2018年11月7日(水)
『旧FFXIV』から8年、『新生』から5年……今では全世界累計アカウント数が1400万を超える(※)世界的ヒット作となったオンラインRPG『ファイナルファンタジーXIV』(以下、『FFXIV』)。そんな本作の魅力をさらに拡大してお伝えすべく、そのときどきでタイムリーな話題を追う開発インタビュー連載企画がスタート!
※日本・北米・欧州・中国・韓国の5リージョンの累計アカウント数。フリートライアル版のアカウントを含む。
第1回となる今回は、『FFXIV』の世界設定を担う織田万里氏(世界設定/メインシナリオライター)&マイケル・クリストファー・コージ・フォックス氏(ローカライズディレクター)にインタビュー(以下、ともに敬称略)。
11月24日に発売予定となる、『FFXIV』公式世界設定本“Encyclopaedia Eorzea ~The World of FINAL FANTASY XIV~ Volume II”のお話に加え、世界設定を作るうえでのアレコレなど、光の戦士が気になっているであろう、さまざまな話題について語ってもらいました。
――世界設定本第1弾ではハイデリン全体の世界観と歴史設定に触れられていましたが、第2弾ではどういった部分に重きを置いているのでしょうか?
織田:まず、第2弾を作ることになった際に、そもそものコンセプトとして“第1弾では時期的に入れられなかった、パッチ4.0で追加された部分を入れていく構成”にするか、あるいは“また1からフォーマットを変えてやるのか”といった議論があり、最終的には両方を取り入れる形にしました。
例えば、パッチ4.0で登場したドマや赤魔道士、侍といった新規部分は前作と同様のフォーマットで追加。さらに、新しい切り口のコーナーとしては武器や防具、ダンジョンについて深掘りしています。
▲ゲーム内で語られていない、武器防具の伝説・来歴なども収録されているとのこと。昔の攻略本で武器の設定を読んでワクワクした気持ちがよみがえる……!? |
――新規要素は前作と同様のフォーマットで追加……ということは、ドマの都市概要や歴史も語られているのでしょうか?
織田:リムサ・ロミンサやウルダハと同じような構成で、ドマやひんがしの国の設定が書かれています。
コージ・フォックス:ここであらためてお話しますが、第1弾も含めて、この本はあくまで“エオルゼアの学者がまとめたもの”という設定です。なので、第2弾は東方地方をまとめている本ですが、設定では“エオルゼアの学者がエオルゼアからの視点で「東方はこういうものですよ」と解説している”内容になっています。
織田:メタな正解を示す本ではなく、あくまで「その世界で、そういう説が信じられているよ」ということが書かれている本だと思ってください。書かれていることがすべて正解かどうかと言われると、怪しいところですね(笑)。
コージ・フォックス:それがあるからこそ、前回で書かれていた内容が今回では「じつは、こうでした」と異なる記述になっている部分や「当時はああ書いたけど、こういうことがあったので、こうなりました」というものもあります。
――イメージ的には、エオルゼアに「こういう学術本があったら」という部分を、さらに推し進めたものになっているんですね。ちなみに、表紙の赤色を強めにしたのは、“紅蓮”を意識しているからですか?
織田:百科事典をイメージした外装をしているので、基本のデザインラインは変えずにいこうというのはすんなりと決まりましたが、色をどうするのかはけっこう議論があって。本物の百科事典の場合は、巻数を重ねても色は同じだと思います。ですが、それだと書店に並んだ際に、前巻との違いがわからなくなっちゃうんですよ。となると、やはり色は変えないとダメだなという話になり、いろいろ試してこの色が選ばれた感じです。
――今回の本を作るにあたって、解説のために新たに設定を練り直した部分はありますか?
