2018年11月30日(金)
『ファイナルファンタジーXIV(FFXIV)』パッチ4.45で実装されたコンテンツ“禁断の地 エウレカ:ピューロス編”は相変わらず多くの人でにぎわい、今日も光の戦士が(しあわせうさぎを追って)フィールドを北へ南へ駆けていく姿が見られます。
今回は、そんな“禁断の地 エウレカ”という一連のコンテンツの制作にまつわるお話を、『FFXIV』プロデューサー兼ディレクターの吉田直樹氏と、リードバトルコンテンツデザイナーのMr.オズマこと中川誠貴氏にインタビュー! まだ実装前の“最後のエウレカ”コンテンツについてもお話を聞けたので、ぜひ最後までご覧ください。
※このインタビューは11月上旬(北米ファンフェス前)に実施されたものです。
――あらためまして、“禁断の地 エウレカ”が作られたきっかけについてお聞かせいただけるとありがたいです。
吉田直樹氏(以下、敬称略):事の発端は、とくに企画の中身を決めていない状態で、雲海探索のように第1世代のMMOに近い雰囲気の“連続してモンスターを狩って遊ぶ”という要素と、そもそも雲海探索のときにやりきれなかった“コンテンツ内で自由にパーティを組み換えられる”システムを盛り込んだような『FFXIV』の規定ルールから外れた遊びをまたやろう……というところから始まっています。そういった大人数のコンテンツをいずれやろう、コンテンツタイプとして今後も続けようという話は4.0の企画項目を割り出している頃からありました。
ここからは、幾つかの理由が符合して「禁断の地 エウレカ」へと続いていきます。そのひとつ目が残された設定の問題。4.0以降に取り上げなければいけない、と考えていたのが古代の民の迷宮に関連するであろうエウレカ。ですが、お話としてすでに閉じてしまっているため、”古代の民の迷宮”にエウレカを紐づけるのはもう無理じゃないかという思いがありました。
しかし、切り離したとしても、エウレカというものはどこかで使いたい。さらに“バル島が消滅した”と事実が設定として残っており、これを一気に解消するため、「エウレカ=バル島にしよう」と僕から世界設定の織田に依頼しました。
もうひとつ、武器強化という遊びについても、既存のコンテンツをひたすら回ってポイントを稼いで強くするという遊びを2回やったので、遊ぶみなさんも作る僕らもマンネリ化してきていました。『FFXIV』には多数のコンテンツがあり、コンテンツ同士で時間の奪い合いになっている。プレイヤーはメインで遊ぶコンテンツを、自分の時間の中で取捨選択をしなきゃいけない。例えばレイドも行って、武器強化もやって、探索コンテンツもやって……だと、もう他を遊ぶ余裕がなくなってしまいます。
そうなのであれば無理に横展開せず、「武器強化と探索は1つのコンテンツにしてしまって、1つをやっていればどっちも埋まるようにしたほうがいいのではないか」という結論に至りました。僕が決めたのはここまでです。しばらくは担当を決めていなかったのですが、中川が「やりたいです!」と手を挙げてくれて。
雲海探索のときは担当者が別で、彼はその担当者が困っているときにモンスター制作チームとして助けてあげるという側だったので、たぶん「もっとやれるのに」っていう想いもあっただろうし、もともと『FFXI』のコアプレイヤーだったこともあるから「思い切ってやらせてほしい」という話だったのです。
それで、「じゃあ、やってくれるなら頼みたい」という話をして、そこからはもう中川から挙がってきたものに対してディスカッションをし、ゲームデザインを決めていく感じで、ハンドルは中川が握っていました。僕は中川が迷ったときの相談役と、道しるべ役くらいで、中川が“エウレカのディレクター”と言った方が正しいですね。とても粘り強く、しっかり作ってくれたと思います。
――実際にプレイして感じたのは、まさに『FFXIV』の中にまったく違うシステムのゲームが入っている印象でした。こういう形での実装はほかに例を見ないな、と驚いたんです。それは当初から目指した形だったのでしょうか。
中川誠貴氏(以下、敬称略):そうですね。僕が当初もらったのは、クラシックMMOの体験をできる箱庭的なコンテンツを作ってほしいっていうテーマだけだったんです。それを聞いたとき、自分は『FFXI』のコアプレイヤーだったので、『FFXI』でおもしろかった部分の端々を、現代のプレイヤーさんたちに伝えられるようなコンテンツを目指して開発しようと思いました。
「『FFXI』で何がおもしろかったんだろう」って考えたときに、「ずっとレベル上げしてたな……」っていうのと、NMを沸き待ちしてそれをみんなでわいわい狩るのが楽しかったなと。まあ『FFXI』のNMはわいわい狩るというよりはちょっとアレでしたけど(笑)。
――時間管理して取り合ってましたね(笑)。
中川:まあそこは現代の『FFXIV』に合うように落とし込んで作ったつもりです。
――同じ“多人数コンテンツ”として、雲海探索とはどのように区別しようとしていたのでしょう?
