夏子さんとで“シナリオ合宿”なるものを開いたという話も伺っています。
吉田:MMORPGというジャンルとしては、ストーリードリヴン型というのは非常に稀有なものです。ただ、『FFXIV』はMMORPGである前に『ファイナルファンタジー』ナンバリングの1つなので、当然としてシナリオを期待する人たちがいます。そのため、しっかりとエンドロールが流れますし、一区切り終えたときに「お話がおもしろかった」と思ってもらえなければ意味がないと考えています。
『FFXIV』では、“エンドロールが流れるまではMMORPGならではの自由度を奪う”という無茶をしています。その結果、それがユニークだと評価された部分になりました。MMORPGを知らない人にとっては、取っ掛かりとして遊びやすかったと言ってもらえたこともありますので、『ファイナルファンタジー』のナンバリングタイトルとしては正しい選択ができたかなと思っています。
――RPGの手触りとして、昔はアドベンチャーゲームに近い……いわゆるコマンド型が多かったですが、最近はよりアクション寄りになってきたと感じます。『二ノ国II』でも、バトルはアクション寄りになっていますよね。
日野:前作の『二ノ国』はコマンド型だったのですが、今作ではアクションになっています。海外のメディアからも、「なんで変えたのか?」とよく聞かれますね。ただ、それはポジティブに受け取ってもらえているようです。この変更の根幹には、コマンドを入力するよりも、ボタンを押して技が発動するほうがキャラクターとの一体感を感じられる……という体験の違いがあります。
どちらにしても、今のRPGは自キャラ以外オートバトルで戦うという仕組みが主流です。それによって、バトルの雰囲気を楽しむ。細かい戦略よりも場の迫力や体験が重視されているのが最近のトレンドなんですよ。僕もそれを楽しいと感じていたので、コマンドを入れるよりも場のリアリズムを重視したシステムにしたという経緯です。
――昔のMMOと比べると、『FFXIV』も見て反応するアクション要素が多いですよね。
日野:まさにそうですね。
吉田:RPGにおいては、そろそろアクションやコマンドという垣根で分けないほうがいいのではとも思っていて。僕らの世代は、当時のハード性能もあって、コマンドを選んで戦うしか選択肢がなかったんです。
もともとはテーブルトークRPG(※2)からきているものですし。ですが、今の子どもたちはそうではありません。例えば、RPGの昔を知らない子供にコントローラを渡して「敵と戦ってみて」と言うと、キャラクターを操作し、敵に近づいてボタンを押して殴ろうとするはずです。単純に、技術の進歩によって“コマンドを挟まずに攻撃できる”というストレートな表現ができるようになっただけだと思うんです。
――ある意味、最近はジャンルレスになってきているのかなとも感じますね。今出ているRPGの数々にアクション要素がないかと言われると、少なからず何かしらのアクション要素が入っていますし、アクション作品にも濃厚な物語が詰まったものも多いですし。
吉田:『モンスターハンター』がいい例ですよね。1手1手詰めていくことに慣れているテーブルゲームで育ってきた人間からすると、『モンスターハンター』のスピード感やカメラで全範囲見る必要があるところなんかは、なかなか難しいトコロなんです。
ですが、年齢が下になるほど、それに問題なく順応して遊んでいる。そちらのほうが、動作としてストレートだからです。近づいて殴る、見て避ける。昨今は、その年齢的な境界がユーザーの中で混在しているので、あまり“アクションRPG”といった細かな分類の意味がないのかなと思いますね。
日野:日本では“アクション”が付かないRPGは「コマンドを選ばないといけないの?」となりがちですが、海外ではその分類はないんですよね。今でもRPGと聞いてコマンド型を連想するのは日本だけで、日本のローカルな文化なんです。自分が好きな『ドラゴンクエスト』のようにそれがおもしろい作品も多いので、いい・悪いの話ではないんですが。
――今回のテーマとは矛盾してしまいますが、RPGというジャンル自体がいろんなものに溶け込んでいる感じはしますね。
日野:RPGというのは、定義が難しくなっていますね。アクションと呼ばれている作品でも、スキルツリーといった成長要素が入っているものも少なくありませんし。そういう意味では、“RPGという概念”はものすごく幅広くなっているのかもしれないですね。
――ジャンルだけでは直接的にそのゲームの遊び方に直結しなくなっていますよね。そのようにジャンルがゲーム性を直接示さなくなっている現状で、ゲーム開発を新しく立ち上げようとしたときに、どういうものを“ゲームの核”として制作を始めるのでしょうか?
