2018年12月7日(金)
『ネルケと伝説の錬金術士たち』のサントラ発売を記念して柳川さん&霜月さんにインタビュー【電撃PS】
シリーズ20周年記念作品としてPS4/PS Vita/Nintendo Switchでコーエーテクモゲームスから発売される『ネルケと伝説の錬金術士たち ~新たな大地のアトリエ~』。
2019年1月31日のゲーム発売日に先駆ける2019年1月30日に、ゲーム内使用BGMを約80曲収録した『ネルケと伝説の錬金術士たち ~新たな大地のアトリエ~ オリジナルサウンドトラック』と、『アトリエ』シリーズのアレンジ楽曲を収録した『Alchemy of Sounds ~Atelier Arranged Tracks~』が発売されます。
▲ネルケと伝説の錬金術士たち ~新たな大地のアトリエ~ オリジナルサウンドトラック |
▲Alchemy of Sounds ~Atelier Arranged Tracks~ |
今回はサウンドトラックの発売を記念して、楽曲を手掛けた作曲家の柳川和樹さん、そしてガストタイトルに欠かせない歌姫、霜月はるかさんに行ったインタビューをお届けします(インタビューは7月4日に実施)。
▲柳川和樹さん(左)と霜月はるかさん(右)。 |
霜月はるか
さまざまなゲーム・アニメ音楽で歌唱を担当するボーカリストであり、ファンタジックな世界や物語を音楽で描く活動をライフワークとするシンガーソングライター。コミックマーケット・M3等をフィールドとする同人音楽の黎明期より、CD数十枚の手売りからスタートし、独自の幻想音楽で地道に固定ファンを獲得。
その活動が注目されると共にボーカリストとして歌唱依頼を受けるようになり、2015年にメジャーデビュー。歌唱した楽曲は2018年現在、650曲を超える。作編曲や作詞、楽曲提供等、クリエイターとしての活動も精力的に行っており、2016年にはBGMも含め初めてゲームのサウンドプロデュースを担当。
ユニット“canoue”、“kukui”での活動や“Sound Horizon”サポートボーカル、音コンテンツの企画・プロデュース、楽曲提供、ラジオパーソナリティ等、その活動の幅はとどまる事を知らない。
■霜月はるかオフィシャルツイッターアカウント:@shimotsuki_h
■霜月はるかLINE@アカウント:@shimotsukin
柳川和樹
ガスト在籍時にサウンド制作を担当し、現在はフリーで活動中。『トトリのアトリエ ~アーランドの錬金術士2~』以降の『アトリエ』シリーズ、『よるのないくに』、『サージュ・コンチェルト』など数多くのガストタイトルの楽曲制作を担当。 最新作『ネルケと伝説の錬金術士たち ~新たな大地のアトリエ~』では、BGM及びエンディングテーマ「Birth」の作詞、作編曲を担当している。
■Twitter:@a5_yngw
『ネルケと伝説の錬金術士たち』に参加できたことの喜び
――まずは『ネルケと伝説の錬金術士たち ~新たな大地のアトリエ~』で、それぞれご担当されたお仕事を教えてください。
柳川:エンディングテーマ“Birth”の作編曲と、ゲーム中のBGMの一部で作編曲を担当させていただきました。
――今回も『リディー&スールのアトリエ ~不思議な絵画の錬金術士~』と同じように、阿知波(大輔)さんとご一緒されていますが、同じように分担して作曲されているのでしょうか?
柳川:そうですね、分担しています。今回は阿知波さん以外にもご一緒している方が何名かいらっしゃいます。
――となると、ゲーム内容と同じく音楽の面でもかなりにぎやかな感じですね。霜月さんは今回エンディングテーマを歌われているとのことですが。
霜月:はい。柳川さんが作られたエンディングテーマの“Birth”の歌唱を担当させていただいています。
――『ネルケと伝説の錬金術士たち』は『アトリエ』シリーズ20周年記念作品です。あらためて20年という節目のタイトルに参加してみていかがですか?
