2019年1月18日(金)
『ジャッジアイズ』インタビュー。屈指の表現力でもなお「目指すところからまだまだ」と語る開発者の熱意
セガゲームスから発売中のPS4用ソフト『JUDGE EYES(ジャッジアイズ):死神の遺言』について、本作を開発したクリエイターにインタビューを行った。
本作は、セガゲームス・龍が如くスタジオが手掛ける新作タイトル。俳優・木村拓哉さんが主人公の八神隆之を演じることで大きな話題を呼び、そのゲーム内容やプレイ体験が現実とネットを賑わせている。
時間をいただいたのは、開発のキーマンであるディレクター・吉田幸司氏と企画統括・城崎雅夫氏のお2人。ゲームデザインをはじめ、イベントシーンの演出に対する熱い思い、サイドケースの誕生秘話など、本作を開発するうえでのこだわりや遊び心などを多岐に渡って伺っている。
▲左が吉田氏で、右が城崎氏。 |
既に『ジャッジアイズ』をプレイしている人だけでなく、本作に興味を持っている人はぜひインタビューの模様に目を通してみてほしい。なお、収録日は2018年12月21日で、以下の文中は敬称略。
2人はどんなゲームを作ってきたのか
――まずは、お2人が最初にかかわった龍が如くスタジオの作品など、これまでに携わったゲームをお聞かせください。
吉田:実は2人とも、龍が如くスタジオの作品には『龍が如く 見参!』から入ってきたんですよね。ただ僕はその前からセガにいまして、『スーパーモンキーボール』シリーズを開発してから、『龍が如く』のチームに合流しました。
――そうなんですね。『見参!』以降はどんな作品に?
吉田:『3』『4』『OF THE END』『5』とかかわって、ずっと『龍が如く』シリーズを開発しています。チーフプロデューサーの横山昌義の下でメインストーリーの脚本にかかわっていたり、サブストーリーやキャバクラのミニゲームを作っていたりしました。
『龍が如く0 誓いの場所』の時にメインプランナー、『龍が如く 極』でディレクターを担当して、その後に『ジャッジアイズ』に携わることになりました。
――城崎さんはいかがですか?
城崎:僕は入社してすぐに『見参!』に携わった後、『3』の開発にも参加して両方ともバトル関連を担当していました。あとは『クロヒョウ 龍が如く新章』の2作と『龍が如くモバイル for GREE』に携わっています。『クロヒョウ』の時の仕事は……1人メインプランナーみたいな感じでしたね(笑)。
――え、1人メインプランナーですか?
城崎:『クロヒョウ』はシンソフィアさまが開発の中心だったので、セガのプランナーは1人だったんですね。それで自分が、サブストーリーを書いたりキャバクラの部分を作ったり、いろいろやっています。『龍モバ』はストーリーのとりまとめをしたり、イベントを考えたりしていました。
『クロヒョウ』と『龍モバ』は開発時期が被っているので、同時に担当していました。その他には『サカつく6』やサンリオさんのキャラクターを使ったパズルゲームなどもやっています。
――スマホ用の『サンリオキャラクターズ ファンタジーシアター』はディレクターを担当されていましたよね。
城崎:あのタイトルは途中からプロデューサーも担当してP/D兼任でした。あの作品の仕事が終わってから『ジャッジアイズ』の開発に参加した流れです。
――『5』以降の龍が如くスタジオ作品には、スタッフロールに城崎さんのお名前が載っているタイトルもあったと思うのですが……。
城崎:『5』は究極闘技、『6』は草野球にかかわっています。
吉田:ああ、野球大好きだもんね。
城崎:野球をやっていたので(笑)。
主人公が桐生でなくなっただけにはしない! 『ジャッジアイズ』を起ち上げるまで
――『ジャッジアイズ』は名越総合監督がTVドラマ用に作ったプロットを原案にして起ち上がったプロジェクトとのことですが、お2人が本作の開発に参加することになった経緯を教えてください。
吉田:『龍が如く』と違う新作を立ち上げた主旨は、スタジオの次の柱になるタイトルを生み出そうというのがまずあったんですね。それで、『龍が如く0』の開発が終わった後に、細川(一毅氏。『0』のディレクターで、本作ではプロデューサーを務める)が何本も企画を練っていたんです。
当然、その段階では『ジャッジアイズ』とは違う内容の企画を含めてたくさんアイデアがありました。ただ、企画の1本に弁護士を主人公にしたものがあって、その企画と名越の温めていたシナリオが合致しそうだという話になって、さらにその企画を練っていったところ今の『ジャッジアイズ』の企画が固まって、正式に開発がスタートしたんです。
そのため、TVドラマ用のプロットをゲーム化したと思われると少し誤解があって、企画として重視していたポイントは、“『龍が如く』の次の柱になるタイトルを作る”というところでした。
――なるほど。そこに吉田さんはどういった形でかかわっていくのでしょう?
吉田:細川が企画を練っている裏で、僕は『極』などの開発をしていたので、それが終わったタイミングで合流し、本格的にゲームの中身を詰めていくことになりました。あと「龍が如くスタジオ」の制作スタイルとしては、脚本はゲームを作り始める前に完成していないとだめなので、そこは古田(剛志氏)が担当しました。
最初のうちは、古田が脚本を書き、細川と私が企画を練っていきました。しばらく3人だったところに城崎が入って、彼にゲームの細かいところまで練ってもらった流れですね。(城崎氏に向かって)どのくらい仕様(※ゲームの設計図のようなもの)を書いた?
城崎:いやいや全然書いてないですよ。
吉田:なぜそこで謙遜する(笑)。
城崎:あははは(笑)。僕は、先ほど話したパズルゲームの運営が終わる1週間ぐらい前に、名越の部屋に突然呼ばれたんですね。そこで「『ジャッジアイズ』をこれから作るからよろしく」と言われて、そのまま飲みに連れて行かれました(笑)。その時は、『ジャッジアイズ』の企画について夜通し語ってもらった記憶があります。
本当に突然の指名だったので驚きましたね。それまでは『ジャッジアイズ』にかかわることをまったく想像していなくて……運営タイトルで休みが全然なかったので、少しゆっくりしてから次のゲームを作ろうと思って、新しい企画を考えるつもりでいました。
――その時はどんな心境でしたか。
城崎:本当に「次は何をやろうかな?」とは思っていたので、まずは次のタイトルが決まってよかったなと(笑)。僕は龍が如くスタジオの中でも据え置き機でないタイトルの担当が多かったので、久しぶりに大型のタイトルに深くかかわってゲームらしいゲームを作れるなあと感じていました。
――吉田さんはどのようなお気持ちで『ジャッジアイズ』の制作に臨みましたか?
吉田:『龍が如く』が10周年を迎えたあたりのタイミングで、IPとして一回りしていると感じていたんですね。もともと“ゲームに飽いた大人たちへ”というコンセプトで作って、その思いを抱えたお客さんがたくさん入ってきてくれました。けれども、今度はその方たちが『龍が如く』に飽き始めていると感じていましたし、作る側も違うことがしたいと思い始めていたんです。
――名越総合監督もイベントなどで同様のことを話していましたね。
吉田:はい。特に我々のような企画職はアイデアを出していく仕事なものですから、全然違う題材に取りかかったほうがみんな乗り気で、ワイワイと活発に企画も出るんですね。すでにゲーム的な枠が決まったものを流れ作業で作り始めてしまうと、それは開発的にも健全ではないと思うので。
だから新規タイトルに取り組むことは、会社にとっても、自分たちクリエイターにとっても、お客さんにとっても望ましいことだと思いました。だから、「これは絶対にやってやるぞ」と意気込んでいました。
その反面、ゲーム単品としておもしろいだけでは足りないと分かっていたんですね。主人公の魅力や存在感が桐生一馬に並ぶだけじゃなくて超えていかないといけない、これから10年の柱になるようなキャラクターでないといけないと思っていたので、そこが一番の頭の悩ませどころでした。
――では主人公のキャラクターを作り上げることには相当苦心されたのでしょうか?
