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2018年12月20日(木)

【電撃PS】山本正美氏コラム全文掲載。面白いゲームを作るのに必要なものとは?

文:電撃PlayStation

 電撃PSで連載している山本正美氏のコラム『ナナメ上の雲』。ゲームプロデューサーならではの視点で綴られる日常を毎号掲載しています。

『ナナメ上の雲』

 この記事では、電撃PS Vol.669(2018年10月26日発売号)のコラムを全文掲載!

第138回:トムとナムのタイム

 このコラムでも度々書いていますが、僕はこれまで、「ゲームやろうぜ ! 2006」と「PlayStation CAMP!」という2度のクリエイターオーディションを開催してきました。『勇なま。』も『TOKYO JUNGLE』も『rain』も、このとき出会ったメンバーと作ったゲームです。今やみなそれぞれの道を歩み、僕らの選球眼に狂いはなかったんだなと思える活躍ぶりが聞こえてきて、嬉しい限りです。

 その中で出会った一人に、藤井君という男がいました。藤井君は、当時確か20代前半。身長が180センチ以上あるメガネっ子で、見た目のまんま、「飄々と」という形容詞がピッタリな男でした。

 「やろうぜ!」と「CAMP!」では、募集要項としてゲーム業界での経験値はまったくの不問にしていたので、造型師もいれば学校の先生もいたりとカオスな状態だったのですが、藤井君は、若い割にはゲームプランナーとしていくつかのメジャータイトルにも関わっていて、その経験と面接での面白さが決め手になり、満場一致で合格となったのでした。

 合格者は、世代も出身も趣味も何もかもが違います。そんな連中が共同作業をすることになるわけですから、まずはお互いを知る意味で、「合宿」と称した一泊の研修を行いました。自己紹介や企画ジャムみたいなことをやりつつ、夜はやっぱり宴会に。

 藤井君とつらつら話していると、彼は映画がすごく好き、というので、僕も映画が好きですから盛り上がるものの、でもあまりにも観ている本数が多すぎるのでどうも怪しい。

 そんな本数ホントにさばいてんの? と聞くと、「ええ。倍速で観てるんで」とかいうわけですよ(笑)。なんて生き急いでいるヤツだ、と思ったことを憶えています。

 藤井君は、専門学校の仲間と作った『バトルクエスト』というゲームで、2007年日本ゲーム大賞アマチュア部門の大賞を受賞した経歴があります。このゲームは、“なかむらけんた”という少年がノートに描いたいわば“妄想RPG”をプレイヤーが追体験できる、という内容で、ストーリーもマップ移動もバトルもすべてノートに“手描き”された風に描かれていました。

 中でも驚いたのは、たとえば敵からダメージを受けて減っていくHPのバーも、ダメージ分「消しゴムで消される」という表現で徹底させていて、アイデアと力技が合致した素晴らしさに打ちのめされたのです。

 僕はこれを、当時PSPでちゃんとゲームにしたいと思い上長にプレゼンしたのですが、残念ながら成就せず……。しかしその後藤井君は『rain』チームに入り、リードプランナーとして、ディレクターの“操作キャラクターが見えない”という唯一無二のアイデアを見事昇華するなど、活躍してくれたのでした。

 2013年に『rain』が終了後、彼は某大手モバイルコンテンツ会社で仕事をすることになるのですが、その後退職、大阪に拠点を移し、しばらく音信が途絶えてしまうことになります。

 それから1年が経った2014年12月。海外クリエイターが手掛けた、“ノートに手描き”という設定のゲーム情報が公開され始め、それを見た僕は、ノート手描き系では過去に『バトルクエスト』があるよね、という旨のツイートをしました。

 すると2日後、そのツイートを見た藤井君から「大いにこじらせ気味ですが、現在も大阪でバトルクエストを鋭意制作中です!」とメールがきたのです。僕は驚きました。だってゲーム大賞から7年ですよ!

 さらに4年後の今年、『バトルクエスト』は大きくグレードアップされ、『RPGタイム! ~ライトの伝説~』というタイトルとともにBitSummit 2018に出展され、大きな注目を浴びました。そして先日のTOKYO GAME SHOW 2018。彼らは念願のブース出展を果たしました。

『ナナメ上の雲』

 藤井トム君(右)と、壮大なボリュームの手描き絵を愛で積み上げる、パートナーの南場ナムさん(左)。『RPGタイム! ~ライトの伝説~』は、基本的にこの2人で作っているゲームです。

 「リリースは来年になりそうです」。ということは、ゲーム大賞から12年。スポンサーがいるわけじゃない。どちらかが出稼ぎに行っている間どちらかが頑張る、というスタイルでずっとずっとエネルギーを注ぎ込んできたそんな彼らのゲームは、TGSでインディ部門のメディア賞を総ナメにしました。

 思いがあっても、会社の仕組みや上司の理解、お金や人、何かが足りないから面白いゲームが作れない。そんな欺瞞は、彼らによって暴かれようとしています。彼らは、面白いゲームを作る以上に、たくさんのことを証明しつつあるのです。

「『rain』でUnity使ってたおかげっすね~」。数え切れないほどの苦労を苦労ともせず、相変わらず飄々と語る藤井君が、身長2メートルを越えるくらいデカく見えたのでした。

ソニー・インタラクティブエンタテインメント JAPANスタジオ
エグゼクティブプロデューサー

山本正美
『ナナメ上の雲』

 ソニー・インタラクティブエンタテインメント JAPANスタジオ 部長兼シニア・プロデューサー。PS CAMP!で『勇なま。』『TOKYO JUNGLE』、外部制作部長として『ソウル・サクリファイス』『Bloodborne』などを手掛ける。現在、『V!勇者のくせになまいきだR』を絶賛制作中。公式生放送『Jスタとあそぼう!』にも出演中。

 Twitterアカウント:山本正美(@camp_masami)

データ

▼『電撃PlayStaton Vol.671』
■プロデュース:アスキー・メディアワークス
■発行:株式会社KADOKAWA
■発売日:2018年12月28日
■定価:880円+税
 
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