2018年11月21日(水)
今だからこそ味わえる『シェンムー』の魅力とは!? ハマるポイントや特徴を20年前の担当ライターが紹介
セガゲームスから、11月22日に発売されるPS4用ソフト『シェンムー I&II』のレビューをお届けします。
『シェンムー I&II』は、1999年にドリームキャストで発売されたアクション・アドベンチャーゲーム『シェンムー 一章 横須賀』と、2001年に発売された『シェンムーII』がセットになったタイトルです。
ゲームの内容はそのままに、HDリマスターによる画質の向上で、プレイアブル部分を16:9の画面比率で楽しめる他、UIのアップデートや“どこでもセーブ機能”の追加などが行われています。
▲カットシーンやQTEといった演出の部分では画面比率が4:3のままですが、プレイヤーが直接操作できる部分では、16:9サイズでプレイできます。オリジナル版と同じ4:3のままでプレイするように設定することも可能。 |
今から約20年前、筆者は当時の『電撃王』でドリームキャストに関する記事を担当していたこともあり、『シェンムー』発売までの各種イベントや記者会見を取材しています。完成したゲームはもちろん発売と同時にプレイしていますが、今回のレビューにあたり、本当に久しぶりに『シェンムー』の世界を再訪することになりました。
これが今遊んでもメチャクチャおもしろくて、目の前の仕事をほっぽり出して、『一章』と『II』のどちらもエンディングまで、ほぼ一気にプレイしてしまうというハマりっぷり。これにはさすがに自分でも驚きました(笑)。
『シェンムー』というタイトルは知っていても、どんなゲームなのか詳しく知らない人が、この『シェンムー I&II』に初めて触れた時に、筆者と同じようにハマるかどうかは、正直言って自分にはわかりません。
ですが、20年経った今でも……というか、20年経った今だからこそ味わえる本作の魅力は、確かにあると感じました。その魅力とはいったい何なのかを、これから考えてみたいと思います。
20年間こだわり続けた『シェンムー』に対する思いとは……
まずは『シェンムー』というゲームの歩みを振り返ることで、筆者を含めた本作のファンが20年を経た今もなお、なぜ本作にこだわり続けているのかを紐解いてみましょう。
『シェンムー』は、セガの新ゲームハード、ドリームキャストのキラータイトルとなる超大作として発表されました。1998年12月にはパシフィコ横浜で制作発表会が開催されましたが、筆者も会場に足を運んでオーケストラの生演奏によるテーマ曲の演奏を耳にして、そのスケールの大きさに圧倒された記憶があります。
当時、アーケードで絶大な人気を誇っていた『バーチャファイター』シリーズのクリエイターである鈴木裕氏が、コンシューマの完全オリジナルタイトルに取り組むとあって、その注目度の高さはかなりのものがありました。
▲敵との格闘バトルでは『バーチャファイター』と同じコマンドで技を繰り出すことも可能。ただし本作では『バーチャファイター』とは異なり、複数の敵を同時に相手にすることになります。70人もの敵が連続して襲ってくることも! |
インターネット黎明期と言えるこの当時、セガが自ら運営していた“セガ伝言板(SEGA BBS)”は、文字通りハードの垣根を越えたゲームファンのコミュニティとして機能していました。なにしろブログも匿名掲示板もまだ存在しておらず、個人ホームページの掲示板が盛況だった時代ですから。
そこに発表の直後から多くの書き込みが殺到して、ついには『シェンムー』専用のBBSが開設されたほど、ファンの期待が大きく、盛り上がっていたのです。
しかし、制作発表から約1年後の1999年12月に発売された『シェンムー 一章 横須賀』は、物語のプロローグとなる部分にスポットを当てた内容だったため、壮大な展開を楽しみにしていたファンのあいだには戸惑いもあったようです。『一章』は、それはそれで独特の味わいがあるゲームなのですが……。
▲『一章』では、リアルに再現された昭和の日本の日常風景の中を自由に探索できるという、当時としては斬新すぎる内容に驚いた人も多いはず。 |
そして約1年半後の2001年9月に、舞台が横須賀から香港へと移り、物語がいよいよ本格的に繰り広げられる『シェンムーII』が発売されます。ですが、発売に先駆けた2001年1月に、セガが家庭用ゲーム機事業からの撤退を発表したことも影響してか、前作に比べて注目度がやや低くなってしまいました。
さらに、『シェンムーII』でも物語は未完となっていたため、物語の続きがどんな内容で、どのような形で展開されるのか、非常に気になるものとなってしまいました。とはいえまさか、そこから20年近くもその状態が続くとは、当時思っていませんでしたが……。
このような経緯があったからこそ、2015年6月にアメリカで開催されたE3で、YS NETの代表となった鈴木裕氏から『シェンムーIII』の制作が発表された際には、世界中のファンから喝采が巻き起こったのです。なにしろ20年近くの間ずっと、この物語の続きを目にするのを待ち望んでいたのですから!
