2018年6月27日(水)
PS4版『斑鳩』発売記念レビュー&前川社長インタビュー。トレジャーの理想、未だ屈せず、死すことなし!
6月29日、いよいよPS4版『斑鳩 IKARUGA(斑鳩)』が発売! この事実に大興奮した電撃PlayStation編集部のあーやが、今回PS4版『斑鳩』のレビューと、トレジャー代表取締役社長の前川正人氏にインタビューを実施しましたので、その模様をお届けしていきます。
17年の時を経て、斑鳩が最新ハードで空を駆ける!
日々の生活の半分以上をゲームとともに過ごしていれば、“その後の生き方に影響を与えるようなゲーム”には年に何本かのペースで出会えるもので、自分にとって2Dの縦スクロールシューティングゲームはジャンル全体がそれに近いものでした。そして『斑鳩』はそのジャンルの中でも、とくに印象深く自分の心に刻まれたゲームの一本です。
『斑鳩』というゲーム、そしてトレジャーという会社を知る人にとって、“2018年5~6月はすこしばかりの、しかし確かに記録されるべき時期になった”と言えます。まさかアーケード版のリリースから17年、そしてSteam版のリリースから4年経った2018年に、縦置きモードに対応したNintendo Switch版と、4Kに対応したPS4版の『斑鳩』をプレイできる日が来ようとは……これはもう、おっさんゲーマーとしては興奮を隠しきれません! なんたる僥倖、まさに歓喜!
本稿はPS4版『斑鳩』の発売を記念して、アーケード版のリリースから17年の時を経ても一向に色あせない『斑鳩』というゲームの面白さ、そしてトレジャーの代表取締役社長前川正人氏へのインタビューの2本立てでお届けします。前半は『斑鳩』のゲーム紹介となりますので、ファンの同志は記事の中盤までスクロールしていただくのがオススメ。また、紹介内容は基本的にPS4版をプレイしたものとなりますので、あらかじめご了承ください。
17年経っても遊ばれ続ける『斑鳩』。その魅力とは?
新たに『斑鳩』に触れてくれるユーザーが登場することを期待して、まずは『斑鳩』の魅力を紹介します。本作のジャンルは2D縦スクロールシューティング。こう聞くと敵が大量に弾を出す、いわゆる“弾幕シューティング”を想像する人もいるかもしれませんが、『斑鳩』はそれとはテイストが異なります。ルールをざっくりと説明すると以下の通り。
『斑鳩』の基本的なゲームルール
●自機、敵、弾のすべてに白と黒の2属性が存在する
●逆属性の敵に弾を当てると、同属性の場合と比べ2倍のダメージを与えられる
●自機と同属性の弾は吸収し、エネルギーを蓄えることができる
●蓄えたエネルギーを消費し、強力なホーミングレーザーを撃つことができる
●同じ属性の敵を3回連続で倒すとチェーンボーナスが発生し、高得点が得られる
上記をまとめると、“敵弾はできるだけ避けずに吸収してエネルギーを蓄え、タイミングよくホーミングレーザーで殲滅。さらに白白白、黒黒黒、と敵を倒してチェーンボーナスを得て、スコアを稼ぐ”というのがこのゲームの“基本的な”流れです。もちろん難所では、生き延びるためにスコアを放棄して“撃たずにやり過ごす”ことも立派な作戦であり、その自由度の高さも本作の魅力。
これから始める人に贈るポイントは、“本作において弾は必ずしも避ける必要がない”ということ。これが本作の発明の1つであり、ほかのシューティングゲームでは味わえない独自のおもしろさにつながっていると言えるでしょう。
ところで、弾を避けなくてもいい本作は簡単なのかというと……もはや隠しようがないのでハッキリ言いますが、これが泣きたくなるほど難しい! 本作はプレイ開始時に “敵が撃墜された時に撃ち返し弾を一切出さない”イージー、“敵が同属性の攻撃で撃墜された時にのみ撃ち返し弾を出す”ノーマル、“問答無用で敵が撃ち返し弾を出す”ハード、という3種類の難易度から選べるのですが、イージーを選択したとしても、おそらく初見でクリアできる人はほぼいないでしょう。チェーンを狙おうとするなら、なおさらです。
▲キレイに倒せないと白黒の弾に挟まれて非常にキケンです! さらに撃ち返し弾も混じると、気付いたら死んでます。 |
ならば本作はいわゆる“無理ゲー”なのかというと……じつはそんなこともないんです! むしろ、たとえば『DARK SOULS』シリーズが代表するような、克服可能な困難を乗り越えたときの達成感に喜びを見出すゲーム、いわゆる“死にゲー”に非常に通じるところがあると言っても過言ではありません。本作もまた、上達の手応えを実感しやすく、確かな達成感が得やすいタイトルなのです。
▲先ほどと同じ場面ですが、ホーミングレーザーによって画面下の敵群は撃破が確定。画面はスッキリ、気分は爽快。キモチイイ! |