中川:雲海探索のことはあまり意識していなかったです。クラシックMMOの体験の“いい部分を伝える”ということを強く意識していました。ただ、ディアデム諸島の何がよくて何がダメだったのかというのはしっかりヒアリングしてエウレカに活かしていきました。
――いい点と悪い点というのは、ズバリどこでしょう?
中川:ディアデム諸島でやったことって、まず「さあ自由にやってください」そのあと「やっぱり完全に自由にやるのはだめだね」となり、次に「コンテンツの道筋をある程度示してあげよう」というふうに変移していったと思うんですが、ディアデム諸島の場合はどっちつかずになってしまって。
その2つの話を聞いたときに、エウレカではどっちつかずにするのではなく、とことん突き詰めようと思っていました。『FFXIV』のバトルコンテンツはもともと自由さっていうものをあえて切り捨てて、パズルのような面白さを目指していますが、どうせだったらエウレカは逆で、自由に遊んでもらえるようなものに振り切って作っていこうと思いました。それが成功するかどうかはわからなかったんですけど、なんとかおもしろいコンテンツにできたかなと思います。
――以前の吉田さんのインタビューで、“エウレカは実験場”というふうにおっしゃっていましたが、プレイヤーがエウレカを遊んだときの感想みたいなものも、やっぱりほかのコンテンツとは毛色が違うのでしょうか。
吉田:僕らもプレイヤーさんの反応を想定しきれるわけではないので、「あ、そんな遊び方するんだ」という驚きはすごくたくさんありましたね。“ノの民”なんていうのは最初まったく想定していなかったですし……。「あ、なるほど、率先はしないのか……でも、なんだかそれはそれで楽しそうだなぁ」みたいな(笑)。
――『FFXIV』の場合はシャウトのログから直接パーティに誘ったりもできるので、その場でメンバーの組み換えがしやすいですよね。そういった面でも、ノの民が生まれやすかったのかもしれませんね。
中川:あれが生まれたのは、やっぱり“エウレカというインスタンスコンテンツの中でパーティの組み換えができる”っていうシステムを入れたからですね。ディアデム諸島のときはそういうシステムがなかったので、ノの民も生まれなかったんです。
吉田:そこはやっぱり中川の功績ですね。中川のキャリアがシステムエンジニア上がりなので、システムの発注がすごく早かったんです。もともと僕は雲海探索の頃から、「コンテンツの中でパーティの組み換えができるように」と話していたのですが、ディアデム諸島では発注が遅くて入りきらなかった。だから今回はそのシステムの発注はものすごく早かったよね? 「それができるようにならないと、そもそも目指しているものが成立しないので」と中川が言ってくれて。
プレイヤーに何をさせるかより、まず真っ先にそれをできるように、って。それともう1つが、コンテンツの中なのにクエストっぽく受注できるように、と。……エウレカ内のあれは、正確に言うとクエストのシステムではないのです。中川はこの2つを一番はじめにプログラマーにネゴりに行って、最初にその2つを通し、そのうえで「この2つができる算段が整ったので、本格的にやらせてください」って言ってきたんです。
――最初はかなり驚きました。ソロでコンテンツに入って、その中でほかの人をパーティに誘えるって。
吉田:相当イレギュラーなことをやってるよね。
中川:しかもあれ4.0のリリース直前だったので、すごく忙しい時期でしたね(笑)。
吉田:本当は4.1からエウレカを始められればよかったんだけど、4.0のほかの作業を終えてからだったので……。後ろに少しずらしてでもしっかりした内容でスタートしようっていうスタンスでしたし、パッチ4.25からのスタートになりました。
――そういうしっかりしたシステムを構築していたからこそ、第1世代のMMORPGの魅力をちゃんと表現できたんですね。ちなみに、その再現したなかで「ここは成功だったな」という点を教えてください。
中川:デスペナルティは、賛否両論ありますけど、入れてよかったなと思っています。
――たしかに、デスペナルティがあるおかげでレイズを求めるシャウトがあったり、辻レイズが嬉しかったりっていうプレイヤー同士のふれあいが生まれた気がします。
中川:エウレカの中って、シャウトでの会話が頻繁に発生していて。『FFXIV』のほかのバトルコンテンツにはなかなかない現象かな、と。
吉田:そのデスペナも、中川が「デスペナはアリで行きたいです!」って最初に言い切ったので、「よし、じゃあ思い切ってやろう!」っていうやりとりがあったんです。ただ……途中で1回「本当に大丈夫なんでしょうか……」って言いにきたよね(笑)。
中川:「やっぱりやめていいっすか……」って(笑)。