織田:もともと細かく決まっていた部分と、ざっくりとした概要しか決まっていなかった部分があって、その両方に手が入っています。というのも、決まっている部分……例えば、この世界の根幹にかかわるオチみたいなものを載せてしまうわけにはいかないので(笑)。その情報をどこまで出すのかという、コントロールをする意味での調整があります。また、それとは別にざっくりとしか決まっていないものを読者に読んでもらえるレベルに文章化していく際に、少し付け足すこともあります。
コージ・フォックス:年齢と名字を考えるのが設定本の一番大変な仕事なんですよ。とくに年齢は、逆算してツッコまれることもママあるので、しっかりと考えています。
――過去のエピソードも鑑みて、矛盾がないかとかを調べるわけですか。それは大変ですね……。
織田:年齢についてはシナリオライターによって性格が出る部分で、きっちり年齢を決めて書くライターもいれば、“○代半ば”という感じでゆらぎがある状態で書いている人もいます。いざその資料を集めて本を作ろうとしたときに、「コイツとコイツってどっちが年上なんだっけ?」というのが始まるんですよ。
――先日、公式ブログに内容の一部が公開されましたが、そこでマグナイの年齢が27歳と判明しましたね。
織田:いろいろ考え始めるお年頃なんですよ(笑)。
コージ・フォックス:ちなみに、サドゥはマグナイと同い年ですよ(笑)。あ、そういえばヤ・シュトラは書いてないですよね。
織田:ヤ・シュトラは……ヤ・シュトラなんで……触れない方向で。『ロード オブ ヴァーミリオン』にヤ・シュトラが参戦した際に、フレーバーテキストで“永遠の23歳”と表記されたんですが、じつはあれを誰が考えたのかわからないんですよ(笑)。
コージ・フォックス:ちなみに、正確な年齢は決めてます?
織田:決めてますよ。
――名字も決めるのは大変なんですか?
コージ・フォックス:名前はリストがあって、そこからピックアップするんですが、名字はリストがないんですよ。ゲーム中でもほとんど出さないですし。なので、名字はこういう書籍を出すとなると、改めて名字を付けることになります。
このとき、勝手に名字を付けてしまうと、追々のストーリーで血縁者が出てきたときに、「名字がぜんぜん違うじゃん!」というアクシデントが出てしまう恐れがあるので、考えながら名字をつけています。
――ちなみに、パッチ4.4のストーリーで、ヒエンが“リジンのヒエン”と名乗っていますが、これも名字ですか?
織田:リジンは名字ですね。
コージ・フォックス:リジン家です。
――ドマやひんがしの国以外で、歴史の掘り下げをした要素はありますか?
織田:ダルマスカに関しては、松野(泰己)さんと連携をとりながら詳しく解説しています。
――あくまでも『FFXIV』の世界(ハイデリン)でのダルマスカという掘り下げですよね?
織田:そうですね。
コージ・フォックス:リターン・トゥ・イヴァリースのストーリーが明らかになるにつれて、前回の内容から更新された部分があります。
――リターン・トゥ・イヴァリースに関しては、通常のコンテンツと異なり、松野さんが基本となる設定をすべて作っているのでしょうか?
織田:基本的には、松野さんが創作された設定がベースとなっています。ハイデリンにおけるダルマスカの位置関係など、あらかじめ決まっていた部分を共有させていただいた上で考案していただいて、初期設定が仕上がった段階で調整が必要な点があれば話し合ってと、頻ぱんにやり取りをしながら進めていきました。今回の本にも、そうして作られた設定が公開できる範囲で記載されています。
――リターン・トゥ・イヴァリース関連で、魔人ベリアスといった聖石を用いて召喚された(?)存在についてお伺いします。彼らは、他作品ですと召喚獣というポジションです。本作でいえば蛮神に近いかと思われますが、蛮神とは別の存在なのでしょうか?
織田:似ている要素はあるけど、別のものという感じですね。今回の本にも項目を設けて説明している部分はありますが、そこに正解のすべてが載っているわけではありません。リターン・トゥ・イヴァリースを最後までプレイしていただくことで、ハイデリンのなかで「過去にこういうことがあったのか」と気付く要素があるので、そこはあえて本に書かないようにしています。“歴史の目撃者になった”という実感が大切だと思っていて、それをプレイする前に答えがすべて書いてあるというのは違うかなと。
――分厚い読み応えのある書籍ですが、それでもネタバレ含めてすべての設定を入れるわけにはいかないですからね。その取捨選択は、けっこう時間がかかったのでは?