そもそも、本作が高難度である理由は、“2属性を使い分けるため脳が混乱する”という点が大きいです。いわゆる弾幕シューティングが高難度である主たる理由の“弾避けのための精密なコントロール”が求められる場面は、本作において(ハイスコアを狙おうとしなければ)ほぼありません。不思議なもので何回も本作をプレイしていると、はじめは無理ゲーのように見えていたものがチラホラと解法のヒントが見え、だんだんと超えるべきハードルのように思えてくるハズ。
そしてトライアル&エラーの末、おっかなびっくり、なんとか難所をノーミスで抜けられたとき、きっとこう思うでしょう。「次はチェーンをキレイに繋げて攻略したい!」と。こうなってしまったら本作のトリコ。あとはもう、トライアル&エラーを繰り返しながら本作の奥深さに驚き、より美しいプレイとその成果として得られるハイスコアを目指す、アスリートや求道者のようなストイックなゲームプレイに夢中になる、輝かしい未来が待っています。
▲美しさはスコアの高さに直結。ある意味フィギュアスケートのショートプログラムに近いのかもしれません。 |
今回あらためてPS4版をプレイしてみても、自機のスピードや弾速、幾何学的な美しい軌跡を描く敵の編隊などが、すべて緻密な計算の上で成り立っていることを実感し、驚いてしまいました。それらの要素を1つ1つ分解し、考察し、攻略していく快感と来たら……!
▲本編屈指の難関Chapter4の一場面。もうどうすりゃいいんだか(笑)。ちなみに副題は“現実”。現実って厳しいね……。 |
また、17年前にリリースされ、さまざまなハードに移植されてきたタイトルだけに、今なら各種動画サイトを調べれば、いわゆるスーパープレイの動画がたくさん見られますので、かなり効率よく練習が行えます。これは間違いなく今からプレイする人の特権と言えるでしょう。
▲ゲーム内で閲覧できるオンラインランキングのリプレイもダウンロード可能。 |
もちろん家庭用なので買い切りだしコンティニュー回数無限だし、チャプターごとに気軽に練習できます。「この場面飽きたから今日はこの場面練習しよ」なんて文字通り朝飯前。ほんと、ゲームセンターに通っていた頃とは比べ物にならないくらい攻略と練習がラクに、楽しくなりました。欲を言うなら家庭用でしこたま練習したあとは、やはりゲームセンターで本走、と行きたいところですが!
多くのゲームに言えることなのですが、このゲームもまた過程を楽しむゲームです。何機もの機体を鉄クズに変え、その上に築かれた自分だけの攻略パターンと、それがもたらすハイスコア。幾度となく練習した末にノーコンティニューで挑むラスボスとのレーザー合戦の緊張感。それらはすべて自分だけの物語。コンティニューを行ってたどり着いたエンディングと、ノーコンティニューで見届けることができたエンディングとでは、小説の1ページ目と300ページ目ぐらい、感情の移入度に違いがあるハズ。その理由は、ノーコンティニューに至るまでの物語が自分だけのものだから。
いやもうホント、“死にゲー”が好きな人には騙されたと思ってぜひ体験してください! PS4版は980円(税込)だから騙されても傷は浅いですよ! いや、騙す気はまったくないんですケド(笑)。
▲Final Chapterのボス、田鳧(タゲリ)最終形態。コイツとのレーザーの撃ち合い中はBGMの盛り上がりも最高潮で、ゲーム史に残していいぐらいの名勝負だと思っています。 |
物語が話題に出たところで、最後にゲームプレイを盛り上げる作中の物語や世界設定についても少し語らせてください。舞台は近未来の日本。「生涯の中で、たった一つだけでも後悔の無いことをやり遂げたい」と願う青年“森羅”が “斑鳩”という“飛鉄塊(小型戦闘機のようなもの)”に乗り、圧政を敷く“鳳来の国”に対し自由を求め戦いを挑む、という物語。
既に掲載しているスクリーンショットからも伝わっていると思いますが、本作は近未来のメカに梵字を組み合わせるという、非常に特徴的なビジュアル。それをさらに際立たせているのがゲーム中に表示されるテキストです。斑鳩の出撃前には以下のテキストが表示されます。
“我、生きずして死すこと無し。理想の器、満つらざるとも屈せず。これ、後悔とともに死すこと無し”
もし“クサい”と感じてしまったら、それは恐らくこの言葉だけを取り上げたことが原因で、作品に対して非常に申し訳が立たないのですが、本作のテキストは、世界、BGM、演出とあいまって、バツグンにプレイヤーに刺さります。
