2019年1月1日(火)
『Fate[HF]』杉山紀彰さん&川澄綾子さん対談。セイバーオルタの演技について【Fate[HF]特集その3】
2019年1月12日より公開される劇場版『Fate/stay night[Heaven’s Feel]II.lost butterfly』に出演する杉山紀彰さん&川澄綾子さんのインタビューをお届けします。
▲『Fate/stay night[Heaven’s Feel]II.lost butterfly』第2弾キービジュアル。 |
『Fate/stay night[Heaven’s Feel]』は、ヴィジュアルノベルゲーム『Fate/stay night』の3つ目のルート“[Heaven’s Feel](通称・桜ルート)”を全3章で映画化する作品です。衛宮士郎を慕う少女・間桐桜を通じて、聖杯戦争の真実に迫るストーリーが展開されます。
特集企画の第1回では衛宮士郎を演じる杉山さん、第2回では杉山さんと間桐桜を演じる下屋則子さんに対談していただきましたが、第3回では杉山さんとセイバーオルタ役・川澄綾子さんのお話を、対談形式でお届けしていきます。
対談では、セイバーオルタの演技のお話――どのように考えて川澄さんが演じていて、それを見ていた杉山さんはどう感じたのかなども明かしてくれました。ファンにとっては興味深い話になっているかと思います。
▲杉山紀彰さん(写真左)と川澄綾子さん(写真右)。 |
異なる側面・未知の展開が生み出す魅力
――お2人から見たセイバーというキャラクターの印象をお聞かせください。
▲劇場版『Fate/stay night[Heaven’s Feel] I.presage flower』より。 |
杉山さん:『Fate』ルート、『UBW』ルートでは最後まで士郎とともに戦った大切な存在であるセイバーが、『第一章』の終了時点でいきなり自分のサーヴァントではなくなってしまう……『第一章』のネタバレなので抽象的な表現になってしまうんですけど、『第二章』からは大きく関係性が変わっていくことになるんですよね。見ていて複雑な気持ちです。川澄さんはどうですか?
川澄さん:『HF』では、士郎と桜の関係性が冒頭から深く掘り下げられているじゃないですか。それに伴って、セイバーも他のルートとは違い、士郎が桜をとても大切にしているということを察していた気がするんですよね。
「自分は士郎のサーヴァントだから士郎を守るけど、同時に士郎の大切な人である桜も守りたい」と、そう思っていた気がします。『第一章』で「桜のためにも」と言っていましたが、基本的に自分の願いのために戦うセイバーが序盤からそんなセリフを口にするのは新鮮だったので、強く印象に残っています。
杉山さん:戦闘シーンでの凛々しさも見逃せないですよね。序盤のライダーの戦いでも、派手な動きを見せるライダーを一撃で圧倒して、力の差が歴然であることを見せつけていましたし。演出的にもあの見せ方は素敵でした。
▲劇場版『Fate/stay night[Heaven’s Feel] I.presage flower』より。 |
――そんなセイバーを失い、今後の行く末が気になる士郎ですが、彼への印象はいかがでしょうか?
