2018年10月18日(木)
『閃の軌跡IV』×『うたわれ斬』のコラボ記念社長対談。第2回はゲーム制作への想いを語る【電撃PS】
10月25日から始まる日本ファルコムの『英雄伝説 閃の軌跡IV -THE END OF SAGA-』と、アクアプラスの『うたわれるもの斬』のスペシャルコラボ。それを記念して電撃PlayStation誌上で行われた、日本ファルコムの近藤季洋氏とアクアプラスの下川直哉氏の対談を全3回でお届けするこの企画。
第1回ではこの“夢のコラボ”が実現した経緯などをお伝えしました。第2回ではクリエイターと社長という両面から、お2人のゲーム制作にかける想いを語っていただきます(インタビューは8月29日に実施)。
日本ファルコム株式会社 代表取締役社長 近藤季洋氏
2007年に32歳という若さで社長に就任。『軌跡』『イース』シリーズなど、日本ファルコムを代表するタイトルのプロデューサー兼シナリオライターを務める。
株式会社アクアプラス 代表取締役社長 下川直哉氏
社長業をこなしつつ、アクアプラス作品のプロデューサーを務める。また、サウンドクリエイターとしても積極的に活動をこなす。
2つのアプローチがあるゲーム制作の流れ
――お互いの会社を熱くリスペクトしているというお話でしたが、たとえばPRなどの仕事のやり方などで注目している部分はありますか?
近藤:やはりキャラクターの魅力の打ち出し方でしょうか。どちらかといえば、弊社が苦手な部分なんです。先ほども“弊社に硬派なイメージがある”と下川さんがお話されていましたが、僕が入社した頃は、企画書に“魅力的なキャラクター”と書いて、怒られた覚えがあるんですよ(苦笑)。「それよりもまずゲームの中身を考えなさい」「システムとしておもしろくしなきゃダメでしょう」と。
もちろん、先輩たちから学んだこともありますが、僕らの世代からは“ゲームにはキャラクターの魅力から入る方もいるんだから、それは重要な要素では?”と考えて、ゲーム作りを続けてきたんです。そういったこともあり、アクアプラスさんのタイトルはキャラクターの魅力という部分が、販促物やパッケージを見て、説明を受けなくてもすごく伝わるのはすごいなと。それから、ゲームの中身もわりとカッチリと丁寧に作られているイメージも、僕のなかにはあります。
下川:ありがとうございます。まだまだファルコムさんに比べたら足らない部分もありますが。
近藤:ものすごく大掛かりなことをやると大変ですが、弊社の作り方としては自分たちの力がちゃんと及ぶ範囲で完成させることを重視しています。アクアプラスさんのタイトルも、そういうところで丁寧に作られているので、同調して共感できる部分ですね。
▲コアなジャンルながらもかわいい女の子が活躍することで人気のダンジョンRPG『ダンジョントラベラーズ』シリーズ(写真は最新作の『ダンジョントラベラーズ2-2 闇堕ちの乙女とはじまりの書』)。 |
下川:これはおそらくいい面であり、ジレンマでもある部分だと僕は思いますが、やはり人気を博したタイトルがあると、そのタイトルにあこがれて応募してくるんです。弊社の場合は「かわいい女の子が登場して、魅力的なストーリーがある作品を手掛けたい」という人たちが集まってきます。だから、意外とゲームシステムを細かく考えたいという人の層が、なかなか応募してこなかったりするんです。
そういう意味でファルコムさんは、かなり昔のタイトルになりますがマウスでアクションRPGをさせる『ブランディッシュ』や、箱庭系リアルタイムストラテジーの 『ロードモナーク』など、システムがしっかりしていて”ゲームを作っている”と感じさせるメーカーさんでしたので、やはりあこがれが強かったです。
――たしかに“ゲームを遊ばせる”という部分は、どのタイトルからもしっかり感じられました。
下川:それに対して弊社はキャラクターと、ストーリーを見せていく作品を、PCの時代は作っていました。なかなかゲームシステムにかかわる部分まで、深く突っ込んで作り込めませんでした。あと、弊社のゲームにストーリーを求めて買ってくれる方が増えていくと、現場サイドでもストーリーを重要視していくわけです。そうなると、キャラクターの登場順番が物語優先になり、システム側が少し引いてください、みたいなことがけっこうあるんですよ(笑)。
近藤:それは弊社もありますね(笑)。
下川:だから、他社さんと組んで制作した時に「味方の弓ユニットはもっと早い段階で出てくれないと困ります」みたいなことを言われまして。この順番で、このタイミングでこれだけユニットがそろわないとゲームにならないという考えで、シナリオ側が少し引いてくれみたいな作り方なんだと知って、“ああ、おもしろいな”と思いました。