吉田:1回だけですけどね(笑)。「ここまで積み上げてきた君の企画は緊張感の上に成り立っているんだから、その緊張感を外してしまったら全部設計しなおしになるでしょ。このまま行こう。」と返しました。デスペナはペナルティがきついかどうかではなくて、あくまで緊張感が生まれるかどうかが重要で……迷ってるなら決めてあげるのが僕の仕事です。「批判されるなら俺がされりゃいいから、デスペナは入れなよ(笑)」と。
中川:すごく、強く覚えてますよ。即答で「入れろ」って言ってくれたんで。
――死にたくないっていう緊張感と、戦闘不能になったときの“なんとかして復活したい”っていう想いが生まれるのは、『FFXIV』のほかのコンテンツにはないエウレカ独自の要素ですよね。
吉田:ほかだと「はい、ワイプワイプ」という傾向ありますしね(笑)
――EL50で戦闘不能になると経験値が約1200万消えますからね。危険地帯にいるときはなかなかに緊張感があります。
中川:自分も昨日うさぎ(しあわせうさぎ)を連れて箱を探していて、3回死にましたよ(笑)。
吉田:今、うさぎに対してヘイトが蓄積していってるよねえ(苦笑)。
――ちなみに、吉田さんと中川さんがエウレカで実装したかった第1世代MMORPGのエッセンスって、ほかにもあったのでしょうか?
中川:部分部分ではまだいろいろあるんですが、行きつくところはやっぱり「プレイヤーが自分のやりたいことを決めて、エウレカというコンテンツの中で自由に遊ぶ」という部分だと思っていて。そこがうまく実現できているっていう意味で、クラシックMMOライクなコンテンツとしてはある程度成功しているのかなと思っています。
――“禁断の地 エウレカ”という実験場を作ったことで、“今の時代のオンラインRPGでのコミュニケーションの形はどういったものなのか”とか、今までにないデータがいろいろと取れたのかなという印象があります。
中川:そうですね。新たなものをリリースするたびにいろいろと考えさせられています。
――反面、すごく楽しそうです。大きな実験場を手に入れて、新要素実装のたびにプレイヤーがどう行動するのかを見られて……。今回得た情報や経験で、まったく新しい何かが1本生まれちゃったりするんじゃないのかなとまで思えるくらい。
中川:個人的にも、エウレカの開発を通してゲームデザイナーとして成長できていると思っています。本当に、しんどいこともいっぱいあるのですが、やってよかったなと。
――“禁断の地 エウレカ”最初のアネモス編実装時のプレイヤーの反応をあらためて振り返って、いかがでしたか?
中川:まず最初に思ったのは、予想以上に多くのプレイヤーさんが参加してくれているということでした。開発環境で実際の数字も見ているのですが、予想の何倍もの人数で、そんなにも多くのプレイヤーさんたちが楽しんで遊んでくれていて……本当に作ってよかったなというのが感想ですね。
吉田:初期のEL5くらいまでは、「単調だ。暇だ暇だ」というプレイヤーさんたちもいて、そこで合わないと感じた方々が即プレイするのをやめるという兆候もありました。ただ、ここはある程度想定内で、序盤の加減については、スローテンポでないとシステムも理解できないし、致し方なかったろうなと思っています。ある意味、狩り中心のレベリングMMORPGのレベル1から5までをもう一度やらされているようなものなので、暇に感じるのはそりゃそうだよなと。
結果的には、そこで一時離脱した方も、後続の方の話題に引っ張られて、戻ってこられたので、その点は良かったと思っています。……あらためて思い返すとアネモス編は予想外の嬉しいことばっかりで、コレといって「あちゃー」みたいなのはなかった気がしますね。
中川:なかったですね。
――パーティごとに分担してNMをみんなで沸かせて、沸いたら集合して狩って……っていうあのプレイヤーの動きは当初の想定どおりだったのでしょうか。
吉田:あれは……さっき中川も言っていた“NMをわいわい倒す楽しさ”を盛り込む試みだったんですが、『FFXIV』は『FFXIV』だし、遊んでいるプレイヤーは『FFXIV』プレイヤーなので、クラシックMMOのテイストを再現しようとしてもやっぱり無理があるんです。
過酷な奪い合いはたぶんだめだと思うし。NMにしても、F.A.T.E.の仕組みをベースにして“ぽく”は作るけど、みんなでちゃんとやれるというのをカバーしています。そのあたりは、中川の采配がとてもうまかった部分だと思うんですよ。流れがしっかりできてきて、沸かせる人と狩る人といろんな遊び方に派生していったのはとてもよかったと思います。
――以前吉田さんのインタビューでもお聞きしていましたが、パゴス編はスケジュールの都合上、アネモス編のフィードバックを得られないまま作っていたんですよね。
吉田:はい、パゴスはアネモス公開直後には殆どできてしまっていたので……。
――ピューロス編から、それがようやく反映できた形になるんでしょうか。