織田:そうですね。作業時は、発売タイミングが「パッチ4.4が出て……パッチ4.5がどうかな」みたいなタイミングだったので、どこまで情報を開示すべきかというところは難しいところでした。
――言語についても触れているそうですが、そもそもの部分であるエオルゼアの共通語にも言及されているのでしょうか?
コージ・フォックス:共通語に関しては、4ページぐらい割いて解説しています。“エオルゼアで今使われている言語が、どこにルーツがあるのか”“どうやってエオルゼアに伝わったのか”“どうやって発展したのか”“別の言語をしゃべっていた複数の種族が、なぜ今は共通語を使っているのか”“なんで、それがひんがしの方まで伝わっているのか”といったことを書いてありますよ。
――ひんがしの人も共通語をしゃべっていることが気になっていました。
コージ・フォックス:貿易のことを考えると、共通語でしゃべっていたほうがうまくいくので。そこから……という感じですね。
――ちなみに、古代アラグの人と話している場面でも共通語が使われているのですか?
織田:共通語のルーツ的な部分に、古代アラグが絡んでいます。若干方言やなまりはあるけど、意味は通じる感じですね。
――ネロさンのアレは方言ですか?
織田:もともとの「~ン」というのは、方言やクセのあるアクセントを示すものなので、そんな塩梅ですね。きっと、彼の故郷に行くと、みんなあんな口調でしゃべるんじゃないでしょうか(笑)。
――言語といえば、クガネ文字は基本的にはひらがなのみで一部だけ漢字という認識であっているでしょうか?
織田:そうですね。ドマの国旗に描かれているのは“ドマ”と読むひとつの文字ですし、忍者が用いる印も“天地人”を示す文字になっています。漢字的な表語文字と考えていただいて問題ありません。
こういう独自言語は、解読する楽しみというのも大事だと思っていて。設定として漢字があるからと、漢字をたくさん使ってしまったら読めなくなってしまいます。なので、そこは解読しやすいようにという配慮から、ひらがなベースで表現しています。
――ちなみに、リアルの言語差といった視点で、ローカライズに関して苦労した部分はありますか?
コージ・フォックス:クガネ文字のところですかね。クガネ文字は日本語をベースにしているので、日本人には馴染みやすいものなんです。なので、旁(つくり)や偏、右から左に読むという話をしなくても大丈夫なんですよ。ですが、英語に翻訳する際は、説明をしないとわからないんじゃないかなと思ったので、個別に付け足してあります。
逆に、ドラゴン語は英語がベースです。日本語にはない冠詞が使われているので、日本語版では冠詞の部分を厚く説明されているかと思います。やっぱり言語のところが大変なんですよね。
――日本語版、英語版で、内容にも多少差があるんですね。
織田:そもそも、同じ意味の文章であったとしても、どうしても文字数という部分で日本語だと少なくなりがち、英語だと膨らみがちなので、レイアウトでイラストを大きくしたり小さくしたりという微調整をしやすいような構成にしています。デザイナーの方には、けっこう苦労をかけてしまったかなと(苦笑)。
コージ・フォックス:英語版は、全体的にイラストが小さくなっていますね。やはり、内容をカットするよりかは、イラストを小さくしたほうがいいかなと。これが入らないから、この内容をカットしようというのは誰も納得しないので、できるだけ全部の情報を載せて、イラストを犠牲に……(笑)。
日本語版と英語版を比べると、イラストが2割ぐらい小さくなっていますね。一番わかりやすいのは、キャラクターの顔アップがかなり小さくなっているんですよ。
――ちなみに、ビジュアル関係に関しては、この本用に新たに描かれたものもあるのでしょうか?
織田:一切ないです(笑)。
――もともと、設定として作られていたものなんですね。逆に、ゲームを作る際にこれだけの量の設定画を作っていると。スゴイですね……。
織田:実際に使われていないコンセプトアートとかを、けっこうたくさん使っていますね。描き下ろしというわけではないですが、初出しのものも多いです。
――表に出ない素材でも、こんなにたくさんあるんですね。今回の内容で、個人的に読んでほしいオススメポイントを教えてください。
コージ・フォックス:じつは、何年も前に書いたテキストが、ここで初めてお披露目されています。2006年に書いたものとか翻訳したものが出てきたりするんですよ。個人的には、ずっと表に出したいけど機会がなくてお蔵入りしていたので、それが日の目を見るのはとても楽しみです。
――ズバリどこでしょう?