日野:僕の場合は、1つのキーワードからですね。例えば、タクシーのなかで“妖怪”と“ウォッチ”をくっつけた『妖怪ウォッチ』という言葉を思いついて、「じゃあ、どういうものが妖怪ウォッチなんだろう」と連想していきます。『イナズマイレブン』のときも、呼びやすくてサッカー物だとわかるワードを最初に思いつきました。
そういう、発想のきっかけとなるキーワードや画から空想を膨らませていくというパターンが多いです。少しずつ、自分の頭の中で粘土細工を作っていくようなイメージでやっています。なので、僕の場合は、ゲーム性やシステムからは入らないパターンが多いですね。
――最初は漠然としたイメージがあって、そこからゲームにもなりえるし、アニメにもなりえると。
日野:その2段階目で、思いついたイメージが“スタンドアローン”が合うのか、はたまた“MMO”が合うのか、最初のワールドイメージができてからどんなゲームにしようかなと考えていきます。ここは吉田さんと違うと思いますが、最近はゲームよりもゲームを含んだクロスメディアプランニングをすることが多いので、どうしてもそうなっちゃいますね。
吉田:僕の場合は「こんなことができたらおもしろいな」を、だんだんシステムにしていこうとする方ですね。子ども時代に公園で遊ぶとなったときに、いつも同じメンツが集まると同じ遊びでは飽きてくるので、公園にあるものを使って独自ルールの遊びを作っていく、そんな感覚に近いです。
逆に、僕はタイトルを付けるのがすごく苦手です。「この遊びになんて名前をつければいいんだ」というのが、全部決まってからじゃないと決められなくて(苦笑)。
日野:『FFXIV』で組まれているシステムの形というか、遊びのサイクルは本当に素晴らしいですよね。ですが、あまりにもそれが美しすぎて、パターンになっているのが気になっていたのですが、今度発表されたコンテンツはそれをくつがえすものになっているようで期待しているんです。
吉田:それ、会うたび毎回言いますね(笑)
――『FFXIV』の話になりますが、既存のものとは味わいの異なる“禁断の地 エウレカ”が実装されました。旧来のMMO的要素と昨今のMMO的要素がブレンドされたコンテンツになっていますが、こういったコンテンツを実装しようとした意図を教えてください。
吉田:良い意味に受け取っていただきたいのですが、僕は『FFXIV』の中で試行錯誤をしています。”実験室”のようなコンテンツ。昔の“雲海探索 ディアデム諸島”もその一環です。
日野さんがお話された“キレイなパターン”というのは、長期運営するには絶対に必要な要素です。高速に物を作って提供し続ける。ですが、10年以上サービスを続けたときに遊び続けてくれる人の割合は、現実世界での変化もありますからそう多いわけではありません。
それを考慮して、だいたい1年半~3年ぐらいで何割かのプレイヤーが入れ替わっていくと想定したときに、初期からいる人を満足させるだけの変化を続けていくと、新規のプレイヤーが参入できなくなり、いつか規模がしぼんでいくことになります。それではMMORPGとして、あまりにも“終末に向かって進んでいく感”しかない。
ですので、一度失敗しているプロジェクトを預かっているからこそ、安定は最優先で守りつつも、“チャレンジする場所”を必ず用意する必要があるだろうと。プレイヤーの皆さんにとっても、僕たち開発チームにとっても同じです。もし、“マイクロトランザクションに切り替えて、人数が減ってもいいからこの世界の変化を楽しめる人たちとだけつながっていく”というゲーム性だったら、変化を作り先鋭化だけを追います。
しかし、それですらいつか飽きがきます。開発をしている僕らが飽きたらおしまいですから、今回のようなチャレンジを計画しています。今回の“禁断の地 エウレカ”は、文字通り『FFXIV』にとっての“禁断の地”。第一世代のMMORPGがオープンしたてのように、モンスターを狩り、レベルを上げる、ただそれだけのシンプルさにしてあります。
日野:そこまで豪語するとは……遊ぶしかないですね!
吉田:起きるハプニングが、昔からMMORPGをプレイしている方には、見たことあるものばかりかもしれません。たくさんモンスターを引き連れて走ってきた人に、ヒーラーがよかれと思って回復を飛ばし、その瞬間、そのモンスターが全員こっちに向かってきて、パーティ全員が戦闘不能になってレベルダウン……みたいな。
「今の時代に、なんでそんな火種を持ち込むのか」と思われるかもしれませんが、そのために1つのコンテンツにしてあります。ゲーム全体がそうなるわけではないので、こういったチャレンジが可能です。
日野:それ、いいと思いますよ。高難易度コンテンツのサイクルは、それで美しくできているので、それはそれで新しいユーザーを入れながら去る人もいると。今回のような新しいコンテンツは、そういうものをやりつつ新しいものを受け入れてもらえるかどうか、というチャレンジなんですね。
吉田:僕は、MMORPGにおいて全員が遊ぶコンテンツはありえないと思っています。データを見ると、メインシナリオですら100%ではないんですよ。世界の風景の写真を撮ることを楽しみに遊んでいる人もいます。そう考えると、遊びの1つとして“禁断の地 エウレカ”という新型ジェットコースターが入るので、そこでスリルを味わってもらえればいいなと。このコンテンツは、合わない人は合わないと思います。
日野:ジェットコースターぐらいの規模感なんですか? なんか、もうちょっと大きいと思っていたんですけど……。
吉田:これから拡張していきます。先ほどお話ししたように、まだローンチしたてでコンテンツがない。第1弾“アネモス編”の次には討伐指定など、レベリング基礎に別の遊びが加わります。最初からこれらを実装してしまうと、結局FFXIVになってしまう。そうしたいわけではなく、「どこが境界線なんだろう」というのを、きちんと探していきたいのです。
――あのシステムのなかで、ユーザーがどういうコミュニケーションを取るか気になりますね。おそらく、今までよりもコミュニケーションを取ったほうが楽しいコンテンツになると思います。
吉田:そうですね。普段は、パーティ募集という便利なものに慣れている人たちが、どうコミュニケーションを取るのかも注目したいですね。
日野:昔は、すごくしゃべっていたのですが、今は挨拶しかしないときもありますね。
吉田:“よろ・おつ”的な(笑)。
日野:MMOが盛り上がるのは、“わからないとき”なんですよ。そこで、「そこでこれってどうするんだろう?」という話題が生まれるんですよ。なので、把握していけばしていくほど会話がなくなっていくんですよね。今回のものにいろんな謎がたくさんあれば、会話がたくさん増えるかもしれないですね。
――来週実装なので、今から楽しみです。
日野:そのためにパソコンを買い替えましたからね!
