2018年8月23日(木)
大統領魂のメカアクション『メタルウルフカオスXD』インタビュー&プレイレビュー【電撃PS】
アメリカ大統領がパワードスーツを着込み爆発するホワイトハウスの中から飛び出してきたり、ホワイトハウス地下の秘密基地にエアフォース・ワンが隠されていたり……という、かなり“ぶっ飛んだ”世界設定が特徴のメカアクション『METAL WOLF CHAOS(メタルウルフカオス)』(2004年12月22日に初代Xboxで発売)。
この記事で取り上げる『METAL WOLF CHAOS XD』は、本作を現世代機向けにアップデート移植したタイトルだ。
本作はオリジナル版のゲームコンセプトである“圧倒的多数の敵勢力を多彩な銃火器で制圧していく爽快感と破壊のカタルシス”をそのままに、画面比率や画質の最適化、プレイアビリティの改善などを施し、マルチプラットフォーム対応(PS4、Xbox One、Steam)で全世界に向けて発売される。
今回、Gamescom2018の開催に合わせて、『メタルウルフカオスXD』の最新ビルドの試遊と、プロデューサー竹内将典氏へのインタビューを行う機会をいただいた。
竹内氏に訊く『METAL WOLF CHAOS XD』
▲プロデューサーの竹内将典氏 |
――『メタルウルフカオスXD』の制作にあたって、お話の発端はDevolver DigitalのTwitterだったという話を聞いているのですが、本当なのでしょうか?
竹内将典氏(以下、敬称略):本当です(笑)。Devolver Digitalさんが『メタルウルフカオス』に目を付けてくださっていて、Twitterで「このゲームをフロム・ソフトウェアとDevolver Digitalで組んでやらない?」みたいなツイートをしたんですよね。Devolver Digitalさんって独自のコミュニティを持ってて、いろんなファンがいらっしゃるんですけど、予想外な反響があったみたいで。彼らは半分ぐらい冗談でツイートしたみたいなんですけど、あまりにも反響が大きかったんで本気でこれをやろうと。そしてフロム・ソフトウェアに「やりませんか?」という話が来て、そこから始まったんですよね。
――ツイートへの反響は本当に凄かったんですね。
竹内:基本的にこのゲームって日本でしか出てないんです。ちょっと複雑な話なんですけれども、アメリカとかヨーロッパで出そうとはしていたんですよ。
――当時は時期的に9.11とかがあって……という説もユーザーさんのあいだでは言われていますよね。
竹内:そうですね。真実をお伝えすると、当時のフロム・ソフトウェアのゲームは、まず日本版を発売し、そのあとローカライズしてアメリカやヨーロッパで発売、という流れでした。そうすると海外版は、日本版の発売から半年~7、8カ月ぐらいあとにならないと出せないんです。『メタルウルフカオス』は2004年の12月22日に発売したんですけど、これはXboxの本当に一番最後の方に出したゲームで、2005年のGDCで次世代機であるXbox360のティザー情報が出て、E3で発表になったんです。
そしてXbox360は2005年の11月に発売となりました。つまり、このゲームをローカライズして海外で売ろうとすると、Xbox360の発売の直前で、ビジネス的にあまり意味ないんじゃないか?という事情と、会社的にもXbox360に取り組まないといけなくて、リソースをローカライズに割く余裕がなかった、という事情があったんです。出せなかったのはそういう理由です。
――当時、ローカライズチームみたいなものはあったんでしょうか?
