2018年10月13日(土)

【おすすめDLゲーム】迫害された子どもを育てる『マイ・チャイルド・レーベンスボルン』の物語は心の奥底まで揺さぶる

文:キャナ☆メン

 ダウンロード用ゲームから佳作・良作を紹介する“おすすめDLゲーム”連載。今回は、ノルウェーのデベロッパー・Sarepta Studioが開発し、同国の深刻な歴史問題に焦点を当てたiOS/Android用アプリ『My Child Lebensborn(マイ・チャイルド・レーベンスボルン)』のプレイレポートをお届けします。

『マイ・チャイルド・レーベンスボルン』

『マイ・チャイルド・レーベンスボルン』とは

 レーベンスボルンとは、ナチスが優生民族とするアーリア人種の人口を増やすために推進した計画で、ドイツ人(特にナチス党員)を父に持つ赤ん坊を確保するための産院(ホーム)の建設、占領地からの子どもの拉致などが行われました。ある意味でユダヤ人の迫害と対になる、ナチスの優生思想が生んだ悲劇の1つです。

『マイ・チャイルド・レーベンスボルン』

 ノルウェーでは、ドイツによる占領が行われた当初こそ、ドイツ兵とノルウェー女性の結婚がナチスから禁止されていたものの、ノルウェー女性の容姿的特徴がアーリア人種の理想的な外見に適うとして、子どもを作ることが奨励されます。最終的に、ホームでは8,000人、ノルウェー全体では12,000人の赤ん坊が生まれたといわれます。

 こうした子どもたちに、本格的な悲劇が降りかかるのは終戦後のことです。ノルウェーの人々のナチスに対する憎しみが、ドイツ兵と関係を持った女性とその子どもたちに転化され、レーベンスボルンの子どもたちは迫害の対象となります。

『マイ・チャイルド・レーベンスボルン』
『マイ・チャイルド・レーベンスボルン』

 レーベンスボルンのホームは、ドイツ本国以外では、ノルウェー、フランス、ベルギー、ルクセンブルクに建設され、フランスではドイツ人の父を持つ子どもの数は8万人にのぼりますが、ノルウェーは他国と比べて子どもたちに対する差別が特にひどかったそうです。

 その過酷な差別と真正面から向き合ったゲームが本作『マイ・チャイルド・レーベンスボルン』で、プレイヤーは養子に出されたレーベンスボルンの子どもを引き取って、育てていくことになります。

 本作のストーリーは、複数のレーベンスボルンの子どもらの経験談に基づいて構築され、彼・彼女らがどのような迫害を受けたのか、その一端を知ることができます。深刻な問題を扱っているためゲーム内容は重く、しかしながら、歴史と人間性について深く考えさせられる作品になっています。

『マイ・チャイルド・レーベンスボルン』
▲自分の子どもと対話し、信頼を得て心を開いていきましょう。

実話ベースの物語が何にも代え難いゲーム体験を生む

 ゲームを開始すると、男の子のクラウスと女の子のカリン、どちらを養育するか選択します。

『マイ・チャイルド・レーベンスボルン』 『マイ・チャイルド・レーベンスボルン』

 子どもが7歳になって小学校に通うという状況から物語は始まり、学校や地域でどのような差別を受け、傷つく子どもにどう接していくか、子どもとのコミュニケーションがゲーム体験の軸になっていきます。

 エスカレートするイジメと、小さな希望を見出しては打ち砕かれる日々。「何も悪いことしてないのに!」「どんなに頑張っても嫌われる」と嘆く子どもに、どんな言葉をかければよいのかわからず、会話の選択肢では答えを出すのに数分をかけることもしばしばです。

『マイ・チャイルド・レーベンスボルン』

 ゲームの流れ自体は、自身が仕事に行く傍らで、食事や風呂、着替えといった子どもの世話をする1日のサイクルを繰り返していく形になります。

 特に時間のやりくりがポイントで、大抵の行動は時間を消費するため、子育てのために何を優先するかか悩ましいところです。計画を立てられるならラクですが、イジメにあった子どものケアをしたり、それによって破れた衣服の修繕をしたり、密かに子どもの親族へ手紙を出したり、不測の事態やするべきことはたくさんあります。

『マイ・チャイルド・レーベンスボルン』 『マイ・チャイルド・レーベンスボルン』
▲子どもにプレゼントするマフラーやオモチャを自作するようなケースもあります。喜ぶ顔を見るためなら、頑張って時間を作りたい!

 また、無職から始まる序盤は、食費を捻出するのにも苦労するシビアな資金管理を求められます。お粥のような食事しか与えられず、「おいしくない」と嘆く子どもの言葉が、なんと心を抉(えぐ)ることか……。

 なお、無職から始まるのは養い親(プレイヤーキャラ)のせいではなく、レーベンスボルンの子どもを育てていることで親もまた差別され、職を失ったからという事情があります。そうした背景からも、社会がレーベンスボルンにかかわる者すべてを排除しようとする、迫害のひどさと悲しみがかいま見えます。

『マイ・チャイルド・レーベンスボルン』
▲レーベンスボルンの子どもと真摯に向き合う、養い親の気持ちが赤裸々に綴られる日記。物語に深さを与えています。

 そうした社会事情だったためか、公式サイト内にあるゲームの背景が語られたページでは、レーベンスボルンの子どもたちは、母親や家族から虐待を受けたケースが多かったことも伝えられています。

 実話がベースになっているだけに、社会から差別される子どもの体験は真に迫っており、時にゲームを続けるのがつらく感じるほど胸を締め付けられます。けれども、それほどに心の奥に深く刻まれる物語であり、言葉で語り尽くせない、多くの感情を呼び起こしてくれるゲームだと思います。

『マイ・チャイルド・レーベンスボルン』

 生活と子どものケアをどう両立させるのか、傷つく子どもにどんな言葉をかけるのか、ゲームの始まりから終わりまで尽きぬ葛藤が、ゲームを遊んだ時間を何倍にも感じさせてくれる。そのような濃い時間を過ごさせてくれるでしょう。

 本作は東京ゲームショウ2018の開催時期より日本語版が配信され、誰でも手軽にプレイできるようになりました。心を激しく揺さぶられるゲーム体験は他の何にも代え難く、貴重な教養を得られる作品でもあるので、少しでも興味を引かれたらプレイしてみてほしいタイトルです。

『マイ・チャイルド・レーベンスボルン』
▲ゲームの開始年は終戦から6年を経た1951年です。

データ

▼『My Child Lebensborn(マイ・チャイルド・レーベンスボルン)』日本語版
■メーカー:Teknopilot
■対応機種:iOS
■ジャンル:パズル
■配信日:2018年9月21日
■価格:360円(税込)
※開発:Sarepta Studio
▼『My Child Lebensborn(マイ・チャイルド・レーベンスボルン)』日本語版
■メーカー:Teknopilot
■対応機種:Android
■ジャンル:パズル
■配信日:2018年9月19日
■価格:330円(税込)
※開発:Sarepta Studio

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