吉田:そうなんですけど、キャラクターというのは単体で作るものではなく、お話ありきだと思うんですね。
ただしそれは、主人公がどういう事件に絡んで、どんな言葉を発し、どのように周囲の人を動かし、ドラマがどんな風に転がっていくのかという意味だけではありません。ゲームである以上、プレイヤーが主人公を操作して得られる体験も重要になるわけです。
――なるほど。ごもっともです。
吉田:例えば、ゲームプレイ的に拳の力で解決するキャラクターでは、結局は「見た目が桐生じゃなくなっただけ」となってしまいます。それであれば、『龍が如く』で秋山や冴島といった別の主人公を立てていたのとまったく同じことになってしまうんですね。
だから外見やバックボーンの違いだけでなく、ゲームプレイそのものを桐生一馬からガラッと変える必要がありました。むしろ、そこが主人公を作るうえで一番重要だと考えて、今回は調査アクションをふんだんに盛り込むゲームプレイにしようと企画して、ゲームを作り始めています。
そのため“元弁護士の探偵”という主人公の背景は、一番最初の企画書からありますが、そこはゲームプレイも含めた設定になっているので、まったくブレてないんですよ。
物語とゲーム体験はセットで考える
――『ジャッジアイズ』のゲームデザインは探偵としての遊びの部分をキモにして、練り上げていったということでしょうか?
吉田:ゲームデザインもストーリーとセットで考えています。どんなストーリーが背景にあって、どんなシチュエーションでゲームプレイをしているのか、そのユーザーの体験の部分までセットで考えないと、遊んだ時に“探偵らしさ”のある感覚を得られないんですね。
例えば、皆さんが探偵らしいものとしてパッと思いつく尾行や写真撮影など、そうしたゲームシステムは『ジャッジアイズ』に入っています。ですが順序としては、「お話の中のこの場面を楽しむには、こういう遊びを体験できることが必要だね」といった風に、ゲームとして楽しめるシチュエーションを、ゲームシステムの前に考えていくんですよ。
――なるほど。『ジャッジアイズ』は複数の調査アクションを絡めたシチュエーションを体験できるので、そこに本作ならではのおもしろさを感じますね。
吉田:そこは我々も作りながら慣れていった感じです。シチュエーションを先に考えてゲームを企画していくと、これは既存のシステムではできないから新しいシステムを作ろうという話になって、どんどんシステムを足していくんですね。
城崎:サーチモードなんかは最たるもので、最初は写真に対して行う2Dのものしかなかったんですよ。
吉田:最初は松金組の事務所に盗聴器を仕掛けるところも2Dだったよね?
城崎:そうですね。でもプレイヤーは立体的な場所も調べたいだろうという話になって、アクティブサーチモードができました。尾行対象を特定する尾行ターゲットサーチモードも、「尾行に絡む遊びとして入れたら絶対おもしろいよね」となって追加しましたね。
使っている技術自体はそんなに変わらないんですけども、UIだったり実装を担当しているプランナーだったりの技術は、後から増えていったと思います。作っているうちに「絶対こうしたほうがいいのにな」と思うところがあると、みんな頑張ってしまうので、気がついたらすごく増えたという感じです(笑)。
――技術的な制約などを考慮して、ゲームシステムを先に考えるわけではないのですね。
吉田:システムだけを先に作ってしまうと、例えばこの尾行は成立するけどこっちの尾行は成立しない、みたいな話がどんどん出てきて、遊びの可能性をどんどん狭めていくんですね。
まずは「こんなことおもしろくない?」と考えて、他の人もおもしろいと感じれば、それを実現するためにはどうしようかと考えていきます。「こんなことおもしろくない?」の部分を考えるのは、城崎が得意ですから。
城崎:いや、僕は吉田さんの言うとおりにやっているだけですね。
吉田:俺は城崎が考えてくれたものにOKを出しているだけだよ(笑)。
――(笑)。では、ゲームプレイに足りないシステムがあれば作ってもらい、新しいシステムが完成するとそれを使ったシチュエーションも新たに生まれるという感じでしょうか?
吉田:それが理想だとは思うんですけど、ディレクターとしては、新しいゲームシステムができたので、「それを使ってこういうことも体験できたらおもしろいよね」という風に、ストーリーの後乗せみたいなことはあまりしないようにしています。
本来は、最初にお話が完成したらそれをゲームに落とし込んで終わりなので、後から新しいシチュエーションを追加するのは必要のない工程なんですね。ただ……サイドケースに関しては担当者がかなり粘って頑張ってくれたので、最後のほうはそういうことも結構ありました。
おもしろさを数値化するゲームデザイン
――『ジャッジアイズ』は中だるみを感じるところが一切なかったと感じました。1章から最後まで、ずっと濃い内容を体験できました。
吉田:それについては、ストーリーの盛り上がる点や調査アクションの入る場面を全部数値化して、プレイヤーがつねに何かしらの体験を得て、始まりから終わりまでおもしろさをキープできるようにゲーム全体をデザインしたことが大きいと思います。
数値化をすることで、ストーリーで盛り上がる場面でなく、そこに何も調査アクションが入っていないというポイントが見つかれば、きっとプレイヤーが退屈するに違いないと考え、プレイヤーのテンションを上げるために新しい遊びを入れていくわけです。
――なるほど。プレイスポットやサイドケースなどプレイヤーが自由に遊べる部分は、今の数値化のお話と相反する要素にもなりでそうですが、どうされたのでしょうか。
吉田:寄り道については考えず、メインストーリーだけ追いかける場合を想定して、その数値化を行いました。それはなぜかというと、寄り道まで見越してプレイヤーがおもしろさを感じるピークを考えてしまうと、本編だけを追った時にスカスカになってしまうんですね。
『龍が如く』シリーズで、本編のみを追ってエンディングを見てから、寄り道はプレミアムアドベンチャーで楽しむ方はたくさんいらしたので、『ジャッジアイズ』本編だけを遊んでもしっかりおもしろくなるように意識しました。
――1章は物語とゲームの導入としての役割を果たしながら内容が濃く、ゲームの入り口としての完成度がすごく高いと感じました。1章を作る時に、特にこだわった部分はどこでしょうか?
吉田:まずオープニングムービーが始まる前の部分は、そこだけでシチュエーションが成立してゲームに引き込まれるように、『ジャッジアイズ』のウリである調査アクションを複数盛り込むことを考え、かなり凝縮されたシーンを作りました。
1章全体については、よくTVドラマで初回拡大版みたいなものがありますが、ああした形をイメージして、1章の中で1つの事件が完結するように構成したいと思ったんです。調査アクションについても、オープニングの手前に入れられなかったものを入れる形で、シチュエーションを作りました。
可能であれば、2章以降も1章につき1つの事件が完結し、一通りの調査アクションを盛り込んだシチュエーションを入れたかったのですが……第1章を作った時点で、これはとんでもないボリュームになるなと(笑)。スケジュール的に断念して、2章以降は先が気になる展開で毎章を終え、柱となるストーリーを楽しめることを第1に、流れるような展開にしていきました。なので1章の完成度が高いと仰っていただいたのは狙い通りですね。
――なるほど。結果的には物量の問題とのことですが、探偵モノはゲーム構成が同じ章を繰り返す作品が多いので、個人的には全体の物語に沿って複雑な展開とシチュエーションを体験できるのが『ジャッジアイズ』のおもしろいところだと感じました。
吉田:壮大な1つのストーリーが柱にあって、なおかつ松金組のお金の事件など、いろいろな事件が複雑に絡み合って、最終章まで引っ張れました。そういうところがよかったのかなと。当然、1章から伏線が張られていますし。
自然に事件と事件が絡んだ複雑なプロットなので、そこは我々が振り返ってもビックリしましたね(笑)。ゲームを進めてからケースファイルを見ると、実はこんなにたくさんの事件があったんだと驚くかもしれません。
プレイヤーが考える要素を作る
――バトルシーン以外でも能動的にかかわれる場面が多いためか、本作はプレイと物語の一体感が強いと思いました。
吉田:本格的なサスペンスほど事件の謎を解くことを難しくはしていないのですが、物語の部分になった途端、○ボタンを押して読み物として進めるのではなく、ほんの少しだけユーザーに考える時間を与えるものにしたいと思いました。
――考える時間ですか。
吉田:そうですね。この“プレイヤーが考える”という部分は謎解きのところだけではなく、例えば尾行などでもそうなんですね。尾行対象が振り返ったり立ち止まったりして見つかりそうになった時の緊張感がありつつも、相手のさまざまな行動を見越してどう動いたらいいのか、見つからずに済む方法、振り切られずに済む方法をプレイヤーが自然と考えるようなゲームになるように作りました。
ただ、本当に“ちょっと”なんですね。それこそ難しくしすぎないというのが大事で、例えば鍵束から正解の鍵を選ぶ場面がありますが、あれくらいの“間違ってもいいし、ちょっとだけ考えて正解できるとうれしい”というさじ加減を心がけました。
――考える要素でいうと、基本的にはマップと“TO DO”でどこに行って何をすればいいか誘導されますが、たまにそれが曖昧で解決方法を自分で考えるケースもありますよね。あれも考える要素を楽しめるようにでしょうか?
