2018年5月18日(金)
5月12日、13日の2日間にわたって京都市勧業館みやこめっせで開催された、日本最大級のインディーゲームの祭典“BitSummit Volume 6”。
その会場で、ソニー・インタラクティブエンタテインメント ワールドワイド・スタジオ(SIE WWS)プレジデントの吉田修平氏と、グラフィック・クリエイター/AI研究者の森川幸人氏による“AI(人工知能)and Consoles”をテーマにしたトークイベントが行われた。
現在のゲームのどういったところにAIが使われているのか? SIEのゲーム開発のトップにいる吉田修平氏に、現在のAIと、将来的にAIはゲームをどう変えるのかを聞いた。
――今回行ったステージ“AI and Consoles”はどんなきっかけで行われたものですか?
一緒にステージに上がった森川さん(森川幸人氏。ゲームAIの開発を手掛けるモリカトロン株式会社代表)にもいろいろお聞きしたのですが、今の“AIブーム”で、AIが世の中を変えるという雰囲気になっているなかで、“ゲームAI”っていうものは全然違います。
森川さんはいったんAIをテーマにしたゲーム作りから離れて、ソーシャルゲーム、モバイルの開発に移られていたのを、今のAIが注目されている空気で「もう1回AIでやっても良いのでは?」と、新しい会社を去年立ち上げられました。
それで今はいろいろなゲーム会社のAI部分を請け負って仕事されているという話をいろいろとお聞きしました。私はAIの専門家ではないので、どちらかというと「ゲームAIとはなんぞや?」を教えていただこうというのがきっかけです。
――吉田さんはゲームAIについてはどういったものだとお考えですか?
森川さんから伺ったことも交えてお話すると、ゲームAIの役割としては、プレイヤーのおもてなし、そしてゲームに適度な難易度を与えること。
基本的にゲームは難しいシチュエーションがあって、それを工夫したり努力したりして乗り越えていく、という繰り返しで楽しんでいただくというところがあるので、簡単すぎるとつまらないし、難しすぎると途中でやめてしまったりしてしまいます。
プレイヤーによってスキルが違うので、ゲームによってはそこを推し量りながら難易度を調整したりして、プレイヤーに気づかれないように適度な難易度を与え続けるようなもの、それがAIの基本的な役割の1つです。
――なるほど。
あと2つあって、今業界としてすごく力を入れているのが、デジタルキャラクターの人間であれば人間らしく振舞う、動物であれば動物らしく振舞うというのをAIでやること。
これによって、ユーザーがインタラクションしたときに、いつも同じアニメーションが起こるのではなく、ユーザーとの関係性であるとか、ステージとの関係性のなかで、ものすごく自然にプレイヤーがデジタルのキャラクターが生きていると感じさせるように演じてもらう。それが、ドラマのなかで感動を生んだりとか、あるいはキャラクターに愛着を持ってもらったりとか。
1つの例としては、SIEのタイトルで文化庁のメディア芸術祭エンターテインメント部門の大賞をいただいたPlayStation4(PS4)用ソフトウェア『人喰いの大鷲トリコ』があります。
『トリコ』もエンターテインメント部門でいろいろな作品があるなかで、ゲームのタイトルとしては10年振りに選んでいただきましたが、その理由はAIというものを非常にうまく使って、大鷲のキャラクターが生きているような感覚を作り出し、そこが注目されて受賞に至りました。AIの役割のもう1つの側面ですよね。
3つ目はプレイヤーにとってはわかりにくい部分ではありますが、ゲーム全体の流れを見ながらプレイヤーが詰まったり、わからなくなったりしていないか、あるいはゲームの重要なフィーチャーを理解できずに全く使ってなかったりという時に、ゲームのなかでAIが読み取って自然にプレイヤーに教えてあげると。
それもデジタルキャラクターなんかを使うと「こっちいこうよ」とか、場合によってはキャラクターが勝手にどんどん進んでいって、それにプレイヤーが自然についていけば、次に行くところがわかるというように、そういったいろいろな工夫をしながら、プレイヤーにやめないで最後まで遊んでいただく。
そういった一歩引いたゲームマスターみたいな形でプレイヤーの楽しさを維持するようなことも重要なAIの役割です。
――欧米やSIE WWSのタイトルなどでのAIの取り組みですとか、使われ方ってどのような感じなのでしょうか?