吉田:先程オフィス見学をさせていただいたのですが、東京オフィスの日野さんのPCが既におかしいんですよ……デスクトップのサイズが、サーバーマシンかと思うぐらいデカイんですよ(笑)
日野:“TITAN X”というグラフィックボードを4枚刺しています。これはもう古いパソコンなんですけどね。
吉田:そんな状態なので、それぐらい大きな冷却システムじゃないと動かなくなるんですよ。こんなに大きな“パーソナルコンピュータ”を見たのは、生まれて初めてですよ……。
日野:個人宅には最新鋭のものが3台ありますよ。この前、初めて半水冷にも手を出しちゃいました。
吉田:水冷はカッコイイですからね。とくにスケルトンの水冷は本当にカッコイイんですよね~……。
日野:最新の筐体ですごくカッコイイのがあって。次は、“TITAN V”に手を出そうかと思っています。でも、めちゃくちゃ高いんですよね。
吉田:日野さんくらい成功している社長さんなら、僕らの世代は車に手を出しそうなものなんですが……日野さんが、スポーツカーのように最新鋭のグラボやPCのよさを語るのがおもしろく仕方がないですよね(笑)。
日野:今作っているパソコンもナカナカのもので。正直、高級外国車なんかよりも自作パソコンにお金使っていると思います。
――感覚的には、大衆車とスポーツカーという感じですね(笑)。各オフィスや自宅にパソコンがあるということは、空いた時間に『FFXIV』のプレイをしている感じなのですか?
日野:僕の自由時間はスキマの時間しかないので、ちょっと間が空いたら何かをするという感じです。基本的に、家ではゲームをして、会社ではパソコンを作ったりしていますね。今までは、家に帰ったらとりあえず『FFXIV』をガッツリやるというサイクルだったのですが、最近はそこも仕事に侵食されていまして……。
ここを奪われると、クリエイティブな発想が削がれてしまうので困っています(笑)。もちろん、1人プレイのRPGもやっていますし、その時間はとても大事ですね。Nintendo Switchの『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』は300時間ぐらい遊びました。
そうそう、そのあとに遊んだ『アサシンクリード オリジンズ』は、吉田さんとじっくり話したいと思っていたんですよ。この世界観の作りは、システムも含めてすごくよくできていて。クエストを1つクリアしてレベルを上げてスキルを反映するという、ゲームのサイクルもかなりよくできています。
個人的には、『ブレス オブ ザ ワイルド』をしっかり研究した部分もあると見ているんですよ。1つのゲームがほかの大きなゲームシリーズに影響を与えて、完成度の高い1人プレイRPGが生まれているんです。今、MMOは当然楽しいですけど、MMOでなくてもよくできた世界観というものは、MMOのように楽しめるんですよ。「この世界観のコイツの喜ぶ顔が見たい」「この子にお礼を言ってもらいたい」と思えるかどうか。それこそが、“世界観が出来上がっているかどうか”なんです。そういう意味で、『ブレス オブ ザ ワイルド』も『オリジンズ』も本当におもしろかった。
吉田:そういう意味で、MMOらしい体験がスタンドアローンのゲームで楽しめるようになってきているので、MMOはかなり厳しい状況になりつつあると思います。あれだけ世界が作り込まれていて、広さがあって。起きる出来事というのが、ちゃんと配置されていると、1人で気楽に世界へどっぷりとハマり込んでしまえるので、MMOはますます厳しくなっていくでしょうね。
――話は変わって、1つの世界を描くということには膨大な時間と人手が必要になりますが、それにも限りがあるわけで、どこかで割り切る必要が出てくると思います。今回の『二ノ国II』で世界を描く際に重視した部分はどこですか?