柳川:お祭りというか、このような記念タイトルに参加させていただけることが、本当にありがたいです。そして、20周年のタイトルが出せるところまで、『アトリエ』シリーズがユーザーさんに支持されているということが、なにより一番うれしいですね。
霜月:こういった記念作品でお声がけいただけるのは、本当に光栄なことだなと思います。私もすごく長いこと『アトリエ』シリーズにはかかわらせていただいていますし、このシリーズ自体にとても愛着があります。柳川さんの言葉と重なってしまいますが、本当に長く支持されている作品でお仕事ができていることはうれしいことですし、みなさんのおかげだなと感謝しています。
――そういった記念作品の本作ですが、仕事のオファーが届いた際に、これまでのシリーズになかった特別な指定などはありましたか?
柳川:今回はお祭り系のゲームということで、楽曲の雰囲気については“お祭り感”を出してほしいという要望はありました。あとはゲームの内容的にもシミュレーションの要素、街づくりの部分で比重が増えそうだったので、「シミュレーション部分を遊んでいて、飽きがこないようなBGMにしたい。そのためにはどうしましょう?」という相談を、最初にサウンドディレクターとさせていただきました。
最終的に「普段よりも少し1フレーズをやや短めにして、落ち着いて作業がしやすいBGMで作っていきましょう!」という方向で話が進みました。もちろん『アトリエ』シリーズらしい、いつもの軽快な感じも残しつつで、そこはバランスを取りながら制作していった感じですね。
――これまでの『アトリエ』シリーズは、調合を行うアトリエの出入り、採取地への冒険と戦闘と、場面転換が多いゲーム性でした。それに対して本作は、シミュレーションパートでの街づくりが軸になり、1曲をより長く聴き続けるシーンが多くなると予想できます。このジャンルの変更により楽曲の作り方も変わるのでしょうか?
柳川:そこを変える変えないは、ある程度作曲される方によるとは思います。僕の場合は相談のうえ、例えば今まで8小節つながったメロディで作っていたようなところを、2小節くらいの短いメロディを繰り返す形で作った曲などもあります。長く聴いていて「ここからここまでを聴いたぞ」というのがはっきりと見えづらい形で、長く聴き続けても違和感がない曲にしていこうという狙いですね。
――シミュレーションの進行に応じて、曲のテンポが変わるなどもありますか?
柳川:そうですね。曲自体が変わっていきます。そのあたりもバリエーションは多めに用意しているので、お楽しみいただけますと幸いです。
エンディング曲の“Birth”に込めた想い
――霜月さんが歌われるエンディング曲の「Birth」ですが、作曲されるにあたっては、20周年という部分を意識されましたか?
柳川:作詞という部分では、今回のアバンタイトルテーマがすごく『アトリエ』シリーズの歴史を感じさせる内容の歌詞になっていたので、同じ方向性で作っても仕方がないだろうと考えました。
そこで、シリーズの記念という意味よりも、あくまで本作を遊んでいただいたうえで最後に流れるならばこれだろうという言葉をチョイスしました。あとは霜月さんに歌っていただくならこの歌詞が映えるはず、という部分も意識していますね。
――やはり長年のやり取りがあるから、霜月さんならばこう歌ってくださるだろうという想像がしやすいのでしょうか?
柳川:じつは僕自身の曲で霜月さんに歌っていただくのが3回目くらいなんですよ。でも僕もいちファンとしてこの仕事を始める前から霜月さんの歌は聴かせていただいていますし、ラジオ(霜月はるかのFrost Moon Cafe#)もずっと聴かせていただいているので、そういう意味では「こう歌っていただけるだろう」というイメージはしやすかったですね。
――霜月さんは“Birth”の楽曲を最初に聴いてみていかがでしたか?
