2019年2月1日(金)
主人公・八神隆之を木村拓哉さんが演じ、ゲーマーだけでなくカジュアル層も巻き込み、今もロングセラーを続ける“龍が如くスタジオ”の最新作『JUDGE EYES(ジャッジアイズ):死神の遺言』。発売から約1カ月半が経過し、八神の探偵稼業にひと区切りをつけた方も多いことでしょう。
そこで、本誌では10人の制作スタッフ(&プロデューサーの細川一毅氏も途中参加)にインタビューを実施。2時間半という長時間にわたって語られた、開発陣が作品に込めた熱い想いを、前編&後編の2回に分けてお届けします。読めばもう一度プレイをし直したくなるコメントが満載です。
なお、内容はクリアしたことが前提のネタバレあり(伏字含む)となっていますので、まだクリアをされていない方はご注意ください。(インタビューは1月11日に実施)。
――まずはみなさんが本作で担当されたお仕事を教えてください。
吉田幸司氏(以下、敬称略):ディレクターですが、おもに雑用全般を担当しています(笑)。
▲ディレクター 吉田幸司氏 |
――ディレクションという部分では、これまでの作品と比べても相当大変だったと思いますが、主にどの部分に苦労されたでしょうか?
吉田:新しい試みが非常に多いタイトルだったので、着地点をどこにもっていくかという部分でしょうか。ボリュームの配分も含めて。今までの『龍が如く』シリーズですと、かなり勘がつかめているのですが、今回は上から下までたぶん誰もわかっていなかったと思います。なので、そこを見極めるのが大変でしたね。
伊東豊氏(以下、敬称略):プログラム全般の取りまとめ、バトル関係のまとめを担当しています。
▲プログラム統括 伊東 豊氏 |
染屋直樹氏(以下、敬称略):アートディレクターとして、デザイン全般の監修を担当しています。
▲アートディレクション/デザイン統括 染屋直樹氏 |
厚孝氏(以下、敬称略):“ドラゴンエンジン”まわりの統括や、技術回りの取りまとめを担当しています。あとはゲームセンターの『ファイティングバイパーズ』の移植なども手がけました。
▲“ドラゴンエンジン”開発チーム統括 厚 孝氏 |
時枝浩司氏(以下、敬称略):ゲームシステム設計を担当しています。主にバトル以外のアドベンチャー、プレイスポットなどの取りまとめですね。また、『龍が如く』シリーズではゲーム自体を作ることがあまりないのですが、今回はドローン関係を担当してドローンレースなども手掛けています。
▲ゲームシステム設計 時枝浩司氏 |
安藤俊周氏(以下、敬称略):キャラクターデザインを担当しています。“龍が如くスタジオ”では『龍が如く0 誓いの場所』からの参加です。主にキャラクターの描画や制作フローの設計ですね。あとは綾部などのキャラクターモデリングも数体手掛けています。
▲キャラクター制作チーフ 安藤俊周氏 |
冨田万里江氏(以下、敬称略):UIデザインチームのリーダーとして、チームメンバーのUIデザインのチェックを担当しています。また、個人的な制作業務ではポーズメニュー周り、アドベンチャー中のUI、キービジュアルやタイトルロゴの制作も担当しました。
▲UI制作チーフ 冨田万里江氏 |
上原康輝氏(以下、敬称略):アクションパート企画とありますが、調査アクションではなく、主にバトル関連のアクションを担当しています。
▲アクションパート企画チーフ 上原康輝氏 |
福田弘直氏(以下、敬称略):サイドケース全般の脚本と、演出の監修を手掛けています。じつは中途採用で入社しまして、“龍が如くスタジオ”の仕事は今回が初めてでした。ですので新規要素も含め、最初はいろいろと手探りで始めた感じです。
▲サイドコンテンツ脚本・演出 福田弘直氏 |
下原史義氏(以下、敬称略):主に効果音やボイス等の実装管理を担当しています。個人的な制作業務はシステム関係のSE、ドローンレース、“VRすごろく:ダイキュー”のSEなどを制作しました。
▲サウンド制作チーフ 下原史義氏 |
――発売から約1カ月が経過し、クリアしたという声も多く聞かれていると思います。そんなユーザーの反応を見ていかがでしょうか?
