2018年7月21日(土)
ダウンロード用ゲームから佳作・良作を紹介する“おすすめDLゲーム”連載。本記事では、PC用ソフト『NOSTALGIC TRAIN』のプレイレポートをお届けします。
『NOSTALGIC TRAIN』は、架空の田舎町“夏霧”を舞台にしたウォーキングシミュレーターで、個人制作者の畳部屋氏が開発したタイトルです。
ゲーム中で歩くことのできる夏霧は、小さな浜と山に挟まれた場所に単線の鉄道が敷かれた、田園風景の情緒を残す小さな田舎町として描かれています。
田畑や水田の横には藁葺屋根の家が建ち、清流がせせらぐ小川の横には木造校舎の小学校。単行電車が停まる小さな駅の前には、風化したコンクリート壁が印象的な商店があり、その道端には旧式の電話ボックス、道路にはオート三輪と並びます。
昭和、それもわりと遡った時代を色濃く残したモチーフの数々は、今や実物を目にするのが難しいものもあれど、1つの景色を織り成した時に、日本人の心に訴えかけてくる懐かしさを覚えます。
また、記憶を失った主人公の“私”が現実とは異なる夏霧で目覚める――という物語がベースにあるため、夏霧に人の姿がないことも特徴的です。
けれど、校庭にある虫取り網や、道の脇に置かれた自転車やゴミ箱、壁に立てかけられた掃除道具などを見ていると、そこには人の営みを感じとれます。人の姿はなくとも、その生活とのつながりをどことなく感じるのです。
田舎の情緒や風情に感じる懐かしさ、人のいないわびしさ、人の営みから微かに感じる温かみ。夏霧を歩いていると、それらがゆっくりと心に浸透し、胸の内から自然とノスタルジーが呼び起こされます。
本作のゲーム体験は、激しく心を揺さぶるものではないですが、寄り添うような心地よさがあります。きっと、夏霧を歩いているうちに、だんだんと心癒される気分になれるでしょう。
▲旅先で写真を撮るような感覚で、ふと足を止め、スクリーンショットを撮りたくなってしまうゲームです。 |
本作は、ストーリーモードとフリーモードの2つをプレイして、独特な夏霧の世界を堪能できます。
前者は神隠しをテーマに、夏霧に縁ある人物たちの切ない想いと物語を描いたアドベンチャー。プレイヤーは記憶を失った主人公の“私”となり、夏霧の各所をめぐって人々の記憶に触れ、神隠しの謎と“私”が何者かを明らかにしていきます。
物語はラストがとても綺麗で、その美しさと切なさが夏霧の情緒と結びつき、はかなくも温かい気持ちで胸が満たされました。
▲物語に沿って夏霧を歩くと、その情緒が自然と胸に入り込んできます。ストーリーはテキストを読むことで進めます。 |
▲ストーリーモードを進めると、夜の夏霧を歩くこともできます。 |
後者は自由に夏霧を散策し、田舎の情緒と郷愁を呼び起こしてくれる町の雰囲気を楽しめるモードです。随所に配された“夏霧メモ”で、夏霧と昭和の風習や暮らしを参照できる要素もあり、町の背景やゲームに対する理解を深めることができます。
個人的には、ストーリーモードより先にフリーモードをプレイしておくのがおすすめ。町のことを理解した状態でプレイできるので、ストーリーモードで夏霧の雰囲気をより楽しめるはずです。
▲夏霧メモでは、古書店を営むおじいさんの趣味から昭和のトリビアまで、さまざまなテキストを楽しめます。 |
ただ、夏霧メモの知識がストーリーに直接関係するわけではないので、ストーリーモードのクリア後に遊ぶ形でもプレイに支障はありません。
また、フリーモードを5分くらい遊ぶだけでも、ノスタルジーを刺激されて心地よいプレイ感を得られるので、気分転換やひと休みを兼ねた遊び方もできるタイトルだと思います。
▲フリーモードでは自由に、ストーリーモードでは話の進行に沿って、電車に乗ることができます。 |
本作は、景観がプレイヤーの心を動かすという点において、非常にオリジナリティを感じるゲームです。
単に田舎を描くことと、そこからプレイヤーに郷愁を感じさせることはまったく別だと思いますが、夏霧を歩くと自然に心地よさを得られる作品になっています。
海と山に挟まれた景色ということで、夏休みなどに遊ぶとノスタルジーを一層深く感じるかもしれません。雰囲気あるゲームを楽しみたい人や田舎の情緒に癒されたい人は、プレイしてみてはいかがでしょうか。
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