霜月:『ネルケと伝説の錬金術士』の企画は、まず「今回はこういうタイトルなんですよ」というお話をいただきましたが、ストーリーの細かい部分はそこまで聞いていなかったんです。あくまで『アトリエ』シリーズとして、新たなアプローチをする作品だとだけお聞きして曲をいただきました。でも、いざ聴いてみると「あ、『アトリエ』シリーズの曲だなと(笑)」。
そこは安心感みたいなものがすごくありましたね。あとは少し音楽的にマニアックな話になりますが、柳川さんが作る曲はサラッと聴くとポップに聴こえるんですが、じつはものすごくトリッキーなことを内部的にやってらっしゃるんですよ(笑)。
柳川:(笑)。
霜月:最初に曲を覚えようとは思わずに聴くと、サラッと明るくポジティブな曲でいいなと思っていたけど、いざ歌を覚えようとじっくり聴き始めると「ん? この曲はなんだかすごくコードが変わるし、転調の嵐なんだけど……けっこうトリッキーな進行をやっているな。これは柳川さんの曲らしいな~」と、聴きながら痛感しました。
私は自分が歌わせていただいた曲以外も、これまで柳川さんが作られた曲をたくさん聴いてきて。だから柳川さんは“サラッと聴くとそんな部分を気づかずに違和感なく聴けるが、じつはマニアックなことをたくさんやっている作曲家さん”というイメージがありまして。
柳川:いやいや、サビだけは意識してなるべくわかりやすく作っていますよ(笑)。
霜月:ただ、実際にメロディが自分の体に入って歌ってしまえば、それらを意識せずに聴けるような、すごくキャッチーでわかりやすさがある曲だと思います。「深く聴けば、じつはちょっと音楽的におもしろいことがいっぱいあるんだぞ」とお伝えしたいですね。なんだか曲の印象というよりも、曲を解析している感じですが。
柳川:苦労するわりには普通に聴こえるって、よくよく考えたらコストパフォーマンスが悪いですね(笑)。
――たしかに違和感なく普通に聴こえるのは悪いことではないですが、誰にも気づかれないのは意外と寂しいですよね(笑)。
霜月:転調はアカペラで歌うと難しいんです。カラオケ上ならば何の違和感もなくどんどん変調していけるのですが、アカペラで歌っていると「あれ、私今転調した? ん、したよね!?」となってしまって(笑)。“Birth”は練習中にそれを強く感じた曲ですね。
柳川:すみませんでした(苦笑)。
霜月:いえいえ。でも、それがすごく柳川さんらしい曲で、私が大好きな部分なんですよ。この曲にはそんな柳川さんらしさがありつつ、ずっと『アトリエ』シリーズに携わっていらっしゃるので、聴いてすぐに「あ、これは『アトリエ』の音楽だな」と感じられる要素もしっかりありました。
柳川:ありがとうございます!
――歌われるときにシリーズの20周年に対して、例えば“万感の想いを込めた”などはありましたか?
霜月:そうですね。特別20周年だからこう歌いましたというのはありません。柳川さんがイメージしてくださった歌詞を読んで、どう歌えば歌詞にある希望や未来が見えるようなポジティブな感じを表現できるかを考えました。
実際に歌うと「もっとこうして!」という指示は特になかったので、私がもともとこの作品にイメージしていたものが柳川さんと一致していたのかなと。
柳川:そこはありがたいお話ですね。
霜月:私も『アトリエ』シリーズの曲をいろいろと歌わせていただいてきました。そのなかで、いわゆる明るくポジティブな主人公像を歌ったポップスという意味では、この曲は素直だなという印象を受けました。
『アトリエ』シリーズにはいろいろな主人公がいますが、作品で共通している“常に夢を持って前向きに進んでいく女の子”の姿は、すごくイメージしやすいですよね。この曲もそこはすごく抱きやすかったので、できるだけ表現したいなと考え、常に意識して歌いました。
柳川:いやー、それだけ言っていただけると幸せですね!(笑)
――たしかに作曲家冥利につきますね! もちろん、ゲームを終えてから、このサントラを繰り返し聴いて柳川さんがいろいろと曲をいじっている部分を見つけたいです。
柳川:音楽が好きな方はそういう聴き方をしていただくと、より楽しんでいただけるかもしれません。
――『アトリエ』シリーズをはじめ、“ガストサウンド”が好きな方は本当に何度も何度も聴いて身に染みているという方が多いと思うので、たぶん柳川さんらしさを見つけられると思います。
柳川:もしそうならば、ありがたいですね。
――“Birth”を歌ってみて、霜月さんのなかで「このフレーズが好きだ」というのがあれば教えていただけますか?
