2018年4月20日(金)
ナツメアタリから4月19日に配信された、Nintendo Switch用ダウンロード専売ソフト『WILD GUNS Reloaded(ワイルドガンズ・リローデッド)』。その開発者インタビューを掲載します。
『ワイルドガンズ・リローデッド』は、1994年にガンシューティング・アクションとして発売されたスーパーファミコン用ソフト『WILD GUNS(ワイルドガンズ)』を、24年の時を経て当時の開発スタッフがセルフリメイクした作品です。
今回、プログラム&ディレクション担当の宮部寿保さんと、サウンド&ネットワーク担当の岩月博之さんにお話しを聞きました。リメイクに際して心がけたことから始まり、貴重な開発当時の資料、さらに“TENGO PROJECT”ブランドの今後について迫りました。
▲左が宮部さんで、右が岩月さん。 |
なおインタビュー中は敬称略。
――まずは『WILD GUNS Reloaded』についてご説明いただけますか?
宮部:国内では、94年にスーパーファミコンで『WILD GUNS(ワイルドガンズ)』をリリースしました。オリジナル版は僕と、サウンドを担当した岩月博之、企画・グラフィック担当の谷口俊一が作っていました。
そのメンバーが集まり、2016年12月にPS4で『WILD GUNS Reloaded(ワイルドガンズ・リローデッド)』を発売しました。今回発売されるのはそのNintendo Switch版になります。
――PS4に向けてリメイクをしようとした経緯は?
宮部:弊社が30周年を迎えた時に、何かタイトルを出したいと考えていました。ただ、弊社は受託案件が多いため、権利を持っているソフトがあまりないんです。そのため、何をやれるのか迷っていました。『ワイルドガンズ』はバーチャルコンソールで発売できない状況が続いていました。そこで、「出せないなら出せるものを作ろう」という流れになったんです。
また、ナツメとアタリが経営統合してナツメアタリになったことで、「ゲーム開発から離れているのでは?」という意見を聞くようになりました。そこに対してもアピールできるのではないかと考えました。
――ナツメさんは開発会社として老舗ですが、あまり表に出てこないメーカーという印象があります。
宮部:我々は普通に仕事をしているだけで、地元の会社に勤めているという認識です。あえて自分たちが前に出るとか、出ないとかは考えたことがありません。もしロゴを入れてくださる場合は、出していただきますが、入れてほしいと主張をしたことはありません。あくまで外注の開発としてかかわらせていただいています。
――オリジナル版『ワイルドガンズ』との違いを改めてお話しください。
宮部:大きな違いは、操作できるキャラが2キャラから4キャラに増えています。プログラムで以前のソフトを動かしているのではなく、昔の雰囲気を保ったまま、拡張した画面を16:9で新たに描き直しています。さらに2人同時プレイが4人同時プレイになっている、新規2ステージが追加されているなどもあります。
以上がPS4版での追加要素で、Nintendo Switch版ではさらに“ビギナーモード”と“ボスラッシュモード”を加えています。難易度の高いタイトルなのですが、残機が無限になっているため、誰でもクリアできるのが“ビギナーモード”です。“ボスラッシュモード”は、連続してボスに挑戦するモードで、タイムを競うものです。
その他には、ハードの機能である“おすそわけプレイ”に対応し、2人同時プレイをすぐに遊べます。
――ほぼ作り直しのようですが……。
宮部:はい!(苦笑) 画面サイズが違うのでステージを書きなおしていますし、それにあわせて敵の配置を変えています。さらに操作キャラのアクションも直しています。一部の敵を除いてほぼ新規で用意していますね。
もともとのメンバーが作り直しているのですが、オリジナル版と同じような感覚で遊べるのに、違うゲームにできたと自負しています。
――SFC時代のデータは残っているのですか?
宮部:すべて残っています。本日は、SFC時代の資料をお持ちいたしました。
――これはすごいですね!
宮部:企画書というか仕様書ですね。弊社はソースから当時のロムまで資料が残っています。実は20年ぶりに当時の資料を出したのですが、書いてある隠し技の中には私が把握していなかったものもありました(笑)。
ちょうどこのころ、仕様書を残す動きが会社的にありました。絵と企画を両方担当する谷口はいきなりドット絵を描けば効率がいいのですが、紙資料に残すように指示されて「自分が描くのに、なんで資料を用意するんだ」と言っていたのを覚えています。
――リメイク版が発売され、ユーザーの評判はいかがでしたか?