中川:そうですね。今回のピューロス編に関しては、アネモス編、パゴス編の開発経験を最大限活かしたコンテンツです。
――パゴス編は、アネモス編と比べてどのような方向性で作られたのでしょうか。
中川:もうちょっとピーキーにしても、「いけるかな」というところがあって、クラシックMMOの厳しい部分を少しずつ取り入れていこうと思っていました。そこの匙加減を間違えてしまったっていうのが一番大きなところかなと。
――アネモス編と比べて、クラシックMMOにあったような“狩場を選んで、狩りに行く”というスタンスに重きが置かれていた印象でしたね。
中川:そうですね。そこは意識してそういうふうにしました。地形の発注をするときも『FFXI』のウルガラン山脈を参考にして作りました。ですので、アネモス編との落差が大きすぎたっていうのがかなりあります。楽しんでいる方がいる一方で、多くのプレイヤーの方に大きなストレスを感じさせてしまったという部分を本当に申し訳なかったと思っています。アネモス編に続くプレイヤーのみなさんの期待にしっかり応えることができませんでした。申し訳ありませんでした。
吉田:さっき中川も言っていましたが、想定と比べてアネモスに挑む方が多かった。当初はもっと“繰り返し”の属性におもしろさを見出せる人か、コミュニケーションをしっかり取るタイプのMMORPGプレイヤーがプレイすると想定していました。「その精鋭部隊が、さらに先鋭化して楽しめるものを」というのがパゴス編のコンセプトでした。想定していたプレイヤー層のなかに、カジュアルが存在しなかったのが我々の落ち度でした。
――たしかに、アネモス編は、積極的にコミュニケーションはとらないけど気軽にプレイしてみたい、という方が多く入ったがために“ノの民”という文化が生まれましたね。
吉田:そこで“流れに乗っていく”という遊び方があったのですが、パゴス編はそれがなく、自ら動かないといけない。人によっては開始早々に、それがしんどいと感じる部分だったのかなと思います。
――なので、リリース後にフィードバックを受けていろいろと調整していった感じなんですね。でも今、ピューロス編が実装されたことでアネモス編とパゴス編にもすごく人が入っているようです。ピューロス編が入ったあとに初めてエウレカに行ったって方もいたりして。これはロゴスアクションという今までにない要素が入ったことで“やってみたい”という方が増えたのが要因のひとつかなと思いますが、ロゴスアクションのシステム自体は、わりとアネモス編の実装初期からいずれ入れようと予定していたのでしょうか。
中川:そうですね。4.0が始まる前に“禁断の地 エウレカ”の企画初期段階の話をしていたとき、マギアボードの原型の企画と、ロゴスアクションシステムの原型の企画がすでにありまして。ピューロス編で実装されたのはそのうちの後者ですね。
――本当に初期の初期という段階から予定していたんですね。
中川:両方入れるというのは最初から決まっていて、アネモス編に入れるのはよりシンプルなシステムを優先させたほうがいいかなと思い、マギアボードのほうを実装することに決めました。
――吉田さんも最初のインタビューで言ってらっしゃいましたね。最初はシンプルなクラシックMMOの雰囲気だけど、どんどん新しいものを入れていくと。
吉田:それは中川の計画がそうなっており、それも了承済みだったからですね。
――印象的には、ピューロス編ではロゴスアクションが50種登場したものの、まだそこまで必須というスタンスではないという感じですね。
中川:ですね。そこは意図してそうしてあります。
――ということは、きっと今後の“禁断の地 エウレカ”ではロゴスアクションをより活用して進めていく形になるんでしょうか?
吉田:いずれそのシチュエーションが来ますが、全体割合としては少ないです。全面的に必須になるかというとそうじゃないですね。そうして先鋭化させていってしまうと、またパゴス編と同じことを繰り返してしまうことにもつながりますし。
中川:結局、このバトルにはこれとこれとこのロゴスアクションが必須……っていうふうにしてしまうと、自由度が失われてしまいますので。
――ロゴスアクションは、あくまでもコンテンツそのものの自由さを残したうえでのスパイス的な意味合いのものということですね。
吉田:コンテンツクリアまでは無理して使わなくても問題ないです。そこから先がいろいろとあるので、その先に挑戦する人だけ駆使してくれればいいんじゃないかなと思います。
――エウレカの次のタイミングとしては、やっぱりパッチ4.55になるんでしょうか。
吉田:少なくともパッチ4.5ではないです。パッチ4.5までに作業はすべて終えちゃいますけど、そこから実装までは少しズレる予定です。
――ちなみに、ピューロス編を実装した現時点でのプレイヤーの反応はいかがでしたか?