霜月:全体的にわりと前向き感がある曲ですよね、元気づけられるというか。そのなかで印象的だったのが、ラストにある「大好きな街にただいま」という言葉ですね。今回の街づくりという要素が、この歌詞で自分のなかに映像で浮かんできたんです。
勝手な自分のイメージでしかありませんが、そこまでいろいろ手伝ってきてくれた歴代のシリーズ錬金術士たちが、笑顔で待っていてくれているシーンが見えたんですよ。パッケージイラストやメインビジュアルのような、みんなが集まる感じがすごく浮かびやすい歌詞だなと思っていました。
柳川:ありがとうございます。
――たしかに終盤の合唱的なフレーズも、みんなでコーラスすると盛り上がるような曲調に感じました。聴いていて楽しくなる、まさにエンディングにふさわしいなと。この曲がスタッフロールで流れてきたら、思わず涙しちゃう人も多いかもしれません。
柳川:そうなるとうれしいですね。でも、あまりしんみりと終わってしまうよりは「やったぜ、クリアしたぞ!楽しかった!」と終わってほしかったんです。だから、そうなったらもっといいなと思って作っています。
――ゲーム中に使用されている楽曲は原作をアレンジされた曲が多いですが、作曲や編曲で心がけているという部分はありますか?
柳川:今回はお祭りゲームということで“過去シリーズの主人公たちやキャラクターたちがいろいろ出てくるよ!”ということで、いろいろな曲をアレンジさせていただきました。それと同時に、ネルケをはじめ、本作から登場するキャラクターたちの曲も作曲しています。
そのうえで、基本となる考えとしては、まず今回の作品のカラーに合わせて新キャラクターたちの曲を作り、そこから乖離しないように過去の曲をアレンジしていく方針でした。でも、やはり原曲ファンの方もいらっしゃいますよね。
だから、すごく根強く支持してくださっている方たちが「ここははずしてほしくない」と感じる部分を、なるべく残したいという想いもありました。そのあたりのすり合わせをなんとかしようと試みたというのが、全体的なカラーになっていると思います。
――「あのシリーズのあの曲が好きだった」というファンが聴くと、「ああ、あの曲が!」と感じられるようになっているんですね。
柳川:そうですね。さらにゲームとして遊んだときに違和感がないように、という部分は意識してみました。
――となると、作曲の流れとしては主人公であるネルケのテーマからスタートした形でしょうか?
柳川:はい、キャラクターのテーマ曲でいえば、ネルケのテーマから作りました。最初にいただいた資料もネルケだったんですね。彼女を見た瞬間にもう“どストライク”だったんですよ(笑)。
「あ、これはかわいいぞ!」と(笑)。……あとはネルケは主人公ですし、まずこの子の曲を作って、周りを合わせていこうと思ったんです。そこからやり始めたので、ネルケの曲が、キャラクターのテーマ曲の中心になっているとは思います。
▲ファーストインパクトで曲作りの方針が決まったネルケのテーマ曲。 |
――ネルケが錬金術士でないという部分は意識されましたか?