川澄さん:日常シーンも含めて、全体的に他のルートよりも困り顔をしていることが多いなと。どう処理していいかわからない物事や感情の揺れ動きが多くて、士郎本人も戸惑っているような印象を受けました。
特に『第一章』では士郎が目指す正義の味方という理想に対して「それを貫き通せるのか?」という問いかけが要所で暗に描かれているので、それによってずっと葛藤し続けているイメージがあります。セイバーを失ってとぼとぼと家に帰り、家の前で待っていた桜に涙ながらに迎えられて、「これからどうすべきなのか」を突きつけられた士郎の今後が気になりますよね。
杉山さん:『HF』ルートの奥深さや重厚でダークな雰囲気が、士郎の行動の端々でも余すところなく表現されていますよね。
――『第一章』の終盤で少しだけ登場したセイバーオルタについても、詳しく聞かせてください。
川澄さん:今だと、セイバーオルタというキャラクター名だと『Fate/Grand Order(FGO)』のオルタを想像する方も多いかと思いますが、『HF』ルートのオルタは『FGO』のオルタとは成り立ちがそもそも違います。
――電撃オンラインの読者にも、セイバーとセイバーオルタの違いについては興味があるようで、多くの方から同じような質問をいただいていました。
■セイバーとセイバーオルタはどのように演じわけているのでしょうか?(アウラの黒髪さん、静流さん、ユウキ ユキさん他大勢の方から類似の質問をいただきました)
川澄さん: 実は演じわけ、という意識はなく、あくまで基本のセイバーを元に作り上げています。自分が思うHFのセイバーオルタを演じたところ、須藤友徳監督だけでなく奈須きのこさんからもOKをもらえたので、とても安心したことを覚えています。
▲劇場版『Fate/stay night[Heaven’s Feel] I.presage flower』より。 |
杉山さん:アフレコ現場で後ろから見ていたんですけど、1回でスパッと演じられて、しかもそれがすごくしっくりくる。さすがだなと思いますね。
川澄さん:先ほども少しお話ししたように、『HF』ルートと『FGO』とでは成り立ちが違うキャラクターですので、同じオルタと呼ばれていても別のキャラクターとして捉えています。その前提に立つのであれば、(セイバーオルタを)演じるのは10年ぶりなので、とても緊張しました。
『HF』のオルタはわかりやすく“闇落ちしたセイバー”と表現されることが多いですが、正確に言えば闇落ちしているわけじゃないんです。あくまで“セイバーが持っていた別側面が強調されている状態”なので、セイバーと明確な差異はつけないようにしています。この点に関しては、『第一章』の収録前に須藤監督ともお話しをして設定面での確認をとった部分ですね。
杉山さん:根っこのところは変わってないんですよね。
川澄さん:ええ。今後の展開でも、何か悪事を働いているわけではありませんからね(笑)。セイバーは他のルートでも描かれていますが、自分の選定をやり直したい、つまり自分の存在をなかったことにしたいという歪んだ願いを持っています。その歪みがオルタという形として表れただけで、本質は何も変わっていないと解釈しています。
なので、“黒い”や“オルタ”などの言葉に引っ張られずに、セイバーが変容したものだ、ということをどう表現するかが一番難しく、そしてやりがいを感じたところでもあります。
杉山さん:それはあるかもしれませんね。演技をするうえで、わかりやすく声色を低くしたり、「殺す」などの強い言葉を使ったりして二面性を演じ分けるのは、そこまで難しいことではないんです。
でも川澄さんはそうではなくて、何気ない言葉の中で考え方や物腰の違いを表現していて本当に上手いなと思います。セイバーが持ち合わせていた高潔さは失われていなくて、あくまで彼女にとって優先すべきものが変わっただけ、というのが絶妙に感じられるのがすごい。
川澄さん:ありがとうございます!
――『第二章』の公開が迫る中で熱も高まっていますが、今改めて『第一章』を観直すとしたらどこが見どころになると思いますか?
川澄さん:私は真アサシンに注目していただきたいですね。他のルートで一切登場していない『HF』から参戦したサーヴァントで、しかも強大な力を持っているわけでもないのに強力なサーヴァント相手に勝利を積み重ねて、立ち居振る舞いが変化していく。
▲劇場版『Fate/stay night[Heaven’s Feel]II.lost butterfly』ティザートレーラーより。 |
その不気味さがすごく秀逸で、他のルートからガラリと雰囲気が変わる『HF』の世界観を象徴するサーヴァントだと思っています。黒い影を利用する底知れなさ、見た目からもわかるダークな印象、そしてまだまだ謎が多い、劇場版で今後どう描かれていくのが気になるキャラクターですね。