中川:概ね想定どおり楽しんでいただいているなと。本当にアネモス編とパゴス編の開発経験が活きたなと思っています。ピューロス編では“ところどころでバランスブレイクさせる”ということをすごく意識しました。バランスブレイクした部分をとにかくいっぱい作る。一見するとコンテンツの穴に見えるものをたくさん散りばめることで、そういうものを発見したときの楽しさを味わえるようにしています。それが想定どおり楽しんでいただけているようで。
――ロゴス・リフレク”を使用した狩りとか、“ロゴス・チャージ”を駆使した乱れ雪月花の大ダメージとか、ですかね。
中川:そうですね。主にリフレク狩りですとか、“ロゴス・カタスト”の自爆ダメージがインビンシブルに効かないとか。そういうのも全部意識したうえで作っています。
――パゴス編からピューロス編になって経験値が入るようになり、しあわせうさぎはだいぶおいしくなりましたね。発生頻度もかなり高いですし。ただ、巷では「うさぎがおいしいがゆえに、NMを沸かせる人たちが少なくなっているのでは」という意見もあるようです。
吉田:それは……いいんじゃないかな。
中川:自分もそれでいいかなと思っています。やっぱり自由に遊んでいただきたいので、うさぎをやりたいときはそれをやればいいし、NMを沸かせたいときはザコをたおしてください。本当にやりたいことをやりたいときにやる。自由に遊んでください。
吉田:あえて正解を作らないようになっています。パゴス編ではわりと正解のある作りを押し付ける形となったので、バランスはみなさんで決めていただいても良いと考えています。もちろんドロップレートや経験値の調整は僕らが担っていますが、遊び方はみなさんで決めていただいたほうが楽しいのかなと。 “流行り”があるというのはいいことなんだとも思いますし。
それに実際、今はうさぎの宝箱から手に入るロゴスシャードなどで儲かるから流行っているっていうのもある。でもそれも果たしていつまで儲かるかはわからないわけで。いずれEL50の人が大多数になったときにどういう“流行り”になるかもまたわからないですし。ですので「今は」あれでいいんじゃないかなと思って見ています。若干懸念があったとすれば、「新髪型に対する瞬間的な反応はあるんじゃないかな」と心配してはいました。
――値段もだいぶ落ち着いてきましたね。
吉田:「うさぎの宝箱からランダムドロップなんて……」という気持ちはわかるのですが、目玉はどうしても必要で。もちろん、パゴス編での経験を活かした排出率に設定していますので、徐々に落ち着いてくれるだろう、とは想定してリリースしました。
――ロゴスアクションの抽出システムがおもしろいなと思っていたのですが、あのシステムは今後エウレカから外に出て何かしらに実装されたり……という予定はあったりしますか?
中川:ロゴスアクションのシステムは、いっさい外の世界には持ち出さないですね。
吉田:それを大前提として許可したので(苦笑)。「めちゃくちゃしていいっすか!」と中川が言うので、「絶対に外に持ち出さない、という前提ルールを守るならいいよ」と。ほぼ1人でデータ作成してたよね? あの50種のアクション。
中川:はい。すごく自由に作らせてもらっています。
吉田:深夜にデータリストを確認していて、「よう作るなあ」と感心していました。
――浪漫にあふれたアクションが多くて楽しいですよね。
吉田:あれはやっぱり、中川に『FFXI』のプレイ経験があるからこそ作れるものだと思います。プレイヤーとしての、なんというか“自分たちのクリア方法を発見する楽しさ”があったと思うのです。そういうもののほとんどが、じつは開発チームが想定できてないことが多いんです。
だからこそ、先回りして、「こんなのがあったらおもしろいはず」というのを入れている。こういう思考は、プレイ経験がないと絶対できないことなので……それはディアデム諸島のときはなかったエッセンスでしたね。ディアデム諸島のときは、「MMORPGを知らない自分だからできることがあると思う」という企画立案をされていたんですが、今回は逆で「当時プレイヤーとしてMMORPGにどっぷり浸かっていたからこそ作れるものがある」というものでした。
中川:まさに『FFXI』のプレイ経験を活かしていて。ロゴス・スウィフトも”とんずら“って言われてますけど……。
吉田:狙って作ってるんだよね?(笑)
中川:あれも「どのくらいまでだったらシステム的に移動速度アップを許容できるか」っていうのをプログラマーに頼みに行って、限界のギリギリを攻めています。
――マウントよりも速いという(笑)。
吉田:この島では外で起きないことが起きる……っていうのがいいことだと思います。
中川:既存のジョブアクションとのシナジーもけっこう考えて作っていますよ。占星術師がバフを延長できたりとか、三連魔でロゴス・レイズをしたりとか。きっと楽しいだろうなと思って。
――各ジョブの能力を強化することもできますし、ロールそのものの役割を変えることにも使えますよね。
中川:そこもまさに『FFXI』の経験が生きていて、『FFXI』だとサポートジョブの要素があったと思うんですが、忍者/戦士でタンクしたり、赤魔道士でタンクしたりという遊び方が自分の印象に残っていたし、そういうのを入れたら絶対楽しいだろうな……っていうのはわかっていたので、それを今回入れようかなと。
――それが次のエウレカでさらに発揮される形になるのかなと思っています。
吉田:最後の最後で意図がわかるんじゃないかなと思います(笑)。
――ちなみに、『FFXIV』のバトルコンテンツは、ギミックを処理するために特定の行動をそれぞれがちゃんとやったうえで火力も出すという“詰め”の試行錯誤が楽しいと思っています。対して、フィールドバトルでは最適のスキル回しをし続けるだけになりがちなためやや単調で、狩りを続けていると緊張感に欠けて眠くなる……のではないかと考えているのですが、そのあたりの調整について考えることなどございましたか?