コージ・フォックス:ギルドリーヴの元になった聖人の話とかですね。
織田:『旧FFXIV』の初期に、このギルドリーヴのカードをモチーフにしたキーホルダーが発売されました。それを買うとこのテキストを読むことができたのですが、その後、ほとんど表に出ることなく死蔵されていまして。せっかくだからということで掲載することにしました。エピソードごとに絵柄が決まっていて、けっこう細密に描かれていますよ。
コージ・フォックス:やっと出せました。
――イシュガルドの聖フィネアについても書かれていますか?
織田:書いてありますね。あの部隊の名前を考案する際に、イシュガルドで信仰されているハルオーネの聖人から名前をとっても良いのではないかという発想から、このギルドリーヴのために用意していた名前を拝借したんです。聖コイナク財団や聖アダマ・ランダマ教会とかも同じケースですね。
コージ・フォックス:少しずつ、引用していたりしていたんですよ(笑)。
織田:そのネタ元が出るのは初めてかもしれないですね。
――織田さんとしては、どこがオススメですか?
織田:僕的にも、このギルドリーヴの元ネタを出せたことは大きいですね。あとはナマズオのクエストで、“光風院セイゲツ”がいろいろな本を読んでいるという設定があります。その彼が読んだ本の設定について、彼自身が解説を加えるという書評コーナーですかね(笑)。オススメ度とかも書いてますよ。
コージ・フォックス:ゲーム内でタイトルは出ているけれど、どういう本かは書いてなかったんですよ。
織田:「こんな内容で、どこがオススメだ」みたいな。実際には読めない本をオススメしているんです(笑)。
――ナマズオというフレーズが出ましたが、獣人についても掲載されているんですか?
織田:はい、ナマズオだけでなく人狼などパッチ4.0以降で追加された種族についても掲載されています。
――人狼の話が出たので、彼らについてお伺いします。ドマ周辺において、人狼は人間と対等な存在として扱われていますよね。東方における獣人との距離感は、エオルゼアや帝国とはまた異なるのでしょうか? エオルゼアと比べると、 獣人と共存しているという印象を強く受けます。
コージ・フォックス:もともと、エオルゼアでも人間と獣人の仲は悪くありませんでした。ですが、とある政治的な理由からウルダハの政治家が“蛮族・獣人”という呼び名を生み出した結果、対立を深めていくことになります。
ですが、それはエオルゼアの歴史なので、東方地域では同じ考えではないということですね。意識してゲーム内を観察すると、東方地域では差別的な意味での“蛮族”という言葉を使っていないんです。これは考え方の違いなんですね。
――そのあたりは、八百万の神を信じ多くを許容する東方らしい感覚ですね。そういった東方文化に紐づくものだと思いますが、“四聖獣奇譚”の“瑞獣”は実際にはどういう存在なんですか?
織田:その答え自体は考えていますが、“四聖獣奇譚”のストーリーが最後まで行っていないこともあって、本の中でどこまで触れるべきかは悩みました。伝説や神話は、すべてを語りきってしまうと、余韻が残らないんですよ。そこはわからない、曖昧にしておいたほうが、よりそれっぽい雰囲気になることもあるので……。そこは、いつも迷うところですね。
――東方の蛮神についてですが、ヨツユにしろ、聖石にしろ、アイテムを使っての“神降ろし”というスタイルが多く出てきました。そういった神器は、そもそもどういうアイテムなのでしょうか?
織田:神器に関してもページを設けて解説していますが、伝説が付随しているということがキーポイントになっています。例えば、日本人には無宗教の人が多いですが、そういった方であっても、神社に入れば厳かな気持ちになりますよね。これは、東洋人独特な感覚かもしれませんが、“そういう気持ちになる”部分が召喚のトリガーになっているので、“神器”というのが特殊なアイテムとなっているわけです。
――信仰を具象化するための鍵となる存在ということですね。
織田:小さいころから聞いていた神話のアイテムが目の前にあることで、それを完全に信じているわけではないけれど、そういった気持ちが具体化して蛮神を召喚するに足る信仰の補助になるイメージです。これによって、ヨツユのような信仰心が薄い人でも神降ろしが可能となりました。
――東方ならではの現象なんですね。そうして変化した蛮神も、通常のものと同じようにテンパード化能力やエーテルの消費があるのでしょうか?