竹内:ありませんでした。
――では探さなければいけなかったと。
竹内:フロム・ソフトウェアのゲームの作り方ってあんまり標準化されていないので、作った人間しか分からないんですよね。今はそうでもないんですけど、当時は作った人間しか分からない作りになっていたので、ほかの会社さんがよくやっている、ローカライズだけは外注するってことも結構難しかったんです。
――そういう事情もあったんですね。ただ、強烈なインパクトを残す「大統領魂だ」といったデモなどが牽引してくれたところもあってか、世界中である種“伝説のゲーム”的な感じになりました。
竹内:タイミング的に良い面も悪い面もあって。初代のXboxの一番最後に出たっていうのが、ある意味カルト的な人気を博する原因のひとつになった理由でもありますし、それが原因で販売数があまり伸びなかったっていう話でもあります(苦笑)。本作とか、初代のXboxのソフトってすごいプレミアがついてとても高いんですよね。そういった意味ではたまたまっていう話なのかもしれないですけれども、ごく一部の人には支持される作品になっているんだと思います。
――先日、発売日が2019年になってしまうという残念なお知らせがありました。
竹内:三世代ぐらいのゲームなので、今のマシンスペックなら普通に素直に表現できることでも、当時はいろんなことをやりくりしながら表現していたんですよ。それをそのまま移植するとちょっと変な表現になってしまうところを手直ししなきゃいけないんですね。
あと海外の人たちはオリジナルのゲームをやりたいという思いが強いらしいんです。このゲームの場合は海外で発売していないこともありますし、移植するときにグラフィックがきれいになりすぎたために昔のグラフィックの味がなくなってしまうとか、いろんなゲームの要素を足して昔のゲームとはちょっと変わってしまう、というのはあまり良くないかなと思っています。
なので、できるだけ昔のゲームの感覚っていうのを再現しようとしています。素直に移植すれば終わりなものを、わざわざ昔の感覚に戻すためにもうひと手間加えているっていうところがあり、それはやっぱり時間がかかるって話になったんです。でも、それを実現することを最優先にしようと。苦渋の決断でした。
――海外の方からすると、英語の言い回しが結構面白いという話を見かけたのですが、どういった背景で生まれたのでしょうか?
竹内:ちょっと説明が難しいんですけど、元ネタは映画なんですよ。映画などでは「君の瞳に乾杯」じゃないですけど、“普段そんな言い方しないよね?”っていう言い回しが出てくるじゃないですか。ああいった、“アメリカ人って映画とかだとこういうしゃべり方するよね”っていうのをものすごく強調したものなんですよ。
もちろん、私もアメリカ人が普段からそういうしゃべり方をしているとは思っていないんですけれど、本作はアメリカが舞台で、アメリカの大統領が主人公なので、「アメリカというものはこういうものだ」みたいなステレオタイプを独自の解釈で煮詰めて押していこう、という思いが当時あったんです。その流れで言い回しとかしゃべり方も、さっき言ったような映画の世界のようにして。普段生活しているアメリカ人が「そんなしゃべり方しないよ」と思うくらいのが面白いのかなと思ってやってたんです。
――『メタルウルフカオス』の元々の企画はどういったところからスタートされたんですか?
竹内:一番最初のスタートというのは大統領とかでは全然ないんですよ。もともと僕は『アーマード・コア』を作っていたんです。『アーマード・コア』ってゲームとして自分の思った通りにメカを動かせる反面、動かせるようになるまで覚えなくちゃいけないことがたくさんあったり、もしくは自分の好きなメカを作れる反面、メカを作るのにすごく手間がかかって、自分のメカを組み立ててからしかゲームを開始できなかったり、っていう側面もあって。
それは、『アーマード・コア』をプレイする点では敷居が高いと言われていた部分なんですよね。そういった部分を少し違うアプローチで回避して、ゲームとして作れないかなと思っていたんです。『アーマード・コア』でそれをやるわけにはいかなかったので、“『アーマード・コア』の複雑に感じられたところを解決した、『アーマード・コア』とは違うゲーム”を作りたいという思いがスタートです。
――そこになぜか竹内さんが思う、アメリカンスピリットが混ざってこのゲームになったと。
竹内:そうですね。そこがスタートではあったんですけど、それだけだと劣化版『アーマード・コア』でしかないじゃないですか。なので、劣化版『アーマード・コア』ではない、このゲームならではのアイデンティティを出さなきゃいけないなと思ったんです。そのときに“どういうやり方があるのか?”と考えている中で、“アメリカ”というテーマがいいのではないかと思ったんですよ。
――ユーザーさんの反響としては当時と今で比べて違っているところはありますか?