そして今、『シェンムーIII』のリリースが予定されているPS4で『シェンムー I&II』をプレイするというのは、20年前のあの盛り上がりを知る者としては、実に感慨深いものがあります。
▲本作のメニューでは、“設定”にドリームキャストのコントローラのアイコンが、そして“記録”にはビジュアルメモリのアイコンが、それぞれ使用されています。 |
『シェンムー I&II』は、先に紹介したように現在のTV環境にあわせた画質の向上や、『一章』でもどこでもセーブできるといった操作面の改善が行われているものの、基本的にはオリジナル版の味わいをそのまま現代によみがえらせた、移植版となっています。
ただ、ゲームデータがPS4のHDDにインストールされるため、エリア間の移動や建物を出入りする際のロードがドリームキャスト版に比べて圧倒的に早くなっており、この点だけでも改めてプレイする価値があると言えるでしょう。もちろん『一章』から『II』へのクリアデータの引き継ぎも対応しています!
“オープンワールドの元祖”を20年後の今に体験する意義
『シェンムー』の舞台となっているのは、1986~1987年の日本と中国です。発売時点から数えても10数年、現在からさかのぼると30年以上前の話です。歴史物というほど昔ではないけれど、完全な現代とも言えないこの絶妙な時代設定が、『シェンムー』の最初の特徴です。
主人公の芭月涼は、父親である芭月巌のもとで武術を修行している、ごく普通の高校生です。ところがある日、突如現れた中国服の謎の男によって、父は涼の目の前で殺されてしまいます。
父の仇である男の行方と、父がなぜ殺されたのかを知るために、涼は横須賀の街を探索します。やがて多くの出会いと戦いを経て、涼は謎の男を追って香港へと向かうことに。香港の地では、さらなる出会いと危険が涼を待ち受けているのですが……!?
『シェンムー』は“オープンワールドの元祖”とよく言われます。ですが正確なところ、オープンワールドの先駆けと言えるようなシナリオやマップの構造を持つ作品は、『シェンムー』以前にもいくつか存在していました。
とはいえ、異世界ではなく現代に近いリアルな街を3Dで細部まで作り込み、プレイヤーがその中を好きなように移動して、街を行き交う大勢のNPCと自由に会話したり、時には本編とは直接関係のないミニゲームに挑戦したりするようなゲームは、間違いなく『シェンムー』が初めてでしょう。
筆者が“とあるオープンワールドタイトル”の英語版で初めてプレイした際に、「これって『シェンムー』じゃん!」と思わず叫んだことは、今でも記憶しています(笑)。
▲カットシーンの途中でボタンを押すシステムに「QTE」という名称をつけたのも、じつは『シェンムー』が元祖です。『シェンムーII』では、複数のボタンが順番に入力する“コマンドQTE”も登場します。 |
▲ゲーム内に存在するゲームセンターでは、『スペースハリアー』や『アウトラン』といったセガの名作ゲームをプレイできます。 |
▲香港や九龍城では、ギャンブルやアームレスリングでお金を稼ぐことも。 |
特に『一章』では、日本の街並みがゲームの中で徹底的に再現されており、涼の自宅ではタンスや引き出しの中まで作り込まれていたりと、今プレイしてもそのクオリティには圧倒されます。
『II』では、『一章』の舞台となった横須賀の数倍の広さを持つ香港の街を訪れるのに加えて、ゲームの中盤からは高層ビルが連なる九龍城を探索することに。このビル群がまた、物語に関係のないフロアにまで無数の部屋が用意されていて、異国の地で道に迷う感覚をゲーム内でリアルに味わうことができるのです。
ただ、そのように広大なオープンワールドを多彩な遊びで埋め尽くすのは、今でもかなり大変なことです。至れり尽くせりのおもてなしにあふれた現在のオープンワールド・アクションゲームを知る身からすると、『シェンムー』はさすがに粗削りなところがある印象は否めません。