言うまでもなく、この言葉の中にある“我”とは、森羅のことであり、ハイスコアに挑む自分であり、もしかしたら勉強や仕事といった、ゲームではない別の何かに挑む自分自身のこと。大げさな言い方ですが、点滴が岩を穿つように1つのことに信念を持って取り組み続けることの難しさ、尊さを、当時高校生だった私は勉強でもスポーツでもなく、このゲームから教わったように感じるのです。
▲各チャプターに挿入されるデモにも印象的なテキストが表示されます。 |
もちろんトレジャーの熱烈なファンの方は、ほかにもこの言葉が示していることがあるとご存知だと思いますが……その内容は、次から始まる前川社長の言葉から感じ取っていただきましょう!
嗚呼、トレジャーが行く……理想の器、満つらざるとも屈せず
ファンの皆さん、おまたせしました。ここからはトレジャーの代表取締役社長、前川正人氏へのインタビューをお届けします。そして新作の情報も……!?
▲トレジャー代表取締役社長、前川正人氏。突然の取材に快く応じていただきありがとうございました! |
――まず、PS4版を制作しようと決めた経緯を教えてください。
前川氏 :ユーザーさんから多くの要望があったという事と、現行機で発売して、少しでも多くのユーザーさんに触れていただきたいと思ったのが発端です。本格的な開発スタートまでに時間がかかったり、完成してからリリースまでに時間がかかったりしましたが、PS4版の企画発案は2016年10月で、かなり前の話になります。
――2018年はPS4版とNintendo Switch版の『斑鳩』がリリースされましたが、それぞれのハードで移植に際して苦労した点などはやはり異なったのでしょうか。開発者の視点でハードごとの特徴があれば教えてください。
前川氏:Steam版で一度データから見直していて、今回はSteam版の完全移植を目指しましたので、ハードごとの苦労というと、ハードの性能によるものになりますね。
Nintendo Switch移植では、当初、TVモードも720pだったのですが、細かな負荷対策を行う事により、アンチエイリアス 2x MSAA(編注: “MSAA”とはMultisample Anti-Aliasingの略。アンチエイリアス技術の代表的な1つで、1つのピクセルを2~8つのサブピクセルに分割して高画質化を行う。“2x”は2分割、“4x”は4分割を示す。) での 1080pを実現しました。PS4移植では、アンチエイリアス 4x MSAA での処理を間に合わせる事に成功し、PS4通常機でも、美麗なグラフィックを実現しました。それぞれのハードで、できる限りの最高レベルになったと思います。
あと、『斑鳩』は72種類ものランキングカテゴリがあるので、それぞれのハードのランキングサーバーの制約に合わせる必要があり、仕様を策定しなければならない苦労がありましたね。
――PS4版における4K描画への対応や完全移植作業全般について、苦労した点や印象に残っていることがあれば教えてください。
前川氏:4K描画では、まずアイコンがぼやけてしまうという事で、アイコンは256x256で全て新規作成し直しました。また、当初、アンチエイリアス FXAA で描画していたところ、少しぼやけてしまっていたのですが、先ほどお話しした、アンチエイリアス 4x MSAA を実現する事により、美麗なグラフィック表示に成功しました。
完全移植に関しては、『斑鳩』は移植の時に少しでも違うとパターンが崩れてしまう為、一番苦労する部分です。パターンとは関係なくても、SEの鳴り方が違っていたりとか、黒いレーザーの描画が間違って太く描画されていたりとか、意外とチェック中に気付かなかったりするので難しいです。
▲Chapter2に登場する中型機が放つ、黒いレーザーの描画が間違っていたようです。 |
あと、バグチェックの時に、まず『斑鳩』をクリアできる人がいないと、リリース版でチェックできないというのが一番苦労する部分かもしれませんね。
他には、ソニーさんのハードでの自社パブリッシュが久しぶりなので、ソニーさんとの契約から始まって、一連の申請、設定、管理対応や、全世界のレーティング取得、全世界のPS Store対応も地味に大変でした(笑)。
望まれることなく、浮き世から捨てられし彼等を動かすもの。それは……。
――『斑鳩』と、その精神的な前作にあたる『レイディアントシルバーガン』には、ディレクター井内ひろしさんをはじめとする、トレジャーのゲーム業界に対する熱いメッセージが込められていたと感じます。
『斑鳩』のリリース当時の2001年から17年目となる2018年となるまでの間、“たとえばコンシューマー機においてはシューティングゲームのリメイクは出ても、新作がほとんどでなくなってしまった”など、ゲーム業界にもさまざまな変化があったと思います。トレジャーの周辺はどのように変化しましたか?
