News

2018年12月13日(木)

【電撃PS】電撃PSの月刊化で考える月イチの価値。山本正美氏コラム全文掲載。

文:電撃PlayStation

 電撃PSで連載している山本正美氏のコラム『ナナメ上の雲』。ゲームプロデューサーならではの視点で綴られる日常を毎号掲載しています。

『ナナメ上の雲』

 この記事では、電撃PS Vol.668(2018年9月28日発売号)のコラムを全文掲載!

第137回:月イチだからこその価値

 電撃PlayStationが月刊化されて、今回で3回目のコラム。同じコラム執筆勢として、先月号からなんと吉田修平プレジデントの連載も始まり、相変わらずいつ寝ているんだあの人……と思わないではないですが、僕も楽しみなコーナーがまた一つ増えて嬉しい限りです。

 さて、電撃さんが月刊誌になる、と最初に電撃PSの編集さんに聞いたとき、実はその変化に対する体感がよくわかっておらず、「隔週から週刊になるのは大変そうだけど、月イチになるのは時間の余裕もできるしいいかも」くらいの印象しかありませんでした。

 しかしこれが案外と難しい。難しいというより、マインドセットを切り替える必要がある、というほうが正しいでしょうか。なぜかというと、要は、「タイムラグの落としどころ」に折り合いをつけて書かなければならないからですね。

 これまでは概ね、思ったことを書いて原稿を入稿、誌面に載るのは翌週でした。なので、遊んだゲームや読んだ本、観た映画やドラマについて触れたとしても、まだそれらを読者の皆さんが「体験できる状態にあること」が大半だったわけです。

 ただ、時事性が高いネタのときは、気を付けて書いてはいました。一例を挙げると、オリンピックやワールドカップ、高校野球などは、書いている瞬間は自分の中で盛り上がっていても、掲載されるころには大会そのものが終わっていることも多かった。

 だから、過去形で組み立ててみたり、「これを書いている時点では」と注釈を入れてみたりと工夫する必要がありました。それでなんとかなっていたと自分では思っているのですが、しかし月刊となると、それだけでは拭えない違和感が、読んだ時に残る気がするのです。

 たとえばですね、これを書いている前日、テニスプレイヤーである大坂なおみ選手が日本人初、グランドスラムの一角である全米オープンのチャンピオンとなりました。相手選手の態度もあり一悶着ある展開と決着ではありましたが、大坂選手のテニスは本当に素晴らしかった。

 一夜明けても興奮冷めやらず……な気持ちでいっぱいなのですが、この、「大坂選手が勝者となった事実」をどれだけ熱く書き連ねても、皆さんに読んでいただけるのは9月28日なわけなので、さすがに旬は過ぎているはず。

 ではどうする必要があるのかというと、素人考えでいえば、「勝利」という時事性そのものではなく、勝利とそこに至る過程や起こった現象から僕が何を思ったのか? を書く必要があるのではないか。つまり、“時間で風化しない解釈(情報)”を書くことこそが、僕が考える「月刊誌に掲載されるコラムの役割」なのではと思うんですよね。

 そのうえでさてどうするか……と考えたときに、ふとあることに気付きました。週刊誌は今でも色々と手にとって読むことはあるし、日々流れていく情報にはSNSで浴びるように触れている。よく聴くラジオも、よく見るテレビもYouTubeも、基本はデイリーか週刊でコンテンツが提供されています。と考えると、「月ごとに提供されるコンテンツ」って案外スルーしてきているんですよね。

 人生を振り返ってみてもコロコロコミックと月刊少年マガジンくらいですよ、心当たりがあるのは。よもや、月刊の文芸誌とかほとんど買ったことがない。月イチで提供する読み物としてのコツが絶対にあるはずだとは思いつつ、体感にないものは発露できないので、いやー、ちょっと勉強しないとヤバいなあと焦っている次第です。

 ゲーム業界にも、確か90年代に「ディスクステーション」という、雑誌感覚で提供されるゲーム、とでもいえばいいのか、一風変わったメディアがありました。記憶も薄くなっているのですが、要はフロッピーディスクの中に色んなゲームの体験版や予告編などが収録されていて、パソコンで遊ぶことができるというものでした。

 展開していたのは、当時のコンパイル(現コンパイルハート)さんで、これがなんと、当初季刊だったのが途中から月刊になり、30号を越えるまで発売(発刊?)されていたのです。ゲームのデータサイズも作る工数もまだ少なかった時代だったからこその賜物だとは思いますが、チャレンジャーだなあと思いながら毎号楽しみにしていたのを憶えています。

 そういえばウチのスタジオでも、『まいにちいっしょ』や『週刊トロステーション』というコンテンツを、足掛け6年以上も配信していたなあ。現場スタッフの苦労は大変なものだったと思いますが、その分生きている実感があっただろうなと思います(連続配信記録としてギネスにも認定されています!)。

 時代が要請するスピード感が上がっているなかで、世の中には日や週、もっといえば時や分で提供される情報が溢れています。月という単位で提供されるコンテンツや情報は、僕の守備範囲外でもそう多くはないとも感じます。

 しかしだからこそ、短期スパンでは味わえない体験、その可能性の攻めどころはきっとあるはずだとも思います。月イチだからこその価値を、僕も見つけていきたいなあと思うのでした。

ソニー・インタラクティブエンタテインメント JAPANスタジオ
エグゼクティブプロデューサー

山本正美
『ナナメ上の雲』

 ソニー・インタラクティブエンタテインメント JAPANスタジオ 部長兼シニア・プロデューサー。PS CAMP!で『勇なま。』『TOKYO JUNGLE』、外部制作部長として『ソウル・サクリファイス』『Bloodborne』などを手掛ける。現在、『V!勇者のくせになまいきだR』を絶賛制作中。公式生放送『Jスタとあそぼう!』にも出演中。

 Twitterアカウント:山本正美(@camp_masami)

データ

▼『電撃PlayStaton Vol.670』
■プロデュース:アスキー・メディアワークス
■発行:株式会社KADOKAWA
■発売日:2018年11月28日
■定価:880円+税
 
■『電撃PlayStation Vol.670』の購入はこちら
Amazon.co.jp

関連サイト