例えば『一章』では、NPCに「明日の12時に会おう」と言われると、ゲーム内時間で実際に経過させる必要があります。『II』では指定された場所で“待つ”ことで、時間を早送りできるようになりました。
そのためストーリーを進めるために、ゲームセンターやスロットマシンの店で延々とねばるという、ちょっとシュールな状況になることも。ただ、そうやって空いた時間に街をぶらつくことで、本編とは関係のない事件に出くわしたりする楽しみもあるのですが……。
▲横須賀でも香港でも、ひたすらカプセルトイを回して膨大な種類のフィギュアをコレクションすることができます。 |
他にも、独自のタイムスケジュールで行動しているNPCの様子を観察(ストーキング?)したり、物語とは直接関係のない会話のなかで垣間見えるNPCの意外な個性に驚いたりと、本作の奥深い魅力を味わうためには、プレイヤー自身が積極的にこの世界に興味を持って、こまめに探訪する必要があるのです。
そうすることで、例えば香港で出会った女の子と会話を繰り返しているうちに、彼女の涼に対する呼び名が変化して、さらに……とか、香港のコンビニでアルバイトしている日本からの留学生が実は……といった具合に、思いも寄らない光景に出くわすこともできるのです!
▲香港で涼の面倒を見てくれるようになる少女・薫芳梅(くん ふぁんめい)。彼女と街で出会った際にこまめに話しかけていると、やがて彼女の態度に変化が!? |
考えてみれば、現在の至れり尽くせりなオープンワールドというのは、『シェンムー』が新たに切り拓いたものを、後に続く大勢のクリエイターの人たちが時間をかけて磨き上げてきた結果、生まれてきたものなのです。その意味で『シェンムー I&II』では、ゲームの進化の歴史を振り返ることができると言えるでしょう。
ストイックな生マジメさが心にしみる人間ドラマの魅力
久しぶりに『シェンムー』をプレイしてみて気がついたのは、ゲーム全体を通して徹底されているストイックなほどの“生マジメさ”です。
現在のオープンワールド・アクションゲームは基本的に、“現実ではできないこと、やってはいけないことをゲームのなかで体験できる”という作りになっていて、それが“自由度の高さ”と呼ばれています。
ところが『シェンムー』は、日本の家屋の作りや日常生活の動作をリアルに再現する一方で、“現実にはできないこと、やってはいけないことはゲームのなかでもやらない”というスタンスが貫かれています。一方でフォークリフトレースやアヒルレースといった現実離れした遊びもありますが(笑)。
▲『一章』をプレイした人ならば、特に印象に残っているフォークリフトレース。実際にやったら怒られるでしょうが、現実で不可能なほど突飛なものではないあたりが『シェンムー』らしいと言えるかも。 |
主人公の芭月涼は、夜遅くまで街をぶらついていると強制的に自宅や旅先の拠点に戻って就寝するという、マジメな生活リズムを守っています。また涼は、素手による武術で敵と戦いますが、刀や拳銃などの武器を使って他人を傷つけることはありません。時には生命の危険に陥った敵を助けることすらあるのです。
海外製の過激なアクションアドベンチャーゲームに慣れている人には、この涼の生マジメさに、やや堅苦しさを感じるかもしれません。しかしこの涼の態度は、“人々との出会いや武術の修行を通して涼が成長していく”という本作のテーマに、ピッタリと合致しているのです。
発売当時には、ゲームシステムのユニークさやスケールの大きさにただ圧倒されていたのですが、20年近くの時間を経ることで改めて見えてきたのは、本作が持っている人間ドラマとしての魅力です。
横須賀の街で顔なじみの店員たちと挨拶(あいさつ)を交わしたり、同級生の原崎望と淡い恋模様を繰り広げたりするのは、1986年という時代設定もあいまって、どことなくノスタルジックな雰囲気が味わえます。
