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2018年4月10日(火)

【電撃PS】『モンハンワールド』インタビュー連載第2回:モンスターのAIやアクションの作られ方

文:電撃PlayStation

 電撃PlayStationで連載されているPS4用ソフト『モンスターハンター:ワールド』の開発者インタビュー連載企画。ここでは、電撃PS Vol.653(2017年12月28日発売号)に掲載された“『MHW』のモンスターが生まれるまで 第2回”を全文掲載する。

⇒“【電撃PS】『モンハンワールド』インタビュー連載第1回:モンスター誕生の秘話”記事はこちら

『モンスターハンター:ワールド』

 お話をうかがったのは、エグゼクティブディレクター/アートディレクターの藤岡要氏、ディレクターの徳田優也氏、プログラマーの冨永紘二氏、プランナーの遠藤皓貴氏の4人。モンスターのAIやアクションの作り方に迫る内容なので、ぜひチェックしていただきたい。

生態系の中で作られたモンスター

――本作でモンスターを作る際、まずはどういった点から取り掛かったのでしょう?

徳田優也氏(以下、敬称略):『MH』ではシリーズを通し、モンスターは生態系を成しており、環境の一員であるというコンセプトがあります。据え置き機でリリースするにあたって本作で突き詰めたのが、この生態系と環境です。これらを狩りに利用できるように、フィールドやモンスターを形作っていきました。

藤岡要氏(以下、敬称略):もともと『MH』シリーズには、モンスターをプレイヤーがいろいろな手段で追い詰めながら狩りをするという設計がされています。これまでのシリーズではエリアをいくつかに区分することで、エリアごとにモンスターの追い詰め方が変わるという形になっていました。

 ですが、一方でこれまでのエリアに分けた作りだと、エリアをまたいでモンスター同士の生態を描くのが難しかったんです。本作では、すべてのエリアがシームレスになったことで、よりマクロな形で生態系を描けるようになりました。

――1つのフィールドを世界としてシミュレーションするなかに、モンスターという存在が組み込まれているという考え方になるのでしょうか?

徳田:そうですね。あるフィールドには草が生えていて、それを食べるモンスターが生息している。そして草食のモンスターが集まる場所には、肉食のモンスターがやってくる。さらに同じ草食モンスターをエサにする肉食モンスター同士が争うこともある。といったように、それぞれのモンスターがどういう関係性にあって影響しあうのかを、フィールドに分布図などを作って細かく設定しました。モンスター同士の力関係を示すためのピラミッド型の生態構造図も作りましたね。

藤岡:ただ、ひな形として“古代樹の森”にこういった分布図や生態構造図を作ったため、ほかのフィールドにも同様のものが必要になりました。もし、1つのフィールドだけ分布図や生態構造図を作って、ほかのフィールドに分布図や生態構造図を作らなかった場合、どうしても嘘くさい生態系が生まれてしまうんですよ。

 この分布図は、ただモンスターの種類や配置を考えるものではなく、1体のモンスターを配置するなら、そこにそのモンスターのエサとなるものがなければいけないという、モンスターとフィールドの両方を含めて考えなければいけないものです。そのため、すべてのフィールドの生態を考えるのには、なかなか時間がかかりましたね。とはいえ、この分布図などを作ったことで、各フィールドのモンスターが、なぜそこにいるのかという説得力が大きく増しました。

――肉食モンスター同士の争いが起きるように分布図が用意されているということは、ハンターが介入しなくても縄張り争いは起きるのでしょうか?

遠藤皓貴氏(以下、敬称略):本作はアクションゲームですので、基本的にはハンターが何かすることによって、そのリアクションとして縄張り争いなどが起きます。ですが、ゲームのコンセプトとしては自然のなかで起きていることをハンターが利用するというのが基本です。そのため、プレイヤーに利用できるものを教えるきっかけとして、何もしなくても、モンスター同士が攻撃しあうことも起こり得ます。

藤岡:ただ、さすがにモンスター同士が勝手に争い続け、ハンターが何もしないままモンスターが力尽きるといったことは起きないようにしています。

遠藤:偶然あるモンスターが空腹になって通常とは別のルートを通った際、そこを縄張りとするモンスターが偶然同じ場所を通っていたら、自然と反応しあって攻撃することもあるという程度ですね。

――ハンターのいないところで偶然にモンスター同士が反応したとき、さらなる偶然が重なって環境が利用されるといったことも起きるのでしょうか?