吉田:そうですね。当初はもっと全体的にTO DOには情報が出なかったんですけれども、「ノーヒントだとちょっと難しすぎる」という意見がチーム内から寄せられたところは、ヒントを強めていきました。
TO DOに関しては、つねに画面の右上に何か出ていれば、それをきっかけに考えてゲームを進められますし、まったく何をすればいいか迷うことだけはないようにしようと意識しています。
――何か遊びとなる要素、コンテンツを作るうえで難しすぎないようにバランスを詰めていくのは、城崎さんも強く意識するところなのでしょうか?
城崎:あまり突拍子もない解決方法を提示すると、誰も思いつかずにプレイヤーのストレスがたまるので、それは避けるようにしています。ゲームの仕組みやストーリー以前に、「普通の人だったらこういう課題に直面した時、こういう風に解決するよね」ということを意識しながら、プレイヤーが体験するシチュエーションを作りましたね。
――ちなみにアクションの調整で、この調査アクションは難産だったみたいなものはありますか?
城崎:尾行とスクープミッションは、わりと苦労したほうですね。そもそも尾行という行為自体が、もし現実世界でやるとしたら別に楽しくないじゃないですか。
――おそらく忍耐の連続でゲーム的なおもしろさとは真逆の体験になりそうですね。
城崎:なので一時期は、もう少しゲームに寄せてQTEみたいなものを入れて、成功すればご褒美として派手な絵が見られる……というようなアイデアもあったんですね。ただ名越の意向が「“リアルな尾行”をゲームとして実現したい」ということだったので、ゲーム的な盛り上がりは少し控えめにしています。あくまで尾行する側とされる側の関係性を描くだけでゲームにするところが、最後まで苦労しました。
――特に苦労したのはどのようなところですか?
城崎:街のどのルートを通るかでもだいぶ変わるので、その最適解を見つけるのが、ほんとトライアンドエラーをするしかなかったですね。本当に作って遊んでの繰り返しで、「これでどうかな?」と思うものができたら名越に持っていって、そうしたら「全然ダメ」と言われて……みたいなことを繰り返しました。
調整にかなり時間がかかりましたけど、なんとか最後のギリギリで形にできたという感じです。あの作業はもうやりたくないですね(苦笑)。
――開発中は、班を超えたミーティングなども結構行われたのでしょうか?
城崎:企画職だと大きく分けてシナリオ班、アドベンチャー班、バトル班があって、それぞれの班で打ち合わせは重ねていました。アドベンチャー班でバトルが必要になったからバトル班に発注したり、その逆も然りですね。そこは担当者間でいいように進めていたと思います。
ゲーム内にちりばめられた遊び心
――3Dマップをサーチしている時、猫がいますがあれはどなたかの趣味なのですか?
吉田:(黙って城崎さんのほうに手を向ける)
城崎:そうですね、猫か犬かで言ったら猫派ですね。あと最近、犬派と猫派の比率でいうと猫のほうが勝ったという事実があるので、そういう意味でも猫を入れると喜んでくれる方が多いかなと。あと名越も猫が大好きですから(笑)。
――そうなんですね(笑)。
城崎:『龍が如く』シリーズとは違う切り口のゲームで、サーチモードはその最たるものだと思いますから、ただメインシーケンスを進めるだけでなく、より詳しく調べてくれる人を褒めてあげることをしたかったんですね。
それと猫のCGモデルであれば『龍が如く』シリーズにたくさんあるので、開発スケジュールにしても比較的実現可能な範囲だった。なら遊びとして入れてみましょうか、と猫を置くようにしました。
SNSなどで猫探しについてつぶやいている方が意外といるので、いい悪いは置いておいて、話題にはなってくれているのかなって。本当はもっと、ああいうお遊び的な要素は入れたかったんですけどね。
――メインはお話が重いので、遊び心を感じる要素がところどころにあると、肩の力が抜ける瞬間があっていいですよね。
吉田:そうですね。探偵といえば猫探しというイメージもありますし。(城崎氏のほうを向いて)そう言えば『クロヒョウ』にも猫探しがあったよね?
城崎:『クロヒョウ』では、最終的に101匹の猫を探すサブストーリーを入れました。『クロヒョウ』で猫探しが好評だったので、入れたのも理由としてあります。自分にとっては、龍が如くスタジオは“猫”と“野球”なんで(笑)。本編には全然関係ないんですけど、なんか見つけるとうれしいじゃないですか。
――そうですよね。見つけると和みますし、気持ち的に見つけるまでサーチモードを終えられないというか(笑)。
城崎:最初、猫はいるだけで鳴かなかったんですよ。でも鳴いたほうが見つけたい気持ちになるよねって言って、鳴かせたらちょうどハマりましたね。ちょっと鳴き声のボリュームが大きいかなとは思っているのですけど(笑)。
吉田:でも鳴き声を入れた当初は、距離によって音量が変わるから、近づくとすごいうるさかったよね?
城崎:そうですね、近づくほど大きくなりました。
吉田:逆に建物内をサーチしている時に外の猫の鳴き声は聞こえないし……それなら一律でいいでしょと調整した記憶がありますね。
――遊び心というと、「木村拓哉さんを操作してこんな事ができる!」ということを、楽しんでいる方が多いです。プレイヤーがそうした部分を楽しめるように、こだわったところはどこですか?
城崎:メインがすごくしっかりしたお話で洒落を挟む余地がないので、それとコントラストをつける意味でも、サイドケースやフレンドイベントはふざけようと思いました。ただ、それは“木村拓哉さんが主人公役だから”ではなく、最初からそう作っていましたね。
そういうネタっぽいサイドケースで言うと、変態三銃士のエピソードなんかはまさにそうで。あれは開発の序盤も序盤というころからネタを出していて、最初は変態四天王だったんですね。ただ、「三銃士にして、さらにその上にいるほうがおもしろくない?」なんて話しながら、みんなでワイワイとシナリオを作っていました。
吉田:まだその時は主人公がオリジナルキャラだったよね?