日野:『二ノ国』にはスタジオジブリさんと作り上げた世界観があります。今作でも、前作から引き続き、元スタジオジブリの百瀬義行さんや、久石譲さんといった方々に制作に参加していただきましたし、そこにある空気とか、そこを自由に歩ける喜びとか、クエストをクリアしたときに「このキャラクターがカワイイので、この人にお礼を言ってもらいたい」という気持ちを抱けるかどうか……、『二ノ国II』の世界にちゃんと“居たい”と思えるかどうかを重視しています。
なので、空気感を含めたアートの面はすごく気を使って作りました。街の1つ1つにバリエーションを付けて飽きさせないようにしたり。
――まさに、前作からスタジオジブリの流れを汲んでいるだけあって、独特の世界観になっている感じですね。
日野:そのとおりですね。そこを意識して作っています。
吉田:日本発のゲームでこの規模のもの遊べる機会は、もうそんなにないと思います。日野さんには、そこをもうちょっとアピールしてほしいですね。「俺のあとに続け!」みたいな。
日野:純粋なRPGというよりも、今は『モンスターハンター:ワールド』や『FFXIV』のように、“みんなで楽しむ”ゲームが主流ですよね。1人プレイを作るなら、『The Elder Scrolls V: Skyrim』や『オリジンズ』みたいな規模でやらないと、1人プレイのゲームとして認めてもらえない、“本格的RPG”として宣伝できるものを作ることが難しくなっていますよね。
――『二ノ国II』をプレイしてまず感じたのが、昔ながらのRPG好きで「このRPGこそ、僕がやりたかったものだ!」と思う人が多いんじゃないかということでした。さきほど吉田さんもおっしゃっていましたが、こういう正統派でかつ大きなRPG作品は近頃少なくなっていますね。
日野:そうだと僕もうれしいですね。そう思ってもらえるように作ったんですが、どうでしょう。海外では100万本以上という数字が伸びるのですが、日本でこれを宣伝していくときに課題は多くて。『モンスターハンター:ワールド』のようなゲームは、「大きな敵をみんなで倒すんだぞ」と、とてもわかりやすい。
逆に、1人プレイを重視している人は少なくなってきているので、1人プレイとして宣伝する難しさは感じています。それ以外の別のアピールポイントを作っていかないといけない時代なのかもしれないですね。
吉田:“手に取ってもらえる”ということと、“ゲームがおもしろいかどうか”が、イコールではない時代ですからね。悲しい話ですが、内容で勝負するよりも、SNSをそれ一色に染めてしまったほうが、“手に取ってもらえる”だけを考えると機会は多くなりますから……。
これは広告という意味だけではなくて、みなさん“広告にも嘘がある”と知っているわけなので、“広告”と“それを疑う声”という両面が埋まれば、いずれにせよ“興味が湧く”という全体の流れができるので、そこで手に取ってもらえる。その先に、やっと“おもしろいかどうか”が付いてくるわけです。
――手に取ってもらうための第1関門に、まず到達するかどうかというところですよね。スケジュールという意味でも、お金という意味でも、ものすごいコストをかけて、情熱もテクノロジーもかけて作ったその先に、それと同じぐらいの手に取ってもらうための努力が今は必要になっているんですね。手に取ってもらった評価という意味で、前作は海外で非常に高い評価を得られていますが、その理由は何だと思いますか?
日野:たしかに、日本と比べて何倍ものインパクトがあって、ものすごい本数が売れました。さまざまな賞をいただいて、僕自身もかなりびっくりしたんですよ。「え?」という感じで(笑)。
1つは、海外にとって新しい世界観だったということがあると思います。海外の作品といえば、ほとんどのものが青年~壮年の主人公で、少年が主人公というRPGがほとんどないんですよね。その希少性に加えてさらに、ものすごく少年視点で、純粋に人と心を触れ合わせるドラマが展開します。
こういったスタジオジブリっぽく展開する部分は、かなりこだわったので。そういうイベントで取り扱う物語の感覚といったものが、海外作品と比べるとまったく異次元の個性を持っていたんだと思います。ひと言で言えば、個性的だったということですね。それを“スタジオジブリの格調高いジャパニメーション”というイメージと、久石譲さんの持っているイメージが、後押ししたというところでしょうか。
――つまり、日本でしか作れない個性が海外でヒットしたということでしょうか。
日野:そうですね。世界共通の感覚として、自国の作品がメジャー感になるのは間違いないと思うんです。ですが、僕も海外の作品ながら「その世界観がすごく好きで、その世界で遊びたくなる」という気持ちはわかるんですよね。昔、『プリンス・オブ・ペルシャ』という海外のゲームがありました。
それまでは『ドラゴンクエスト』の勇者像が一番カッコイイと思っているなか、その作品のアートを見たときに、これが日本にとって異質なものと感じながらも「もっと扉の向こうを見てみたい」と思ったんですね。その感じが、僕を惹きつけたんです。『二ノ国』も同じように、日本テイストを感じるものでありながら、その扉の向こうの世界を見たいと思ってもらえる統一感や個性があったと認めてもらえたということなんでしょうね。
――前作のニンテンドー3DS版に付属していた、マジックマスターという本(※3)が印象的でした。
日野:僕も、本ができたときはものすごく満足して、「こういうエンターテイメントをやれるのが幸せだな。社長でよかった」と思ったのですが……。みなさんにも好評価を受けていましたが、僕は内心で「ダイナミックなチャレンジをしすぎたかもな」と思っていました(笑)。
後悔はしていないんですけど、大きすぎて持ち歩けないんですよ。携帯ゲーム機であるニンテンドー3DSのソフトに持ち運べない本を付属させたのは、もう少し違うアプローチがあったかもしれません。
その後のPS3版を出す際には、やはり“本が付属している”という販売のしにくさが際立っていたので、ゲーム内で読める仕様に変更しました。本当の意味でユーザー視点には立てていなかったと、反省しましたね。「電車の中でコレを開けますか」と昔の僕に聞きたい。これは、作る側のこだわりでやっちゃいましたね。
吉田:そこを恐れずチャレンジするからスゴイと思います。失敗があるから成功する。この世に成功しかしない人はいませんよ……。たまに、「日野さんはどういう方なんですか?」と聞かれたりするんです。「成功しているところしか見ていない人からはわからないと思いますが、"バットを振らないとヒットを打てない。空振りをするリスクもある。しかし日野さんは日野さんの理屈の中で絶対にバットを振る"ので、それがすごい人です」と答えています。
日野:そう言ってもらえるのはうれしいですね。
吉田:そういえば、『二ノ国II』について少し気になることがあるのですが、なぜサブタイトルが英語なんですか? 日本人からすると、“レヴァナント”はなじみのある単語ではないですし。たしかに、少し前に同名の映画があったので、単語を見たことがある人がいるかもしれませんが……。
日野:それは、当初は海外に向けて作ったからなんです。じつは最初、日本版を出すかどうか迷っていた時期があって。でも最終的には日本版もやる気マンマンで作りましたよ。超豪華キャストですしね(笑)。
ですが、お金を出してくれて本当に好きだと言ってくれる人たちに向けて作るのが、エンターテイメントの基本だと思っています。『二ノ国』は海外の人たちに受け入れられて、たくさんの賞までいただきましたから、そこに1つのターゲットを据えるべきだと。そういう流れで、タイトルをローマ字表記にして、サブタイトルも英語にしています。
吉田:なるほど。
日野:たしかに“レヴァナント”はけっこうネガティブな単語ですし、「作品の中身とも合ってないのではないか」と開発でも物議を醸しました。
吉田:手に取ってもらう人のことも考えて、それだけ考え抜いた結果ということですね。
日野:ポジティブなことばかりを言ってもおもしろくないから、「王国が危機に直面するんだ」「それをどうやって救っていくのか」みたいな打ち出しをしたほうがいいということで、たくさんの案の中からこのサブタイトルにしました。
――ストーリーのコアな部分で、一番描きたかった部分はどのようなことですか?