遠藤:非常に起きにくいケースですが、起きることはありますよ。

藤岡:モンスター同士がたまたまめぐりあって争いを始めてしまった場合、確率は非常に低いですが地形などを破壊してしまうこともゼロではありません。

――そういった生態系は、どのようにしてスタッフ間で意識の共有を図っていったのでしょう?

遠藤:発表会のような機会が設けられました。それぞれの担当が資料を用意して、現在の進捗状況だけでなく、これからどういったものを作ろうとしているかという予定も含め、スタッフ全体が集まる場で発表して、情報を共有するという形でした。

藤岡:もちろん社内サーバー上には、それぞれの担当がどんな作業を終えて、今どんなことを進めているかという資料はアップされています。ですが、自分のかかわらない部分は意外と積極的に見ないんですよね。ほかの部署が作っているものも、間接的にはすべての開発スタッフにかかわってくるものなので、知っておかなければいけません。

 そこで、どういう技術が設けられたかや、新しく行えるようになった表現などを、発表会という形でスタッフ全員で共有していました。

――新しいことばかりの『MHW』ですから、やはり発表会もひんぱんに行われたのでしょうか?

徳田:最初は月に1回くらいのハイペースでしたね。ある程度要素が固まってくるに従って3カ月に1回、4カ月に1回とペースを落としていきました。逆に発表会に参加するスタッフは増える一方で、開発当初は50人程度のキャパシティの部屋に全員集まって情報共有をしていたのですが、最終的に開発スタッフが一部屋に集まるのは不可能になり、複数の部屋をサテライトでつなぐ一大発表会になりましたね(笑)。

藤岡:動画を作ったりPDFを用意したりと、大規模な発表会には準備が大事なので、発表を行うスタッフにとってはそれなりに緊張の場だったようです。

『モンスターハンター:ワールド』

いちから作り直されたAI

――生態系をていねいに描いたということは、モンスターのAIも変わっているのでしょうか?

冨永紘二氏(以下、敬称略):開発当初は従来のシステムを使って検証した部分もありましたが、最終的にいちから作り直しています。

徳田:モンスターのビジュアルに関して話した際(前回記事参照)にも触れましたが、まずアンジャナフのもとになった“新獣竜”が、本作のフィールドでどれだけ自由に動けるかの検証から始めました。プロトタイプの地形を歩かせることから始めて、ルート上に木を置いたり水を流したりして、反応できるかも調べましたね。

遠藤:置いてあるものに対してどれだけリアルタイムで判断して動けるかというのが、検証のメインでした。しかし、そのなかには、どうしても対処できないオブジェクトもありましたね。そういったオブジェクトは、最終的にエリア間のアクセントとして配置しています。

徳田:この検証で「この太さのオブジェクトは貫通するようにしよう」など、当たり判定のルールができました。

――『MHW』のシームレスなフィールドでモンスターをスムーズに移動させるためには、基礎から作り直す必要があったんですね。

藤岡:そもそもこれまでの『MH』シリーズでは、対象を点から点へと動かすウェイポイント(下記の図を参照)という手法を用いて、モンスターの動きを制御していました。

『モンスターハンター:ワールド』
▲フィールド上に打たれたいくつもの点(実際には見えない)に、モンスターを直線的にたどらせる移動の制御方法。複雑な地形を移動させにくいほか、移動経路がワンパターンになりやすい欠点がある。(画像は取材をもとに編集部で作成したものです)

 ですが、この手法は基本的に平面での移動に用いられるものです。極端な話、今までのモンスターは自分が高い場所にいるのか低い場所にいるのかを把握していません。これでは、本作のフィールドに適応した移動ができなかったんです。

冨永:ウェイポイントを使った制御では、モンスターが点から点へと直線的に動くので、移動経路もワンパターンになりがちです。そういった事情から、本作ではナビゲーションメッシュという手法を使って、モンスターの制御を行うことになりました。

――ナビゲーションメッシュとは、どういったものなのでしょうか?