織田:ツクヨミに関してはそうですね。
――東方つながりでアジムステップのお話もお聞きします。そこに住むアウラ族ですが、世界設定本第1弾ではアダルキム族が最大勢力と語られています。しかし、今僕らが行ける地域ではオロニル族が主力のように感じました。
織田:今歩けるアジムステップは、広大なアジムステップの一角に過ぎないんです。あそこだとオロニル族なだけで、全体を見るとアダルキム族という感じですね。
――つまり、終節の合戦も、あくまであの地域の行事ということですか?
織田:そうです。なので、ほかの地域でも似たようなことをやっています。
――ここからは、“世界観設定を作る”というお仕事についてお伺いします。まず、シナリオを立てていく際に、新たな設定というのはその都度生まれていくものなのか、それとも次の舞台の地域が決まった時点でだいたいの設定を組んでしまったうえでシナリオを立てていくのか、どちらなのでしょうか?
織田:両方のパターンがありますね。例えば、パッチ3.Xの舞台がイシュガルドだと決まったときに、もちろんそこでどんなストーリーが展開していくのかと考えます。その過程で、付け足したり掘り下げたりする設定はあります。
逆に、根幹として“竜と千年間戦っていた”“ハルオーネを信じている”といった、そういう大きな部分は元から決まっていたりします。元から決まっていたものとゲームとして公開されている要素を加味しながら、今回のお話で必要な要素を追加したりして、段階的に作っていく感じですね。
――動き出す取っ掛かりとしては、舞台から決まるのでしょうか?
織田:完全に、まずは舞台からですね。前提として、拡張パッケージではだいたい6リージョンを追加することを念頭に考えます。『紅蓮編』の場合、もともとアラミゴに行くというのが基本方針としてありましたが、アラミゴ自体は広い地域ではないので「6つすべてがアラミゴはないだろう」と。その話を吉田(直樹氏)に話したら、「じゃ、東方いくか」という話になって、西と東で3リージョンずつという計算になり……という順序ですね。
一方で新ジョブについては、吉田とバトル班を中心に追加するジョブの種類、ロール、システムなどを検討し、その上で彼らとやりとりしながら設定を考えていきます。
例えば、「赤魔道士の“白魔法・黒魔法の両方を使える”という部分を、どう設定に落とし込もうか」「侍は東方由来とすると、赤魔道士はギラバニア由来になるだろう。では、どうつながりを作るか」といった都合に、武器や戦い方を加味した設定を考えていくわけですね。
――他チームとのやり取りやコミュニケーションが大事になりそうですね。
織田:とても大事ですね。口頭の雑談的なやり取りから正式な会議まで、いろいろコミュニケーションを取ります。“新ジョブを何にするか”という部分に関して吉田が最終的なジャッジをして、それを聞いてからなんとなく設定を考えます。その後、“その新ジョブの武器は何にするか”といった会議が設けられるので参加したり、“アクションの動きの企画書”を見て設定的な矛盾がないかを確認したりといった流れですね。
もちろん、ゲームとしてのおもしろさが一番重要なので、あまり“設定だから、ゲームシステムを変更しよう”とかではなく、“表現をこうすると、より世界観にマッチします”といった提案の仕方が多いですね。
――スサノオやラクシュミといった、メインストーリーに絡むボスコンテンツは、設定とコンテンツ企画のどちらが先に生まれるのでしょうか。
織田:拡張パッケージの場合は、シナリオ合宿というものを僕らメインシナリオライターと吉田でおこなって、“どういう地域で、どういうストーリーが展開して、どういうボスと戦う”といった、ざっくりとした導線を決めます。シナリオ側から“こういう名前で、こういう設定のボスと戦う”ということを先に決めているということですね。
――そこから、バトル班の方々がコンテンツの内容を決めていくわけですね。
織田:一方で、パッチで追加されていくものに関しては、バトル班から「こういうボスと戦わせたい」という提案がある場合もあって、こちらは半々ですね。
――ちなみに、オメガの場合はどちらから打診したのでしょうか?