近藤:弊社は両方の作り方がありますね。『軌跡』シリーズはまさにストーリー重視で“このキャラクターはここで死にます。これ以上は育てられません(笑)。だからシステムはそれに合わせて考えてください”というのが、『軌跡』シリーズの作り方です。
▲ストーリーが高く評価され、4作目を迎えた『閃の軌跡IV』。 |
逆に『イース』シリーズはまったく逆です。“ゲーム体験が一番大事だから、6人パーティを決めたらその6人は絶対に死んだらダメ、用事があるから席をはずすこともダメ”と、パーティを抜けることがないようにと最初に決めます。
▲シリーズで初めてメンバーの入れ替えを採用した『イースSEVEN』。 |
下川:わかります。そこは議論になるんですよ。仲間が死ぬときに“え、このユニットの抜けはどう穴埋めするの? 育てていた人はどうするの?”みたいな(笑)。
近藤:『イース』は僕がシナリオを書いていることもありますが、制作を始める前に“とにかくゲームとしておもしろいものを作るように”“シナリオは一切当てにするな”と伝えますね。シナリオがまったくない状態でも開発はスタートさせて、NPCがしゃべるくらいはいいですが、アクションとして遊んでおもしろければ、シナリオがそれに乗ったらさらにおもしろくなるはずだと。『軌跡』シリーズについてはまったく逆のやり方で、御社と同じようにシナリオベースの作り方です。
葛藤が付きまとう社長とクリエイターの兼任
――お2人は社長という経営者としての立場と、プロデューサーなどクリエイターとしての立場でもあります。この立場の違いで意識を変えている部分はありますか?
近藤:ここ最近では、自分の場合は仕事を分けられないくらい、混ざりあってしまっているんですよね(笑)。開発で参加しているときと、社長として仕事をこなしているときに、何かを切り替えているつもりはないですね。僕自身が開発から入った人間で、社長業は32歳で就任してから覚えていったことが多いので。
――それほど意識せずにそれぞれをこなしていると?
近藤:そうですね。周りの経営者の先輩方からは「もうクリエイターは止めて、社長業に絞った方がいい」と言われる時もありますが(笑)。ただ、やはりクリエイターの気持ちがわかるからこそ、スタッフとの距離感や、開発のスピード感が保てているんだと思います。自分としてはそこを生かしたやり方で行きたいと思っています。
そこがしっかりしていれば、例えば「社長はどうせゲームのことを知らないでしょ」とはならないと思いますし。ファンの方からもそういった部分でもある程度は信頼していただいている気がします。そこを強みとして生かした経営をしていきたいです。よく言っていただける“ファルコムらしい作り込み&やり込み”を保っていくには、やはりそのあたりが必要だと感じています。
――逆に開発側の目線で見られることのデメリットはありますか?
近藤:それはもう開発の事情がすべてわかってしまうことがデメリットですよね(笑)。期間が迫っているけど、彼らはたぶんやりたがっている。でも、非情になって「ダメ」と言わなければいけないときがあります。やはりスタッフに伝えるときも大変ですし、自分で自分に対してダメと言わなければならないときもありますから。
クリエイターとして動いているけれども、客観的な立場からスタッフに普段言っていることを自分が破るといけません。自分でもあきらめることを迫られるので、そこはデメリットなのかもしれません。社長になる前でしたら、社長と喧嘩してでも押し通していたのですが(笑)。
今は自分に押し通したら、単なるわがままになってしまう場合がありますので。やはりそこはきちんと押さえていかないといけない。自分の上に社長がいてくださったときのほうが、クリエイターとしては自由にできていたかもしれません。
下川:近藤さんのお話が身に染みてわかります(笑)。僕も19歳から仕事を始めて今24年目ですが、開発側から入ったんです。それで、社長として財布事情を知っているからこそ、これ以上作ったら会社がヤバいということも見えるわけですよ。
でも、スタッフが「こうしたいんです、こうしたらよくなると思いません?」と言ってきたら、開発側でもあるからよくなるのがわかるんですね。そこの葛藤は辛いものがあります。だって、ゲームとしての完成度が高い作品を世に出したい気持ちは、ゲーム作りが好きで始めた会社なので、当然あるわけじゃないですか。その想いに対して「これは完成度が上がるかもしれないけれども、これ以上続けたらゲーム制作が終わらないよ」と、期限を切らなきゃいけないジレンマがありますね。