▲『一章』のヒロインである原崎望。ダイヤル式電話で、彼女の家に電話をかけられるという驚きの要素も! |
ところが見知らぬ異国の香港に渡って、誰にも頼ることができない日々を送るようになると、横須賀とのギャップで不安感がよりいっそう増していきます。このあたりは『一章』から時間を置かずにすぐ『II』をプレイできる、『シェンムー I&II』ならではのメリットでしょう。
そして、そんな状況の中で涼が新たに出会うキャラクターたちが、実に魅力的に描かれているのです。涼が横須賀で出会う陳貴章(ちん きしょう)は、そのクールな態度に最初は警戒するものの、やがて少しずつ信頼が生まれていきます。
▲出会った当初は涼と拳を交えたりもする陳貴章ですが、少しずつ打ち解けていった2人は、『一章』のクライマックスで……? |
そして香港のストリートギャングのヘッドである刃武鷹(れん うーいん)は、口が達者で悪知恵が働き、金のためならどんな汚い手も使うという涼とは正反対の性格ですが、行きがかりで一緒に行動することになり、そして……。
▲涼に儲け話の匂いをかぎつけた刃武鷹は、半ば無理やり行動をともにするのですが、なぜか2人で手錠につながれる羽目に……。 |
他にも横須賀で出会う不良だけど憎めない性格のゴローや、香港で出会う謎めいた女性・紅秀瑛(こう しゅうえい)など、個性的な人物が次々に登場して、どの人物の言動も強く印象に残るのです。
こうした人物の描き方は、アニメ風の華やかさとは異なる現実的なトーンながらも、海外ゲームが持っているハリウッド風味のこってりとした雰囲気ともまた違う、独特のものです。しいて言うならアジア映画や昭和の日本映画を思わせる落ち着いたテイストでしょうか。これは登場から20年近くを経た今でも他のゲームには受け継がれていない、『シェンムー』だけが持つ唯一無二の個性だと思います。
『シェンムーIII』を控えた今が『シェンムー I&II』をプレイするベストタイミング!
ゲームを進めると、中国の山奥にある桂林の地へと渡った涼が、『シェンムー』のメインヒロインである玲莎花(れい しぇんふぁ)と出会います。
▲最初に制作発表が行われた時から、メインヒロインとして打ち出されていた玲莎花ですが、『一章』では涼の夢の中やエンディングに出てくる形となり、本格的に涼と出会うのは『II』からです。 |
とはいえ先に説明したように、『シェンムー』の物語は今なお未完となっています。『シェンムーII』の発売当時には、この点を巡ってさまざまな意見が飛び交ったものです。
しかし今は、2019年に発売される予定の『シェンムーIII』で、『II』のラストから続く物語が描かれると明らかにされています。それを念頭に置いたうえで改めて涼とシェンファの出会いを体験すると、筆者は2人が交わす言葉のやり取りにグイグイと引き込まれていきました。
▲涼とシェンファは桂林の山道を2人で歩く間に、お互いのことについてさまざまな話を語り合います。この会話がかなり濃密で、大自然の雰囲気とあいまって強く印象に残ります。 |
20年近くの時を経て、再び動き出した物語の流れに身を委ねることができるというのが、2018年の今、『シェンムー I&II』をプレイする最大の意義だと思います。
昔プレイした人は、この世界にもう一度飛び込むことで、以前は気づかなかった新たな魅力を発見できると思います。そして今回初めてプレイするという人は、約20年前に作り込まれた緻密な世界観と、ここから先へと広がる壮大な物語に、ぜひ思いを馳せてみてください。
“愛すべき友”に20年ぶりに再会できてよかったと、心からそう思えるソフトです。
(C)SEGA
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