吉田:すごくほっとしています。一番心配だったのが『龍が如く』ではない、ということでした。『龍が如く』らしいのに『龍が如く』ではない、桐生一馬が主人公ではないというところに対して、かなり拒否反応を示される方も多いかなと思っていました。
これが完全新作ならばそういうことはないと思うんです。でも自分たちは自信をもって送り出しましたし、新しい主人公・八神隆之と、リーガルサスペンスとしての物語の深さが、非常に好評をいただけているので、そこは本当によかったという感じです。
――従来の『龍が如く』シリーズのファンの方はもちろん、木村拓哉さんが主演という話題性の大きさもあり、かなり新規の方がプレイをされている印象を受けたのですが?
吉田:実際にそのとおりですね。これまで『龍が如く』は極道ものなので、初めからターゲットを絞り込んで作るスタイルでした。30代、40代くらいの男性で、もっと言えば日本国内限定でという狭い層向けに作って、すごく尖っていったわけです。結果的にそれが作品の魅力として、世界中に広まっていきました。
逆に『JUDGE EYES』は、もっと広いユーザーさんに受け入れられるものを作りたいという想いがありました。だからこれまで持っていた武器を捨てるような形だったわけですよ。そこがどう作用するのかという不安はありましたが、そこはうまくいった感じですね。
――やはり開発中も従来の『龍が如く』的なエッジの効かせ方と、一般向けのバランスという部分をどう折り合いをつけるかが、1つのキーとなったわけですね。
吉田:そうですね。例えばバトルならばこれまでのように血なまぐさくて過激な面ではなく、スタイリッシュさを押し出す形に変わりました。そのように、何か要素を落としたぶんだけ別の要素で上げる、みたいな感じです。
――名越(稔洋)総合監督があたためていたプロットを軸に脚本を構築したとのことですが、そこからゲームに落とし込んでいくにあたり、どんな部分でこだわられたのでしょうか?
吉田:これもいろいろなところで話していますが、『龍が如く』シリーズはストーリー→喧嘩バトル→ストーリー→喧嘩バトルといったように、拳で解決することが中心のゲームだったんですね。でも今回は、ゲームの中でプレイヤーが行うべき障壁として、バトル以外のものを用意するという目的から、調査アクションを用意しました。
探偵ならではの要素を数多く用意するという目的も達成しつつ、なぜ尾行をしなくてはいけないのか、ここでなぜサーチモードで調べなくてはいけないのかなど、ストーリーを進行するための説得力、妥当性の肝にもなっている要素だと思います。
これをシステムありきで考えた場合、すごくゲームゲームしてしまうわけですが、脚本が先にあったからこそ、そこから逆算する形で調査アクションを盛り込めたので、うまくはまったなと思います。
――脚本を生かすためのシステムをはめ込んでいったというわけですね。
吉田:そうですね。システムを先に作ると、「ではこのシステムでどうやって遊ばせようか」と悩んでしまうんです。逆にストーリーを作ってからならば、この展開を成り立たせるためにはどんなシステムが必要なのかと、逆算ができるわけです。
――となると、システム作りの時点で、展開はラストまで決まっていたのでしょうか?
吉田:もちろんそうです。
――では、そんなストーリーに木村拓哉さんが出演されると聞いたときはいかがでしたか?
吉田:僕としてはもともと木村さんがいいな、と思っていたくらいなんです。何人かこの人がいいのではという候補のなかでも、話題性であったり、演技力であったりすることを考えると、もう木村さんしかいないなと。だから名越からこの話があったときは、もう「ぜひぜひ!」と(笑)。
――グラフィック部分では、木村さんをゲーム内で再現すると聞いていかがでしたか?
安藤:最初に聞いたときはもう衝撃でしたね。「ええー!?」って(笑)。それと同時にしっかり作らないといけないというプレッシャーも感じました。木村拓哉さんという、誰もが知る人物を作るわけですから。
みなさんが抱いている木村さんのイメージがあると思いますが、そこから少しでもクオリティが落ちたりはずれてしまったりすると、やはりすぐ突っ込まれてしまうだろうなと。だから、そこに対しての重圧は大きかったですね。
――とくに木村さんの場合は、俳優としていろいろな役を演じられているので、それぞれのプレイヤーさんが抱いている木村さん像が異なっていると思います。そこの落としどころはけっこう難しかったのではないでしょうか?