柳川:いえ、錬金術士であるかないかということよりは、貴族であるとか、性格ですとか、見た目がふんわりしている感じですとか、“キャラクターとしてこういう風であろう”という部分にスポットを当てて作るように心がけました。
普段の『アトリエ』シリーズでの錬金術士のテーマ曲も、「錬金術士だからこうだ!」みたいには作っていないと思うんですよ。だから今回も同じような流れで作らせていただきました。
――拠点では短いフレーズで繰り返し聴いて堪えられるような曲を意識したというお話でしたが、曲が主張しすぎないようになど意識されたりしたのでしょうか?
柳川:今回の拠点の曲に関してはその方針だったので、あまり主張しないようにはしています。逆に普段の『アトリエ』シリーズでの工房内の曲はメロディをわかりやすく作っていることが多いです。
――たしかにアトリエ内でかかる曲はテンションが上がるような曲が多いですね。
柳川:ゲームの内容によって、主張の少ない曲で落ち着いて作業したいのか、メロディが強い曲でテンションを上げて作業したいのか、という違いによるところでしょうか。普段のアトリエ内の曲は後者が多いということですね。
『ネルケと伝説の錬金術士たち』はシステム的にもだいぶ変わるので、だったら前者のアプローチもいいのではということで、その方向で拠点の曲を作りました。拠点の曲という部分では、作業をしている最中にもキャラクターの声がたくさん流れるので、声と曲との相性もイメージしながら作っています。
――柳川さんのなかでも今回は挑戦的な部分もあるんですね。
柳川:今回は特にそうかもしれません。ただ、僕としては意識して変えてみたつもりなんですが、お客さんからすると「普段と変わらないんじゃない?」と言われるかもしれません(笑)。あまりそこはゲーム内で意識しないで聴いていただいて、「ああ、不自然じゃないな」と思っていただくことが一番ですし、そうなっていただけるといいなと思っています。
――通常流れる繰り返し聴くような曲のなかで、この曲はインパクトを意識したという曲はありますか?
柳川:曲を、という意味ではないかもしれません。できる限りフラットを心がけてはいます。もちろん、かかる場面に合わせての主張度合は調整しているつもりですが。
――となると戦闘曲などはインパクトを重視している形でしょうか?
柳川:戦闘曲は特にそうですね。他には採取に出かけるなど、見た目が大きく変わるシーンではそれぞれのカラーを出せるように心がけています。
▲戦闘や採取など“やることが変わる”パートでは、曲のカラーがより色濃く出ている。 |
――そうなるとこれまで以上にメリハリを感じられそうです。ちなみに、以前の『リディー&スールのアトリエ』のサントラ発売記念インタビューでは、作曲時はゲームの資料をできるだけ早くいただきたいというお話をされていましたが?
柳川:よく覚えてらっしゃいますね(笑)。
――今回はどの程度の資料をいただいて、内容を熟知して作ることができたのでしょうか?
柳川:開発の状況と発注のタイミング……と言ってしまうとすごくビジネスっぽいですが、タイトルによってまちまちなんですよ。今回の『ネルケと伝説の錬金術士たち』に関しては、このタイトル内でできる最速で、資料はいただけたと思います。
――となると準備は万端、という感じですね。
柳川:そのはずです(笑)。
――歴代の錬金術士たちの登場が大きな魅力の本作ですが、楽曲で過去作へのオマージュ的な仕掛けなどは用意されていますか?
柳川:オマージュになるかはわかりませんが、アレンジ曲がとにかく多いので、過去作の空気を多分に感じられるようになっていると思います。僕も『アトリエ』シリーズには好きな曲がいっぱいありますし、ユーザーさんと好きな曲がかけ離れていることはないと思います。好きな曲をたくさんアレンジさせていただいてありがたいです(笑)。
――ちなみに、ご自身が作曲した曲のアレンジもあるのでしょうか?
柳川:多少はあります。
――その場合は「最初に作曲したときにできなかったからこうしよう、このときとは違うからこうしてみよう」のように、自分なりに表現してみた部分はあるのでしょうか?