杉山さん:真アサシンは、智謀に長けた一面がすごく丁寧に描かれているキャラクターですよね。ランサーは勘もいいし戦闘能力も高いし、おまけに魔術まで使える強大なサーヴァントじゃないですか。そんなランサーを謀略で倒すところはやっぱりインパクトが強いです。ランサーが高潔で、汚い手を使わないからこそ負けてしまったと考えると、綺麗事だけでは済まない状況であることが、戦闘シーンでも表現されていたのかなと。
▲劇場版『Fate/stay night[Heaven’s Feel] I.presage flower』より。 |
川澄さん:ランサーはすごくいい人でしたよね。セイバーの騎士道精神とはまた違いますけど、絶対に卑怯な手は使わない。高潔な精神の持ち主であるセイバー、そしてランサーが脱落した今後はどうなるのか、知っていても行く末にドキドキしてもらえると思います。
熱量の積み重ねによって広がっていった『Fate』というジャンル
――ここからは、『Fate/stay night』を代表するキャラクターを演じるお2人から見た『Fate』シリーズ全体についての印象を教えてください。
杉山さん:2006年に制作されたアニメで初めて衛宮士郎という役をいただいた時は、正直なところこれほど長く続く作品になるとは思っていませんでした。もちろん作品自体はとても素晴らしいものだと思っていたのですが、最初はとにかくこの素敵な物語を精一杯演じよう、という気持ちでした。
川澄さん:私も12年間何かしらの形で毎年『Fate』シリーズに関わってきましたが、気づけば長い作品になったな、と感慨深いです。ただ、初めてセイバー役に決まった時の反響があまりにも大きかったことは覚えています。
私自身、原作のゲームのことを知らない状態でセイバー役を演じることになったのですが、『Fate/stay night』という作品が、どれほど多くのファンの方から愛され、またどれほど伝説的な作品であるのかということについて、周りの方から熱く語られることが多くてビックリしました。
杉山さん:当時は今ほどネットもポピュラーではありませんでしたからね。作品に対するユーザーの熱量は、一役者だとわかりかねるところもありました。
川澄さん:最初にアニメ化された当時、たくさん取材を受けたんですけど、ライターの方たちの熱量が私たちを上回っていて圧倒されちゃいました。当時の私のもとには台本とTYPE-MOONさんからいただいた資料しかなくて、「セイバーは実はとあるルートでキャスターに可愛い格好をさせられちゃうんですよ」と言われてもわからなくて、「なるほど、そうなんですね……」としか言えなかったことは今でも覚えています。今ならもちろんどのルートのどの場面かわかるんですけどね(笑)。
アニメを多くの方に観ていただけて、フルボイスで収録した『Fate/stay night [Realta Nua]』をたくさんの方に遊んでいただけて、そういたものの積み重ねが今に繋がっているんだろうなと思います。
――どんどんファンが増えて長寿コンテンツとなった『Fate』ですが、演じる上でのプレッシャーなどは感じていますか?
杉山さん:長く続く魅力的な作品で衛宮士郎というキャラクターをやらせていただいていることは光栄ですが、だからと言って「この役は特別だから~」と言ったような気負いはありません。
特に衛宮士郎は「俺が俺が」と前に出ていくキャラではないですし、正義の味方という特異な未来を目指していても自分を特別な存在だとは思っていないので。僕自身も演じる時は特別な意識を持った特別な役だという感じではなく、あくまで自然体で演技をしています。
川澄さん:気が付いたら12年間が経っていたという感じではあるんですけど、ただ私の場合は時間が経てば経つほど難しいなと思うことが増えてきました。
たとえ作品をきちんと見たことがなくても、セイバーというキャラクターは知っているという方が世代を問わず多くて、そういう役を自分が演じていることに対して責任があるのかもしれないと、最近はそう思い始めています。もちろん、最初からそこまで大きくは考えていなかったんですけど、最近は「本当に大きなコンテンツになったんだな」と感じることが増えました……。
昔からたくさんのファンがいた作品ですけど、さまざまな派生作品のおかげですごく裾野が広がっているので、「私がセイバー役です」と言えることの重み、幸せをより感じるようになりましたね。
――ちなみにお2人は、『Fate』シリーズが爆発的に広まったターニングポイントはどこにあると考えていますか?