そうですね、例えばSIEが発売しているPS4用ソフトウェアで言えば『アンチャーテッド 海賊王と最後の秘宝』、『アンチャーテッド 古代神の秘宝』です。
プレイヤーキャラとセットで重要なパートナーキャラを用意して、『海賊王と最後の秘宝』ではお兄さんのサム、『古代神の秘宝』ではクロエのパートナーとしてナディーンが、プレイヤーと一緒にAIキャラとして活躍してCO-OPプレイを実現しています。少し前のゲームだと、デジタルキャラクターが邪魔になるみたいなことがあったのが、そうはならない。
一緒に人間と遊んでいるような、あるいはさっき言ったようなプレイヤーが迷っていたらサムが走り出して次に行くところを教えてくれるようなナビゲートもしてくれる。しかも、それをプレイヤーに気づかれないような形で、というのをすごく力を入れています。
敵との遭遇時でも、やっぱり『アンチャーテッド』シリーズといえばシューターなので、戦うエリアに行くと敵が配置されていて倒していく。それだけではなくて、敵が隠れるという要素もあるので、草のなかに隠れていたりとか、それを探し回って、こっちのほうで何か音がしたりだとか、そういうのを賢く作ってあります。TPSですけれども、シューティングのスキルだけで遊ぶのではなくて、プレイヤーによっては、隠れながら相手のAIキャラの動きを見ながらそれを出し抜くようなことが必要であったり。そういった遊びを作っています。
4月に発売した『ゴッド・オブ・ウォー』も、クレイトスと息子の間で、この息子というのがどういう役割なのか。プレイされた方はわかると思いますが、ゲームの途中から非常に重要な役割を担います。
ストーリー的に、父親であればだれでも感情移入できるような子育ての難しさを描きながら、ゲームのほうでもプレイヤーが何も考えないで1人だけで解いていくアクションにするのではなくて、ちょっと頭を使ってどの局面で息子とどう協力していくか、戦略的な遊び方ができるようなゲームになっています。
ですから、すごく高い評価をいただいているのは、ストーリーとかセッティングの部分とゲーム性の部分が非常にマージしているというか、融合している。息子のキャラクターをAIでやると最初にゲームディレクターが言ったときには、周囲では「無理じゃないか?」という議論がかなりあったみたいですが、そこをやっぱりみんな頑張って作り切ったという点で、すごく評価をいただいていると思いますし、今出ている家庭用ゲーム機のソフトウェアのなかでも、最先端のAIの使い方の1つかなと思います。
――ゲームにおけるAIは、ゲームバランスという観点で考えていくと、どんどんパーソナルになっていくというか、1人1人にとってバランスをとっていくのが究極になるような気がします。
そうですね、基本的にゲームAIの難しさ、ゲームデザイナーの苦労というのは、プレイヤー1人1人のスキルも違いますし、どれぐらいチャレンジを与えたほうが歯ごたえがあって楽しいと思ってもらえるかもプレイヤー1人1人違うということです。また同じ人であっても、遊んでいる状況によって、使える時間によって気分が変わるかもしれませんし、ゲームから見てプレイヤーが楽しんでいるかどうかを判断するのがものすごく難しいです。
そこがもう本当にAIをデザインしているときに、非常に大きな悩みで。そこを上手く乗り越えていけばプレイヤー1人1人が同じゲームだけども、1番最適に楽しく遊べるような形にゲームが動的にどんどん変化していって、みんな楽しかったって言うけれども、話してみると「え? そんなところなかったよね?」とか、「俺にはそんなことなかった」とか違いがあっても構わない。
――将来的にゲームはそこまでいきそうですか?