日野:本作は、人を率いるということをテーマにしています。進軍バトルで多くの兵を率いてのバトルがあったり、冒険で出会った人を自国民としてスカウトすることもできます。ゲームのハック&スラッシュ的要素の一部として、人を集めることもできます。
個人を育てるのではなくて、国を育てるイメージですね。その部分が、ストーリーのテーマでもありますし、システムとしてもテーマになっています。
――フニャも集められますよね。
日野:それもテーマの1つですね。フニャを集めることで、たくさんのフニャを率いて戦うことができます。
――ゲームを完成させた手応えとしてはいかがですか?
日野:社内のチェックチームからも、とてもいい評価が上がってきています。数カ月前までは納得できるものではなかったのですが、それからグングンとクオリティが高まっていって、最終的にはいい形に仕上がったと思っています。発売されるバージョンは、自信を持ってみなさんにお届けできるものになっていますよ。
――いろいろな方が口をそろえておっしゃっていますが、やはりゲーム制作においての"最後の数カ月"は重要なんですね。
日野:重要なんですが、とくにレベルファイブは最後の追い込み方が異常ですね。最後の2カ月は、作品の変化が凄まじかったです。夏休みの宿題を最後の日に持ってきすぎって感じですね(笑)。でも、おかげで最終的にはいいものが出来上がりました。
――吉田さんはまだプレイされていないと思いますが、これまで発表された映像をご覧になっていかがでしたか?
吉田:僕は海外のイベントが印象的で、『二ノ国 II』は画面的にも異彩を放っているんですよね。そこに注目して集まっている人たちと一緒に、現地のスタッフがライブストリーミングで配信しているのを見たのが最初です。
日野さんがおっしゃったとおり、世界がとにかくこだわり抜かれていて、たった1つのロケーションを見ても、その特異性が感じ取れました。大作RPGというものは、その魅力的な世界がずっと続いていることが条件の1つなので、「日野さんは、よっぽど本気なんだなぁ……」と思ったのを覚えています。
『二ノ国II』が発売を延期するという話を聞いたときも、「あのクオリティで作ってるなら、まぁ仕方ないよね」と思ってしまうあたりが職業病。「たぶん日野さんがガッツリ触り始めて、こうじゃないああじゃないっていう時期が始まったんだろうな」と思ってましたよ。スタッフの皆さん、大変そう、と(笑)でも、そのときに僕は日本のユーザーたちの「こんなに楽しみにしているのに、発売延期だなんて!」という嘆きをたくさん見たんです。本当に期待されてますよね(笑)。
直球ストレートで真っ向勝負を仕掛けてくる国産大作RPGは、めったに世に出ません。しかも、それは『ファイナルファンタジー』でもなく、『ドラゴンクエスト』でもなく、『キングダム ハーツ』でもない。そういう作品は、本当に日野さんが仕掛けるぐらいしかないので、ぜひ皆さんに触ってほしいですよね。
日野:完成して、本当によかったと思っています。
吉田:例えば「『二ノ国III』を作ろう」という話になったとしても、このクオリティを超えるものを作ろうとしたら、軽く3年近く必要になりますもんね……。
日野:そうですね、それぐらいはかかっちゃうかもしれませんね。
吉田:ということは、今の世代の家庭用ゲーム機で腰をどっしりと据えて遊べる国産大作RPGは、もしかしたら本当にこれが最後かもしれませんし。
――そうですよね。今そういうゲームをそうカンタンにプレイできるものではないからこそ、日本のゲームファンにも触ってほしいという思いはありますね。
吉田:絶対に、「すごいな」と言ってもらえる作品だと思います。合う・合わないはあるでしょうが、“ゲームのすごさ”は触ってもらえばすぐわかると思います。
日野:システムには、僕からユーザーに向けた提案がけっこう入っているので、それは体験してほしいなと。1人ではない、自分にたくさんの人がついてくるというさまをストーリー的にも重視していますし、味方が増えていくことをシステム的に体感できるものにしています。
――今年でレベルファイブ立ち上げから20周年になりますが、この20周年を振り返っていかがですか?