川澄さん:女性ファンに関して言えば、間違いなく『Fate/Zero』から増えたと思います。イベントに登壇した時に見える風景が、『Fate/Zero』の登場前と登場後でまったく違いました。もちろん『Fate/stay night』のころから女性ファンの方をお見かけしていましたが、『Fate/Zero』の時の女性ファンの多さ、そして熱量は本当にすごかったです。
杉山さん:『Fate/Zero』はカッコいい男キャラはもちろん、オジサマや応援したくなる男性も多かったですからね。
川澄さん:イベントの時の歓声の色が変わったのはハッキリと感じましたよね。「キャーッ!」っていう黄色い声が本当に多くなりました(笑)。
杉山さん:『Fate/Zero』を観た方は登場人物たちのその後を『Fate/stay night』で知ることができて、逆に『Fate/stay night』を観た方は『Fate/Zero』の第四次聖杯戦争で何があったのかがわかる。そういった部分も相乗効果となって爆発的に広まったんじゃないかと思っています。
そうした過去からの積み重ねが今現在の『HF』ルートを描く劇場版に繋がっていると思うので、まだご覧になっていない方にはぜひ今回の劇場版を『第一章』から観ていただきたいです。
――編集部から用意してきた質問は以上ですが、読者からいただいた質問をもうひとつお2人に聞いてみたいと思います。
■セイバーは第四次聖杯戦争と第五次聖杯戦争でさまざまな強敵と戦いますが、誰がもっとも強敵だと思いましたか? 杉山さんには士郎を演じていて感じた第五次聖杯戦争での強敵について聞きたいです。(monoさん、ライダーノシモベさん、他)
川澄さん:私、セイバーを演じているので、セイバーは強いと思っているんですよ! 最優のサーヴァントと呼ばれている通り、セイバーは誰よりも強いんです! よく苦戦しているからセイバーがあまり強くないんじゃないか、みたいな意見を聞くこともあるんですけど、違うんです。必ず何かしら枷があって全力を発揮できていないだけなんです、ということは声を大にして言いたいです!
▲劇場版『Fate/stay night[Heaven’s Feel] I.presage flower』より。 |
杉山さん:はい。おっしゃる通りだと思います(笑)。
川澄さん:その上で、設定的な相性などを抜きにして一番印象に残っているのは第五次のバーサーカーですね。万全の状態であっても勝ちきれるかわからないものがあると思います。
▲劇場版『Fate/stay night[Heaven’s Feel] I.presage flower』より。 |
――杉山さんは、第五次聖杯戦争を振り返ってみて、いかがでしょうか?
杉山さん:そうですね……。一口に強敵と言っても、いろいろな角度での印象があると思うんです。あくまで僕の印象に残っているという意味だと、ランサーですね。「冒頭で何回殺されるんだ!?」って言いたくなるくらい、士郎はランサーに殺されているじゃないですか(笑)。『UBW』ルートではランサーが協力者になりますが、「今は仲よくやろうぜ」と言われても、正直「いやお前なぁ……」って思ってしまいますし(笑)、士郎を演じている身としては苦手意識が強いですね。
▲劇場版『Fate/stay night[Heaven’s Feel] I.presage flower』より。 |
――ありがとうございます! では最後に読者へのメッセージをお願いします。
川澄さん:『第二章』はセイバーが今後どうなるのか、士郎がどのような答えを出すのかといった点だけでなく、『第一章』で仄めかされるだけだった桜の謎も明らかになります。
決して、「明るい気持ちで楽しんでくださいね」と言えるタイプの作品ではありませんが、みにくい部分まで含めて人間の感情を細かく描いた作品なので、観ることで「自分はどうなんだろう?」と自らの心に向き合える作品なのかなと感じています。『HF』は全3章の長い作品ですが、各章に心に訴えかけるような展開やクライマックスがあり、見どころ満載です。ぜひ重厚な物語を楽しんでください。
※杉山さんのメッセージは『Fate/stay night[Heaven’s Feel]II.lost butterfly』特集 第1回後半に掲載されています。
■劇場版『Fate/stay night[Heaven’s Feel] II.lost butterfly』公開情報
【公開日】2019年1月12日全国ロードショー
【公開館数】全国131館
【スタッフ】(敬称略)
原作:奈須きのこ/TYPE-MOON
キャラクター原案:武内崇
監督:須藤友徳
キャラクターデザイン:須藤友徳・碇谷敦・田畑壽之
脚本:桧山彬(ufotable)
美術監督:衛藤功二
撮影監督:寺尾優一
3D監督:西脇一樹
色彩設計:松岡美佳
編集:神野学
音楽:梶浦由記
主題歌:Aimer
制作プロデューサー:近藤光
アニメーション制作:ufotable
配給:アニプレックス
【キャスト】(敬称略)
衛宮士郎:杉山紀彰
間桐桜:下屋則子
間桐慎二:神谷浩史
セイバーオルタ:川澄綾子
遠坂凛:植田佳奈
イリヤスフィール・フォン・アインツベルン:門脇舞以
藤村大河:伊藤美紀
言峰綺礼:中田譲治
間桐臓硯:津嘉山正種
ギルガメッシュ:関智一
ライダー:浅川悠
アーチャー:諏訪部順一
真アサシン:稲田徹
(C)TYPE-MOON・ufotable・FSNPC