安藤:チームでも木村さんが出演された作品をいろいろ拝見させていただいて、プロデューサーの細川(一毅氏)や吉田などを含めて、そのなかで「ああでもない、こうでもない」と打ち合わせました。「ここはもう少し目の角度をこうしたほうがいい」など、細かく調整していきましたね。
――現在の木村さんだけでなく、過去のいろいろな時代の木村さんの魅力を、キャラクターに盛り込んでいった感じですか?
安藤:そういう部分もありますが、基本的にはもちろん今の木村さんの顔を3DスキャンさせていただいてCGで再現していくわけですが、パブリックイメージとしての木村さんも同時に意識しなければならないわけです。
人それぞれが木村さんに抱く印象が違うとしても、みなさんに納得してもらえるイメージにするために、データをさらに加工して今作の主人公にふさわしいモデルに起こしていくことを心がけました。だから、例えば瞳の大きさだけでも本当に何度もトライ&エラーを行いました。
――立ち姿だけでなく、バトル中に力んだり気張ったりするようなシーンでの見栄えも、いろいろと計算された形でしょうか?
安藤:そうですね。表情に関しては“らしさ”が出るところだと思うので、表情の担当者といろいろと相談しながら進めました。
――実際に完成したものを木村さんサイドにお見せしてのやり取りはあったのでしょうか?
安藤:ありました。こちらで画像や映像を用意して、こんな感じに作成しましたとお見せしたのですが、とくに大きなチェックバックはなかったですね。
――意外とスムーズに進められたと?
安藤:木村さんサイドにも認められることを目指していましたので。もちろん、ユーザーさんが納得するものが最優先ですが、そのなかで木村さんが「これ、いいじゃん」と感じてくださるように作るという思いもありました。
――物語、グラフィック、バトルなどで、『龍が如く』シリーズと一番変えようと意識した部分、逆にここは維持しようと意識した部分があれば教えてください。
吉田:『龍が如く』シリーズの魅力を完全にスポイルするつもりはなくて、やはり自信をもってここはよくやってきたという部分は、そのままキャリーオーバーして持ってきているところがあります。バトルに関しても調査アクションの1つとして位置付けていますが、そこを極端にコンパクトにはしていません。
これまで同様のおもしろい手触りがあるバトルアクションを目指していますので。変えようとしたという部分は、まさにバランス配分ですね。これまではメインストーリーとバトルの合間に、フリーアドベンチャーという形で、サイドコンテンツ、プレイスポットなどを非常に多種に渡ってバラまき、遊びたかったら遊んでくださいという形でした。
『JUDGE EYES』はフレンドイベント、サイドケース、そのあたりがすべて探偵としての成長にかかわってきて、すべてやることでメインストーリーも進めやすくなります。
――そこは実際にプレイをしていても感じました。とくにフレンドイベントの要素が、ほかのサイドケースやメインストーリー、さらにはキャラクター育成などと密接にかかわっている印象です。
吉田:コンテンツそのものを見てみると、これまでの『龍が如く』シリーズで見たような気がするサイドケースのストーリーもあるじゃないですか。例えば『龍が如く 極2』などの、街の住人と仲よくなる“なじみシステム”のような。そのあたりをただ単に持ってきたのではなくて、配列の仕方を変えたというか、ゲームサイクルとして組み直したというのが、『JUDGE EYES』での違いですね。
また『龍が如く』のバトルでいえばこれまでの経験を通して、どれくらいのボリュームと奥深さに落とし込めばいいのかという方程式はできているんです。ただ、今作においてはその方程式があてはまるのかがわからない。なので、企画の最初の段階で「バトルはどれくらいの位置付けなんですか?」と、上原からは何度も何度も確認されましたね。そこらへんが多分不安だったんじゃないかなと。
上原:最初はそうでしたね。やはり「調査アクションが肝なんだよ。でもバトルもあるよ」と言われていました。最初に吉田が話したように、この要素はどれくらいのボリュームで作ればいいだろう、どれくらいの奥行き、難しさ、やり応えがあればいいだろうというのが、本当に見えていなかったんです。
私はほぼ『龍が如く』シリーズのみ開発してきた身でしたので、仕様を切っていくうえで、吉田や細川、それこそ名越と「じゃあ、どうしていこうか」と話をしていくなかで、今までにない新しい経験が得られたと思います。結果的には思ったよりもバトルシーンがあったので、よかったなと。
伊東:最初の頃は「バトルが減る」みたいな話だったんですよ。
上原:そういう話でしたよね(笑)。
伊東:それを聞いたときは、ちょっと寂しいなという想いもありましたが、結果的には重要な場面にはしっかりバトルシーンが用意され、ボリュームも思っていた以上に大きくなりました。
上原:じつは最初の頃は一度に戦う敵は2人か3人くらいで、4人目が出てきたら八神はもう戦えないくらい弱いかもしれない、なんて話もありました(笑)。
――たしかに八神には桐生一馬にあった“超人感”みたいなものはなく、致命傷システムなどもあって、言い方は変ですが一般的な人間らしさみたいなのを感じられました。無双的な強さよりも、やはり人間なんだからピンチになることもあるといった点を意識されたのでしょうか?
