2018年4月9日(月)
光田康典さんが制作総指揮を務めた『ゼノギアス』20周年記念コンサートレポ。メンバーがそろったのは奇跡!?
4月7、8日に、千葉県の舞浜アンフィシアターにてオーケストラコンサート“Xenogears 20th Anniversary Concert ‐The Beginning and the End‐”が開催されました。今回は8日の最終公演の模様をお伝えします。
『ゼノギアス』は、1998年2月11日にスクウェア(現スクウェア・エニックス)からプレイステーション用ソフトとして発売されたタイトル。コアな世界観と田中久仁彦さんが描くキャラクター、そして光田康典さんが紡ぐ美しいサウンドが、今なお多くのファンから支持を受けています。
そんな名作の発売から20周年を迎える今年、ついに初のオーケストラコンサートが開催されました。
演奏は本コンサートのために編成された“アーネンエルベ・オーケストラ -ゼノギアスコンサートスペシャルバンド&オーケストラ-”が行い、スペシャルゲストとしてJoanne Hogg(ジョアンヌ ホッグ)さん、ANUNA(アヌーナ)さんが参加するという、まさに“anniversary”にふさわしい豪華布陣で行われました。
演奏されたのはアンコールを含む全25曲で、セットリストは以下の通り。曲によってはゲームの動画がバックに流れる演出があり、なつかしさと演奏の素晴らしさに思わず涙したファンを確認できました。さらに光田さんも演者の1人としてコンサートに参加。ファンにはたまらないサプライズとなっていました。
■第一部セットリスト
01:冥き黎明
02:海と炎の絆
03:おらが村は世界一
04:風のうまれる谷~遠い約束(Piano)
05:鋼の巨人
06:夢の卵の孵るところ
07:グラーフ 闇の覇者~導火線
08:つわものどもが夢のあと~死の舞踏
09:SMALL TWO OF PIECES PianoVersion
10:盗めない宝石
11:傷もてるわれら 光のなかを進まん
12:やさしい風がうたう
13:lost…きしんだかけら
■第二部セットリスト
14:悔恨と安らぎの檻にて
15:紅蓮の騎士
16:神無月の人魚
17:風がよぶ、蒼穹のシェバト
18:飛翔~翼
19:予感
20:覚醒~神に牙むくもの
21:最先と最後
22:SMALL TWO OF PIECES ~軋んだ破片~
■アンコール
23:STARS OF TEARS
24:BALTO & LAHAN(CREID Special Version)
25:遠い約束
会場の中央ステージが円形になっているため、コーラスを務めたジョアンヌさん、アヌーナさんらが前面に出て歌うパートも多く用意されていました。光源やスモークを使った演出も多々あり、オーケストラコンサートというよりは、“ゼノギアスライブ”という表現がピッタリくるかもしれません。
『飛翔~翼』の楽曲では、ギター奏者の坂本遥さんがヘッドバンドを決めてノリノリに演奏。会場からは熱い声援と拍手が贈られ、大盛り上がりでした。
エンディングテーマ『SMALL TWO OF PIECES ~軋んだ破片~』の演奏が終わると、会場のファンはスタンディングオベーションで、惜しみない拍手をステージに贈っていました。
鳴りやまぬ拍手のなか、アンコール演奏がスタート。演目がすべて終わるとファンを交えた記念撮影が行われました。
撮影が終わると光田さんからの挨拶が行われました。立ち去る際には『遠い約束』をオルゴールで鳴らすという心憎い演出で締め、夢のような4公演は幕を閉じました。なお、別途撮影されたオルゴールをあわせて公開します。
なお、会場には限定グッズを販売する物販に加え、キャラクターデザインを務めた田中久仁彦さんの貴重な描き下ろし色紙や原画の展示コーナーが用意され、多くのファンがひと目見ようと行列を成していました。ちなみに、マリアのキャラクターイラストについては、この公演のために田中さんが着色を行ったという、まさに本邦初公開のお宝となっています。
また、8日の最終公演終了後には、光田康典さん(プロキオン・スタジオ)、Joanne Hoggさん、Michael McGlynnさん(ANUNA)を囲んでの取材が行われたので、以下に掲載します。
▲写真左からJoanne(ジョアンヌ)さん、光田さん、Michael(マイケル)さん。 |
――まずは2日間、4公演を終えての感想をお願いします。
マイケルさん:とても特別でユニークな体験でした。いつも日本で公演する時は、特別な雰囲気のところでやることが多いんです。去年は能と一緒にやらせていただきましたし。今回も素晴らしいミュージシャンたち、共演者たちと公演ができてよかったです。
ジョアンヌさん:とても素晴らしい経験でした。普段はバンドと歌うことが多いのですが、今回はオーケストラと一緒に歌えたことがよかったです。また、何十年ぶりに光田さんと再会ができて光栄でした。
光田さん:僕にとってこの4公演は、本当に夢のような4公演でした。構想からいえば2年くらい前からいろいろ考えてはいましたが、僕の頭のなかで考えていたコンサートを実現するには、かなり大変な準備と多くの方の協力がないと実現できないというのは、最初からわかっていたんです。でもこうして具現化できたことは、本当にかかわってくださったスタッフのみなさんのおかげだと思っています。この4公演はそれに尽きますね。
また、参加してくださったミュージシャンには初めての方もいますし、あまり気心の知れていないミュージシャンも多かったのですが、公演を重ねるごとに、お互いの音楽に対するフィーリング、魂が1つに集約していくような体験ができて、本当に素晴らしい4公演になりました。
――コンサートを開催するにあたり、光田さんは最初からご自身も参加することを考えての企画だったのでしょうか?