日野:20周年を振り返ってですか……。がんばって走り続けてきたなという感じです。つい最近、会社を登記したかのような感覚で、本当にあっという間でした。
――そんななかで気になることとして、昨年末に「20周年記念作品はオンラインゲームとか」といった発言もありましたが……?
日野:どこかで口走ってしまっていましたね(笑)。まぁ、吉田さんともいろいろセッションをさせてもらいつつ、そういう方向の作品を作りたいかなとは思っていますね。
――日野さんが、どんなオンラインゲームを作るのかは非常に気になりますね。
日野:これもさっきの“RPGという概念は?”というのと同じで、“MMOってなんだっけ?”という話もあると思います。ですが、僕はMMOだったりMOだったり、オンライン要素があるけど1人プレイゲームだったり……といった定義を気にせずに、作りたいシステムに必要な技術を集めて個性的な作品を実現させたいなと思っています。
――たしかに、オンラインゲームという定義も近年あいまいになっていますね。大きくとらえれば、オンライン要素がないゲーム自体が少ない時代になっていますし。
日野:“オンラインゲーム”という言い方自体が、すでに古いのかもしれませんね。
――そういう意味では、『FFXIV』もMMOという形には縛られないものになってきている気がします。
吉田:僕もあまり意識していなくて、むしろメディアの方々から聞かれることが多いので、「MMOです」と答えている感じはありますね。どちらかといえば、“みんなで遊ぶRPG”だと思って作っています。
――非同期型のオンラインゲームもたくさんありますし。
日野:非同期オンラインは、次のトレンドに成りうるキーワードかなと思っています。
――吉田さんとしては、“禁断の地 エウレカ”で新たなトライアルをされています。『FFXIV』の中で、今後もこういったトライアルの計画はあるのでしょうか?
吉田:ありますし、開発も進んでいますが、まだ話せないですね。いずれ発表できると思いますが、もう少し先になります。
――それは、これまでにあったレイドとかではないものですか?
吉田:純粋に既存コンテンツのパワーアップ版もあれば、「そんなこともやってたのかよ……」と驚いてもらえるようなものも控えています。
日野:おお! でも、もっと聞きたいことありますよね?「次のMMOは作っていないの?」って(笑)。
吉田:ハッキリ言いましょうか? 作ってないです!! これで作ってたら、どうかしてますよ……(苦笑)。今の時代で勝ちにいきたいのなら、ひとつで“全部をやれ!”なんです。二つ作る意味がない。
あえてMMORPGと言いますが、要はそれぐらい今のゲームは巨大な市場で、そうしないと勝てないんです。ゲーマーの限られた時間を奪い合うわけですから、全部を潰しに行くぐらいでないと勝てない。もし、もう1本作っているとしたら、『FFXIV』もライバルになってしまい、あまりにも効率が悪すぎるのです。
日野:MMORPGというジャンルにおいて、まさに僕も同じ考えで。今の吉田さんの話を聞いて、確信に変わりました。オンラインゲームを作ると口で言うのはカンタンなんですが、それをやるなら全スタッフを注ぎ込まないと作れないんです。なので、今社内を1つのラインに向けるという、全スタッフを注ぎ込むための体制を整えています。
――それは、かなりすごいプロジェクトになりそうですね。
日野:そうしないと吉田さんと同じことはできないんですよ(笑)。
吉田:もう十分じゃないですか(苦笑)。『旧FFXIV』は、危機的状況に僕が声をあげたことに対して会社全体が賛同して一丸になってくれたので、なんとか立て直すことができました。
本当は、最初からそれぐらいの規模でやらなければいけなかったのだと思います。遅れた対応になってしまいましたが、なんとか間に合った形です。あとは、ファンの方々に支えていただけたことが何より大きかった……。ですが、もし僕の預かり知らないところで仮に「『ファイナルファンタジーXIX』はMMOで」なんて話が動いていたとしたら、それこそ今すぐにでもちゃぶ台返しにいきますよ(笑)。
日野:『XIX』!? (笑)。
吉田:もう、すぐそうやって煽る……ナンバーは適当に言いましたからね!(笑) でも、本来はそれぐらいの規模でやるものなんです。アメリカのスタジオならスタッフの生活のすべてを投入して、100億規模で勝負するというのが、今のAAAタイトルです。大型のMMORPGはそれを凌ぐ規模になってしまいます。
日野:トップを走るゲームを作るというのは、そういうことなんですね。『アサシンクリード オリジンズ』みたいなタイトルを作ろうとすると、それぐらいの規模で動かないと相手にされないですから。
吉田:『アサシンクリード オリジンズ』も、最後は世界中のスタジオを全投入したそうですもんね。二千数百人規模になり、全スタジオのレンダリングマシンが動いていたようで……。そういう意味で、Ubiさんは本当にすごいです。
日本ではプロデューサーというと、作品にとってひとり、というイメージかもしれませんが、Ubiさんは、ひとつの作品の要所毎にプロデューサーがいて、アニメーションだけとか、ボイスオーバーだけとか、フェイシャルだけとか、そんなシナプスのようにお互いが繋がった組織。それが世界中に散って一気にアセットをまとめあげる。大作を作らせたら世界一なんじゃないでしょうか。
――会社規模の話といえば、吉田さんは4月1日付けで取締役になられるそうですが、それによって『FFXIV』の開発への影響ありそうですか?