冨永:フィールドを細かな区域に分けて、区域間の最短距離をモンスターに判断させながら移動させるものです。この手法だと、モンスターの位置が少し違うだけで移動ルートが変化するので、より生き物らしい動きをしてくれます。そのほか、モンスターが通れる範囲で最短距離を見つけ出すので、地形に引っかかるようなことも起きにくくなりました。

『モンスターハンター:ワールド』
▲フィールドをいくつかの面で区切り、面から面へと移動させる方法。目的地に通じる面への最短距離を、移動するたび確認する。そのため、ウェイポイントよりも無駄な移動が生じにくいのがメリット。(画像は取材をもとに編集部で作成したものです)

――たしかに、以前のシリーズと比べて、地形の縁をなぞるようにモンスターが動くことが少ないですね。

藤岡:モンスターを、フィールド上で自然に動かして、自由に徘徊させるというのが、とにかくたいへんでした。そのぶん、アンジャナフが木の間をすり抜けながら動いている姿を見たときは感動しましたよ。

冨永:今までのウェイポイントを使った移動の制御だと、絶対に引っかかるポイントなんですよ。もしも木の間にうまいこと点を配置してモンスターを移動させられたとしても、その動きはワンパターンだったと思います。

――ナビゲーションメッシュを採用したことで、具体的にはどのような変化が生まれましたか?

冨永:『MH』シリーズの場合、ハンターの位置を認識しながらモンスターが行動をしています。本作では、ここにナビゲーションメッシュを見ながらの移動が加わったので、開発は難航しましたね。『MH』シリーズらしいアクションの遊びと、ナビゲーションメッシュを使った経路探索を混ぜたので、長い間検証をしました。

藤岡:どれだけ新しい技術を盛り込んだとしても、それが『MH』シリーズの遊び方と相性がよくなかったら本末転倒です。しかし、今作のシームレスなフィールドで自然に動くモンスターを作ると決めた時点で、ハンターとナビゲーションメッシュを同時に見ながらモンスターの行動を制御するというのは、相性が悪いからやめるというわけにはいかない必須事項でした。

徳田:苦労したかいがあって、シームレスな世界でありながら狩りが始まると『MH』シリーズらしいと感じられるものに仕上がりましたね。

――徘徊という言葉が何度か出ていますが『MHW』のモンスターは常に動いているのでしょうか?

藤岡:一定の場所を巡回したり、空腹になったらエサのある場所に移動したりする行動は常時行っています。この基本的な行動が、ハンターとの遭遇によって狩りという形に変化していきます。

冨永:モンスターが満腹か空腹かなどの状態を見て、その状態に即した行動をとるようになっています。本作では、よりモンスターが生き物らしく動くようになっているので、ある程度の規則性はありますが、必ず一定のパターンをとるということはありませんね。

徳田:それについては、ちょっとおもしろいエピソードがあります。あるとき“大蟻塚の荒地”でディアブロスを狩猟していました。ディアブロスは“大蟻塚の荒地”の主に相当するモンスターなので、生息地となる地下には基本的にほかの大型モンスターは来ないようになっています。

 ところが、自分がディアブロスと1対1で立ち回っているなか、ふと気がつくと岩を持ったクルルヤックが地下のエリアに来たんです。その時点で珍しいので少し観察をしていたら、なんとそのクルルヤックがディアブロスめがけて手にした岩で攻撃を仕掛けて一目散に逃げていくんですよ。笑うと同時に即座に開発スタッフのもとに行って「クルルヤックがたまにディアブロスにケンカを吹っ掛けに行く仕様はなくさないでくれ」とお願いしました(笑)。

遠藤:岩を持ったクルルヤックは気が大きくなって、自分よりも手ごわいモンスターに攻撃を仕掛けるようになります。それに加えてなんらかの理由でクルルヤックが地下を通りたいと判断したのが、徳田ディレクターの遭遇した偶然のできごとの原因ですね。

藤岡:そのシーンを想像するとシュールですが、本作の狩りはプレイヤーが偶然見つけたことを、次の機会に利用できるようになることで上達していくというものがあります。徳田のケースも自分で目にしたことを利用したくなるという意味で、立派に狩りの一部ですね。

――クルルヤックは、ディアブロスにどの程度のダメージを与えられるんですか?

徳田:それほどダメージは与えられませんが、それは二の次。なにせ“大蟻塚の荒地”の地下は、ほとんど環境として利用できるものがありません。そこに来た予期せぬ仲間の心強さは大きかったですね(笑)。

遠藤:モンスターによる別のモンスターへの攻撃は、相手をよろめかせやすいんです。そのため、心強さとダメージ以外の面でも狩りに役立ちますよ。

――ジャグラスのような小型モンスターも、普段から一定の思考に沿って動いているのでしょうか?