柳川:「過去にできなかったから今回こうしよう」というよりは、やはりシリーズごとにだいぶカラーも変わってしまうので、今作に合わせて今できることをしようという方針のほうが強いですね。
過去に手掛けた曲ももちろん今聴けば反省点もありますが、その時点では全力でやらせていただいています。だから、焼き直し的にグレードアップするよりは、別ものとして今作のカラーに合わせて今できる全力の曲を作ろうという形です。
霜月:個人的な質問ですが、今までの『アトリエ』シリーズはたくさんあって、当然曲数もものすごくたくさんありますよね。そのなかから今回アレンジする曲はどう決まったのですか?
柳川:これはですね、まず「こんな曲はいかがですか?」というリストを、サウンドディレクターや開発の方から出していただきまして。その案をもとに阿知波さんと私で相談しつつ、「もしかしたらユーザーさんはこちらの曲がいいのでは?」と差し替えの提案をしたりしました。
やはり作るからには心に刺さってほしいですし、なるべくどのタイトルを遊んだ方にも喜んでいただけるようにしたかったんです。だから、可能な限り多くのタイトルの曲が入るように意見を出し合いつつ選ばせていただきました。
霜月:とんでなく大変な作業なのかなって(笑)。
柳川:いやー、入れたいけど枠の都合で入れられない曲がいっぱいあったんですよ(笑)。
――曲作りと曲を選ぶ作業では、どちらが大変でしたか?
柳川:選ぶほうですね(笑)。だって、ユーザーさんからしたら「俺の聴きたい曲が入っていないぞ」となると思うんですよ。でも、曲数には限りがありますし。そのへんはやはり難しくて。それでも喜んでくれる方が少しでも多くなるようにと思いながら選ばせていただきました。
――曲の数だけでいえばかなりの数になりますか?
柳川:全体の曲数は普段とあまりかわらないくらいの数ですので、ボリューム的にすごく少ないとはならないと思います。もしもアレンジで入れたい曲を全部詰め込んだら1000曲とかになっちゃいますし。実現させるならアレンジだけで何年かかるのか……(笑)。
霜月:ゲームのシステムやカラーが違うから、当然今までのBGMの使い方とは違うじゃないですか?
柳川:そうなんですよ。どのシステムにどれくらいの曲数を用意するかというバランスはだいぶん変わっています。過去シリーズとは異なる部分なのかなと。
――そこも想い出と重ねながら聴くと、新たな感動があるかもしれませんね。逆に過去のボーカル曲をそのまま使う案はあったのでしょうか?
柳川:じつは、過去作のボーカル曲やBGMをそのまま流用しよう、という案は最初の時点ではありました。ただ、せっかく今回新しいゲームで、シリーズとしても『ネルケと伝説の錬金術士たち』とこれまでの『アトリエ』から変わっているタイトルなので、まったく同じものを持ってきても……という話になりまして。だから今回は“過去の曲を持ってくるにしてもアレンジで”という方針にはなっています。
――だからボーカル曲もすべて新規なのですね。
柳川:今作に合った曲が一番ですから(笑)。
『アトリエ』×霜月はるかの初アルバムが発売!
――『アトリエ』シリーズで数多くの曲を歌われてきた霜月さんですが、歌われた曲を集めたアルバム“『アトリエ』シリーズ×霜月はるかボーカルコレクション「Akkord-アコルト-」”が発売されますが、こちらが発売されるきっかけというのは?
▲アルバムは現在好評発売中。価格は¥3,200(+税)。 |
霜月:これまで私が歌わせていただいた『アトリエ』シリーズのテーマソングは、御存知の方も多いと思います。でも、それ以外にもBGMのアレンジアルバム、ゲームの購入特典、初回特典ディスクなどで、BGMをアレンジする形での歌を歌わせていただく機会が多かったんです。
『アトリエ』シリーズをすべて追いかけてくださっている方は全部お持ちいただいているかもしれませんが、相当バラけているのですべては難しいと思うんです。
だから2004年の『イリスのアトリエ エターナルマナ』で歌った“白夜幻想譚”以降、2017年までの13年間分のいろいろな楽曲を、どこかで1つにまとめられないかなとずっと考えていたんですよ。それで今回『アトリエ』シリーズが20周年ということで、アルバムの企画をご相談できるのはこのタイミングかなと。
▲霜月さんがはじめてシリーズにボーカルで参加した『イリスのアトリエ』。 |
――収録される楽曲はアレンジになるのでしょうか?