城崎:そうですね。だから単純に、サイドケースやフレンドイベントは笑える話を多めにしようと作ったのが始まりですね。そうした話も基本的には、神室町で起きそうな変なことを念頭に置きました。それと、なるべく普通の探偵らしい仕事の感じで話が始まって、事件を調べていくと「んなアホな」と笑えるような展開に転がるよう作っています。
――サイドケースをプレイしていると、話がだんだんとおかしなほうに転がってニヤニヤすることが多かったです。そのうち新しい依頼を受けると、オチに期待してしまうというか(笑)。
城崎:『龍が如く』シリーズ自体、もともと笑えるサブストーリーが多いじゃないですか。開発にその血は当然入っていますし、木村拓哉さんという確固たる柱になる方がキャスティングされたことで、プレイヤーさんに喜んでもらえるいい化学反応が起きたと思っています。
――結果的にプレイヤーの方も木村さんを操作して「まさかこんなことが起きる」という意外性の部分を楽しんでいる方は多いですよね。
城崎:ただ、プレイヤーの皆さんが木村さんを操作してどんなことを楽しめるかは、ゲームならではの遊び心も期待されるだろうとは思ったので、キャスティングが決まった後にできる限りのことはしました。パイロットの服装を着せるとか、金色のジャージの背中に青い稲妻のマークを入れるとか。
――プレイしていてクスッとしたところです(笑)。ちなみに、そうした小ネタとは別に、本編の人妻ヘルス“こんばんワイフ”に八神が行くシーンは、とても盛り上がっていますよね。
吉田:実は、あのシーンがここまで話題になるとは思っていなかったんですね。僕はもう何年も『ジャッジアイズ』を作り続けてきたから、八神=神室町の探偵となっていたため、神室町の探偵が足を運んでもおかしくない場所だと思っていました。逆にユーザーさんの反応を見た時に、「あ、木村さんだと行かないか」と気づかされたのはあります。開発を続けて感覚が麻痺しているのかもしれません(笑)。
――少し話は変わりますが、個人的にはカジノの手前にある釣り堀で、水の中にちゃんと入れるのがいいなと思いました。
吉田:あの場所は、敵を釣り堀の中に投げ込むと、鼻をカメに噛まれるという専用のEXアクションがあるんですよ。そのEXアクションの別バリエーションで、普通釣り堀におらんだろ(笑)というような魚に襲われるものがあります。
そもそも釣り堀でバトルするのが本編だと2章だけで、後はエンカウントの敵をあそこまで引き込むしかないので、バトルの頻度が少ないんですけども、ぜひレアEXアクションを見てほしいです。
さおりさんの操作パートはどのようにして生まれたか
――キャラクターの話になるのですが、海藤の存在がムードメーカーになって、シリアスな展開の中にふと笑える瞬間があり、いい味を出していると思います。主人公の相棒を出す構想は、最初の段階からあったのでしょうか?
吉田:はい、もちろんそうですね。彼に限らず、本編におけるほとんどのキャラクターは最初のプロットからいたと思います。源田もそうですし、さおりも星野もいました。名前が変わったというキャラクターもほぼいないですね。
今回は、もしかしたら同スタジオでは初かもしれないのですけど、シナリオが完全に完成しきった後にモーションキャプチャーや声の収録を始めたくらい。主要なキャラクターについて、開発中に後から何かを変えたという記憶がないですね。
強いて言えば、本当の初期のころに羽村の部下である尾崎とケンゴが同一キャラクターだったけれども分かれたとか、黒岩の部下の刑事の桜庭がいなかったとか、そのくらいです。
――『ジャッジアイズ』は、さまざまな立場・職業の人が登場し、必ずしも腕力に限らない戦い方、活躍を見せてくれます。そうしたキャラクターのシーンでこだわった点などはありますか?
吉田:シナリオは名越と古田の2名で大体やっているので、こちらからリクエストしたことはあまりないですね。どちらかというと、サイドケースのネタとして、本編で描かれないメインキャラクターの人物像を掘り下げることをしたかったので、過去や意外な一面がわかるような話をやりました。
例えば、海藤の昔の相棒の話とか、星野とさおりがケーキのことで言い争う話とか。サイドケースの中でも、ああいった話は、こちらから古田にやりたいという話をして監修してもらいました。
――本編のさおりさんを操作するパートは、視点がガラッと変わってとても楽しかったです。あのパートはどのような経緯で生まれたのでしょうか?
吉田:あれは、最初からキャラクターが出揃っていたというのもありますね。名越の中に、さおりに何をさせたいかというのがあって、彼女のルックスも最初の設定からああだったんです。普段から服装には無頓着で、前髪で目が隠れてて、あまり名越が描きそうなキャラクターには思えなかったんですけども、キャラクターのネーミング含めて、初めから事細かな設定が書いてありました。
それで探偵モノだから、女性が変装して活躍するシーンもあるよねっていう話で、その名越の願いがちょうど7章にハマったという感じです。
――ということは、もともとは名越監督の願望があって、開発の皆さんがさおりさんを操作するパートを形にしたということなんですね。
吉田:そうですね。分かる人には分かると思いますが、ちょうど『0』や『極2』の水商売アイランドのシステムがあったので、あれを使えばさおりを変身させて、ドレスアップを楽しめるだろうと(笑)。
そうして作っているうちにみんな気分が乗ってきて、さおりだから選択肢のウインドウカラーは水色じゃなくてピンクにしようなど、当初考えていなかった部分もアイデアが出て、今の形ができあがりました。
――あのパートではさおりさんが視点人物になることで、普段はわからないさおりさんの思考がわかって、それがものすごくおもしろいです。あの部分のテキストは、どなたが書いたのでしょうか?
吉田:12章は古田ですが、7章のキャバクラで潜入調査をしている場面は僕ですね。ル・マルシェの試着室で八神と会話するシーンなどはもとから脚本にあったのですが、あそこで着替え終わってからキャバ嬢になっている間の話は古田から頼まれたので、すべて僕が書きました。なので、あえて振り切っています(笑)。
――ずっと八神を操作している中で、思いも寄らぬ操作キャラの交代とさおり視点の会話を楽しめるので、ゲーム的にも素晴らしいアクセントだと思いました。
吉田:あれは、『龍が如く』は桐生一馬が主人公として1本立っていたというのがあるので、『ジャッジアイズ』ではそれとの違いを出すために、いろいろとおもしろいことをやりたかったというのもあったんですね。
今回、5章で過去に話が戻るんですが、あれも僕個人的にはすごく気に入っているところなんですね。
――八神の過去の物語を操作して体験できるとは思わなかったので驚きました。
吉田:過去を描くということについては、例えば『龍が如く』の1作目で10年前のシーンを描くところから始まるように、映像のシーンとして過去を描くことは、『龍が如く』でもあるにはあったんですよ。
でも本編を進めていく間に、『ジャッジアイズ』の5章のようなボリュームでプレイアブルなものが入ることはなかった。センター内のシーンだけで気づいてくれた方も多いかもしれませんが、そこで八神と新谷が出会う人物が、実は既にプレイヤーも知っている人物であることなど、ストーリー的な演出も含めてすごく気に入っています。
――サブキャラクターにもドラマがあって魅力的な登場人物が多いですが、開発内で人気のキャラクターはいますか?
吉田:共礼会の村瀬が人気で、みんな悪ノリのように村瀬をどうにかしようとしている時期がありましたね。今にして考えると「え?」と思うのですが、11章の後にメカ村瀬になって彼を再登場させると楽しいんじゃないかみたいなアイデアが2、3回出ては消えたので(笑)。
城崎:情報屋の九十九は思った以上に活躍しましたね。最初はいなかったので、そんなに活躍させるつもりもなかったんですけど、彼はキャラクターとして便利なんですよね。なのでいろいろなところで顔を出しますが、気がついたらフレンドイベントの導入にも使われていました。彼は、最初の構想からは跳ねたキャラクターの1人だと思います。
――便利なキャラクターというのは何となくわかります(笑)。個性としても印象的なところがありますし。
城崎:作品の特性上、シナリオをたくさん書かなければいけない。主人公1人に起こる現象ですべてを賄うのは難しかったので、何か起きそうな人というのが八神の周りに何人かいて、その事件に巻き込まれていくケースがいくつかあると思います。
その中でも九十九は人と違う技術を持っているキャラクターで、違う体験ができる人だった。そういう意味で頑張ってくれたキャラクターですね。キャラの由来は『007』のQがモデルで、Qと9で九十九となります。
――まさかそんな由来だったとは……。ちなみに、1章ではホストクラブのスターダストが物語に絡んできますが、あれは『龍が如く』ファンへのサービス的な意味合いを含むのでしょうか?