織田:オメガに関しては、みんなパッチ3.5の時点でオメガの形を見てしまっているので、「オメガです(ドーン!)」と出てきても、そこに驚きはないと思うんです。ですので、シナリオ側から“最終的にオメガが進化して人を模す”というのを要望として出しました。
それをバトル班が「こんな感じでどうですか?」と、次元の狭間オメガ:アルファ編4の“男女2人のボス”“手足の一部が変形して武器になる”といった案を出してきて、そこからゲームとしてのギミックを考え、デザイナーがデザインするといった感じですね。
――オメガMの姿が、天野(喜孝)氏が描かれた『旧FFXIV』コレクターズエディションのパッケージイラストのキャラに似ているように感じたのですが、これは意図的なものなのでしょうか?
織田:いちおう、デザインを発注するための会議で、いわゆる天野絵っぽい人型で行きましょうという話になっていました。
じつは、この質問を見て担当したデザイナーに話を聞いてきまして。このキャラは『FFIII』のパッケージイラストのキャラをモチーフに、髪型や衣装に関しては『FFVII』の天野先生のエッセンスを入れているとのことです(笑)。また、まず先に男性をデザインしてから、それを別バリエーションとして女性をデザインしたそうで、女性の髪型は「『FFXI』のアシェラかな?」と言っていました。
――けっこう、いろいろなシリーズからエッセンスを取り込んでいたんですね。
織田:ネットで話題になっている、『旧FFXIV』のコレクターズエディションのパッケージイラストではなかったようですね(笑)。
――“次元の狭間オメガ”の、『ファイナルファンタジー』の過去作から多くのものが登場するというコンセプトを、この人間形態も引き継いでいるんですね。
織田:あとは、機構として“液体金属になって変形するという表現を挑戦してみたい”という思いもあったようです。それをやりやすいように、細部に色が入っていない黒ベースのデザインになっているなど、実装上の都合など多くの条件が加味されて、この姿になっている感じですね。
――アルファ編4のボスの名前ですが、日本語版ではオメガMとオメガF、海外ではアダムとイヴになっています。これは、何かこだわりがあって、リージョンで名前が異なっているのでしょうか?
織田:アダムとイヴに関しては、僕が「アダムとイヴにしたいんだけど宗教的すぎるかな」と聞いたときに、コージ・フォックスが「ちょっと危ないかも」と言っていたので、オメガMとオメガFにしたんですけど……。
コージ・フォックス:よく考えたら、別にいいんじゃないかなと思って、最終的に英語版はアダムとイヴにしました(笑)。
織田:ハシゴを外されたんですよ、僕(笑)。ですが、オメガM・オメガFという表記でバトルをテストしてみたら、無機質な名前が人間を理解できていない感じがしていいなと思えたので、土壇場で変えることは避け、日本語版はそのままにしておきました。
コージ・フォックス:おもしろ味を出そうとする際に、直球でいくときもあれば抽象的にいくときもあります。『FFXIV』全体を見てると、とくに英語に関しては抽象的な名称が多いんですよ。これは、10何年前からの自分のスタンスによるものですが(笑)。
――F.A.T.E.などなど映画のネタを元にしているものもありますよね。ちなみに“零式:アルファ編4”の最終形態ではオメガの姿が大きく変化します。あの姿は、どこから着想したのでしょうか?
織田:何か驚くことを入れようというのはコンセプトとしてあって、“人の形態で負けたので、人と機械の融合・いいとこ取りをする”という方向性で、ああいう形になりました。
――最終形態は、日本語版と英語版でセリフが大きく違います。とくに印象的だったのは、英語版のビープ音的な表現でした。これはどういった意図で、このような表現にしたのでしょうか?