スタッフはどこまでもいいものを作りたいんですよ。でも、どこかで誰かが期限を切る作業をしない限り、間違いなく終りません。どこまでも作っているのがクリエイターですからね(笑)。それは経営者だけでなく、ディレクターもプロデューサーもそういう苦渋の決断をしていて、みんな気持ちは一緒なのかなと。
近藤:作り続けていれば、よくなるのは当たり前なんです。手を入れたら入れたぶんだけよくなりますし。ただ、やはりある程度まで達するとよくなる度合は低減していくので、そこを見極めてスタッフの肩をポンとたたいて「ここまでだよ」と言ってあげないとダメなんですよね。
下川:いいものにしたいという想いが、念として作品に入るので悪いことではありません。ユーザーさんが気づかないところまで、できる限りすべて作り込みたいのがクリエイターですし。でも、それよりも優先順位を出す必要があって、例えば「今この仕事に1日使うならば、こちらに1日使ったほうがユーザーさんに喜んでもらえる、ゲームとしての完成度が上がるのでは?」と交通整理して導くことが、けっこう大変です。
近藤:最近はあとからパッチで修正できるので「パッチで演出をよくしたい」など、相談を受けることもよくあります。たしかに1カ月かけてそれを作れば、いいものにはなるんです。だからといって、2倍感動できるものになりますというわけではありません。逆にその1カ月を使って、新作を1カ月早くスタートできれば、またちょっと状況も変わるわけです。
スタッフの気持ちもわかりますが、会社として次の新作もスタートさせなければいけません。「いつまでも同じ絵でデッサンを直しているよりは、新しい紙を持ってきて、もう1枚新しく絵を描いた方がいいよね」など、いろいろな言葉を使ってみんなを説得しています。気持ちがわかるからこそ説得しなくてはいけないなと。
下川:これは滑稽に思われるかもしれませんが、予算とのバランスというものが各々ありますよね。例え100万本売れるとわかっていても、そこまで売れない作品の現場と気持ちは同じで「時間が足りないよ」と言っているのかなと。ゲーム制作における線引きは本当に難しいです。
個人的にはまず粗々でいいから70点、80点で最後まで進めて、そこからクオリティを上げるために時間を使ってくれたほうが、トータルでの完成度は高くなると考えています。ですが、それがなかなかできないですよね。10項目あったら1つずつ100点の状態で潰していくから、気が付いたら50%の進捗度で7~8割の時間を使い切ってしまっている……みたいな感じがよくあります(苦笑)。
――経営者としてクリエイターとしての気持ちがわかるからこその悩みですね。
下川:そうですね。まあ、経営者だろうがスタッフだろうが、売れてほしいのは一緒ですからね。たくさん売れる=利益だけでなく、やはり売れると楽しいですから。数が出ると現場の士気も上がりますし(笑)。
近藤:やはりそれが一番ですね(笑)。
――経営者側目線からクリエイター側に求めていることはありますか?
近藤:弊社は1本作って1本売っていくスタイルなので、みんなが盛り上がれるアイデアが欲しいです。最近はシリーズものが多くて、新規IPをなかなか出せないでいたんですよ。
下川:弊社も同じで、耳が痛い話ですね(笑)。
近藤:そのなかで、2015年に『東亰ザナドゥ』というタイトルを発売しまして、じつはこのタイトル名はスタッフから出てきたアイデアでした。弊社のタイトルは昔からファンタジーものばかりで、最近のアニメやライトノベルで流行りの“現代モノ”を一切やったことがなかったんです。
▲“都市型神話アクションRPG”というジャンルで好評を博した『東亰ザナドゥ』(写真はPS4で発売された『東亰ザナドゥ eX+』)。 |
スタッフのなかにも“ファンタジーはもう飽きて、現代ものがやりたい!”という想いがあり、“でもそれをやるならば世の中に同じ作品がいくらでもありふれているから、僕らにしかない現代モノをやらないといけないよね”という葛藤もあったんです。
その流れで『東亰ザナドゥ』という、ファルコムらしい象徴である“ザナドゥ”という言葉と、ファルコムと最も無縁であると思われていた“東京”というキーワードを合わせたタイトル名が出てきたときに、社内でもの凄く盛り上がったんですよ。まだゲームの中身は何も決まっていないのに、「東亰ザナドゥ、いいね!」となったんです(笑)。
▲1985年に『ドラゴンスレイヤー』シリーズの2作目として発売された『ザナドゥ』。 |