上原:そうですね。そこはユーザーさんからいろいろな反応がありましたが、いかんせん、桐生が超人すぎるんですよね(笑)。『JUDGE EYES』は誰でもちょっとの工夫で簡単に敵を倒せるくらいのバトルバランスで、だけども殴り合っていて人間味を感じられることを模索して、その1つが先ほど出た致命傷システムになります。また、敵から受けるダメージが大きいという声もありますが、体力の最大値が桐生と比べて少ないのも、そのあたりを考えての結果です。
――『龍が如く』での気持ちよさを残しつつ、超人的にはしないというバランスの取り方は、そうとう調整が大変だったのではないでしょうか?
上原:けっこう揉めましたよね(笑)。
伊東:『龍が如く』シリーズのバトルは、基本的に“前作からの進化”がテーマで、ストレスに感じた部分や、こうしたほうがよかったという部分をグレードアップして、さらに新しい挑戦をするという感じでした。今回はその考えを捨てて、『龍が如く』とは違う新しいものを目指しています。
ミーティングでも「『龍が如く』ならばこうだよね」という意見はなるべく言わないようにして、純粋に今回のゲームにあったシステムや手触り感を追及するようにしました。だから開発序盤はかなり手探りの状態が続いていましたね。
吉田:バトルだけでなくほかのいろいろな要素に対しても、「『龍が如く』らしくならないようにしよう」と話していました。デザイン面についても『龍が如く』に引きずられないよう、完全に新規のデザインでという感じです。
ちなみに、外から見るとあまりわからないかもしれませんが、今回『龍が如く』で“次代のエース”と呼ばれていたスタッフをリーダークラスに並べたのも、新しいことをやってくれるパワーと若さに期待したというのもあります。自分なりに新しいタイトルを作るうえで、自己表現をがんばってしてくれた結果が出ているのかなと。
――“龍が如くスタジオ”としての内部的な挑戦は、そういったフレッシュな勢いを盛り込んだ面もあったのですね。
――変わったという部分の1つに、グラフィック面での絵作りの部分があると思います。陰影のあるシーンの数々が印象的ですが、こちらはいかがでしょうか?
染屋:ストーリー自体が重厚なものになっているので、グラフィックにおいても、コントラストを強めにしてシックな雰囲気を足していこうというのは、当初から話は出ていました。
――それはやはりテーマがリーガルサスペンスという重いテーマだからでしょうか?
染屋:そうですね。そこはしっかり伝えられるようにしようというところですね。
――具体的に絵作りを進めるうえの調整について教えてください。
染屋:開発を進める前に、まずはどのような見た目にしようというのを、関係各所で集まっていろいろとサンプルを確認しながら話ました。そのなかにコントラストを強めにしたり、色合いを少し変えたりしたものを用意したのですが、そこでコントラストが強い、陰影が強いデザインが採用された感じです。
上原:ちなみにこれはちょっと揉めた話になりますが、アクション班も「今回のコントラストが強い絵は、メチャクチャカッコいいなと」話していました。ただ、雰囲気に寄せすぎて夜の神室町の陰影がすごい時期があって、自分のキャラクターが何をしているのか全然見えなくて(笑)。けっこう染屋と揉めた時期がありました。いろいろなTVに映して「ほら、見えないじゃん」と(笑)。
染屋:そうなんですよね。バトルだとやはり見づらくて遊べないという意見がありつつ、名越に見せると「あ、いいね。この絵」って(笑)。桐生の服はグレーでしたが、今回の八神は黒い服を着ているじゃないですか。黒い服のまま暗闇で戦うと、本当に見えないんです。
――となると、バトルのエフェクトが派手目なのは、そのあたりも意識されているのでしょうか?