竹内:明確に違うなと思うのは、メカデザインに対する評価ですね。『メタルウルフカオス』というゲームを出した当時、メカのデザインについては『アーマード・コア』との比較でしか評価されていませんでした。厳密に言うと本作で大統領が乗り込むのは『アーマード・コア』のような巨大なメカではなく、パワードスーツなので、3m弱ぐらいの大きさしかありません。
なので、ただの“小型メカ”というイメージでしか捉えられてなかったんですよ。14年経った今は、特に海外のユーザーさんから、“このメカは日本の80~90年代のロボットアニメのデザインが組み込まれている。良いデザインだ。”という意見を聞くようになりました。当時は意識しませんでしたが、“海外の人から見た日本のメカのエッセンス”を『メタルウルフカオス』に見ているという感想が多いですね。今は昔とは少し違ったアプローチでこのゲームが評価されているんだなと思いました。
――本作を評価している海外ユーザーさんのうち、全員がこのゲームのプレイされている訳ではないと思うのですが、それでも非常に高い人気を誇っている、という状況はどういった部分が理由だと考えてらっしゃいますか?
竹内:多分、一番大きいのはトランプ大統領だと思うんですよ。当然、当時はそういったことを予想していたわけではなく、『XD』のプロジェクトが始まったときもトランプさんはまだ大統領ではなくまだ候補だったタイミング。
誰もトランプさんが大統領になるとは思ってなかったので、今となってはただの偶然でしかないんですけど。とはいえトランプ大統領が良くも悪くも注目されているタイミングで、アメリカの大統領が主人公というゲームってほとんどないので、そういった意味でまず興味を持ってもらって、そこから情報を調べていく人たちがYouTubeとかで「なんかぶっ飛んだゲームだ」っていうような評価をしてくれて、面白そうだと思ってもらえているんじゃないかなと思ってます。
――このタイトルが発表されたときの海外の方の反響はどのようなものがありましたか?
竹内:未発売だったので、“ついにやれるんだ!”っていうのがひとつと、あとはDevolver Digitalへの賞賛です。“デボルヴァーはフロム・ソフトウェアと関係がない中で“こういうのをやりたい”とどんどん言っていたけど、本当に実現しやがった、スゲェ!”っていう。お祭り騒ぎみたいな感じで、あまり冷静な雰囲気もなく(笑)。E3の発表をしたあと、すごい勢いでツイッターのトレンド上位に入ってしまって意味が分からなかったです。
――Devolver Digitalのカンファレンスはめちゃくちゃな勢いでしたよね。
竹内:そういった意味では、Devolver Digitalってすごく面白いパブリッシャーさんだなと思うところがあって。実際にユーザーさんも言っているんですけど、“このゲームってフロム・ソフトウェアが作ったゲームなんだけど、Devolver Digitalの作っているほかのゲームと比べても違和感がない”と。私自身もDevolver Digitalの人たちと話をしてみて、すごく気が合うというか、話が合う感じはありますね。
――ちなみにタイトルのXDというのはHDじゃないからXDになっているっていう話をお聞きしたのですが、XDのXという意味はどこからきているんですか?
竹内:フロム・ソフトウェアにしてもDevolver Digitalにしてもそうなんですけど、“あまり普通のことをやりたくない”って考えがまずあるんですよ。やっていることはHD化と言えばそうなんですけど、普通にHD化って言いたくないよねっていうのがお互いあって。
“じゃあHDって言わないとしたらどういう言い方があるだろう?”と考えたときに、Xという文字を使おうと思ったんです。アメリカ人にとって、Xという文字は謎めいた文字なんです。具体的には『X-MEN』などにそれが現れています。アメリカをテーマにしたゲームなので、Xに対する特別感を使えばいいんじゃないかということで、HDとXを足してXDとなりました。XDは本作の世界観に沿って名付けているんですよ。
――個人的にextremeのXなのかな、と勝手に思っていました。
竹内:多分、そういったニュアンスも当然あると思うんですけど、extremeというよりはアメリカ人がXに持つ特別感のほうが強いと思います。
――国内ではどういう反響がありましたか?