徳田:もちろん動いています。モンスターにはそれぞれコンセプトがあり、ジャグラスはそのなかで「群れで制御するモンスター」という位置づけになります。ジャグラスはドスジャグラスをリーダーとした、群れを成すモンスターなので、ドスジャグラスがエサを持ってきたらそこに集まります。エサがないときは、その周囲を徘徊するといったように制御されています。

――ドスジャグラスがエサを吐き出した瞬間、何もないところから現れているのかと思っていました。

徳田:じつは木の陰や高い位置にある枝の上といった、外敵に襲われにくいところからエサに向かってきています。“双眼鏡”を使ったり、ドスジャグラスがエサを吐く前に周囲を観察したりすれば、エサを待つジャグラスの姿が見られますよ。

藤岡:『MHW』の特徴の1つとして、群れの制御が細かくなったことがあります。これまでのシリーズをプレイしている人なら知ってのとおり、『MH』シリーズにはドスランポスとランポスといったような、モンスターの群れがいました。アプトノスやアプケロスが寄りそっているのも群れの1種です。

 ただ、今まではエリア単位でフィールドを管理していたので、常に群れの情報は目の前にいるモンスターのものしかなかったんですよ。ハンターがエリア切り替えを行った際に、これまでのエリアにいた群れの情報を一時的に捨てて、新しいエリアにいる群れの情報を読み込むといった形です。

 これはこれで、管理しなければいけないデータが少なくてすむというメリットがありました。ただ、本作はシームレスなフィールドで生態系のつながりを描くことを重視しているので、フィールド上で常に複数の群れが生息しています。群れ自体もジャグラスの場合だと数頭の小さな群れがいくつかあわさって、大きな1つの群れを形成しています。群れのなかに群れがある形ですね。

徳田:こういった制御に加え、本作ではエリア間がシームレスにつながったことで、1つのフィールドにアプトノスの群れとジャグラスの群れが同時に生息していることもあります。大型モンスター同士が互いの行動しだいで挙動を変えるのと同じように、群れ同士も常にお互いの情報を見ながら行動を変えていますよ。

――プケプケがダウンした際、ジャグラスが集団で襲いかかるのも群れで制御しているからですよね?

徳田:そうですね。そのプケプケ自体にも特殊なAIが用意されていて、自分より弱いモンスターには強気に攻撃を仕掛けるけれど、自分より強いモンスターを相手にするとすぐに逃げる習性を持っています。そういったモンスターごとの小ネタは、可能な限り多くのモンスターに用意していますよ。

――縄張り争い以外で、モンスター同士が争うケースも起きるんですね。

徳田:まだPVなどでしか公開していないツィツィヤックとシャムオスも、少し変わった敵対の仕方をしています。ツィツィヤックは眩鳥と呼ばれているとおり、強い光を発するモンスターです。一方のシャムオスは暗闇が多いと行動範囲が広がるモンスターなので、シャムオスはツィツィヤックを嫌っています。そのため、シャムオスはほかのモンスターよりも、ツィツィヤックに対して注意を払うようなAIが組まれています。

『モンスターハンター:ワールド』
▲“陸珊瑚の台地”に生息するシャムオスは暗闇を行動する。そのため、光を放つツィツィヤックに攻撃を仕掛けることも。

多彩になった感知能力

――徘徊中やハンターと対峙しているとき以外では、モンスターはどんな思考をしているのでしょうか?

徳田:本作のモンスターは、ハンターを襲っているかどうかだけでなく、状況に応じて細かく思考しており、それに伴う行動を細分化しています。

藤岡:そういったモンスターの状態は、見てすぐにわかるものもあれば、プレイヤーが気づかないような内部的に異なる状態といったものもあります。わかりやすい例ですと、ハンターがどこかにいると意識していながら見失っている状態というのが、新たに追加されています。この状態のモンスターは、隠れているハンターを探してじわじわと近づいてくるので、ハンターがどこかに隠れていてもいつかは見つけ出します。

徳田:草むらにハンターが隠れたときに行う行動ですね。本作ではエリア間がシームレスにつながっているので、ハンターが安全に回復できる場所が必要でした。ですが、ハンターがずっと隠れ続けられると、今度は攻撃しては隠れての繰り返しで、ハンターが一方的にモンスターを攻撃できてしまいます。そこで本作のモンスターは、ハンターを見失うと嗅覚を使ってハンターを探すように設計しました。本作で新たに設けられた要素ですね。

――嗅覚というとアンジャナフの鼻が頭に浮かびます。すべてのモンスターに嗅覚はあるのでしょうか?