上原:もともとは単純に「派手でかっこいいものにしたいね」というところから始まっています。そのうえで、動きを見やすくという意識が加わって、いろいろと調整した結果、今の絵になっている感じです。開発初期は、あるTVモニタでは見えるけれどもPCモニタでは敵の顔しか見えない……なんてことも(笑)。
染屋:エフェクトに関しては今回煙っぽい表現でデザインしていこうとしていました。
――それはオープニングで、キャラクターがふっと煙のように消える表現でしょうか?
染屋:そうですね。あれを踏襲していますね。あとは『龍が如く』とは異なって『JUDGE EYES』らしくということで、今のエフェクトになっています。
――そういった表現をするにあたり、“ドラゴンエンジン”をチューニングされた部分もあると思いますが、その点はいかがでしたか?
厚:“ドラゴンエンジン”もあまりガチガチに固まっているものではありませんので、必要なものをその場その場に応じて足して、しっかり改良をしていくというスタイルで進めています。今回に関しても、染屋がさっき語ったように、思考錯誤して「やはりここを重要視しなくてはいけないよね」という点を中心に、機能追加と拡張を進めてきた形です。
『龍が如く』シリーズと比べると、ダイナミックな光源や光源から落ちる影の表現などは、だいぶ進化していると思います。また、これは八神が木村さんだからという点もありますが、あまり怖い顔に見えないように、常に調整されるようになっています(笑)。
よく、ある方向から見ると、影が変な形で落ちてしまって怖く見える場合がありますよね。そういうことがなるべく起きないように、調整というよりも下回りにそういう仕組みを入れています。これは“龍が如くスタジオ”ならではの技術かなと。
――どんなシチュエーションでも適切なライティングになると?
厚:あまりやり過ぎると単に浮いてしまうのですが、一応画面内に溶け込んではいるけど、しっかり照明さんがレフ版で光を当てているように見えることを目指して作っています(笑)。注目しているところに対して、顔がある程度見えるような形で、補助光源がしっかり生まれるような仕組みになっています。
――今回、認知症(アルツハイマー)という、高齢化社会で今問題になっていることを物語の題材に選ばれています。こちらはある意味挑戦的な問題提起をされていますが、これは当初から決まっていたのでしょうか?
吉田:そうですね。元弁護士の探偵という設定と同時に、実際にどんな事件に絡んでいくのかという点で連続猟奇殺人事件というキーワードがあり、さらにそこに医療が……ということは当初から決まっていました。
――テーマが法律関係、薬学関係といった専門的な分野になりますが、どなたかにサポートを受けられたりしたのでしょうか?
吉田:アニメや映画など、いろいろな分野で活躍されている白土(晴一氏)さんという方に、設定考証でご協力をいただいています。
――『龍が如く』シリーズとの物語的なつながりという部分では、作中に東城会の名前が出てきます。また、主人公が関係・対立するものとして極道組織を出てきますが、そこをどのくらい物語のなかに入れ込むのかはどう考えられましたか?
吉田:最初に『龍が如く』でないものを、つまり“主人公が極道ではない、物語も極道社会のドラマではない、そしてリーガルサスペンス”で行きます、となっているのに、出てきた連続猟奇殺人事件の被害者が全員極道で、初っ端から極道要素が入るじゃないですか(笑)。最初は名越のプロットに対して「極道を出す必要はありますか?」という話も出ました。
でも「神室町という場所で、極道がいないわけがないじゃない」となりまして。そこを逆に使うことで巨悪との絡みも生み出せるよという話もあり、なるほどなと。正直なところ、東城会や近江連合じゃなくていいんですよ。
ただ、そこは同じ神室町で2018年の物語となったときに、同じ要素を引っ張ってきたほうが逆に地続きの世界観として、広がっていくと思ったんです。狭くなるのではなくて。『龍が如く』の世界のどこかに『JUDGE EYES』の世界があるかもしれないし、逆に『JUDGE EYES』の世界のどこかに『龍が如く』の世界があるかもしれない。
――可能性の広がりとしては、まったく関係ない組織名だと逆に閉じてしまうというわけですね。
吉田:そうです。ですが、匂わせる程度ですね。
――ほかにも物語について『龍が如く』シリーズと比べると、真犯人の正体が、比較的中盤の時点で明らかになったのが意外でした。これはゲームとして犯人を捜すとことよりも、いかに真犯人を追い詰めるのかという部分に重きを置いたからでしょうか?
