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2018年6月3日(日)

【電撃PS】“無から有は生み出せない”という考えから見えたオリジナリティの正体。山本正美氏コラム

文:電撃PlayStation

 電撃PSで連載している山本正美氏のコラム『ナナメ上の雲』。ゲームプロデューサーならではの視点で綴られる日常を毎号掲載しています。

『ナナメ上の雲』

 この記事では、電撃PS Vol.662(2018年5月10日発売号)のコラムを全文掲載!

第131回:オリジナリティの正体

 今から20年前、前の職場であるソニー・ミュージックエンタテインメント(SME)で、『立体忍者活劇 天誅』というゲームを作りました。

 このゲーム、瓦に灯篭、畳に襖という完全和風の世界観のなか、主人公である忍者がバイオレンス表現たっぷりに悪を討つ内容で、自画自賛ではありますが3Dステルスアクションゲームの先駆けとして、日本はもとより欧米でかなり売れました。

 SMEという会社は、ご存知の通り音楽の会社。毎年、売れたCDを社長が表彰してくれる会というのがあり、僕もこの「天誅」で、社長賞特別賞という賞をいただいたことがあります。

 受賞の決め手は、販売枚数もさることながら、SMEの作品がビルボードで1位を獲ったのが坂本九さんの「上を向いて歩こう(SUKIYAKI)」以来だから、というまことしやかな理由を偉い人に聞いたのですが、ホントだったのかなあ。まあそれは話半分としても大変名誉なことで、表彰式で(株)ソニーの重鎮、故・大賀典雄さんから表彰状をいただいた感激は、今でも忘れられません。

 さて、僕はそのときの受賞スピーチで、緊張しながらこんなことを話しました。「このゲームで味わえる面白さは、他のどんなエンタテインメント作品でも代替不可能なものでなくてはならない、ということにこだわって作りました」と。

 これ、今でも結構大事なポイントだと思い続けているのですが、一言で表現すると、コンテンツにとって必要なのは、“オリジナリティ”である、ということです。よくあるモノは、自分達じゃなくても誰か他の人が作る。自分達にしか作れないモノを作りたい……ということではあるのですが、では、改めて考えると“オリジナリティ”ってなんなのでしょうか。

 今でもはっきりと憶えているのですが、23歳のときに行ったゲーム関連のショーで、それが何のショーだったのか、何を見ながらそう思ったのかは完全に忘れてしまったのですが、「ああ、人間って、無から有を生み出すことはできないんだ」とふと思ったことがありました。

 大量の画面から放たれる光と音の洪水を浴びながら、悟った、といってもいいかもしれません。いわゆる創作という行為は、ゼロからイチを生み出す作業のように思われがちですが、そんなことはあり得ない。どんな発想も、生きてきたなかで体験したコトや触れてきたモノ、それら通して体に蓄積された「記憶の残滓(ざんし)」を組み合せて吐き出しているに過ぎないのではないか、と思ったのです。

 その後、僕はずっとこの考えをベースにゲームを作ってきました。実はずいぶん前、課長時代に、当時のSCEのCEOと、現場の課長職でランチを食べながら意見交換をする、という謎の会に参加したことがあったのですが、どういう流れだったかこの「無から有は生み出せない」という考えをCEOに話したところ、「じゃあキミは黒沢明の映画は何かの模倣だというのか」とカウンターが飛んできて、「模倣とは思いませんが、黒沢とてそれまでの経験や知識を組み合せて映画を撮ったと思います」というやりとりになってしまったことがありました(怖かった!)。

 「無から有は生み出せない」という意見に同意できないクリエイターも多い、という証左かと思います。

 では、「無から有は生み出せない」のだとしたら、僕たちが日々行っているゲーム制作などの創作行為とは、一体なんなのでしょうか。たとえば前述した『天誅』というゲームは忍者が主人公ですが、忍者という存在はもちろん僕たちが考えたわけではありません。

 そもそも、ファミコンの時代から忍者が主人公のゲームはたくさんありました。日本屋敷が立ち並ぶステージも、その当時のゲームでは珍しかったかもしれませんが、日本屋敷は実際に存在し、参考資料を見ながらテクスチャーを描いたりしたわけです。無から有など全然生み出せていない。

 でも僕は、社長賞受賞の際、「他では代替不可能な面白さを作った」と言いました。この真意は、代替不可能な面白さは、自分の中に溜めこんできた、組み合わせるに足る「有」を吐き出した結果である、ということ。つまり最大の創作行為とは、「アレンジ」のことだと思うのです。「有」がなければアレンジはできない。

 だから僕は、体に「有」をたくさん溜めこむことを苦にしない、ということが、クリエイターのひとつの条件なのではないかと思っています。

 さて、最初の疑問に戻ります。人は経験や知識の影響からは逃れることはできず、アレンジすることが最大の創作行為だとした場合、ではオリジナリティとは何を指すのでしょうか。皆さんも、色んな面白い作品に触れるなかで、「この作者、アレが好きなんだろうなあ」と感じることはありませんか。

 僕は、この、“作者とアレの関係性”が受け取る人に気付かれにくいほど、「オリジナリティが高い」ということになるのでは、と考えています。要は、オリジナリティとは、個別の有を組み合わせ吐き出す際の方法論のこと。その方法論と、気付かれにくい「有」、つまり“元ネタ”が重なったとき、オリジナリティは生まれるのです。

ソニー・インタラクティブエンタテインメント JAPANスタジオ
エグゼクティブプロデューサー

山本正美
『ナナメ上の雲』

 ソニー・インタラクティブエンタテインメント JAPANスタジオ 部長兼シニア・プロデューサー。PS CAMP!で『勇なま。』『TOKYO JUNGLE』、外部制作部長として『ソウル・サクリファイス』『Bloodborne』などを手掛ける。現在、『V!勇者のくせになまいきだR』を絶賛制作中。公式生放送『Jスタとあそぼう!』にも出演中。

 Twitterアカウント:山本正美(@camp_masami)

 山本氏のコラムが読める電撃PlayStationは、毎月第2・第4木曜日に発売です。Kindleをはじめとする電子書籍ストアでも配信中ですので、興味を持った方はぜひお試しください!

データ

▼『電撃PlayStaton Vol.663』
■プロデュース:アスキー・メディアワークス
■発行:株式会社KADOKAWA
■発売日:2018年5月24日
■定価:694円+税
 
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