吉田:『FFXIV』に関しては、何も変わらないです。会社には「僕が今やっていることについて、取り上げる・止めさせるということがあるなら、取締役はお受けしません」と伝えてあります。
――ユーザーの間では、「プロデューサー兼ディレクター兼執行役員兼取締役か。どれだけ役職が増えた」みたいな反応が多かったです。
吉田:SNSを見ていておもしろかったのが、「吉田は肩書までジャラジャラしてきて草」というのがあって。「たしかに。ウマイこと言うなぁ」と爆笑してました(笑)。
日野:さすがですね(笑)。
吉田:僕は理詰め型の仕事人間なので、スタッフには納得のいく仕事をしてほしいと思っています。これは『FFXIV』チームでもそうですし、第5ビジネスディビジョンでもそうですし、会社全体でもできるだけそうあってほしいと思っています。今までのポジションだと、なかなかその“もう1手”が打てないことがあったので、“決議を執行する役”ではなく“決議する側に回れるならお受けします”とお話ししました。
――吉田さんが「FFXIVでこういうことをしたい!」というのが、より通しやすくなった感じですね。
吉田:そういった区別はきっちりつけるタイプなので、僕が自分からそういうことを言うことはないと思いますが、まもなく5年経過する今でも、数字の結果は常に上昇していますし、『FFXIV』のサーバーがいきなりシャットダウンして「サービス終了です!」みたいなことはなくなったと思います(笑)。
日野:『FFXIV-2』というのはどうですか?
吉田:「FFXIVのスタンドアローン版を作りたいね」というのは、開発内で話題にはでますが……。あれだけのアセットとテキストボリュームがある作品ですから、オンラインというだけでプレイされない方がいるのは勿体ない。それこそ“ガンビット(※4)”のように主要NPCである“暁の血盟”メンバーをオートで操作しつつ、シングルプレイするのもおもしろいとは思いますけどね。
日野:いや、そうではなくて。もう1つ別の世界やフィールドを1からすべて作って、『FFXIV』のキャラをそのまま移行できるようにするという感じですよ。
吉田:……日野さん、めちゃくちゃカンタンに言いましたね(笑)。ですが、それはMMO業界で未だに達成できたことがない要素なのは確かです。“一度失敗したMMOが立ち直る”は、皆さんの支えをいただいて、どうにか達成できたかなと思っています。
ですが、“ヒットしたMMORPGの正当続編が生まれない”というジンクスは、まだ誰も破っていないんです。いくつかのMMORPGがチャレンジしたことはありますが、開発中止になったり結局別作品として運営されたりと、未だ成功例がない。チャレンジとしては面白そうですが、そこは、僕じゃなくてもいいかなとも思いますし……。
日野:取締役だから、それも決議すればいいんですよ。
吉田:いや、違うんです。決議はたぶんお金の問題なので、やろうと思えばできると思います。しかし、それを誰が実践するのかというのは別の話ですよ。現行の運営をしながら、2回目の“新生”をするってことですよね!? だったら、ナンバリングは別にしてしまって、キャラだけ移行できる……という形のほうが、まだおもしろくなると思いますし。
日野:ナンバー2的なサブディレクターもいますよね。その人に、現行の運営をまかせてしまうのはどうですか?
吉田:その人も、さきほど話した同志の1人、いわゆるプロジェクトの柱なので、新プロジェクトを立ち上げるなら一緒にやらないと……と、なっちゃいますね。だからこそ、今、ゲーム開発経験がなくても、若くてゲームセンスが良い人たちを、採用していっています。
僕らの作るコンテンツが“キレイなパターン”として整っているのは、そういうところでも役立っています。それをプレイし、開発に下積みから参加して、彼らが先輩の見よう見まねでコツコツ物を作る。これによって、若いうちから3カ月半に1度マスターを上げられる経験を積んでもらう。こうして育った若い世代に、また新しいものを作ってもらいたいなと思っています。僕も今しばらくゲーム開発から引退する気はないですし(笑)。
――仮に、吉田さんが「『FFXIV』ではなく、新しいゲームを作ってください」と言われた際、どういったものを作られるのか気になりますね。
日野:たしかに、それは興味があります。
吉田:アイデアのストックは常にいくつかあるのですが、「別に今じゃなくてもいいや」と思っています。僕はスクウェア・エニックスという会社に所属しているので、世界中の人がスクウェア・エニックスに望んでいるものの延長で、かつ驚いていただけるものを作るのがベスト。それを前提としながら、今持っているアイデアからどれが良いかを考える感じでしょうか。
――話は変わりますが、『イナズマイレブン』ではサンクレッド役の中村悠一さんがレギュラーとして登場しますよね。中村さんはコアな光の戦士としても有名ですが、日野さんとはかなりお話が盛り上がるのでは?