竹内:ある意味このゲームって今の時代に合っているところがあって。本作はいわゆる、“ネタゲーム”なんですよ。ゲームとしては面白いとは思うんですけど、出オチゲーでもある(笑)。ただ、そういうのって今のネット文化とは親和性が高いと思っていて、“ゲームにはあまり興味がないけど、そういったネタには興味がある”という方がすごく盛り上がってくれたんですね。
もともとこのゲームを知っている方はインフルエンサーとして本作のことを拡散してくださったんですけど、拡散した“ネタ性”と、さっき言ったトランプ大統領の影響もあって、“アメリカの大統領に対する関心の高さ”とが連動して「なんでこんな方たちまで?」っていうような方々も食いついてくださったんですよ。今の段階としてはこのゲームのターゲットではない人にも注目してもらえたのかなって感じがあります。
――話を聞いていて、“バズワードを盛り込みつつ、『アーマード・コア』をカジュアルな難易度に寄せて間口を広げて……”と、かなりきれいなパッケージングであるように思いました。
竹内:たしかにそうなんですよね。でも、それは当時ゲームを作っていて想像しているわけではなくって、完全に偶然なんですよ。そういうのも重要ですが、狙ったわけじゃないのが悔しいところではありますね。
――気が早い話ですが、このプロジェクトがうまくいけば『NINJA BLADE』のリマスターや、あるいは本作の続編に続いていくという可能性も……?
竹内:確かに気が早い話だとは思いますけど、そういった話をされることは多いです。そういうことができればいいなとは思うんですけど、“普通に続編を作るのもどうなんだろう?”と思っているので、本当にやれるのだったらいろいろ考えなきゃな、と思ってます。
――またそういう流れが生まれることを期待したいです。
竹内:今のフロム・ソフトウェアって、『ソウル』シリーズが看板タイトルで、そういう流れの中でやらなきゃいけないことはたしかに多いんですけど。でもやっぱり常にいろんなことにチャレンジしていきたいなという思いはあるんです。『ソウル』シリーズという大きな流れがあるなかで、フロム・ソフトウェアは昔こういうこともやっていた、またはこれからもやっていくよ、っていう流れを、もう少し広げていきたいなと思ってます。
――最後に国内のユーザーに向けて一言をお願いします。
竹内:当時はXboxでしか出ていなかったのですが、今回はPS4、Xbox One、PC(Steam)で出るので、いろんなユーザーさんにプレイしてほしいですね。プレイしたいけどできなかったという方は、今回ぜひやってほしいなと思ってます。
14年の時を経て蘇った大統領に触れる!
さて、筆者は恥ずかしながら当時Xboxを所持していなかったので今回が初のゲームプレイとなったのだが、印象としてはまさに“難易度が低い、なんでも壊せる『アーマード・コア』”と言ったところ。攻撃は基本的に武器ごとに大きさや射程距離が異なるロックオンサイトの中に敵を入れて後は撃つだけ。武器は右と左のバックパックにそれぞれ4種ずつ、計8種類携行でき、それぞれの弾薬もかなり多めなので、用途に合わせて使い分けていけば、基本的には弾薬切れになることなどはなさそうだ。
また、自分が操作するのは全長3mほどのパワードスーツなので、敵兵士に相対した時に彼らが米粒ぐらいになることもなく、スーツの体力もかなり高い。ワラワラと出てきてこちらをチュンチュン撃ってくる敵を「なんかやってるなぁ」と思いながらショットガンでバンバンなぎ倒していくことができ、お手軽操作で爽快さを感じることができた。
特徴的なのは踏みつけというアクションで、これは弾薬を消費せず、空中からの落下による衝撃波で敵をなぎ倒すというもの。この衝撃波でもオブジェクトはバンバン壊れ、兵士はどんどん吹き飛んでいき、非常にケレン味の効いたアクションとなっている。
移動操作のレスポンスも『アーマード・コア』の初期機体と比べるとかなり軽快さを感じるようになっており“自在に動かしている感”はすぐに得られるだろう。とくに『N』系をプレイしていたユーザーは懐かしさを感じるかもしれない。
ただしさすがはフロム・ソフトウェアというか、高所からの落下で一発アウト、といった厳しさも持ち合わせており、何も考えずにプレイしていると、ちょっと手間取る箇所はあるかもしれない。
ストーリーも破天荒だし、むしろこちらがボスになった気分で圧倒的パワーでの蹂躙が楽しめる本作。昨今の“死にゲー”という印象が強いフロム・ソフトウェアのタイトルと比較すると、いろいろな意味で“異色”と言えるだろう。『アーマード・コア』新作のアナウンスは未だないが、同社が手がけるメカアクションの入門としてはうってつけであり、また同社の作風の多彩さを感じるには、ちょうど手頃なタイトルと言える。
2019年に発売される本作は、きっとあなたが知らないフロム・ソフトウェアを教えてくれ、同社の新たな試みの象徴となるだろう。
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