光田さん:僕は演奏家ではないですし、いちコンポーザーなので、正直なところ「人前で演奏することが、はたしてコンサートの質としていいものなのか?」という思いがずっと今までありました。自身の20周年のコンサート“THE BRINK OF TIME”を公演した時にも、ずっとそれは思っていたんです。でも、僕自身がステージに立つことによって、ファンのみなさんと一緒の空間にいたかったというのが、正直なところですね。
演奏のうまさとかではなくて、僕のなかに「そんな空間に一緒にいたい」という想いがありました。なので、自ら「やります、ステージに立っちゃいます!」みたいな感じになっちゃったんですね。本当は出なくてもいいんです。でも、僕自身がファンの熱量などを感じたくて。いつも山の中にこもって作曲しているとどうしてもね(笑)。
――ファンの生の反応を味わいたかったと?
光田さん:そうです。リアルタイムの生の感情を得たいというのがありましたね。
――実際に終えて、いかがでした?
光田さん:皆さんの熱意がヒシヒシと伝わりました。4000人の目が自分に注がれているわけですから(笑)。なかなかこんな経験はないですし、本当にいい経験をさせていただきました。ありがとうございます。
――コンサートの編成は独特だったと思いますが、メンバーについては光田さんが選ばれたのでしょうか?
光田さん:はい。そういうことになります。とにかくボーカルのジョアンヌには来てもらわないことには話になりませんでした。ジョアンヌが来てくれないならば、このコンサートはやらないと決めていましたね。で、無理やりお願いしていろいろと話をさせていただきまして。たぶんこの4月の日程もたぶん無理やり合わせてくださったと思うのですが、来ることができるということだったので、なら「行ける!」と思いました。
そしてコーラスのANUNA(アヌーナ)ですが、コーラスといっても普通に教会音楽的のキレイなクワイヤ(合唱)と、ブルガリアン・ボイス(ブルガリア地方に古くから伝わる女性によるコーラス)の二通りがあったんですね。両方を呼んで演奏するのもおもしろいですが、当然いろいろな制約もあります。ステージの広さもありますし。そこでいろいろなことを考えたうえで、アヌーナにお願いしました。
なにせ僕はマイケルの大ファンで、マイケルと一緒にやりたいとずっと思っていましたので。だから一緒のステージに立てて、本当に幸せな2日間でした。
――そうなるとこのメンバーがそろったのは“奇跡”なんですね。
光田さん:はい。本当に“奇跡”だと思います。これは強く言います。“奇跡”です!(笑)。
――2日間の公演を通して、あらためて『ゼノギアス』の魅力をどうお考えですか?
光田さん:やはり物語が非常に深いゲームですので、正直音楽だけの力ではないと思っています。田中久仁彦さんの絵であったり、シナリオの深さであったり、そういった総合的なものが1つのゲームとして確立できました。1つの素晴らしい作品として仕上がったことが、このコンサートにつながったのだと思っていますので、本当にこのゲームに参加できてよかったなと思います。
マイケルさん:海外から来て日本のゲーム文化を見て思うことは、20年前ですが素晴らしいアーティストたちの作品だなということです。20年前のノスタルジーなどではなく、1つのゲームとして、1つのアートとして、人々の心に響いている。芸術として素晴らしいものを作ると、しっかり人の心に響くんだなと感じました。
――ジョアンヌさんは20年前に突然日本から「歌ってくれ」というオファーが来て、また20年後に「日本に来て歌ってくれ」とオファーが来るという、ある意味数奇な運命になりましたがいかがですか?
ジョアンヌさん:20年前にオファーを最初にいただいた時は、ゲームに対してまったくといっていいほどイメージがなかったんです。でも、今はゲーム好きな10代の息子が2人いて、2人ともゲームにはまっていまして、こういった素晴らしいゲームが若者たちに与える影響をありがたく思っています。今回の公演のオファーが来た時は「本当に起こっていることなの!? 信じられない」と(笑)。
――実際に日本のファンを前に歌ってみていかがでしたか?
ジョアンヌさん:これだけ大きな会場で4回も公演する、本当にすごく特別なプロジェクトであったというのを、あらためて感じました。そして、20年前に実際にゲームを遊んでいた方がコンサートに来て、その反応を見ていて、やはりこういった強い想いがストーリーにあり、音楽にありというのを体感できたのはよかったです。本当にご招待いただいたことを、光栄に思っています。そして、息子たちに誇れるようなお話をご提供していただいて、ありがたい気持ちです。
――舞浜アンフィシアターを公演会場に選んだ理由はあるのでしょうか?