中川:そこは、そういう感想は出るだろうな……っていうのはもちろん予想していました。ただ、エウレカの中で『FFXIV』ならではのゲーム性を作っても、もともとの“自由さ”っていうコンセプトからズレてしまうのと、眠くなるっていうのは“脳死でできる”っていう意味でもありますし、エウレカは本当に疲れているときでも気軽に行けるコンテンツという在り方でいいのかなと。自分も映画見ながらノの民とかやりますけど、そういうふうに遊べるコンテンツがあると「ちょっとログインしてみようかな」っていう気分にもなるので、エウレカっていうコンテンツにとってはそれで正しいのかなと思っています。
――たしかに、目的を定めてプレイするコンテンツの多い『FFXIV』において、“禁断の地 エウレカ”はとりあえず気軽に入ろうと思えますね。
中川:そうですね。そこがエウレカのいいところかなとも思っています。僕も最近うさぎばっかりやっています。上のうさぎはけっこう危険なところに誘導されることが多くて……最初自分はロゴス・ステルスを使ってなかったんですけど、3回くらい死んでから使おうと思うようになりました。が、使って探索してたらステルス見破りの敵に倒されて。「これ置いたの誰だよ……」となることもありますね(笑)。
――ステルス見破りの敵、パゴス編EL35クエストのときも思いましたけど絶妙な場所に配置してありますよね。
中川:あれもモンスター班のスタッフが置いたものです。「やりやがったなコレ」って(笑)。
――敵の感知方式に関してもすごく『FFXI』を感じさせますよね。視覚、聴覚、魔法、生命感知……。
中川:普通に『FFXIV』をやっていると敵の視覚とか聴覚とかってあまり意識することがないので、そこはエウレカの中で意識させようと思っていました。そういったモンスターの感知タイプについてもかなり企画の初期段階で決めていた部分ですね。
吉田:今回追加したものもありますね。『旧FFXIV』の頃から、『FFXI』に近い形で感知の仕組みとタイプはあったんですが、『新生FFXIV』はそういうゲームデザインではないので、積極的には使ってこなかった。でも、パラメータとしてもシステムとしても残してはあったんです。今回エウレカを作るに際してもう少し感知のタイプを増やしておきたいということだったので、これもすぐに許可したもののひとつです。
――魔法感知のエレメンタルなどは『FFXI』プレイヤーにはなじみ深いですが、アネモス編実装直後は知らずに近くでレイズを使って絡まれて……っていう光景をよく見ましたね。それも新鮮なプレイ体験ができた部分だと思います。ちなみに、さきほどクルル関係のクエストは実際には“クエスト”ではない別のシステムで動かしているというお話を聞きましたが、これは実際にはどういった処理をしているのでしょうか。
中川:もう完全にクエストの仕組みとは切り離されていて。エウレカ用にいちから作ってもらったシステムで動かしています。なので既存のクエストにあるような膨大な機能はいっさいなく、新しいシステムのなかでなんとか作っています。
吉田:もともとクエストが持っている機能として、「クエストアイテムを手に入れてそれを誰かに渡し……」などが、基礎システムとして用意されていますが、コンテンツ内ではいっさい動作しないのです。結果、エウレカの疑似クエストシステムは、フラグを管理するところも含めて何もかもゼロから実装したものです。エウレカでのお話が外のクエストと比べてシンプルに進んでいくのはそれが原因だったりもします。
中川:ただ、最後のエウレカではちゃんとサプライズ的なものを用意しているので……ってさっきシナリオチームが言ってました。
吉田:あれはシナリオチームが、「どうしてもやりたい」って言ってきたので……悩んだ部分ではありますが、「ここまでだったらギリギリOKにしよう」と。
――それは、普通にシナリオを進めていくだけで見られるものでしょうか。
中川:ええ、見られますね。
――楽しみです! ちなみに、次のヒュダトス編も概ね開発は進行中ですか?