霜月:今まで歌わせていただいた『アトリエ』シリーズの楽曲を集めたアルバムなので、基本的にオリジナル音源で収録することを考えています。数えると25曲以上あり、基本的には集めきれなかった方への救済の意味もあります(笑)。
あとは昔聴いたけども、ひさしぶりに聴いてみようかなという方にもぜひ。私自身も2004年からなので、かなり若いんですね。自分の歴史みたいなものが形になるので、それこそ初期の音源など聴くと「うわー」って照れちゃうんです(笑)。でも、そこをあえて今だからどうこうというよりも、オリジナルの音源をまとめて聴いていただける場所を作りたい、ということで入れさせていただきました。
――霜月さんの歴史がこの1枚にまとまっているわけですね。
霜月:はい。だからすごく感慨深かったです。『アトリエ』シリーズの曲を振り返って聴くと、いろいろなことをやってきたなと(笑)。みなさんから「声がすごく『アトリエ』シリーズらしいイメージです」とか、「作品との相性もいいです」とか、それこそ“『アトリエ』シリーズといえば霜月はるか!”みたいに昔から言ってくださる方もいまして。
ただ、『アトリエ』シリーズで歌っている曲が同じ傾向かと言われると、ぜんぜん違うんですよね。わりとジャンルも幅広いし、いろいろな作家さんとやらせていただいていますので。それこそ最初の『イリスのアトリエ』3作からして、3作それぞれで傾向がまったく違いますし(笑)。 でも、全曲通して聴いているとガストサウンドというか、サウンドチームと一緒に作ってきた“『アトリエ』サウンド”の歴史を振り返る感覚が味わえました。曲の割合としては阿知波さんとご一緒した曲が多いですが、ときによってアプローチがぜんぜん違うんですよ。曲のジャンルではくくれませんが、どの曲もどこかに『アトリエ』らしさがあるなとあらためて聴いて思いました。
自分自身の声も歌い方も曲によってすべて違うし、アプローチも違うんです。でもそれがメロディなのか音像なのかいったい何なんだろうと、共通点を見出そうとしてもなかなか見いだせなくて。でもやっぱり『アトリエ』らしいんだよなと(笑)。その不思議な『アトリエ』感がこのアルバムでまとめて聴くとあるので、それがすごくおもしろいなと思っています。
――例えば曲にコメントを付けたりなど、霜月さんなりにアルバムの制作でこんなことをやりたいなどの企画はありますか?
霜月:収録曲はほぼ決まっていますが、現時点で中身的なことはまだ細かく決まっていないんですよ。でも、今回一番やりたかった企画が『アトリエ』シリーズで歌わせていただいた曲をまとめて聴ける機会、シリーズに触れたことがない方にも音楽で触れていただく機会を作りたいということでした。これは各所のご協力がなければなしえなかったことなので、すごくありがたいなと思っています。
――アルバムの制作が決まったときには『ネルケと伝説の錬金術士たち』の“Birth”のボーカルは収録済みだったのでしょうか?
柳川:ボーカル収録をしたときには、すでにアルバムの制作は決まっていましたね。
――そういう意味では“Birth”は20周年を記念するタイトルのエンディングですし、霜月さんもいろいろと振り返りながら歌われた感じでしょうか?