光田さん:ゲームを遊んだ方はわかると思いますが、オープニングは宇宙船のエルドリッジから始まります。そこから物語がスタートしますので、この船に似た形がこの舞浜アンフィシアターだったので、ここ一択で決めました。他の場所は考えていませんでした。ここならば1曲目の『冥き黎明』を演奏した時に、確実に皆さんがこの世界に没頭できるだろうということで決めました。
――中央の舞台が開いてスモークが出るなど、演出もこの会場に合わせたということでしょうか?
光田さん:もちろんそうですね。穴が開いてスモークが出るというのは、惑星に落ちるというシーンをイメージしています。最後ジョアンヌが上がってくる演出も、オープニングのミァンが出てくるシーンと同じ演出になっています。それらも含めて、ゲームのストーリーに合わせてちゃんと演出も組まれているんです。
ビリーのテーマとして書いた『悔恨と安らぎの檻にて』の曲でアヌーナが歌っている時も、彼は幼児期にトラウマをいろいろ抱えていて、心の檻があってそこから抜け出せない苦しみがあるということで、みんなで最後は集まって、ライティングで檻に囲まれているというような細やかな演出を、ストーリーとリンクさせています。
そういう部分を感じてくださったらよかったなと。まあ、それらを含めて振り返って見返すことはできませんが。この話をすると「Blu-ray Disc化をしてください」って言われるんですけどね(笑)。
――ただ撮影はされていましたよね?
光田さん:撮影はしていましたが、僕がTwitterや日記で言っているように、ライブはやはり生ものなので、あまり映像化というのが好きじゃないんですよ。だから、ニコニコ生放送も実は最初は拒否していたんです。でも、やはり地方の方でどうしても観たいという方がたくさんいらっしゃったので、そういう想いを実現できたらいいなということで、今回は用意させていただきました。
マイケルさん:ゲームの音楽を単に再現するだけのコンサートではなく、ちゃんとストーリーが用意されていて、私たちもそのなかの登場人物としてキャラクター性が用意されていたので、引き受けました。ただのコンサートだったら引き受けなかったですね。
光田さん:こわっ(笑)。
(一同笑)
――アヌーナ側から光田さんに提案されたことはありますか?
マイケルさん:今回はただ歌うだけではなく、自分たちも何かコンサートに貢献して、コンサートの一部になって共演するところがありました。だから、自分たちがいることによって、このコンサートに違いを生み出せることを意識していました。
――『SMALL TWO OF PIECES ~軋んだ破片~』の演出では、ジョアンヌさんがステージに上がってくるシーンも印象的でしたがご感想は?
ジョアンヌさん:すごく怖かったです(笑)。初めてステージに上った時は気絶するくらいでした。とても緊張してしまって、血圧が上がっているのを感じましたね。「お願いだから歌詞を忘れないで」と(笑)。上がっている時は大変でしたが、ステージ上がってからはその緊張を忘れるくらいお客さんと一体になった感覚を得られたので、自然に歌えるようになりました。
光田さん:実はジョアンヌさんは今回飛行機トラブルで、日本に着くのが遅れてしまったんですよ。本当は1日前に来てリハーサルする予定でしたが、前日の夜の通しリハーサルくらいに到着したんです。で、20年ぶりの再会が、穴の下から上がってくるジョアンヌだったんですよ。ビックリでしたね、「えー、ジョアンヌ!」って。20年目の再会がそれはないだろうという感じでした。なかなか楽しかったです(笑)。
――最後に今回のコンサートのタイトル“-The Beginning and the End-”に光田さんが込めた想いをぜひお願いします。
光田さん:これは難しいですね。何と言ったらいいでしょう。こうして何か物事が動き出すというのは、何かのきっかけがあって動き出すわけです。そして、このコンサートがこういう風に終わってしまうのも、やはりいずれ時が来ると何かしらは終わってしまうんですよね。なにごともその繰り返しだと思うんです。
このコンサートも1つの人生として捉えると、やはりスタートがあって、最後はみんなと終焉を迎える……。そういう想いがタイトルにはありますし、たぶんファンの方々もそういう生き方をしてきたんじゃないかなというのもあります。先ほども言いましたが、このコンサートは奇跡が重なってできたコンサートだから。もう二度とないかもしれない。そういう想いも込めて、このタイトルにさせていただきました。でも、やりたいです。もう1回やりたいです(笑)。同じメンバーで!
マイケルさん:光田さんは“奇跡”と言いましたが、むしろ不可能なことをやり遂げたと思います。いろいろな方が来るなかで、飛行機が遅れたり、機材トラブルがあったりしたことを乗り越えて、コンサートを可能にしたので、これは“奇跡”というよりも“必然的”に起きたことではないでしょうか。
光田さん:いいことを言うじゃん、マイケル(笑)。では必然ということでお願いします。
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写真:中村ユタカ