遠藤:あります。ですが、モンスターによって嗅覚による感知範囲が異なります。例えば、あれだけ鼻が目立つアンジャナフは、一般的なモンスターよりも広範囲にいるハンターを嗅覚で探すことができます。

――鼻が大きくなったアンジャナフは、通常よりも感知範囲が広がるということでしょうか?

遠藤:鼻が大きくなってもアンジャナフの嗅覚による感知範囲に変化はありませんが、あれは臭いを使ってハンターを探していますよと、プレイヤーに教えるための記号的な役割ですね。

藤岡:臭いは目には見えないし、耳にも聞こえないものです。ですからアンジャナフの鼻は、本作のモンスターが視覚や聴覚だけでなく、嗅覚を使ってもハンターを探しているという、ゲーム全体のルールをプレイヤーに教える意味も持っています。

――草むらに隠れたにもかかわらず、モンスターが迷うことなく突進してきたことがあったのですが、どういった条件でモンスターは嗅覚での探知を始めるのでしょう。

冨永:重要なのは、モンスターがハンターを見失った際に初めて嗅覚での探知を始めるということです。ですから、モンスターが今にも突進を仕掛けてきそうというときに草むらに隠れたとしても、モンスターはそのまま攻撃を仕掛けてきます。

――なるほど。では、モンスターの嗅覚による探知を遮断する方法はありますか?

徳田:当初は視覚に対する“閃光玉”と同様に、ハンターのアクションによってモンスターの嗅覚もさえぎるようにできる予定でした。ハンターが川を渡ったら、モンスターが嗅覚で追跡できなくなるという仕様を考えたこともありましたね。ですが、最終的には時間経過で臭いが薄れるという形になっています。これは見えない要素に複雑な遮断方法を盛り込むと、ゲームのルールがわかりにくくなってしまうためです。

――本作のモンスターは、視覚と聴覚と嗅覚でハンターを探知するのでしょうか?

遠藤:モンスターによって個別に、ハンターやほかのモンスターを感知する手段を用意しています。例えば、肉食のモンスターは草食種の気配に敏感ですし、モンスターによっては卵を持っているハンターがいると視覚などとは関係なく気づくように設定していますね。言うなれば、モンスターごとの第六感でしょうか。

――卵というと、やはりリオレイアですか?

遠藤:はい、ハンターが卵を運んでいると怒って、すぐに飛んできますよ。

徳田:モンスター共通のパラメータとして「何か」を感知するという要素を組み込んでいます。この「何か」が、リオレイアであれば卵ということですね。

――つまり、ほかの「何か」に反応するモンスターもいるということですね。

徳田:例えば“陸珊瑚の台地”のパオウルムーは、珊瑚を主食としているので、珊瑚が産卵を行うと遠くからでも食べにやってきます。ほかにも“瘴気の谷”のオドガロンは死肉が落ちてくると、そこに向かって真っ先に移動する特徴がありますね。ただ、ドスギルオスもオドガロン同様に死肉に向かう性質があるので、鉢合わせて縄張り争いに発展することもあります。

――同じハンターを連続して狙うことがあるような気がしますが、それも感知が影響していますか?

徳田:何かを感知して、同じハンターを攻撃し続けるような仕組みは用意していません。ただ、一連の動作として、あるハンターを攻撃したあと続けて同じハンターを攻めるという連携のようなものはあります。

藤岡:モンスターがどのハンターを攻撃するかは、与えたダメージやどれだけ連続で攻撃を仕掛けたかという要素が影響します。ですから、あるハンターだけ飛びぬけて優れた腕前だと、連続して狙われることもありますね。自分が連続して狙われていると感じたなら、それだけ狩りに貢献できているという証拠かもしれません。

――なるほど(笑)。ところでモンスターのAIは、『MHW』オリジナルの仕組みになるのでしょうか?

藤岡:そうですね。世間一般で言う自己学習型とは違う、プランナーがモンスターごとの特徴を自由に作り出せるようなものになります。

――モンスターに組み込んでいるベースのAIは同じで、設定するパラメータが違うというイメージでしょうか?