霜月:そうですね。昨年の『アトリエ』20周年スペシャルライブに出させていただいたり、『アトリエ』シリーズ20周年の企画がいろいろ進行しているのを見ていました。だから、なんとなく自分のなかでも20周年感を持っていました。
――ファンとしてはそういった20周年の盛り上がりに加えて、このアルバムを聴いて音楽の歴史を感じつつ、最新作の『ネルケと伝説の錬金術士たち』へ……となれば、より楽しさもアップすると思います。
柳川:そうなると本当にありがたいですね。楽しめると思います。
もしシリーズ化したら楽曲選びがさらに大変に!?
――ちなみに開発プロデューサーである菊地(啓介)さんは、この『新たな大地』をぜひシリーズ化できたらといいなとお話されていましたが、お2人的にはいかがですか?
柳川:じつは、今の時点で僕は今回登場するキャラクターのすべてを把握しているわけではないので“次はあのキャラクターが出るかも?”と想像できるのは、プレイヤー側として純粋に楽しみですね。でも、作る側の目線では今回選曲でほぼ全力を出し切ったので、次はどうするんだろうと(笑)。
――たしかに発売後に“人気が出たから次をすぐに作ろう!”となったら大変ですよね(笑)。
柳川:次にサウンドディレクターを担当される方は大変ですね(笑)。でも、続いてくれたらありがたいことです。楽しんでいただけたからこその次でしょうし。
――うれしい悲鳴になるといいですよね。
霜月:でもファンの方にとっては夢みたいなゲームですよね。今まで動かしてきた主人公たちが20年という時を飛び越えて、たくさん登場するですから。柳川:しかも主人公を助けてくれるわけですからね。「俺が昔育てた子が今はこんなに立派に……」みたいな(笑)。
霜月:あとは当然キャラクター同士の会話もあるでしょうし、そこでもともとのキャラクターの関係性を知っている方は、新しい会話が聞けちゃいますし。ファンディスク的な意味合いもありつつ、ゲームシステムは新しくなっているので、新規のゲームとして楽しんでくれる方が、そこから『アトリエ』シリーズ本編のファンにもなってくださるといいですね。
――そしてさらに曲のファンに……という流れになると最高ですね。
柳川:曲も聴いてほしいですし、過去のシリーズもぜひ遊んでほしいですね。
――続編でよく“新規の方にも遊べるように作りました”という説明を聞きますが、これだけしっかり新規向けでありながら、シリーズのファンにはなつかしくもあるタイトルはなかなかないと思います。
柳川:ここから入れば大丈夫です! という感じはありますよね(笑)。
――では最後にゲームを楽しみにしているファンに向けて、ぜひアピールポイントやメッセージをお願い致します。
霜月:『ネルケと伝説の錬金術士』は20周年の記念作品ということで、新しい要素がたくさんありつつ、今までのファンの方にも楽しんでいただける作品なのではと思います。エンディングテーマは本当にすごく明るくて未来を感じられる、元気になれる楽曲になっています。ぜひ街づくりを成功させてエンディングにたどり着いて、エンディングテーマも気に入ってもらえるとうれしいです。
最後に「ラララ~」とみんなで歌うパートもありますので、今後ライブがあれば、ぜひみなさんと歌いたいなと。そんな夢を抱いているので、そこも意識して聴いていただけるとうれしいです。
柳川:とにかくエンディングまでプレイしていただいて、そのうえでエンディングテーマを楽しんでいただけたらと思います。そしてシリーズのファンで、これまで支えてくださってくれたみなさまにも、なるべく楽しんでいただけるように全力は尽くしたつもりです。サウンドだけでなくグラフィック、シナリオ、システムなど含めてゲームを隅々までお楽しみいただけるとうれしいです。
霜月はるかさんのサイン色紙をプレゼント!
霜月はるかさんのサイン色紙を1名さまにプレゼント。応募締め切りは2018年12月21日(金)23時59分までとなっていますので、下記よりご応募ください。
▲霜月はるかさんのサイン色紙 |
(C)コーエーテクモゲームス All rights reserved.
データ