宮部:もともと購入していただけると想定していたのは、オリジナル版が好きだった人くらいで、軽い気持ちだったのですが……予想よりも多くの方に購入していただきました。ちなみに我々の目標は“予算を使わず、会社に迷惑をかけないプロジェクト”でした。
――かなり控えめな目標ですね。
宮部:難易度の高いゲームなので、新規ユーザーには遊んでもらえないと思っていたのですが、新規の方にも購入していただきました。「こういうゲームを遊びたかった!」という声をいただいたので、それを踏まえて、Nintendo Switch版に着手しました。
――20年振りに遊ばれた際、開発陣でも「難しいのでは?」という声はありませんでしたか?
宮部:いや、ここで簡単にしたらファンから「わかっていない!」と言われると思いました。僕らは老眼で目が見えにくくなっているうえに、反射神経も落ちています! ただ、難易度はオリジナル版と同じにしないといけないと考えました。
そのうえで、Nintendo Switch版では新規の方にもより遊んでもらうためにイージーモードを入れました。また、PS4版を買った人からは「新ハードでも出るならそちらも買う!」という声があったので、新たにモードを入れようと思い、“ボスラッシュモード”を考えました。
――開発で苦労したところは?
宮部:今の説明とかぶるのですが、このようなアーケードライクのゲームは、厳しい目で見られる方が多い。「ここがよかったのに、なんで変えるんだ! 本人たちはわかっていないのか?」と言われないように、当時の自分がゆずれないと考えていた部分がどこだったのかを思い出しながら、こだわって作りました。
もし変わったように感じたのであれば、我々が新たな意識で変えたととらえていただけると幸いです。
――Nintendo Switch版の開発期間はどれくらいでしょうか?
宮部:3~4カ月ですね。ボスラッシュを作るのに時間がかかりました。ちなみにPS4版は1年くらいでした。
▲ボスラッシュの画面。 |
――Nintendo Switch版でもっとも注力したところは?
宮部:コントローラの追加ですね。また、なるべくすぐにプレイできるようにロード時間をなくして遊びやすくしています。
――サウンドではどのようなことを心がけましたか?
岩月:宮部から“SFCの高音質化”をリクエストされたのですが、事情によりもともとのデータを用意することができなかったんです。そのかわりアレンジすることで、昔の雰囲気を今の音で楽しんでもらう形にしました。最初はアレンジサウンドが流れて、条件を満たすとSFCの音を選べるようにしています。
――改めて20年前の曲を聞かれていかがでしたか?
岩月:「もう少しうまく作れたのでは?」と思いました。
(一同笑)
岩月:いっぱいいっぱいな環境での作業に加えて、西部劇というやったことがないジャンルだったので苦心しながら作ったのだと思います。そんな当時にしては頑張っていたと思ったのですが……いま聞くと厳しいですね。
――音源を作る際にこだわったのは?
岩月:もとの音を参考にしてアレンジしたのですが、あまりに変わっていると別のものになってしまう。雰囲気は同じだけど、新しい音になっていることを目指しました。最初にアレンジ曲を聞いた時の印象は昔と変わらないと思うのですが、切り替えて以前の曲を聞いていただくとかなり変わっていることがわかると思います。
SFCは容量が限られるため、圧縮したり音質を下げたりするため、音がかなりこもっています。リメイク版では聞きやすくなっているので試してみてください。
――大変だったことはありますか?
岩月:ステージが2つ増えているため、BGMを増やす必要がありました。そうすると、新ステージ用に20年前になかった当時のBGMを作る必要があるんですね。そこで、まずはベースとなるSFCの音源を使った曲を用意して、それをアレンジすることをしました。この順番を逆にすると、豪華なものを作ってから、要素をしぼることになり大変なんです。
また作るに際して当時を思い出す必要がありました。できた曲を聞いてみて「当時、このような曲を作るかな?」と疑問に思ったところもあったのですが、画面にあわせたらなじんだので、よかったですね。
▲新ステージ・FLYING SHIPのコンセプトアートとゲーム画面。 |
▲新ステージ・UNDERGROUNDのコンセプトアートとゲーム画面。 |
――ちなみに何を思い出しましたか?
岩月:西部劇の曲に苦労していたニガニガしい気持ちや、同時発音数が少ないなかで、多くの音を聞かせようと、同じ音をいろいろな場所に配置していた当時を思い出しました。新しい曲を作る時に音数はなるべく絞ったのですが、それ以外の制限がなく作りやすかったので「いい時代になった」と思いながらの作業でした。
――宮部さんはリメイクしながら、何か当時のことを思い出しましたか?
宮部:ソースが残っているので、10年ぶりくらいにアセンブラを見つつ作業したのですが……コードが今では理解できない場所もあり、昔の自分をうらんだりしつつ、今の言語に置き換えていきました。
――サントラが発売されるということですが、リクエストがあったのでしょうか?