コージ・フォックス:あれは単純に、無生物・コンピュータ的な部分が残っていることを強調するためですね。たしか、日本語版では「ガガガガ……」だけだったのですが、英語の音にするとコンピュータ的な要素が入らない単語になってしまって。それはもったいないと思ったので、そこは“blip”や“bleep”といった表現にして、プレイヤーがパッと見てオメガが“100%人間になりきれていない”ことを認識できるようにしました。
織田:バトルのテキストは自分が担当したのですが、そこにはWindowsのエラーメッセージのエッセンスを散りばめています。妙にお固くて、微妙に直訳すぎてしっくりこない日本語を意識して書いています。あとは、石川(夏子氏)が書いたオメガの口調に合わせて作ったので、あんな感じの口調なんですね。そのWindowsのエラーメッセージっぽい要素が、さらに強化されたのが英語版といった感じです。
コージ・フォックス:「ガガガガ……」以外のところも、Windowsのエラーメッセージっぽくなっていますよ。
――プログラム上のアラが、最終形態に見えてきたところに紐付いているんですよね。おそらくアルファ編3の歌詞の中にもビープ音が入っていますよね?
コージ・フォックス:はい、そうですね(笑)。
――お話を聞いていると、コンテンツができる前段階は、いろいろなミーティング・すり合わせが多いんですね。
織田:モンスター班やエフェクト班、キャラモデル班、コンセプトデザイン班のリーダーが集まる会議で、コンセプトや挑戦したい要素などを話し合ったりしています。そこが大事ですね。誰か1人が作ったというよりも、いろいろな人の意見が合わさって、結果として出来上がってくる感じです。
――世界設定だと、織田さんとコージ・フォックスさんが話し合って基本的な方針を決めているのでしょうか?
コージ・フォックス:私のメインの仕事はローカライズなので、基本的には織田がメインで私があとからスパイスを少し加えるといったイメージですね。ただ、オーバーラップする部分もけっこう多くて。「ここはもっと深く掘り下げたい」と思ったときに、こうグルっと椅子を回せば後ろに織田がいるので、お互いにアイデアをシェアし合って、最後にもう少し深みを出すためのスパイスを出している感じです。カレーにチョコを少し入れてコクを出すみたいなかかわり方ですね(笑)。
――スパイスというのは、ワールドワイドで見たときの海外の印象などを含めた、ローカライズ的な視点なのでしょうか?
コージ・フォックス:そうですね。たとえば、「こういうキャラの出し方をすると、アメリカではちょっとセンシティブなイメージがあるから、こう変えませんか?」といった提案はよくありますね。
織田:とくに、倫理観や宗教観、政治にかかわる部分は、国ごとに大きく変わります。ローカライズ班にはいろいろな国籍の方がいらっしゃるので、アドバイスを受けながら調整をしています。
――作ってからローカライズに沿って変えるのではなく、作る前から調整しているんですね。
織田:『FFXIV』は、ローカライズ班とかなり綿密に話し合っています。
コージ・フォックス:過去には、ギリギリまでその話が出てこないで、「あと2週間しかないのにどうする!?」なんてこともありました。なので、今ではかなり早い段階でローカライズのチェックを行っています。そうしないと間に合わないんですよ(笑)。
――そういった理由で、名前にも調整が入ったりするのでしょうか?
コージ・フォックス:よくありますね。
織田:直近でも怒られました……。
コージ・フォックス:例えば、とある漢字の名前を英語にローカライズしたとします。そうしたら、後日にその漢字をカタカナに言い換えた別のものが実装されそうになることがあって……。「この漢字をこう翻訳したんだけど、このカタカナだと同じ意味なんですけど……? ぐぬぬ……」みたいな。
織田:“火炎放射”と“フレイムスロアー”みたいな感じですね。
コージ・フォックス:よくある話なんですけど、最近は減ってきましたね。
――なるほど(笑)。世界観についてかかわるスタッフが多いと思いますが、全員が同一の世界設定と認識を共有していて驚かされます。やはり、社内用のデータベースとかを用意されているのでしょうか?
織田:データベースの更新は滞っておりまして、非常に社内の評判は悪いのですが(苦笑)。一応、メモ的なものをまとめてシナリオにかかわる人が見られるようにはしています。
――こういった書籍ができると、これも1つの資料ですよね。
コージ・フォックス:シナリオ班、ローカライズ班は全員1冊持っていますね(笑)。新しい人が入ったら「まず、これを読め」みたいな。
――直近で実装されたシナリオなどのなかで、お2人にとってとくに印象的なものはありますか?
