2018年6月18日(月)
『人喰いの大鷲トリコ』上田文人氏が語るこだわりとは。文化庁メディア芸術祭受賞記念インタビュー
2016年12月に発売され、世界中で大きな評価を得たPlayStation 4用ソフト『人喰いの大鷲トリコ』。その『トリコ』が第21回文化庁メディア芸術祭のエンターテインメント部門で栄えある大賞に輝いた。
今回は、一般公開に先駆けて実施された内覧会、贈呈式の様子と、上田文人氏への受賞を記念した特別インタビューを実施した。
なお、第21回文化庁メディア芸術祭受賞作品展は、東京・六本木の国立新美術館にて、6月24日(日)までの開催となっているので、気になる方は早めに足を運んでみてほしい。
『トリコ』の出展ブース&授賞式の模様をレポート!
会場で一際目立つのは、壁一面を使用した“プロジェクション・トリコ”。東京ゲームショウなどでも出展されていたものだが、美術館で出会うトリコはまた一味違った印象を受ける。動きなどに反応してくれるので、初めての人はもちろん、あの日遊んだ方もぜひトリコと遊んでみてはいかがでしょうか。
▲目玉のガラスもあり、トリコが見つけると目の色を変えながら後ずさりしていく。 |
もちろんゲームの試遊出展や、映像出展も。数々のアート作品のなかで輝く『トリコ』はなんだか誇らしい!
贈呈式では、授与されたトロフィーを抱え、冷静ながらも非常に嬉しそうな雰囲気が伝わってきた上田氏。壇上では、次のようにコメントを述べ、『トリコ』に関わるすべての人へ感謝を伝えた。
上田文人氏コメント
この『人喰いの大鷲トリコ』は。過去作である『ICO』『ワンダと巨像』での反省点を踏まえて、できるだけ短い期間でつくるという目標ではじまったプロジェクトだったんですが、結果として過去作以上に時間を要したプロダクトとなりました。
長い開発期間のあいだにPlayStation 3で開発していたタイトルがPlayStation 4にハードを変更することになり、僕としても新しいスタジオを立ち上げたりと、いろんな変化があり、同時に困難もありました。
それでも僕がこの『トリコ』の開発を諦めなかった理由のひとつとして、僕がこのトリコというAIキャラクターに“情”を感じていた部分があったことは大きかったと思います。
そして完成まで支えてくれたgenDESIGNとSIEの開発スタッフ、すばらしい音楽を生み出してくれた作曲家やスタッフの力もたいへん大きなものでした。
また長い期間諦めずにプロジェクトをサポートし、完成まで理解を示してくださったSIEトップマネジメントの方々の力があってこそできあがったタイトルだと思っています。
最後となりますが、この『人喰いの大鷲トリコ』を応援してくださったファンの皆さんにあらためてお礼を申し上げたいと思います。本当にありがとうございました。
『トリコ』の生みの親、上田文人氏の“こだわり”とは
▲上田文人氏 |
──『人喰いの大鷲トリコ』が、エンターテインメント部門の大賞に選ばれました。現在のお気持ちをお聞かせください。
上田文人氏(以下、敬称略):文化庁メディア芸術祭というアートやアニメーション、漫画など、幅広い表現・メディア全般を対象にした“ゲームだけの賞”ではない、このような祭典で、大賞をいただけるなんて思ってもみませんでした。かねてから「普段ゲームを遊ばない人にも遊んでほしい」と願いながら『人喰いの大鷲トリコ』を制作してきたので、そのきっかけになりそうでうれしいです。
──会場ではとても天井の高い広い展示スペースで、ゲームショウでも活躍した原寸大トリコが元気に吠えており『トリコ』を知らない人々でも足を止めて興味津々でした。ゲームの実機や映像展示だけではなく、あの触れ合えるトリコを連れてこようというのは上田さんの発案でしょうか?