吉田:裁判は後出しの証拠は基本的に成り立たないんですよ。基本的に事前にすべて申請していないといけないなど、ややこしい手続きがあります。裁判中に今までにない新事実が発覚して、「そういうことだったのか!」と、プレイヤーはもちろん主人公ですら驚愕するような大どんでん返しは、基本的にはNGなんですね(笑)。
ドラマなどではよくあると思いますし、『JUDGE EYES』でもそれが絶対にないとは言えませんけど。なので後半は、事前にあらかじめ謎がすべて解かれたうえで、巨大な権力をひっくり返そうとしている八神たちが、どう立ち向かうかを描くことに注力しました。
――“リーガル”という部分でのおもしろさをそこで際立たせると。
吉田:そうですね。例えば最後の法廷シーンでは●●が現れるのですが、あのシーンに行く前に八神はすべての真実がわかっているわけです。でもプレイヤーにはそれがわからないようなシーンの流れになっています。
――モグラと同じフードを被った男が出てきて……というシーンをいったん切って、裁判シーンへという部分ですね。
吉田:はい。あれはそういう事情ですね。
――ラストの裁判&最終バトルは、グラフィック・演出を含めてかなり盛り上がりました。それぞれのパートを担当された方が力を入れられた部分だと思いますが、こちらはいかがでしたか? 創薬センターの雰囲気作りという部分は、すごく印象に残っています。
染屋:クライマックスのシーンなので、これまでの流れをしっかり締めくくれるようなロケーションとして、創薬センターを清潔感もありながら、怖さも感じられるような場所にと考えながらデザインしていきました。
――バトル中での天候の変化というのは、最初から考えられていたのでしょうか?
染屋:最初の段階ですと、雨も降っていなくて雷も鳴っていない設定でした。ただ、プレイしてみたら「つまらないね、寂しいね」というところから、途中で雨や雷を追加した形です。
上原:背景班とも話していたのですが、今までの『龍が如く』でもあった見せ場のバトルでは、たいてい屋上とかヘリコプターの発着場とか、見栄えのする場所でバトルをすることが多かったんですよ。あと、ビルが爆発するとか(笑)。
だから「ラストで盛り上がりたいよね」という話をしたときに、先ほど染屋が言っていたように“雷を鳴らして、ストーリーの展開に合わせて背景も変化したらおもしろいのでは”と話をしました。作りながら変わっていったような感じですね。
――たしかに段階的に追いかけて爆発があって、盛り上がるポイントが要所にあって、最後に対決という展開は、クライマックス感がありましたね。よりドラマ的な演出というか。
染屋:組み上げてみたらうまくはまった感じです。
――八神というキャラクターを構築する際、仕草やセリフなどの表現で意識された部分はありますか?
吉田:例えばドラマですと『半沢直樹』のように「倍返しだ!」的な決めセリフがありますよね。ああいうのがあったほうがキャラはすごく立つと思うんですよ。だから八神にもそういうのがあったほうがいいのかという話もありましたが、逆にすごく嘘くさくなってしまって。いわゆるクセとしてやってしまうこととかは、とくに設定はしていません。
それよりも、ドラマのなかで八神だったらこうするだろうという、感情の動きみたいなものを出そうとしました。一番わかりやすいのは、拳で解決するのではなく、彼なりの探偵としての解決法を必ず捜すということじゃないですかね。
弁護士としても源田先生の手腕を学ぶ、というサイドケースがありましたが、八神がぼったくりバーで被害にあったら「おいおい、金返せ」と殴り掛かるのではなくて、ぼったくった相手の弱みを握って……みたいな。そういうところが八神らしさだろうなと。我々も作りながら発見していった感じですね。
――そんな八神ですが、木村さんが演じるからこそ注力した部分はありますか?