日野:今、声優の中村さんとは収録の際に週1回ぐらいはお会いして会話する機会があるのですが、やはり『FFXIV』のことについて話すことも多いですね。今回のパッチで"魔列車"とか懐かしいものが出てきたじゃないですか。
それを受けて、「過去のコンテンツを取り上げすぎているんじゃないか」という話になりまして。『FFXIV』は言ってしまえば“オールインファイナルファンタジー”じゃないですか。ファン的には、それが非常に魅力的なんですが、それとは別に『FFXIV』ならではのスターが必要だよねと。グダグダと話した結果、「今度、吉田さんも入れて3人で飲もう」という結論に落ち着きました(笑)。
吉田:わかりました、ではサンクレッドをそのスターに……。
日野:うーん、彼ではちょっと荷が重いですかね(笑)。
――ダメですか(笑)。
吉田:わかりました、今度3人で飲みましょう(笑)。
日野:『FFVI』なら魔列車や魔導アーマーなんかがありますし、『FFVII』ならクラウドをはじめとしたキャラクターや神羅カンパニーといった世界観があったりするじゃないですか。
『FFXIV』にも、“『FFXIV』は、このキャラクターが象徴している”というシチュエーション的、またはスター的オブジェクトが必要だって話ですね。中村さんは演技がお上手ですから、収録時間を90分取っていても30分で終わっちゃうんですよ。なので、残りの1時間は、ずっとこんな話をしていました。
吉田:ウチの収録のときもそうみたいです。2時間取ってあるのにすぐ終わっちゃって。さすがお上手ですし、あとはずっと『FFXIV』へのフィードバックだそうです。「ちょっと言いたいことがあるんですけど」と(笑)。
日野:「言ってはいるんですけど、なかなかね!」みたいなことを話してましたよ(笑)。
――それが元で、『FFXIV』に象徴的な何かが生まれるかもしれないですね。
日野:サンクレッドはカッコイイし、中村さんの声も生かされていますけど、やはりもうちょっと新しいキャラクターも見てみたいなと。
吉田:『FFXI』で言うところの“闇王”というような、やっていた人なら「わかる」というものですよね。もちろん、それはわかってはいます。僕らは、開発の舵を右に切ったり左に切ったり、かなり極端に動かしています。
『新生編』『蒼天編』と積み重ねて、『紅蓮編』では『ファイナルファンタジー』ライクなものにかなり舵をきりました。『FFXIV』は巨大なゲームになりつつあるので、中途半端に舵を切っても乗組員にはそれが伝わりにくい。だから全体の向きは、極端に舵を切るようにしています。既に次の進路に舵は切られていますので、もう少しお待ちください。逆に、僕もレベルファイブさんの作品で待っているものがあるんですが……たまには、“アレ”の進捗報告ぐらい聞かせてほしいなと(笑)。
日野:あぁ、アレですね。もう少しですよ。
吉田:本当ですか? それはよかった。ですが、身体だけは気をつけてくださいね。「お前が言うな」って言われそうですが、日野さんは僕以上にハードに働いているので……。
日野:ちょっと、身体は気をつけることにはしているんですけどね。
吉田:日野さんには『天外魔境』を作ってほしいですね。そうなったら、僕も何かお手伝いしたいです。
日野:『天外魔境』でコンテンツファインダーがあったりとか! じつは『天外魔境』は『ドラゴンクエスト』の次ぐらいにハマったRPGなんですよ。
――アニメ表現を取り入れたゲームの先駆け的な作品でした。
吉田:そうですね。あれの新しさとインパクトをもう一回作りたいし、味わいたいですね。
日野:大霊院女彦や法水院紅丸というように、ネーミングもカッコよかったんですよ。「すげーな、このセンス!」と当時思った記憶があります。
吉田:あの名シリーズが、このまま失われていくのは本当にもったいない。
――ではまとめとして、お互いの作品に対してのメッセージをお願いします。
日野:新しいパソコンも作ったことですし、僕は『FFXIV-2』を切に願っているんですよ。もちろん次の拡張パッケージが楽しみですが、これまでにない新鮮な場所をくれという意味で、すべてが新しくなった何かを期待したいですね。
「どこまで続くんだ、このフィールドは!」という新鮮さがほしいんです。スクウェア・エニックスさんと吉田さんの組み合わせであれば、それを実現してもらえると思うので、なんとかがんばってほしいですね。
吉田:それをやるなら僕がもう1人欲しいですね……。でも、本当に今の世代で日本から出る正統派RPGは、この『二ノ国II』が最後かもしれません。それぐらい、開発の追い込み時期の日野さんを見ていると、相当な覚悟でツッコんで調整していたと思うので、できるだけ多くの方に触っていただきたいと思います。
知らないままはもったいなさすぎる。日本でもこれだけの大作を作っているんだ、ということを知ってもらうためにも、とにかく一度触ってほしいと思います。僕も発売を楽しみにお待ちしています!
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注釈
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※1:定期的に配信している生放送番組で、吉田氏が直接『FFXIV』の最新情報を発表している。
※2:サイコロや鉛筆、紙を用いて遊ぶ卓上ゲーム。各プレイヤーは、予め決まったルールに沿ったキャラクターを作成する。プレイヤーはそのキャラクターになりきり、ゲームマスターが読み上げるシナリオをもとに会話(トーク)でゲームを進行させていく。シナリオの要所要所でプレイヤーはダイスを振り、その結果で進行内容も変化していくというもの。『ダンジョンズ&ドラゴンズ』が有名で、これがRPGというジャンルの原点と言われている。
※3:ゲームの進行に必要な文字(ルーン文字)が記載されている本が、ゲームソフトに付属していた。
※4:『FFXII』にあったシステムで、プレイヤーが操作していないキャラクターに対して“HPが50%以下になったらケアルを唱える”というような、細かな指示を複数設定する仕組み。
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