前川氏:この2作品に込められているゲーム業界に対する思いは、当時も今も何も変わりません。私達ゲーム業界は、ゲームそのものをもっと大切にしていくべきだと思います。
ゲーム制作者は自分自身が楽しんで好きなゲームを好きなように作り、ユーザーさんは本当に好きなゲームを好きなように楽しむ、ゲームに携わる人は、それを実現するために努力する、というのが本来の姿だと思うんですよね。
17年間の周辺の変化は言うまでもなく、ソーシャルゲームが主力となり、コンシューマーの新作は出しにくい状況ですが、ソーシャルゲームは、その分野に力を入れたい会社さんに任せて、私達は、とにかくコンシューマーで昔ながらのゲームだけを作り続けていきたいです。まさに「意地に他ならない」という事ですね。
我々はもう一度考え直すべきです。皆さんにもわかっているはずだ
――ちなみに前川さんは、2001年と2018年で、ゲーム業界に対する印象は変わりましたか? もし変わったとすれば、どういった点が変わりましたか?
前川氏:やはり、ゲーム業界が課金システムに力を入れ過ぎている印象があります。強いキャラや武器を当てるドキドキ感もゲーム性ではあるのですが、ゲーム本編の面白さやゲーム性を主軸に、味付け程度にするべきだと思います。ゲームと冠するのであれば、あくまで主役はゲームそのものなのですから。
私たちは、新作を見られるかしら?
――今回、Nintendo Switch版、PS4版の『斑鳩』をリリースしていただいただけでもファンとしては感涙モノですが、やはりトレジャーの新作を遊びたいという気持ちが強いです。ズバリ、新作は制作していないのでしょうか?
2014年のファミ通さんのインタビューでは「Steamで新たにオリジナルタイトルを作りたい」、ということをおっしゃっていたかと思います。
前川氏:じつは、ファミ通さんのインタビューの時に、新作オリジナルアクションゲームを作っていたので、つい口から出てしまったのですが、現在は中断していて、再開しないと発売できません。すみません。
ただ、この新作オリジナルアクションゲームに限らず、新作オリジナルゲームを作りたいという気持ちは、会社設立当初から何も変わっていませんので、長い目で見ていただければと思います。
▲今回の記事のため、前川氏から1点画像をいただきました。新作用に作成されたコンテナでしょうか? 銃器や弾薬が入っていそうな外見ですが……一日でも早い開発の再開を祈願します!! |
――トレジャーのゲームを愛するユーザーの皆さんへひと言お願いいたします。
前川氏:いつも応援していただき、ありがとうございます。この『電撃オンライン』を見ていただけているようなユーザーさんのおかげで、PS4版『斑鳩』を発売する事ができます。まずは、PS4版『斑鳩』をよろしくお願いいたします。そして、ゲームそのものがおもしろいと思えるような文化を大切にするべく、トレジャーだけではなく、これからもコンシューマーゲーム全体の応援をよろしくお願いいたします。
最後に個人的なことを書いて恐縮ですが、トレジャーの作品を題材に記事を執筆させていただくということは、同社のゲームに影響を受けた自分の、ゲーム業界の末端に身を置く者としての、ちょっとした夢でした。今回突然その夢が叶ったことを本当に嬉しく思います。前川社長をはじめとするアーケード版からPS4版まで、『斑鳩』に関わったすべての方に、そして『斑鳩』を自分に勧めてくれた親友に、心から感謝します。今度俺ん家で2Pプレイしようぜ!
I am deeply grateful to you!
(C) TREASURE