岩月:PS4版が出た時に「音源を聞きたい」という声があったのですが、今回のサントラはスーパースィープさまからご提案いただきました。Nintendo Switch版を出すアナウンスを出したら、その日に連絡が来ました。
――それはスピーディですね。
岩月:スーパースィープさまにはXbox LIVE アーケードで『OMEGA FIVE (オメガファイブ)』というタイトルを作った際に、サントラを出していただきました。それもあって連絡があったのだと想定しています。そこから動きだした流れです。
――“ステムトラック”という言葉を初めて見たのですが……。
岩月:実は資料をいただいてから我々も驚きました。どのようにして収録されるのか……ステムなのでパート分けされたものが入るのだと思っています。
――オリジナルのバランスと比べて、どのようなところが変わっているのでしょうか?
宮部:画面が広くなったので、敵を配置し直しています。そうしないと間が持たないので、レベルデザインを変えています。難易度は自然にあがっていますが、そこまで気にするほどではないと思います。
――プレイ人数が増えるとゲームはどのように変わるのでしょうか?
宮部:チームライフ性になり、残りのライフを皆でシェアする形になります。プレイ人数が2人、3人、4人でライフの数が異なるので、注意して進めてください。とはいえ人数が増えると火力が増すので、プレイしている感覚的には簡単になるかと。
――新キャラはなぜパワータイプのドリスと、犬のバレットにしたのでしょう?
宮部:弊社のゲームはキャラを変えると別のゲームのような感覚を楽しめるものが受けがいいのです。そこで、企画を担当している谷口がこの2キャラを用意しました。パワーキャラでためうちを行えるドリスは、ダイナマイトを多く投げられます。
また、オリジナル版を遊ばれた方からは「撃っている最中に歩けるようにしてほしい」という声がありました。ドローンが撃っている間に、犬が移動するのでその要望にもこたえられるだろうということでこのようなキャラにしました。
――4キャラの中で初心者にオススメするキャラは?
宮部:犬のバレットですね。撃ちながら移動できるので、敵の攻撃を避けやすくやられにくいです。新規のビギナーモードであればコンティニューできるので、そちらで敵の配置や攻撃を覚えるのもオススメです。
岩月:東京ゲームショウなどに出展した際にもバレットを選ばれる方が多かったです。ゲームショウでは海外の方も多数いらっしゃったので、慣れない英語を使いつつ説明したことを覚えています。
――他にはイベントではどのようなやりとりがありましたか?
岩月:曲についての場合、海外の方からメールなどで直接意見をいただくことがあるのですが、遊びながらお話を聞くことはなかったので、非常に貴重なチャンスをいただけました。
イベントが始まるや弊社ブースに来る人からは懐かしさや当時の思い出を、初めて遊ぶ方からは操作方法や率直な感想を聞けました。開発を続けていると、どうしても閉じこもりがちになります。皆さんの声を聴ける機会は大変にありがたかったですね。
宮部:自分のタイトルをさわった人の声を直接聞けるというのは、本当に楽しい時間でした。ただ、先ほども言いましたが、準備をすべて自分たちで行っているので、開催前は大変でしたね(苦笑)。
――開発全体で印象的だったことはなんでしょう?
宮部:繰り返しになりますが、弊社は受託をメインで行う会社。プロモーション部署もないため、自分たちで公式サイトを手がけて、ゲームショウの手続きやポップ制作も行いました。もちろんデバックも自分たちで行っています。すべてが苦労したことばかりでしたね。
――他になにかアナウンスされることはありますか?
宮部:実は他にも動いているタイトルがあります。『ワイルドガンズ・リローデッド』をリメイク1弾とするなら、第2弾という位置づけですね。
――何のタイトルになるのでしょうか?
宮部:我々の中で“TENGO PROJECT”と呼んでいるブランドがあります。その中の“あるタイトル”です。
――その“TENGO PROJECT”について簡単にご説明いただけますか?
宮部:“TENGO PROJECT”というのは、受託仕事が続き、行き詰っていた時期に生まれたプロジェクト。会社に「何かやらせてほしい」とかけあったところ、「1ラインは確保できないので、0.5ラインのプロジェクトとしていろいろな作業をして開発するように」と言われたことが、プロジェクト名の由来になっています。
普通は「オリジナルタイトルを作らせろ!」と言ってもやらせてもらえないので、ありがたい環境ですよね。
岩月:現在、“TENGO PROJECT”の公式サイトを用意しています。公式Twitterもやっているので、ぜひチェックしてください。
――『ワイルドガンズ・リローデッド』が評判だったことが関係しているのでしょうか?
宮部:そうですね。PS4版が売れたことをうけて、90年代のレトロゲームが一定以上の需要があることがわかりました。そこで動き出しました。定年退職までゲームを作り続けていくので、楽しみにしていただければと思います。
――本日はありがとうございました。
(C)2018 NatsumeAtari Inc.
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