そこまでいくと思いますね。もはやシングルプレイのゲームであってもゲーム機はネットワークに繋がっていて、プレイヤーのビヘイビア(行動、振る舞い、反応など)というのも、発売前のプレイテストのときから見ていますし、デバッグのときや発売後も確認しています。
それで例えばプレイヤーが何かすごく困っていることがわかったら、発売後でも修正パッチをあてていくというのもできるので、究極的にはそれを動的にリアルタイムでサーバーとクライアントの組み合わせのなかでできるような組み方っていうのが、将来的にはできるでしょう。
マシンラーニングとかディープラーニングがやっているような大量のデータを分析して「これが正しい」、写真を見て「犬だ」「猫だ」というのと、ゲームAIというのは違っていて、ゲームではリアルタイムに瞬間的に判断しないといけないし、「プレイヤーに勝てばいい」とか、そういう簡単でわかりやすい答えはだいたいの場合、ないです。
“ユーザーに楽しんでもらわないといけない”という、非常に曖昧な情報に対しての回答を見つけないといけないわけです。世の中でこんなに進んでいて、いろんな会社がサービスを提供していて、AIブームになっているなかで、ゲームAIというのは以前から変わらず、ゲームデベロッパーが組んだプログラムがゲームの中に入っていて、それをプレイヤーに提供している。
将来的にはきっとインフラですから、まるでユーティリティのようにデベロッパーがAIを使いたいなと思ったときに使えて、それを使った分だけお金を払って使えるような、そういう世界になるのかならないのか? ということに、ずっと興味を持っていて、森川さんにお聞きしたいなと思っていました。
そういう時代になるのであればSIE WWSも積極的に使って実験していかなきゃいけないと思っていますけど、まだその時代にはなっていないように思います。そして森川さんがまさにそういう間に入っているお立場であって、いろんな世の中のAIツールを使いこなしてゲームデベロッパーの仕事を受けている。
将来的には森川さんのところで仕事を受けなくてもいいような、もっと使いやすいツールを世の中のAIサービス会社のインフラの上にのせて、インディーデベロッパーでも簡単に使えるようなサービスを作りたいという話を森川さんが仰っていたので、ステージの最後に語っていただきました。
――個人的になんですけど、『サマーレッスン』のキャラクターにAIを搭載したら最高だなと思っています(笑)。
そうなんですよ! 私も2年前のBitSummitのセッションで言ったんです。そのときにマイクロソフトさんもいらっしゃいましたが、例えば、『サマーレッスン』+りんな(マイクロソフトがLINEで提供する女子高生チャットAI)を組み合わせたら面白いと思います。
私はりんなをすごく気に入っていますが、ただ、りんなは一問一答の形なのですよね。「●●さんと以前にこういう話をしたよね」みたいなことにはならないのですよ。でも、究極は『サマーレッスン』+そうやって昨日話したこと、世の中で起こっているとかの会話ができるというのが融合していくものです。
――それは毎日会いたくなります(笑)。
我々が歳をとって外に出るのが面倒になったころにはきっとそういうので楽しんでいるはずだし、自分のお気に入りのキャラクターに「新しい服を買って欲しいんだけど」とか頼まれたらついつい課金してしまう(笑)。
――買っちゃいますね(笑)。自分はアプリゲームでも課金しがちなので危険です(笑)。
ただ森川さんによると、人間の言葉の持つ曖昧さ、“さっきの話なんだけど”という会話の、“さっき”って人間同士だったらわかるのが、それがAIにはわからない。人間の会話は非常に難易度が高いそうです。
――“さっき”がどの位置の会話かを理解できないでしょうね。
どれぐらい前の話なのか、言語の持つ曖昧さ。特に日本語はロジカルでない部分だけ余計に難しいと言われています。
――最後に、インディーゲームでローグライクなど、ランダム生成を取り入れてゲーム開発がされるようになって状況が変わったと思いますが、同じようにAIはインディーゲームの状況を変えるものだと思われますか?
これも森川さんとの話で出ましたが、PlayStationでAIを中心としたゲームを森川さんは作ってらっしゃった。でも、世の中を見回して森川さんの作ったゲーム以外で、AIを中心としたゲームはないんですよね。なんでないんでしょうねと。
森川さんは三宅陽一郎(デジタルゲームの人工知能開発者)さんと一生懸命探したけど、やっぱり他になかった。「なんでだ?」となり、あんなに面白いのにと。インディーゲームのデベロッパーは、こんなに世の中にいっぱいゲームがあるなかで、何かで一点突破するほうが可能性があるのではないかと。
なので、AIを中心としたゲーム、それは1つありなんじゃないかと思います。VRで『サマーレッスン』みたいなとこまではいかなくても、2Dのキャラクターでもいいので、AIを使ったそれ自身を楽しむようなものっていう発想が出てきてもいいですよね。AIゲームが、いろんなゲームジャンルのなかの味付けになってくればいいなと思っています。