染屋:表情を付けているスタッフや、体のモーションを付けてくださっているアクターの方が、これまでの木村さんの膨大なアーカイブをかなり深く研究してくださいまして。木村さんらしい動きというのを、すごくていねいに付けていただきました。
姿形だけならばCGで落とし込めば木村さんに見えるのですが、それだけに終わっていないというのは、そのあたりの積み重ねがあったからだと思います。桐生の場合だったら、「こういうシチュエーションではこういうポーズを取る」という定番のような感覚が我々のなかにあるんですよ。
ですが、同じようなシチュエーションにおいて、それを八神でやってしまうと桐生に見えてしまうんですね。だから木村さんならば、八神ならばどんなポーズが合うのかを考え、どんどん置き換えていった感じです。
――そうなると「八神はこういう人物だ」という認識がみなさんのなかで共有されたのは、けっこう時間がかかった形ですか?
吉田:全員で意識したというよりは、シーンがどんどん出てきて、スタッフ全員が見るようになって、そこで自分たちが作っているものの方向性であったりとか、落としどころだったりを、順々に固めていった感じです。
――だんだんと八神像が肉付けされて、出来上がっていったと。
福田:ただ、今回脚本の古田(剛志氏)がキャラクターのパーソナリティをまとめた資料を作ってくれていました。八神の過去や考え方、生き方、行動原理などをまとめた資料です。そのため、キャラクター性のベースは固まっていました。その軸でいえば、ライター間の統一はあり、それをベースに執筆していくなかで、よりキャラクター性が固まっていきました。
――福田さんのなかでの八神像をひと言で表すと、どういった印象ですか?
福田:頭も切れ、行動力もあり、人としての軸を一本持っていますが、一回弁護士を諦めてしまったという過去のトラウマもある……そういった“強さ”と“弱さ”の二面性のあるキャラクターだと思います。
ただ、サイドケースは“八神自身のドラマ”ではなく、“依頼人のドラマ”という要素が強いため、八神のキャラ性の描写よりも、それぞれの依頼人のキャラ性を強く描いています。そのため八神の、よりプレーンな側面が出ているかと思います。基本はクセのない王道的なヒロイックなキャラクターだと思います。そういう意味では、ゲームとしてのロールプレイを意識した、プレイヤーが自己投影しやすいキャラクターなのかなと。
――桐生が木訥(ぼくとつ)とした素直さだとしたら、八神はもう少し理性的で切れ者の素直さみたいなのがあるような気がします。桐生とは方向性の違う共感しやすさを感じました。そんな八神と対極的なのが黒岩ですが、中盤から終盤にかけてのやり取りは賞賛の声が多く聞かれましたね。
安藤:キャスティングが決まる前に各キャラクターのカラーは全部決まっていたんです。だから黒岩はああいうキャラクターとして、我々も認識していました。ただ、そこに谷原(章介氏)さんというキャスティングがハマった瞬間、一気にリアルにというか、イメージが自分たちのなかでも確立しました。善人然としていながらも、すごく不気味な雰囲気を醸し出せる方で、「なるほど、黒岩はこういうキャラクターなんだ」と。
――プレイを終えてからTVで谷原さんを拝見すると、黒岩のイメージが強くてちょっと怖く見えてしまうくらいハマっていました(笑)。取り締まり室での八神とのやり取りも、手を頭に組んでうしろを向いてとぼけるシーンが印象的で。
安藤:そこのギャップもまたグッときますよね。そこはもう谷原さんでバッチリだった思います。
――ピエール瀧さんが演じられた羽村も、当初出てきたときは単に粗暴な極道のイメージでしたが、ラストに行くにしたがって深みの出るキャラクターでした。
安藤:ピエールさんは撮影させていただいたときも、TVで観る楽しい感じのイメージそのままで、爆笑しながらやらせていただきました。ですが、映画などでは凄みのある役をやられていて、あの雰囲気はなんとか再現したいなと。
結果的にものすごくリアルな顔ができましたし、そのまま登場させるだけで説得力も出せたかなと思います。もともとストーリー上で構築されていた羽村のパーソナリティに、ピエールさんがピタッとハマッたのかなと思います。
――とくに余計な味付けをしなくても、羽村というキャラクターとして成り立ったと?