そういうスタッフ全員が聞いたただけで伝わるベクトルみたいなものがあると、ゲームができる前から営業もこんなことをやりたいというアイデアがワッと出てきますし、開発もやりたかった現代モノができるというモチベーションも上がるわけです。
シリーズタイトルが続いて、社内もなんとなく行き詰まりを感じていたなかで、風通しがよくなるこの新しい取り組みがパッと出てきたので、僕も気持ちよく最後まで仕事ができた覚えがあります。僕もこんなアイデアを出さないといけないと思いますが、若い人から年配までスタッフの数は多いので、年齢を問わず今後どんどんアイデアを出していくことができたら、本当はいいなと思っています。
下川:正直メチャクチャ難しいですね。コストへの意識は常に持ってほしいとは思いますが、これはあまり書かれるとスタッフからいろいろ言われちゃうかな(苦笑)。
近藤:それはうちもあります(笑)。永遠の悩みですよね。
下川:でも、コスト意識については、今与えられている時間のなかで、ユーザーさんに喜んでもらえるためにやるべきなのはこっちだろうと、考えてほしいということなんです。今進めている作業をよくすることでなく、もう少し俯瞰的に周りを見てほしいかなと。ただ、これは純粋にプロデューサーとして求めていることかもしれません(笑)。
――アクアプラスさんには熱量が多いファンが多い印象がありますが、SNSなどの声についてはいかがでしょうか?
下川:ファンの声はもちろん大事ですが、じつはインターネットに上がるファンの声は大きいんですよね。1人で100人前くらいの熱量がある方もいる。クリエイターのみなさんも同じだと思いますが、これはこの人の意見なのか、多くの人の意見なのかを見抜くのが難しいです。
それが誹謗中傷の場合は、見たスタッフがすごく傷つくわけですね。褒めてもらえる意見よりも、誹謗中傷のほうが目に留まりやすいじゃないですか。だからこれは永遠のテーマになりますが、その声を真に受けて直そうとし過ぎるのはどうかなと。
個人的には自分がおもしろいと考えて前を向いて作った作品を、ユーザーさんがこう言っているから直そう……とならなくてもいいと思っています。もちろんその声に耳をある程度傾けるのも大事ですし、自分が少しでもそう感じていた部分があるならば“ああ、やっぱりか。直そう”でもいいと思います。ですが、おもしろいと考えて作ったものを、おもしろくないと言われたから曲げなくてもいいのかなと。違う方法論でおもしろさを伝える手段を探してもいいのではと思います。
――クリエイターがおもしろいと思ったことに、信念を貫いてほしいというわけですね?
下川:そうですね。これは個人的な意見ですが、ディレクターなどゲームの核を作る人たちは、趣味が全員一緒なんてことは絶対にありえないと思うんです。そうなると意見を取りまとめながら作るわけですが、結果的に当たり障りのない丸いボールになるんですよ。
でも、少しくらいとんがっていてデコボコしていたほうが、ボールを転がしたときに人の前で動きが止まって目に入るのかなと。丸いボールはスーッと流れていっちゃいますからね。だから、どこまでユーザーの意見を採用して、どこまで自分の我を通すのかというのを、スタッフにはじっくり考えてもらいたいです。
▲“連撃アクション”にジャンルを変えた『うたわれるもの斬』。そこには開発スタッフの“おもしろい”という信念が込められている。 |
ただ、そんな偉いことは言えませんけどね。音楽の仕事をするときに自分は好き勝手やらせてもらっていて、それを実践できるのかということもあるので(笑)。
――そこからは社長ではなくクリエイターになるんですね。
下川:そこについては本当に現場には申し訳ないです。そのぶん、ゲームの根幹にかかわるプロット段階のディレクションで「こんなゲームになる!」と一度ベースができて開発が動き出してからは、僕は社長ではなく音楽プロデューサーとして、ゲームを盛り上げるためにどんな音楽を作るのかだけに集中しています。
でも、たぶんスタッフからはそうは思われていないでしょうね。今回のインタビューも掲載されると「また社長がこんなことを言っているよ」「あらゆるポジションに口を出すじゃない」とか(笑)。
~以下第3回へ続く~
第2回ではクリエイターと社長という両面から、お2人のゲーム制作にかける想いをお伝えしました。10月24日に公開予定の第3回では、ゲームクリエイティブの未来などを語っていただきます。
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