藤岡:いくつものパターンで行動が変化するという点では共通です。どういった条件でモンスターの行動が変化するかや、状況に応じてどういう行動をとるかといった部分は、モンスターごとに異なります。例えば、同じように「空腹になったとき」という行動の条件があった場合、あるモンスターは「アプトノスのいる場所に向かう」という行動が設定されており、別のあるモンスターは「植物の生えている場所へ向かう」というように異なる行動をさせて、モンスターごとの個性を出しています。

徳田:のちに「古代樹の森」になるプロトタイプの地形に、モンスターの行動が変化する条件になりうる、さまざまな要素を盛り込んで検証しました。じつは“古代樹の森”がほかの地形と比べて入り組んでいたり、ギミックが豊富だったりするのは、プロトタイプの地形に大量の検証要素が詰まっていたからでもあります。

藤岡:プロトタイプの地形にできる限りのことを詰め込んで検証したおかげで、モンスターの行動を変化させるシチュエーションはたくさん作れました。とはいえ、最終的にアクションゲームとして完成させなければいけないので、どれだけモンスターがさまざまなシチュエーションを感知できるようになっても、完全な自動制御にはしないようにしました。完全に自動化すると、アクションゲームにふさわしくない事態が起きたときにコントロールできなくなるんですよ。モンスターはAIで行動を制御していても、プランナーがある程度『MH』シリーズらしく調整できる仕組みを大事にしています。

――ゾラ・マグダラオスにも行動が変化する条件のようなものが設定されているのでしょうか?

藤岡:このモンスターはかなり特殊ですね。ビジュアル制作に関して話した際にも触れましたが、ゾラ・マグダラオスはモンスターであると同時にフィールドでもあります。しかもフィールドとしてのゾラ・マグダラオスは、クエスト中に壁が地面になったり道が縦穴に変化したりと、本作のフィールドの中でも変化の激しいものです。しかし、このゾラ・マグダラオスをただ動く地形として表現してはおもしろくないので、ゾラ・マグダラオスがモンスターとしてきちんと動くように専用のパラメータも豊富に用意するなどして、行動の変化条件や変化後の行動を設定しています。

遠藤:例外対応のオンパレードでしたね。最初から最後まで、すべてのセクションがゾラ・マグダラオスの制作に駆り出されていたかと思います。

徳田:しかもゾラ・マグダラオスの上で別のモンスターを動かす必要もありました。ビジュアル関係のスタッフも含めて、長い間ゾラ・マグダラオスの開発にかかりっきりでしたね。

――怒り状態のモンスターが、普段の徘徊ルートを越えて追ってくるのも行動の変化の1つですよね。

遠藤:そうですね。ただ、通常の徘徊範囲とは別に、モンスターが得意とするエリアや入り込めないエリアが設定されており、怒り状態でも入り込めないエリアまでは追って来れないようにしています。例えば、ジュラトドスを怒り状態にしても、湿地から極端に離れることはありません。

――そうすると、モンスター3体を同じ場所に集めて、互いに争わせるのは難しいのでしょうか?

徳田:モンスターの種にもよりますが、マルチプレイならそれぞれ分担してうまいことモンスターを誘導してあげれば、1対1の縄張り争いだけでなく三つどもえの状態も、プレイヤーが狙って起こせますよ。

――アンジャナフがリオレウスと出くわすとすぐ逃げてしまうんですよ。なんとかなりませんか?(笑)

徳田:アンジャナフの場合、普段はリオレウスと出会うとすぐに逃げてしまうのですが、怒り状態なら長時間にわたってリオレウスと縄張り争いを繰り広げます。また、ドスジャグラスも以前からお話している通り、空腹だと自分より強いモンスターに立ち向かう性質があります。同じように別のモンスターを感知したとしても、モンスターの状態によって異なる対応を行うので、三つどもえの状況を作るには、あらかじめ怒り状態にしておくなどの準備がカギになりますね。

――モンスター同士が出くわしても縄張り争いが発生しないことがあるのですが、これは何が原因ですか?

藤岡:一番大きいのは、近くにいるけれどもお互いが相手を視界に入れていないため、縄張り争いが発生しないというケースですね。あと、モンスターによっては縄張り争いが発生しない組み合わせもあります。

――争わないというとシリーズおなじみの?