中川:そうですね、今まさに追い込み中です。
吉田:佳境ですね。
――次はパブリックダンジョン的な要素があるとお聞きしていましたが……。
中川:これどこまで言っちゃっていいんですかね(笑)。
吉田:ざっくりですが……基本的にはこれまでフィールドで楽しめたことは、次のエウレカでもそのまま楽しめます。大多数の方たちはそこまででいいのかな、と。その先さらに特化したパブリックダンジョンと呼んでいる場所があります。難度は相当高いのですが……。
――これまでと同様の基本部分があって、プラスアルファでダンジョンという形なんですね。ということは、中を進んでいくこと自体がけっこう困難な感じになるのでしょうか。
中川:詳しくはまだお伝えできないですが、おそらく今までのエウレカの中では一番“変わった”印象のコンテンツになるかなと思います。
吉田:でも“絶24人レイド”的な印象だよね……。
中川:ですね。……絶まではいかないかもしれません。零式くらいかな(笑)。
吉田:そんな新しいこともやっています(笑)。“ピューロス編の延長として普通に楽しめる”というのは主として置いているので、そこは安心してもらっていいと思います。サブステータスがめちゃくちゃついた武器やら強力なロゴスアクションを使ってガリガリみんなでパブリックフィールドっぽく攻略してもらえればと思いますが、その先に、ありとあらゆる知識とかアクションを駆使しないと踏破できないようなものを締めに用意してあります。
――その“締め”は次のエウレカ内にあるものですよね。ということは、やはり次のヒュダトス編で“禁断の地 エウレカ”はラストと。どんな形になるか、やはり気になりますね。
吉田:最後になりますね。
中川:ストーリーを進めていただければなんとなく想像がつくのではないかと思います(笑)。
吉田:あの広げたストーリー、ちゃんと片づけなきゃいけないからね。
――バル島が舞台となることは吉田さんのほうで初期から決めてらしたとのことでしたが、そこからどういうふうに展開していくかについては早いうちから決まっていたのでしょうか。
吉田:中川のほうからは「『FFXIV』の世界の法則が通用しない。島独自の法則で戦ってもらうコンテンツにしたいので、そういう設定にしておいてほしい」というリクエストが織田(世界設定/メインシナリオライターの織田万里氏)への依頼。僕のほうからは、“舞台はバル島にしてほしい”と、この2つを加味して作られたのが今のシナリオです。
織田から「エーテルが暴走し、属性の力がめちゃくちゃに乱れている。バル島外の常識が通用しないっていうことでいいですか」と回答があり、それで骨子が決まりました。それを受けて、それぞれのエリアで各属性の力が高まっている……という設定が決まり、中川のほうではマップの発注に進みました。
僕としては、無茶ぶりするだけで何もしないのはさすがに申し訳なかったので、物語導入のプロットだけ書いてシナリオチームに渡しました。当時シナリオチームのタスクが詰まっていたので、序盤だけ自分でプロットを書くことになりました。
……クルルは絶対に連れていかざるを得ないから連れて行って、エーテルが乱れているってなるとヤ・シュトラも連れていかないとならないけど、4.Xのメインシナリオの都合上エウレカであまり使っちゃうとメインの進行の妨げになるから序盤だけ登場させて……武器強化については無理やりゲロルトを連れていくからコイツでなんとかしてくれ、と(笑)。そういう導入までは僕からシナリオチームに渡して、「あとは好きに仕上げてね」と。
――そこからわりと物語の展開的には予想外というか、だいぶドラマチックな方向に進みましたね。
中川:そうですね。うまいこと仕上げてくれたなと思っています。
――『FFV』の、前世代の暁の四戦士っぽい4人が出てきたときは(まだシルエットだけですが)「まさか彼らが登場するとは」と驚いたのですが、彼らが出てくることになった流れは……。
吉田:まずクルルは“バル島唯一の生き残り”ということで、絡ませないと物語の回収のしようがないだろうと。で、おじいちゃんが“ガラフ”だっていうのはもう設定ですでに出ていますし……。
――だとしたらもう暁の四戦士を全員出してしまおう、と。
吉田:名前は公開していませんので、あとはみなさんの想像力にお任せですかね。
――4.0で人狼族という種族が登場したおかげでケルガー(?)があの姿で登場できたのかもしれませんね。
吉田:この辺りは偶然をうまく取り込んだのかもしれません。
――ちなみに、案としてはどちらが先だったんでしょうか。エウレカのプロットがあったから人狼族を登場させたのか、人狼族が先に登場したから前世代暁の四戦士を出そうと思ったのか。
吉田:4.0のシナリオのほうがずっと先です。人狼族は開発チーム内のモンスターアイデアコンペに応募されてきた、“ベーシックなウルフマン”が元ネタなのです。ひどい絵でしたね……(笑)
▲過去に“ニコニコ超会議”のイベントで少しだけ露出した“ベーシックなウルフマン”。えもいわれぬインパクトがある。 |
中川:すごく印象に残ってますね。
吉田:定期的にやっているんです。モンスター班とキャラ班主催で、“描きたい人は全員参加していいよ”というコンペです。
――グラフィック班だけでなくて、いろんな人が“こういうの入れたい”って言える場があるんですね。
吉田:シナリオも設定も無視してOKで、デザインと自分の脳内設定で勝負する場所です。
――そこから採用されたもの、けっこうあるのでしょうか?