吉田:あそこで重要なのはホストクラブの店名ではなく、“ホストのキャラクター”だったので、実はお店は何でもよかったんですね。ホストクラブに話を聞きに行く流れのところで、その行き先を古田がスターダストと書いたんです。おそらくそんなに深い意味はないと思います。
――なるほど。
吉田:僕個人の考えで言うと、スターダストを出すことでユウヤや一輝があの店にいるんだろうなとか、セイヤは普段ユウヤに怒られているのかもなとか、いろいろな想像をしてもらいたい気持ちはあります。
ただ、実際にユウヤや一輝を出してしまうと、それを喜ぶ人がいる一方で、「またか」という気持ちも湧いてくると思います。さらに、プレイヤーの中で彼らに対する想像が生まれなくなって話の膨らみもないので、新しいセイヤというキャラクターを出しました。
“神室町の探偵”らしさを体験できるゲーム性
――セイヤはセイヤで妹思いのドラマがあって、彼自身のキャラクター性もよかったので、第1章の裁判が終わった時点では、また本編に絡むのかなと少し期待していました。
吉田:それは“たまり場”というシステムがあるので、そこにも絡んでくる話になります。今回、“神室町の探偵”というものを体験してもらうにあたって、“神室町にいそうな人たち”の存在をすごく重視したんです。
探偵の情報源は“人”なわけですよね。だから、プレイヤーに街の探偵らしさを感じてもらうには、神室町で友だちをどんどん増やしていって、その人脈を使っていろいろな情報を収集するようにしたかったんですね。
なので、そうした人々については、まず彼らと知り合って、その後、別のものでつながるような形を意図しました。失踪した甥っ子を捜索する依頼の“金の貸し借り不和の基”というサイドケースでセイヤは再登場しますけれども、彼は八神が知り合う神室町にいそうな人の1人になりますね。
――人脈を広げると依頼が増えて、依頼をこなすと人脈が広がるサイクルは、とても“探偵らしさ”を体験できる秀逸なデザインですよね。
吉田:それはプロデューサーの細川の意向です。以前に作った『龍が如く0』は“お金”をキーワードにゲームサイクルを構成していて、ゲーム内のすべてがお金だけで回っていたんですよ。『ジャッジアイズ』も同様に、ゲームサイクルが自然に回ることを意識して作ってほしいというオーダーがあったんですね。
――そうだったんですね。
吉田:ゲームの一番の柱を考えた時、それはやはりメインストーリーなんです。メインストーリーの障害を、さまざまな調査アクションやバトルで乗り越えるためには、八神自身が成長していくことが必要。彼を成長させるために何をやっていくのかというと、依頼をこなして“探偵として”成長していくべきだと考えたんですね。
そこから逆算して、依頼を受けるためには街の評判が上がるべきだと考え、街の評判を上げるためには、まず個人と仲よくなることから始めようとフレンドを入れました。障害を乗り越えて物語が進めば新たなフレンドが出てきますし、探偵として成長するゲームプレイがちゃんと一周するような形で作りました。
――『ジャッジアイズ』は、ユーザーが体験するゲームプレイから逆算してゲームをデザインすることが多いのでしょうか?
吉田:逆算して考えるのは『ジャッジアイズ』だけではないと思います。先ほどの話と重なりますが、どんなにおもしろいシステムがあっても、重要なのはプレイヤーがどんなことを楽しめるかですから。
サブシナリオの誕生秘話
――調査アクションの種類が豊富なので、何と何を組み合わせてシチュエーションを作るか、選択肢が多くて大変だと思います。具体的にサイドケースは、どのような工程で開発したのでしょうか?
城崎:まずは企画のみんなで内容のネタ出しから始めて、通ったものを名越に見てもらって、許可が出たものをシナリオ化します。シナリオ化したら、それをまた名越に読んでもらって、許可が出るまで繰り返すという感じですね。
吉田:いわゆるサブストーリーレベルのネタ出しやシナリオで、名越が1つ1つに目を通してチェックするのは久々でしたね。『龍が如く』だともう世界観が固まっていることもあって、基本的にチームにお任せというスタイルなので。
城崎:僕の場合、『クロヒョウ』は2作ともそういう作り方でしたね。メインもサブも全部細かくチェックしてもらう感じだったので。
――話はどのようにして考えるのですか?
城崎:サブストーリーを考える時は、まずいくつかキーワードがあって、その言葉をもとにして話を膨らませます。話の内容は、普通の人が想像する探偵らしい話を導入にして、想像の域を超えすぎない程度に驚かせる展開を心がけています。
例えば2章で受けられる“幽霊物件”というサイドケースなら、恋人と同棲する部屋を探す男性から依頼を受けて、物件の心霊現象について調べるわけですけど、幽霊の正体は彼女だったという話で。
「んなアホな!」と思うような話なんですけど、彼女の行いは家賃を下げるためだったという動機を知ると、事件が起きた理由もわからなくないかなと。そんなように想像の域を超えず、納得できる範囲で驚きのある話になるよう作っています。
――確かにあの話は、笑いつつもちょっと納得してしまいました。
城崎:フレンドイベントは非常に苦労した記憶がありますね。開発スケジュール的に50人ぶんのイベントを1カ月で仕上げないといけなくて。
――すごいスケジュールですね!
城崎:あの時は神室町のマップを手元に置いて、どんな人物がいるだろうかと最初に考えましたね。ショップにこんな人がきっといるだろうとか、焼き肉屋さんだったらこんなことが起きるだろうとか、職業に紐付いて起こりそうなことを考えていきました。
結局は、1日に2、3本くらい上げないと間に合わないペースだったので。フレンドイベントは、最終的に吉田にOKをもらうんですけども、「まあお前ならこの程度か……ギリセーフだな」みたいな感じでした(笑)。
吉田:アハハハハ。
――なるほど(笑)。苦労が多かったフレンドイベントは何名くらいで作られたんですか?
城崎:僕を入れて5人ですね。1人10本上げようねって計算ですけども、結局は僕が30本書くことになりました。
――それは担当者が得意とする話などを考えて、振り分けるものなのでしょうか?
城崎:いえ、最初にどんな人が50人いるかだけ決めたので、それぞれの担当が好きに10人選んでイベントの内容を考える感じでした。「君は浮気しそうだから浮気するキャラクター担当ね」みたいのは別にないです(笑)。
……ただ、そこはなかなかスムーズには行かないですね。集まった5人は僕も含めて普段からシナリオを書いていたわけではなかったので、話を考えるのは苦労しました。小説を読むなど勉強しながら書きました。
――サイドケースとフレンドイベントを合わせると、ものすごい膨大なシナリオ数になりますよね。
吉田:100本ですね(笑)。ただ今のはフレンドイベントの話なので、サイドケースの担当者はまた別ですね。
城崎:サイドケースは半年くらい時間をかけましたよね。
吉田:サイドケースの担当者も人数は多くないですが、メインになったのは福田(弘直氏)という人物です。本編に関してはまず物語があってそれをゲームに落とし込む形でしたが、サイドケースはゲームとシナリオを同時に考えてくれた福田のおかげで、開発のスピードアップにつながりました。相当な物量をこなせたのは、彼の力によるところが大きいと思います。まあ、これは八神じゃなくて、別のキャラだろというセリフが多かったところは、ちょいちょい直させていますけど(笑)。
人を振り向かせる魅力をゲームにもたらした木村さんの存在
――『ジャッジアイズ』は完全新規タイトルですが、開発中に「これはイケる」と一番手応えを感じた瞬間はいつでしょうか?
吉田:木村拓哉さんが主人公役に決まった時ですかね。もちろん、ストーリーが完成して読んだ時におもしろいとは思いましたけども。城崎はどう?
城崎:んー……やっぱり木村拓哉さんが主人公役に決まった時でしょう。
――開発者にとっても、それだけインパクトがあるキャスティングだったということですか?
城崎:というよりは、作りながら何かが足りないと感じていたんですね。遊んだら楽しいゲームだけれども、それだけだと普通のゲームになってしまう。木村さんが現れたことで、人を振り向かせる魅力が備わったと感じましたね。
吉田:もともとゲームのセールスポイントを足したいよねという話をずっとしていて、その中にキャスティングの話も当然あったんです。名越と木村さんの出会いの話とは別に、我々の中でも木村さんなら話題性があっていいんじゃないですかと話をしていたら、本当にそういう話に進んでいった流れです。
――木村さんのキャスティングが決まったのはいつごろのお話なのでしょうか?