上田:もちろん自分が望んだものではあるのですが、SonyInteractiveEntertainment(SIE)さんをはじめとする、多くの方々の協力で実現することができました。
そもそも、この『プロジェクション・トリコ』という取り組みは、発売前のプロモーションが目的でした。はじめて東京ゲームショウの会場に展示したときは、当然発売前ですので、トリコがどういう生き物なのか、ユーザーの皆さんは誰も知らなかったわけです。
トリコを目の前にして、どう接すればいいのか悩んでいる方も多くみかけました。ですが、今回の展示では、はじめて触れる方以外にも、ゲームをクリアしておられるファンの方もいらしてくださると思うので、何も情報の無かった当時に比べて、またちょっと違った意味を持ってトリコと触れ合ってもらえるんじゃないか、という思いがあります。そういう狙いもあって、久しぶりにトリコを引っ張り出して連れてきました。
とはいえ、やはりセットアップはたいへんでしたが(笑)。じつは、この『プロジェクション・トリコ』という、巨大なインスタレーションを思いついたときから「美術館で展示してみたい」という希望があったのですが、今回、国立新美術館に展示することができて、ようやく願いが叶いました。
──現在の上田さんと作品としての『トリコ』、また生き物のトリコとの接点はありますか?
上田:こういうイベントや受賞式、取材などで引き続き紹介させていただいていますが、現状では接点はあまりないんです。作品としてリリース済みですし、トリコという生き物としてもある程度は出来上がっているので、既に自分の手を離れています。
──今後、再びトリコとの接点が増えていく機会はありそうですか?
上田:自分ひとりの一存ではなんともいえないところです。SIEさんや、ゲームを遊んでくださったファンのみなさんの意向次第かと思います。
──この文化庁メディア芸術祭を観覧しているとゲームのみならず、漫画や映画、デジタルコンテンツやイラストレーションなどもあって……もっと多種多様なエンターテイメントにトリコの世界が広がっていく可能性なども期待せずにはいられません。
上田:なるほど……自分のなかはその発想はありませんでした。ただ絶対にありえないかというと、そうでもないかもしれません。自分以外の外側からなんらかのアプローチがあった場合、そこから自分の発想を広げていく可能性はあるかもしれませんね。
──振り返ってみて、トリコというキャラクターから学んだもの、もらえたものなどはありますか?
上田:キャラクターとしてのトリコから何かをもらったというよりも、『トリコ』を遊んでいただいた方々からのメッセージや応援などをいただくことで「次をつくろう、産み出していこう」という意欲をもらい、糧になっている部分は大きいですね。
──上田さんのモノづくりですが、今もコンシューマへのこだわりはありますか?
上田:自分に正直に何かを作ろうとすると、どうしてもコンシューマのほうになってしまいますね。僕は「映画的な体験(ができるゲーム)」と言っているのですが、自分の原体験こそ映画にあるものの、映画そのものを作りたいわけではないですし、自分が作るゲームを映画みたいな作品にしたいとも思っていません。
文字にすると違いがうまく伝わりにくいかもしれませんが、ゲームとして「映画のような濃密な体験ができるもの」にしたいんです。それを考えたときには、やはりコンシューマに向かってしまいますね。
──上田さんのビデオゲームでは主人公が見せる細かなアニメーションを目にすることで、どんどんと感情移入していって目が離せなくなっていく。『トリコ』でも少年とトリコの関係性や距離感を客観視点で見つめながら物語が展開し、映画のように強く引き込まれました。一方でVR版『トリコ』のような自分視点となると上田さんはどんな形のゲームを作られるんだろうなと、気になったりもしました。
上田:どちらかというと、視点の問題というよりも、僕のなかではそこにしっかりとした理由があるかどうかが重要だと思っています。たとえば、そのキャラクターが「今どういう状況にあるのか」を客観的に認識するからこそ面白くなるゲームデザインであれば、客観視点のVRゲームをつくると思いますし、逆もまたしかり、ですね。
──この受賞を受けて興味を持つ方もいるかと思います。これから『トリコ』に触ろうという人に向けてメッセージをお願いします。
上田:トリコ自体はAIで動いているので、そこに発生する偶然があり、その偶然がリアリティある体験へとつながってきます。もし興味をもってプレイいただけたなら、その体験を重ねつつ、最後まで物語を味わってほしいと願っています。そして、「ゲームにもこういった表現があるんだ」と、ビデオゲームの持つ可能性を感じてもらえたなら、とてもうれしいです。
──最後に、上田さんのおすすめのプレイスタイルがあれば教えてください。
上田:とにかく一度でもいいので、エンディングまで遊んでもらいたいと思っています。クリアした後は、もう少し気楽に好きなステージをゆったり散策して、その中で「あ、前に来た時とちょっと違うな」と、新しい発見をしていくような遊び方をしていただけると、この『トリコ』というゲームがめざした方向性に合っているのかな、と思います。
そして、ふと思い出した時に、またトリコに会いに帰ってきてもらえたら、そういう関係性が僕としては理想かなと思います。
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