徳田:そうですね。リオレウスとリオレイアは縄張り争いをしないモンスターの最たる例です。この2頭は、お互いを縄張り争いの相手として感知するようにはしていないので、もし出くわしても縄張り争いは発生しません。ただ、リオレイアの尻尾が偶然リオレウスに当たり、リオレウスが毒状態になるということはあるので、2頭を出くわせるメリットはゼロではないです。

藤岡:じつは自分がプレイしている最中にリオレイアがリオレウスに攻撃して、その直後にリオレウスがリオレイアに攻撃するというシチュエーションを見たことがあるんですよ。そのときは「夫婦ゲンカしてる!」などと思ったのですが、あとあと開発スタッフに聞いたら「そんな仕様はありません」と一蹴されました(笑)。

『モンスターハンター:ワールド』
▲視覚、聴覚、嗅覚、第六感など、これまで以上に多彩な手段でモンスターがハンターを探知する。

心地よい狩りを生み出す秘訣とは

――だいぶゲームよりの話になりますが、モンスターの強さの調整はどのように行っているのでしょう?

藤岡:モンスターは常にプレイヤーを追い詰めながらも、最後はプレイヤーにカタルシスを与えつつ狩猟されるように調整しています。この追い詰める過程をきちんと決めたうえで、モンスターごとの味をつけていくというのが、どのモンスターでも共通の作りですね。

遠藤:「これはプレイヤーを仕留めるアクション」「これはプレイヤーを有利にするためのアクション」といったように、モンスターのアクションは予備動作やスキの大きさなどによって、それぞれ明確な位置づけをして作っています。

徳田:1つの技でハンターを仕留めるなら、とにかく出が速くて範囲が広くて威力の高い攻撃を作ればいいんです。しかし、モンスターのアクションにそういった理不尽なものは作らず、いろんな技で追い詰めて、最後にプレイヤーを仕留めるアクションを繰り出すようにするという形で、開発には頼んでいます。ですから、モンスターのある攻撃がどうしても回避できないと思った場合、その前に繰り出されたアクションに対して、間違った対処法を選んでしまっているということになりますね。

遠藤:アクション作りで大事にしているのは、モンスターはミスをしたプレイヤーを仕留めるということです。そう考えると、プレイヤーのミスの誘発のしやすさと、ミスしたときのリスクが高いかどうかが、モンスターごとの狩猟難易度に相当しますね。

徳田:最初にモンスターがどんな生態でどんな攻撃をするのかを決めます。そのあと、どの程度の難易度に相当させるモンスターかを定め、モンスターのアクションの調整を行っていますね。いかにモンスターの必殺技でプレイヤーを仕留められる位置取りをするのかも、難易度調整のキモです。

――難易度は形のないものですから、調整にはものすごく時間がかかりそうですね。

遠藤:開発スタッフには長年『MH』シリーズを作ってきたノウハウはあるのですが、それでも調整にはかなりの時間を要します。アクションを作っているうえ、長時間そのアクションに接しているスタッフだけで調整していると、対処が難しいアクションなのかがわからなくなってくるので、藤岡ディレクターや徳田ディレクターなどにプレイしてもらい、意見を聞くこともあります。

――以前、イベントで試遊することができたリオレウスやディアブロスは、誰も狩猟できない強さではいけないし、狩猟されすぎてもダメという話を聞きました。

冨永:どちらのケースが生じても、我々としては調整不足と受け止めます。リオレウスもディアブロスも、イベント会場で狩猟するには最も難しい位置づけのモンスターです。本当にごく一部の、とくに腕の立つプレイヤーの前でだけ狩られるのが理想ですね。

――本作は、さまざまな国のイベントで出展されています。国ごとのクエスト達成率などに差はありますか?

徳田:それがほとんどないんですよ。正直な話、国によってプレイヤーの練度には差があると予想していたのですが、ふたを開けてみるとクリア時間も含めてあまり差は出ませんでした。

藤岡:この要因の1つは、チュートリアルをこれまでのシリーズの試遊版よりも充実させたことですね。今までですと、海外のプレイヤーが試遊でゲーム内容を十分に理解できるところまでフォローしきれていなかったと思います。ですが、本作はゲームシステムを大きく変えたこともあり、イベント版と製品版問わずにチュートリアルに該当する部分が充実しています。

 また、操作方法を大きく変えたのも海外のプレイヤー層にマッチしたのでしょう。とくにボウガンは、R2ボタンで射撃を行うFPSやTPSに近い操作になったこともあり、海外でイベントを行った際に使うプレイヤーが多かったですね。

――実際、海外のイベントでリオレウスの狩猟に成功したプレイヤーはいたんですか?