吉田:1年以上前ですね。
――木村さんが主人公になったことで、何か変わった部分はありますか?
吉田:ゲームの仕様はもとのままなので、木村さんのよさを生かすために細かい調整したところはありますが、ゲーム的に変えた部分はないですね。逆に削ったところもないです。
――木村さん以外の俳優のキャスティングは、すべてその後に決まったのでしょうか?
吉田:そうですね。
――CGモデルの作り直しなどはなかったのでしょうか?
吉田:主人公はオリジナルでいくつもりだったので作り直しましたけど、源田や羽村などはもとから俳優さんをキャスティングする予定だったのでモデルを作っていませんでした。
――なるほど。俳優さんをキャスティングする予定がなかったわけでなく、主人公についてのみ予定が変わったんですね。
“普通のこと”がゲームをおもしろくし遊びやすくする
――吉田さんから見て、城崎さんはどのようなプランナーでしょうか?
吉田:例えば、尾行にしてもサーチモードにしても、鍵開けにしても何でもいいんですけど、作ってとお願いしたらプランナーなら誰でも作れるんですね。でも言われた通りに作りましたじゃなくて、そこに外連味(けれんみ)を利かせてひと味違うおもしろさを出せるのが城崎の持ち味だと思います。
わかりやすくシンプルな例を挙げると、八神がパイロットの制服に着替えるサイドケースでは、担当者の書いたシナリオには仕事着としかなく、パイロットの制服という指定はなかったんです。
でもそこに、「木村さんがパイロットの制服を着たらみんな喜んでくれるでしょう」とアイデアを加えたのが彼。あくまで一例で、城崎はそういう「このアイデアを足せばもっとおもしろくなる」という仕事をたくさんしてくれています。
――では、実際にゲームを遊んだ時におもしろさが印象として残るような最後のひと味の部分を城崎さんが得意とされていると。
城崎:それを考えるのもプランナーの仕事なので、みんなやっているんですね。ただ僕の場合、しばらく『龍が如く』シリーズから離れていたので。ちょっと距離を置いて見た時に、神室町という街に実際行ったとして「普通にこういうことできるよね」ということを主張しただけ……という感じですね。
――普通に感じることですか。
城崎:例えば喫煙所で煙草を吸えるのは当たり前、みたいなことです。たまり場で探偵が情報を得るなんて話は、どんな探偵ドラマでも映画でもやっていること。僕個人としては、すごいことをするわけじゃなく「普通のことを普通にやろうぜ」という感じでした。
――本作の場合、神室町の現実味がゲームのおもしろさにもつながるので、普通のことが入っているほど没入感が上がるようにも思います。
城崎:先ほども話した通り、サイドケースに関しても、神室町で探偵をしていたら普通にこういうことが起きるよね、ということを考えたんですね。仕事着の話にしても、木村さんが変装するならパイロットになったほうが遊ぶ人はうれしいですし。
自分としては普通のことを普通に入れただけなのですが、そうした部分を楽しんでくれている人が多いのであれば、それは『龍が如く』に固定観念を持っていないからかもしれません。今回、マップアプリに目的地を設定すると、そこまでのルートが出るんですけども、それって普通のことじゃないですか。
――そうですね。
城崎:ただ、プログラマーに聞くと大変らしくて、『龍が如く』シリーズではやって来なかったんですね。でも『クロヒョウ』では普通にやっていたので、「PSPのゲームでもできるんだから」と画面を見せてやってもらいました。
――『クロヒョウ』は地味に遊びやすい部分がたくさんありましたよね。サブストーリーの発生場所がマップに表示されたのも、当時は本当にうれしかったです。
城崎:『クロヒョウ』はシンソフィアさんが開発の中心だったので、『龍が如く』チームとは別の人たちが作ったからでしょうか。『龍が如く』をお手本にしつつも、ここはこうだよねという部分もたくさん入っていたゲームになります。もしかすると、今回も僕の中ではその思想が強いのかもしれないです。
現実世界の新しいものを取り入れた2018年の神室町
――いろいろアイデアを出した中で、ご自身でこれは会心のデキだと思えたものはありますか?
城崎:クラウドカンパですかね。ゲームを進めていくとお金が結構余るという問題があって、かつ特殊なアイテムを渡すルートがなかったんです。それを両方解決できるアイデアはないものかと。でも開発スケジュールが余りなく、企画を実装する手間も余りないという状況だったので、なにかうまい手はないかなと頭を悩ませていたんですね。
お金でダイレクトにアイテムを買えればいいなと思ったんですけど、ただ買うだけだとお店は一杯あるからおもしろくないしと思って。そこにワンアクション入れよう、だったらクラウドファウンディングがいいだろうと。そう思いついて、クラウドカンパアプリを作りました。
あれはUI班が専用アプリの画面を作って、後は企画がテキストを打つだけで済んだので、突きつけられた課題はすべて解決できたと思います。
――クラウドカンパは現実に話題になっている物事とゲームが自然にミックスされて、素晴らしかったです。ドローンやVRすごろくも、現実にある新しいものを取り入れたコンテンツになっていますが、そちらはどのようなアイデアで入ったのでしょうか?
吉田:『龍が如く』シリーズでたくさんのプレイスポットを入れてきたので、新作の『ジャッジアイズ』では、数を絞っても新しさを感じられるプレイスポットを入れたかったというのは最初からありましたね。
何をテーマにして作ろうかと考えた時に、現実世界にもある中で新しさを感じさせるものということで、ドローンレースをまず考えました。それとVRの何かを入れようと考えて、VRすごろくにしたんですね。VRすごろくは『龍が如く』にもないようなSFっぽいビジュアルで目新しさがありつつ、神室町にあっても自然ですし、うまく落とし込めたと思います。
――ちなみにVR施設があの場所にあるというのは……?
吉田:ああ、それはまったくの偶然なんですよ(笑)。現実世界に施設があるからあそこに置いたわけではなく、神室町の中でVR施設が収まりそうで空いている場所を探したらあそこしかなかったので。
――偶然とはいえ結果的にリアリティが増していますよね(笑)。
吉田:瓢箪から駒のようなものですね。あと遊んでくださった方々からの声で、「カラオケやキャバクラがないのはキャスティングと関係しているからでは?」というものがありますが、企画の初めからなかったのでまったく関係ないです。
というのも『龍が如く』のカラオケのおもしろさは、担当の堀井(亮佑氏。『龍が如く』シリーズのリードプランナー。“カラオケ”のゲームデザインを担当)というおもしろい人間が生み出したんですけども、桐生一馬が男らしい男で、彼がカラオケに行くとなぜかはっちゃけるというギャップがあって初めて成り立っているんですね。
それを形だけマネて新規の主人公でやっても、プレイヤーの皆さんは八神の性格を知らないからギャップをそもそも感じないですし、へたをしたらただのおもしろ主人公になってしまいます。
――八神の場合、桐生と違って物語を通じて心の成長が描かれる部分もありますしね。
吉田:カラオケのおもしろさは我々も重々承知しているんですけども、やるとしたら主人公を完全に描ききって、プレイヤーの皆さんの中に八神というキャラクターが1本根付いてからだと考えて、最初から1作目ではやるつもりがありませんでした。
キャバクラについても同じような話で、あれはもう「さんざんやったじゃん」と少し飽きられた感じがあるので(苦笑)。10年前ならゲームの中でキャバクラを遊ぶことに目新しさがあったんですけど、今の時代の神室町らしくはないなと思って、女の子を口説く遊びはガールフレンドという別の切り口にしました。
――そうだったんですね。話は変わりますが、ドローンはレースだけでなく、シューティング的な遊びもできれば街中で好きな時に飛ばすこともできて、ほぼ第2のプレイアブルキャラのようでもあります。最初から、あれだけいろいろな遊びを詰め込んで企画されていたのでしょうか?