中川:かなりたくさんありますね。
吉田:コロポックルもそうですね。ナマズオももともとそこからだったような。
中川:アイデアに困ったらいつもそこみて「あ、これいいな」みたいな。
――まだまだ先かもしれませんが、今回の“禁断の地 エウレカ”で得た経験をもとにしたコンテンツがいずれどんな形で出てくるんだろうっていうのは気になりますね。
吉田:中川を筆頭に多くのメンバーががんばって作って、たくさんの人に遊んでもらえていることが、なによりも嬉しいです。これくらい遊んでもらえるのであれば、同じように多人数で、「自由に自分たちで遊びを決めて、『FFXIV』のルールから外れて遊ぶ」というコンテンツはありだと思っています。そのコンセプトを次はどんなコンセプトにして提供するか、それがどんな場所であり、何がおもしろいのかというのは、まだ僕ですら踏み込んで考えていない……そろそろ考えなきゃいけないんでしょうけれど。
そもそもこのタイプの探索コンテンツは、僕が最初に案を出した際はもっと過酷でした。武器防具持ち込み禁止。敵から手に入れた素材で、拠点でギャザクラが武器防具を提供し、その武器防具でしか戦えない……。
――レベルアップごとに新しい武器防具が装備できたり、ですか。それはそれでおもしろそうですね。
吉田:耐久力がなくなって壊れたら、新しいのを作ってもらわないと冒険に出れない(笑)。「シャードかクリスタル2000個と、このNQ品を交換してやるよ」的な取引が生まれたり、ギャザクラが大量に拠点にいて、バトル系の人たちは武器防具を買うためにシャウトをし……という世界。掲示板が作れないからまだ断念してますが、本当はそこまでやってみたいなとは思います。
――エウレカと同じで“『FFXIV』内で、本編とはまったく異なる趣のコンテンツ”としてプレイできたらかなり新鮮そうです。
吉田:探索シリーズの遊びの中に、ギャザクラを組み込んであげたいという想いがあります。ギャザクラは戦う人たちのために武器防具を提供し、戦う人たちが道を切り開いて、安全になった場所でクラフターが制作に臨むというような“拠点が移動していく”みたいなことができればいいなあとは思うんです。でも、もはやそれ別のゲームだよね……っていう。
中川:そうなんですよね。
吉田:でも、いずれそういうことに少しずつでもチャレンジしていければ、また違った味わいの遊びが作れるんじゃないかと思います。『FFXIV』のルールとは異なるゲーム内ゲームですが、『FFXIV』のジョブやクラスシステムを使って新しい遊び場を作るというのはこれからも続けていきたいなとは思います。これからもフィードバックをぜひお願いします。
そして“禁断の地 エウレカ”も次でラストですが、さてどうなるか。楽しさは保証しますが、最後の一手は極限の遊びに近いので、それも含めてフィードバックをいただければ、次に活かしていきたいと思います。
――ある意味、エウレカ最後にして究極の実験場みたいな感じですね。楽しみです!
中川:パブリックダンジョンについて賛否両論は絶対あるだろうなと思っていますが、好きなひとは本当に楽しめると思いますよ。
吉田:開発スタッフ内の反応としては「あっていい」という派が多いです。プログラマーは「本当にこの難度で大丈夫ですか?」って先週末も言ってましたが……。
中川:制作にも時間がかかりましたし、みんなに苦労をかけた分だけやりがいはあると思います。ぜひ、挑戦してみてください。
吉田:中川のアイデアにみんな賛同して一生懸命作ったものです。ぜひ、楽しんでください。
――ありがとうございました!
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