徳田:2チームだけいましたね。どちらも2日連続で『MHW』ブースに並んだ人たちでしたけれど。

――最低限狩猟に成功した人たちがいたということは、難易度調整としては大成功だったんですね。

徳田:そうですね。品質を管理するチューニングチームに常駐してもらって、我々との体感の差を直接やり取りしながら、難易度調整を行えたというのも大きかったと思います。

遠藤:本作の難易度調整でネックになったのは、同じクエストでも毎回プレイヤーの体験が異なるという点です。藤岡ディレクターや徳田ディレクターと話しながら、クエスト内のブレ幅を調整しているんですよ。新しいAIの話にも通じますが、モンスターの徘徊ルートなどがちょっとした気まぐれで変わります。

徳田:プレゼン泣かせな仕様でもありますね。gamescomで本作のプレイを見せる際に、ちゃんとディアブロスを飛び出させられるのかドキドキしていました。

遠藤:我々はブレがあるのを知っていたので「徳田ディレクターが、1回でディアブロスを飛び出させた!」とか喜んでましたね(笑)。

徳田:地上で音爆弾を使ったときに、もしも偶然ディアブロスが真下にいなかったら、ディアブロスは飛び出してきません。ですから、もし失敗したら次はノイオスを利用しようと、失敗したときのプランも考えていました。

――プレイした感想としては、何かに失敗してもリカバリーが利きやすいように作られているように感じます。

徳田:プレイヤーが関与できる要素を大事に開発してきたので、何かが起きた時の対応手段をできるだけ多くプレイヤーに持たせるようにしました。ただ、相手はモンスターなので、たまに予想もつかないことが起きることもありますね。

藤岡:予想のつかなさをメインにしているわけではないのですが、長くプレイを続けていくなかで、ある程度ブレ幅のある狩りを、自分がどれだけ上手にコントロールできるようになっていくのも楽しんでほしいですね。ずっとプレイしていれば、徳田のように不意のアクシデントにも対処できる可能性が上がっていきます。

――今までですと、プレイに慣れるとモンスターの動きの予想がつくようになっていました。本作では、最終的にどのような遊び方になると考えていますか?

徳田:『MHW』は同じクエストを何度も繰り返し遊ぶタイトルなので、生態系を利用することで同じクエストでも異なる攻略ができるようにブレ幅を設けました。ですが、必ずしも生態系や環境を利用する必要はなく、武器だけでも立ち回れます。

 また、同じようにアンジャナフを狩っていても、あるときはリオレウスが来たけど、今回は来なかったというような違いもあります。リオレウスが来たときだけアンジャナフの狩猟に利用してもいいし、あえて1人が先にリオレウスを誘導してアンジャナフと縄張り争いをするように仕向けてもいい。そういった形で、武器を使うか環境を利用するかという、状況に応じた戦略を自由に選択できるようにしたいですね。

――知識が増えていくことが、これまで以上に狩りのおもしろさにつながりそうですね。

徳田:生態マップには、自分が利用した仕掛けや環境生物が載るようになっています。ですから、環境を利用して狩りを行うほど、また次の狩りでも意図して環境を利用しやすくなっていきます。

藤岡:先ほども話にあがったブレ幅があるので、どこまでやり込んでも、毎回同じ狩りにはならないでしょう。モンスターの初期位置が微妙に違えば、狩りの序盤に利用するエリアも変わります。そうなるとターゲットとなるモンスターが一時的に逃げ出すエリアも変わりますし、当然現地調達しやすいアイテムも変わってきますよね。

 このように、モンスターの初期位置が違うことによる狩りの変化をあげればきりがありません。さらに、エリアが違えば周囲のモンスターも異なります。もちろん周囲にいるモンスターも毎回ブレ幅があるので、常に異なった体験ができると思いますよ。タイムアタックをするプレイヤーも、フィールド全体を何度もめぐりながら知識を蓄積していくことになるでしょう。

徳田:本作の物語中で、調査班リーダーが「知識は武器であり盾でもある」と語るシーンがあるのですが、この言葉があとあとわかってくるんですよ。

藤岡:まさに『MHW』の狩猟を表している言葉です。

『モンスターハンター:ワールド』

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