2018年12月4日(火)
あの名作の発売から、5年、10年、20年……。そんな名作への感謝を込めた電撃オンライン独自のお祝い企画として“周年連載”を展開中です。
第86回でお祝いするのは、2008年12月4日にセガ(現セガゲームス)より発売されたWii用ソフト『428 ~封鎖された渋谷で~』です。これまでさまざまな機種に移植されている名作で、今年の9月にはスパイク・チュンソフトからPS4版とWindows版が発売されました。
以下では多くの人から支持されている名作の魅力を紹介していきます。なお、画像はPS4版のものになります。
『428』は『弟切草』、『かまいたちの夜』、『街』、『忌火起草』を生み出したチュンソフトのサウンドノベルの集大成ともいえる作品。渋谷を舞台にしていることや複数のキャラクターの視点で物語が語られること、なにより実写映像を用いていることで『街』と比べられることが多い本作ですが、異なる部分も多い作品です。
さまざまなサウンドノベルを手掛けてきた中村光一さんはこれまでに「海外ドラマの『24』のようなものを作りたかった」と語っています。『街』が5日間のゲームであったことに対して『428』は1日のゲームなので、ひたすらスピーディに展開。また『428』はそれぞれ個々のストーリーでありながら、ひとつの物語に収束していくのもポイント。より、わかりやすくカタルシスを感じる内容になっていますね。
総監督のイシイジロウさんが黒澤明監督の『天国と地獄』からヒントを得たという“大沢 賢治”編や、シナリオライターの北島行徳さんが新聞記者だったころの体験をシナリオに盛り込んだという“御法川 実”編など個々のシナリオごとも個性が光っていておもしろいです。
▲ほぼ家のなかだけでストーリーが進行していく大沢編。斬新なカメラアングルも見どころ。 |
▲北島さんの体験談がストーリーに生かされているとのこと。 |
せっかくですので、ここからは未プレイの方に向けて、本作のストーリーと主人公を簡単に紹介していきましょう。
本作は渋谷署管轄内で起きた誘拐事件をきっかけに物語がスタート。
主人公となるのは事件を捜査する渋谷署の新米刑事、事件に偶然居合わせた“KOK”という渋谷のチームの元ヘッド、事件とは無関係に思える熱血フリーライター、ウイルス研究第一人者、ネコの着ぐるみを着たまま記憶を失った謎の女性の5人。
彼らが渋谷の街を舞台にさまざまな行動を繰り広げるなか、たったひとつのきっかけに過ぎなかった誘拐事件がそれぞれの主人公を巻き込んだ大事件へと発展していくことになります。
渋谷署刑事課所属の新米刑事で、先輩の笹山とともに誘拐事件の身代金受け渡し現場の見張りをしていたところ、犯人が身代金を持って逃走。行く手を追うことになります。
演じるのは天野浩成さん。“Report No.428 渋谷封鎖事件に関する電撃調査報告”のインタビューによると、ボーナスシナリオを書いた奈須きのこさんが天野さんの出演していた『仮面ライダー剣(ブレイド)』にハマっており、そのことがきっかけで加納役に決まったそうです。もしも制作時期が変わっていたら別の方が演じたかと思うと不思議ですね。
個人的にはラストシーンの天野さんの演技なくして『428』のエンディングはないと思っているので、加納は天野さん以外は考えられませんが!
渋谷道玄坂の古い電器屋の長男。渋谷のハチ公前で女性・大沢ひとみが襲われそうになっている現場を目撃して思わず救出。病気の妹と交わした“困っている人がいたら最後まで助ける”という約束を守るために、彼女と逃走劇を続けます。
演じているのは中村悠斗さん。ハーフで端正な顔立ちをしているため、どこか現実離れしている印象を受けます。亜智のシナリオはひとみとのロマンスも見どころですが、中村さんが演じているからこそ嫌味な部分を感じることなく素直に応援できると思っています。
ウィルス研究の第一人者として大手製薬会社の研究所長を務める男。娘のマリアが誘拐されて苦悩していたのですが、さらに身代金の受け渡しに向かったもうひとりの娘・ひとみまで行方知らずになり、絶望の淵に落とされることに。
演じているのはシンガーソングライターの小山卓治さん。イシイジロウさんが氏のファンであったことから大沢役をオファーしたとのこと。大沢編の独特な雰囲気は役者ではない小山さんだからこそ出せたものなのかもしれません。個人的には大沢と梶原のやり取りが最高です!