城崎:2018年にPS4のゲームでドローンを実装したらこのくらいはやらないといけないよね、というのは最初からありましたね。実作業をした担当はすごく大変だったと思いますけれども。なので、ドローンでQRコードを撮影したり、写真を撮ったりということ自体は悩みなく最初からやろうと決まっていました。
本当はドローンでもっとやりたいことがあったので、どっちかというと、ドローンについてはできることが萎んだイメージですね、僕の中では。モノを運んだり、カメラにはサーモグラフィーや暗視機能が付いたりして、もっといろいろできるようにしたかったので。そういうのはまた次にってなりましたね。
ドラゴンエンジンと開発者のこだわり
――名越総合監督が「できたら『2』を作りたい」という話を公の場でされていますが、もしお2人が『2』を作ることになったら、いくらでもアイデアはあるぞという感じでしょうか?
吉田:いくらでもというと語弊はあります(笑)。ただ、やりたいことはありますね。今回は1作目なので諦めた部分はありますし、調査アクションのレベルデザイン的にも、プレイヤーが初めて触るには難しすぎるだろうからと落としどころを加減したので、もうちょっと難しくていい前提でデザインできれば、もっと遊びの幅を広げられた部分はいっぱいあると思うんですよ。
ドラゴンエンジンを進化させて、『ジャッジアイズ』用の調査アクションをいっぱい作りました。そのうえで、今回入れた調査アクションを改善することもあれば、新しい調査アクションを入れることもあると思うんですね。
――ドラゴンエンジンはどういったところに強みがあるゲームエンジンでしょうか?
城崎:アクションが得意なエンジンなので、桐生一馬と秋山駿から進化させたようなアクションを八神で使えるようなこともスッとできました。あと会話シーンの演出という意味では、何でもできると言ってしまえば何でもできるんですね。ムービー並みにいろいろな演出ができるんですけども、そのぶんツールの使い方を覚えるのが大変という側面があります。
――プランナーがパラメータみたいなものをいじるだけで、できることがすごく多いエンジンということなのでしょうか?
城崎:そうです。専用のインターフェースがあって、それをいじると本当にムービーシーンみたいな演出も組めてしまう。そのぶん、作る人のセンスも問われるんですけど。
ドラゴンエンジン用のツールは、現状、誰でも簡単に操れるものではなくて、そこをもう少し汎用的にしていく必要があると思います。開発の終盤で、演出をつける部分のスケジュールがネックになってくるというのがあるので。
僕はプロというのは、予算とスケジュールがあって初めてプロだと思うので、そこの釣り合いを取るために自由度をどこまで制限して習熟期間を短くするか、そこのいいバランスを作るのが次の課題かと思っています。
――『龍が如く6 命の詩。』の発売が2016年なので、開発期間を含めるとドラゴンエンジンが導入されてから3、4年の時間が経過していると思うのですが、その間にこなれていく部分があってもなおということなのでしょうか?
城崎:逆なんですよ。いろいろなゲームを作っていく過程で、こういう特殊な処理がほしいという場面があるのですが、その処理はそのシーンだけでしか使わない。でもドラゴンエンジンは、そういうものでもあっさり追加できてしまうんです。ただ、その追加が積み重なることで、演出の選択肢が膨大になるんですね。
吉田:我々の目指すクオリティがどこかで高くなり過ぎちゃって、演出でゲーム的に見えてしまう部分があると、「これ、おかしいでしょ」と指摘が入って、人間同士のやり取りに見えるようにすべて修正が必要になるんですね。でも、そこにこだわり始めると膨大な時間がかかってしまうのがジレンマですね。
――『ジャッジアイズ』のイベントシーンは、CGモデルのやり取りなのに、演技の味わいとでも言うような雰囲気の出ている演出シーンがたくさんありますよね。
吉田:海外のAAAタイトルと比べてもそうなんですけど、我々の目指すところからするとまだまだです。ウチは、喋っている声の人と表情の演技をしている人は別なので。
わかりやすく言うと、八神は声とモデル用のフェイスキャプチャーは木村さんですが、表情の動きを付けるフェイシャルモーションは別の人が担当していますから。なので、演出をよくしていこうと思えば、いくらでも余地がありますね。自分たちでは、このクオリティに満足していないです、正直。
――『ジャッジアイズ』のクオリティでもそうなんですね……。逆に言うと、次の作品になればもっとよくなるということでしょうか。
吉田:はい、そうです。ディープラーニングといって「木村さんの声だったらこういう風に顔を動かすだろう」というものをコンピュータが分析して、AIが学習しています。研究時間が増えれば増えるほど、声のサンプルがあればあるほど、本物の木村さんの表情に近づいていきますね。
――表情もそうなんですが、『ジャッジアイズ』はカメラワークやモーションによる演出もすごくいいですよね。しかも○ボタンでスキップできる場面でも、かなり細かく演出がついていますし。
城崎:それは担当者のこだわりですね。もういいよって言っているのに、「いやいや、まだです」と言ってつけちゃうみたいな。なぜなら、それができるツールだからです。本当に細かいところは、担当者のプライドの問題なんですね。だから、そこをどうコントロールするかというのも課題の1つです。できることが多すぎて、やったぶんだけよくなるので。
吉田:あと、脚本の古田のことは、皆さんは脚本家としてしか見ていないかもしれないんですけども、いわゆる映像の作家なので、シーンのカット割りとかモーションの芝居に対する演出とか、彼自身が全部できるんですね。なので、できあがったシーンで「もうちょっとここを直したいな、でも人がいません」となると、古田が自分でやってしまうんです。本当に妥協がないですね。
新しいユーザーを呼び込んだ『ジャッジアイズ』
――バトルはどういったことを意図しながら制作されましたか?