織田:設定というか表現として「上手くいったな」と思っているのは、「ツクヨミ討滅戦」ですね。シナリオ側から、「こういうストーリーラインで行きます」と出してきたものを、モンスター班が「こういう履行演出にしたい」と提案してくれました。そこに対して、セリフを付けてというやり取りが上手く機能して、ストーリーとバトルがマッチした感じになったのかなと思っています。
――最近のバトルのなかでも、設定・物語・バトル・音楽がすべてミックスアップしているコンテンツだと思います。
織田:これは裏話になっちゃいますが、バトル中のボイス用の収録台本を書いている時点で、バトル的な中身は決まっていないんですよ。なんとなく攻撃っぽい、なんとなくHPが減ってそうというのを予想しながら書いています(笑)。
「ツクヨミだし月を使った技があるだろうから、新月、満月、半月のパターンを書いておこう」みたいに、先読みしてどうとでもとれそうなセリフを書き、それをモンスター班に渡して組み上がったものに対して、ボイスが入らないところで設定的・シナリオ的なエッセンスを足して上手くいった感じです。
すべて書き終えたうえで収録したかったなという思いはありますが、開発スケジュール的にローカライズを含めて絶対間に合わないので……。
コージ・フォックス:一番ドキドキするんですよ。日本語は、主語を取ったりとか数は関係ないとか、あいまいな表現が使えるのですが、英語はそうもいかなくて。織田に「ここの主語は?」とか聞きに行くんですが、「いや、わからないんだよなぁ」と(苦笑)。なので、ふわっとした感じのものを収録しなくちゃいけなくて、上手くいくように、上手くいくようにと祈るしかないんですね。
――ということは、収録してても使わないセリフとかもあるのですか?
織田:ありますね。
コージ・フォックス:「こういうつもりで録っていたんだけど、じつは違う」みたいな、完全にコンテンツ内容に合わなかった場合などはお蔵入りになりますね。ただ、そんなに多くはないです。
織田:ボイスの収録は、2パッチぶんを同時に行います。例えば、パッチ4.2とパッチ4.3を同時に収録していて、パッチ4.2のほうはけっこうバトルコンセプトがすでにかたまっています。なので、バトル中のボイスが親切にギミックを解説してくれるんです。逆にパッチ4.3のほうは、なんかモヤッとしたことしか言わないんですよ(笑)。
――奇数パッチの見方が変わるかもしれないお話ですね(笑)。では最後に、今後の世界設定や物語を作るうえで、チャレンジしてみたいことがあれば教えてください。
織田:大きく2つあって、1つは「広がった風呂敷をどう畳むんだろう」「この国はどういう設定なんだろう」といった、プレイヤーのみなさんが気になっているであろう部分を開示していきたいですね。答え合わせ的なおもしろさがあると思いますので、投げっぱなしにせず、広げた風呂敷はきちんと畳みますよ。
その一方で、シナリオとかを見ているものとしては、何年も運営を続けているゲームなので、マンネリ化が一番怖いんですね。その対策として、アルフィノを操作できるモードなどの新しい遊び・演出を追加していますが、同様に今後もいい意味で期待を裏切っていきたいですね。この両面がバランスよくできたらいいなと思っています。
コージ・フォックス:私の場合は織田と逆で、ハイデリンにはまだ行ったことがないところがたくさんあります。そこをどんどん広げていきたいですね。まだ話しきれていない歴史だったり、伝説だったり、ぜんぜん行ったことがない場所とかもあるので、それについてどんどん広げていきたいと思います。
――世界地図でも、まだ雲に隠れているところもたくさんありますしね。
コージ・フォックス:雲は晴れているけど、まだ行けていない場所もあるじゃないですか。2年前ぐらい前に世界地図の新しい場所に名前を付けていく機会があって、そのころには何も歴史がなかった場所に新しいアイデアが生まれて名前が付けられていきました。そういうところを、どんどん説明していきたいなと思っています。
――ありがとうございました!
さて、“Encyclopaedia Eorzea ~The World of FINAL FANTASY XIV~ Volume II”にまつわるインタビュー、いかがだったでしょうか。世界観好きには間違いなく必携の1冊だと思いますので、ちょっとでも気になった方はぜひチェックしてみてください!
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