元・中央新聞社の記者で、現在はフリーライター。旧知であるヘブン出版の社長・頭山のピンチを救うため、まだ完成していない雑誌“噂の大将”の特集記事を1日で作り上げることになります。
演じるのは北上史欧さん。表情豊かな御法川という男を体当たりで演じられています。御法川は空高く舞い上がったり爆発に巻き込まれたりと大変な目にあう男なので、収録も大変だったのではないかと思われます(苦笑)。
北上さん自身も作品への想いは強いらしく、2015年に開催された“マチとシブヤの記憶『街 ~運命の交差点~』『428 ~封鎖された渋谷で~』スペシャルトークイベント”などでは愛を語られています。“ミスター『428』”とお呼びしていいのではないでしょうか!
雑貨屋で偶然見かけたネックレスが目に留まったため、それを手に入れるためにアルバイトを始めた人物。渋谷の駅前で“バーニング・ハンマー”というダイエット飲料を配っていたのですが、着ぐるみが脱げなくなってしまい、そのままの格好で行動することに……。
こちらのタマは“中の人”が誰なのかが少しネタバレになってしまうので、今回は伏せさせていただきます。ただ、その演技にはぜひ注目していただきたいです。個人的にはかなりビックリしました。
また、本作には主人公以外にも多彩なキャラクターが登場。中東の工作員であるカナンや新米フリーライターの磯千晶、女性格闘家の森田ミク、怪しいドリンクを売りつける販売員の柳下や、大食いのチリなど、性別や年齢、職業も異なる人々の人生が複雑に交差していく様子が見どころとなっています。
ゲームシステムに関しても振り返っていきましょう。
まず本作のストーリーラインは“タイムチャート”と呼ばれる時系列順のシナリオチャートで表現されます。プレイヤーは、このタイムチャートを切り替えながら主人公たちの物語を進めていくことになります。
物語を進めていると途中で“KEEP OUT”と表示されるので、他の主人公のシナリオを“JUMP”して続きを進める必要があったり、他の主人公の行動によってバッドエンドになってしまった主人公を正しいルートに導いてあげたりとパズル的なおもしろさがあります。
人生の偶然を神の視点で楽しむという点では『街』を踏襲していますが、前述のとおり本作では1つの事件に物語が収束していくので、後半のドキドキ・ハラハラはすさまじいものに! 北島行徳さんの描く人間ドラマは説得力があり、とても泣けるものになっています……。ぜひ、みなさん自身の目で物語の結末を見てもらいたいです!
また、ボーナスシナリオであるカナン編についても語りたいと思います。というのも「このシナリオは『428』の世界観に合っていないではないか?」という評価を受けていることを目にするからです。
本編で匂わせていた、きな臭い裏世界の出来事をビジュアルノベルという形で描くカナン編。“テロ”や“中東の工作員”というキーワードが出てくるのですが、それを本編の実写でやると生臭くなってしまうと思うんですよね。アニメというファンタジーであれば戦争というテーマをエンターテイメントに落とし込めますし、前向きになるハッピーエンドを描いてもウソっぽくならないのだと思います。
また、サウンドノベルを作ってきたチュンソフトとビジュアルノベルを進化させてきたTYPE-MOONは、それぞれ別のアプローチでノベルゲームを第一線で盛り上げてきたメーカー。本編とボーナスシナリオのストーリーや演出の魅せ方の違いを見比べてみるのもおもしろいです。ぜひ本編同様にボーナスシナリオも楽しんでもらえればと思います。
▲我孫子武丸さんの手がけるシナリオも泣ける内容で必見です。 |
ということで、実写による味わい深い世界観やジェットコースターのように進むストーリー、ノベルゲームでありながらパズル性が高くてやり応えのあるシステムなど、多彩な魅力を持った『428』。今なお愛され続けている作品ですので、ぜひこの機会にプレイしてみてください!
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