吉田:基本的には2つのコンセプトで作りました。1つはスタイリッシュかつアクロバティックであることです。壁を利用した三角飛びであったり、馬跳びで敵の肩を乗り越えたり、軽やかな動きですよね。桐生一馬がどうしても重々しく荒々しいキャラクターだったので、八神は華麗な戦いを見せられるようにしました。
もう1つのコンセプトはカンフーですね。バトルにもキャラの立ったモチーフを入れたいというオーダーが名越のほうからあったので、そのモチーフで選択しました。パルクールなどのちょっとアンバランスなアクションにカンフーの動きを加えるとどうなるのか、そのあたりの試みがバトルをおもしろくできたかなと思います。
――八神は敵のガードを崩せる引き出しが多いので、『龍が如く』と基本操作が似ていながら、手触りとしては立ち回りの幅が広がったように感じます。
吉田:ただ、成長するほど使うボタンが増えていって、かつそれを要求してくるハードコアなアクションバトルにはしたくなかったんですね。簡単な操作であることは変えずに、八神の能力を伸ばしていくと、2つのコンセプトから成る特徴が尖っていくようなバトルを目指しました。
ボタンを押す回数や長押しによって出る技が変わるので、ともすると技の暴発もあり得るのですが、それでも構わないと割り切って作っています。アクションが得意でない方でも、いろいろな技を出して楽しめることを大事にしました。その点は『龍が如く』と同じコンセプトですね。
――個人的には、馬跳びからの仕掛けが気持ちいいので、結構多用してしまいます。あまり使いすぎると投げられてしまうのですが(笑)。
吉田:相手がガードしてきたりすると、馬跳びは有効ですよね。僕もそうなんですけど、ラッシュコンボしている時にガードをされると腹が立つんですよ。一方的に殴り続けていたいので(笑)。
攻撃、防御、投げの三すくみがあるので、そういう時に掴んで投げるのも正しい手なのですが、馬跳びから攻撃を仕掛けたり、背後に回って殴り続けたり、そうした選択肢が増えたところは1つアクセントになっていていいかなと思います。
その馬跳びに関しても複雑な入力が必要なわけではなくて、相手のほうに向かってダッシュするだけなので、そうした操作の簡単さは気を付けていますね。
――『ジャッジアイズ』は体力ゲージが多い敵でも、馬跳びや三角飛びなどを使って攻撃の手を変えれば、相手の攻撃を見てあげなくても殴り続けることができるので、ボス系の敵を攻めやすいですよね。
吉田:『ジャッジアイズ』はバトル主体のゲームではないというのが大きいと思います。本作の場合は、あくまで調査アクションの1つとしてバトルがあると考えているので。ドラマの壁として強敵は用意していますけども、ストーリーだけを見たい方は確実にいると思うので、バトルが理由で途中で挫折するようなことがないようにしています。
なので今回、初めての試みとしてEXTRA EASYという追加の難易度を実装しました。□ボタンだけでいろいろな攻撃が出てバトルに勝てます。バトルで頑張りたくない人は少なからずいると思うので、そういう方に対する答えとしてEXTRA EASYは用意しました。
――EXTRA EASYはチャレンジでもありますよね。
吉田:実装にあたっては「これでクリアできていいの?」みたいな議論もあったんですけれど、最終的にはユーザーの方それぞれのプレイスタイルに委ねようと。
バトルを楽しませたいというのは作り手のエゴなので、□ボタンだけ押していれば格好いい木村さんの姿が見られるし、ストーリーも楽しめる。バトルに歯応えを出して、それを乗り越えた時のカタルシスを無理に押しつけなくてもいいじゃないと話し合いました。
――編集部にアドベンチャーが好きな編集がいて、『龍が如く』は未プレイだったんですけども、『ジャッジアイズ』は購入しました。アクションが苦手な彼女ですが、本作にはすごくハマっているんですよね。
吉田:これまで『龍が如く』シリーズを遊んでくれたプレイヤーの皆さんにはもちろん『ジャッジアイズ』を楽しんでほしいのですけども、新規のお客さんにも楽しんでほしいという思いはすごく強かったので、そうした反応は我々が望んだことでもあります。
例えば、『龍が如く』に魅力を感じている人でも、『6』まで続いたおかげで、「1作目から知らないと楽しめないんじゃない?」と感じる方は手を出しづらくなっていたと思うんですよ。本作は、そういう方に対して仕切り直しの1作目になるので、触れてほしい思いはあります。
あるいは途中から始めることに抵抗はなくても、主人公が元極道なのが嫌だという人もいるので、そういう方に対してリーガルサスペンスという、普通の映画の題材にもなるようなジャンルの作品として、ゲームを楽しんでもらいたい思いもありました。『ジャッジアイズ』は新規の方からご好評をいただけているので、すごくうれしいですね。
――『ジャッジアイズ』を遊んでから、改めて『龍が如く』に入ってもいいわけですからね。
吉田:はい、全然アリだと思うので、そうした方は『龍が如く』シリーズも遊んでみてほしいですね。1月17日に『4』のリマスター版が出て、2019年内には『5』のリマスター版が出ます。それによって、PS4でナンバリングを全作遊べるようになるので。
――『龍が如く』は今でもゲームとして特殊ですよね。オープンワールドとは違った方向性で、箱庭くらいの広さであるぶん密度が濃いですし、そもそも現代に暮らす我々の親しんだ街並みが舞台になって、そこで遊べるタイトルだという。
吉田:そこが我々の強みで、最初のポリシーですよね。現代の日本の繁華街を舞台にしていて、その街に行ったことがある大人の男性が楽しめるゲームなので。あえて中心ターゲットを日本人の30代や40代の男性に絞って作り始めたら、“漢の世界”に憧れる女性や若者が入って、その独自性が海外の方に受けるようになった。もし全年齢向けに幅広く作っていたらそうはなってなかったと思うんですよ。
――『ジャッジアイズ』もドラマの内容はすごく大人向けだと思うんですよね。黒幕の主張を聞いた人は、それを悪と断じきれずに、一理あると感じる人も出てくるように思います。
吉田:極端な話をすると、黒幕のしたことで自分に被害が及ばなければ、絶対肯定すると思うんですよ。ただ、正義という名のもとに何をやってもいいのか、正義という名の凶器とはどういうことなのか……。だから人によっては後味の悪い終わり方と感じるでしょうし、スカッとした思う方もいるかもしれません。
いずれにせよ、社会に対して何らかの考えることは残ると思うんですね。物語の中で描いたテーマは、今やこれからの社会を反映してもいるので、ゲームの枠を飛び越えて考えるきっかけや、議論するきっかけになると本当に制作者冥利に尽きますね。
……とは言うものの、正直そこまで深く考えていただかなくても、純粋にゲームを楽しんでいただければなと(笑)。1番にあるのはエンタテインメントですので、あまりおこがましいことを言うつもりはないです。
『ジャッジアイズ』が発売されて
――『ジャッジアイズ』をプレイした方の感想を見て、特にうれしかったものや気になるものはありましたか?
城崎:配信できる章を規制していることもあって、もっと先を配信したいと言ってもらえることはうれしいですね。ゲームを楽しんでいただいているから、そういう声が上がると思いますので。
あと木村さんでいろいろできて楽しいという感想は、狙った通りではあるので、そこに関してはユーザーの皆さんにある程度満足してもらえるものは作れたのかなという思いはあります。
吉田:僕は、1つには『龍が如く』に触れてこなかった人たちの評判が大変いいのでうれしいですね。あと、「『龍が如く』シリーズのキャラクターは出ません」と明言しているものの、実際にはそれでも期待している方からガッカリしたという声が上がるのではないかと思っていたのですが、『ジャッジアイズ』のキャラクターが魅力的だと言ってもらえているので、それもすごくうれしかったです。
しかも、海藤だったり杉浦だったり星野だったり、さおりだったり、八神以外のキャラクターを好きだと言ってくれる人がたくさんいて、好きなキャラクターについて十人十色の感想があるのは、特にうれしく感じました。
――八神の話でありつつ、ちゃんと脇のキャラクターにも何かしらドラマがあるのがいいですよね。では、開発を終えてもっとも印象に残った出来事は何ですか?
吉田:僕は木村さんの「ちょ待てよ」を収録した時ですね。直に木村さんのあのセリフを聴けたことは、記憶に焼き付いています。
城崎:僕は名越に呼ばれて「よろしく」と言われた時のことですね。普通はそんなことはなくて、何となくふわっと担当するゲームが決まっていく。会社的に言えば、一般の社員が役員の部屋に呼ばれて次の仕事を指示されるということですから、普通に考えると特殊なことですよね。
吉田:普段は一斉にメールが送信されて、「宛先の人は次のプロジェクトの説明があるので会議室に集まってください」みたいな感じで始まるんですよ。そのため指名で呼ばれることはまずないです。
城崎:名越の秘書が僕の席に来て、「名越が呼んでいます」と声を掛けられたので、「え!? 俺なんかやりましたっけ?」と思って恐る恐る部屋に向かいましたね(笑)。
――確かにそうなりますよね(笑)。ちなみに欧米版は2019年夏に発売予定とのことですが、こちらはゲーム内容自体には変更がない形でしょうか?
吉田:ゲーム内容では変更はありません。ただし欧米版は英語音声を新規収録していて、口パクもすべて作り直しています。
――最後にお2人から読者へのメッセージをお願いします。
城崎:木村拓哉さんのインパクトが大きい作品ですが、ゲームとしても遊んでいただく方に少しでも楽しい体験をしていただけるよう細かいところまでこだわって製作をしてきました。本編のスリリングな展開はもちろん、サイドケースにフレンド、ガールフレンド、プレイスポットなどなど、どれをとっても渾身の出来栄えです。新しい主人公を迎えた新しい神室町にぜひ遊びにきてください! どうぞよろしくお願いします!
吉田:プレイヤーの皆様の反応はSNSなどでも逐一見させていただいています。ご好評をいただいているだけでなく、その魅力を他の方にオススメしてくださっている方も多く、本当に有り難く思っております。今後、『ジャッジアイズ』も“龍が如くスタジオ”の新たな柱にしていきたいと思っておりますので、引き続きご愛顧の程、よろしくお願いいたします!
――ありがとうございました!
(C)SEGA
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