安藤:そうですね。もちろん、衣装の感じとかはいろいろ考えました。結果、「白スーツでバーンと行きましょう!」と。
――ジャージが白なのも、彼のカラーが白だからでしょうか?
安藤:そうですね。今回は東京の極道は明るめの服を着せよう、関西の人は暗めの服を着せようと、なんとなくはバランスを大雑把に分けていたんです。ユーザーさんもそこに気づくかどうかわかりませんが、無意識に感じてもらえたらいいなと。なので、東京側の人間の象徴という位置づけが羽村なので、真っ白でいいのではと思いました。
――あとは八神と一緒に行動する海藤、東、杉浦の3人ですが、印象的だったのが『龍が如く4 伝説を継ぐもの』を彷彿とさせる、神室町に乗り込むシーンです。最初からあの4人でというのは決まっていたのでしょうか?
吉田:はい。ただ、星野君がいてもよかったかも(笑)。
上原:空手の有段者ですからね(笑)。
――結局戦うところはゲーム中では見られませんよね?
吉田:見られませんね。
――ひょっとすると、あの4人のなかに星野君が入る可能性もあったのですか?
吉田:どうでしょう? 彼はもともと永遠のナンバー2を自称していて、その後彼の戦う場所は法廷だという流れがあり、弁護士として戦うという見せ場はドラマで作れたと思っています。逆に東が自然な成り行きで巻き込まれていくのがおもしろかったですね。僕個人もすごく気に入っているキャラクターなんですけど(笑)。
――何かにつけてシャルルに集まるシーンですね(笑)。
吉田:そういうところも含めて、ちょっとおもしろい4人パーティですよね。
伊東:今回バトルでは海藤と共闘するシーンが多いのですが、彼は遠慮をしないんですよ。今までの『龍が如く』のNPCはなんとなく控えめに戦っていたのですが、海藤は遠慮なく最後までガンガン殴りにいって、八神に倒させないで自分で倒しちゃうんです(笑)。
――たしかに海藤が倒してバトルが終わるというケースも多かったです。
伊東:海藤ならばガンガン行くでしょう、最後の1人になっても自分で行くでしょう、と。
吉田:これは名越からのリクエストもありました。やはり八神は桐生ほどの無双キャラクターでないし、海藤というパワフルな相棒がいるのに、なんとなくぺチペチ横で戦っていても、結局八神が頑張らなくてはならなくなる。そうなると、頼りになる相棒感が全然ないですよね。だからそこを表現するならば、こちらをお構いなしに戦うようにしてほしいと。
上原:主人公が桐生のように絶対的な強者でないことがまず決まっていたので、そこに対して自分よりも頼りになる相棒を置くことで、相対的に八神というキャラクターの限界を描くことにもつながったと思います。
――あとは発売後の反響という面でも、海藤、東、杉浦の3人が人気ですが、彼らには、八神というキャラクターを立たせるために持たせた役割のようなものはあるのでしょうか?
吉田:役どころというような、あまり機能的な形でキャラクターは作らないんです。結果的に海藤も東も極道関連の人間なので、そこからの情報収集で橋渡しになってくれています。杉浦もいわゆる電子的な情報収集であり、身軽さを生かしたスパイ的な行為の見せ場はあるにはあります。ただ、それをさせたいからキャラクターを作りましたというのではなく、ドラマを構成するなかでこういう人物がいて……という形ですね。
例えば海藤はあまり物事を深く考えずに、感情で動くキャラクターなのですが、そんな彼が何気なく「真相は●●だったのかもな」と、ハッとするようなセリフを言うシーンがあります。で「それなんじゃない?」となるわけですが、もし頭のいい杉浦などが「じつは……」みたいなことを言っても、そこに裏を感じてしまうと思うんです。海藤だからこそ「もしかして……」となります。そういう感じでキャラクターを作り上げていったので、最後まで組み立ててみてはじめて我々も「ああ、いいキャラクターになったんだな」と(笑)。
――開発陣のなかで「これは人気が出るだろう」と予想していたキャラクターは誰ですか?
冨田:安藤さんと話していたのですが、キャラクター班的には杉浦を推していたんです。でも、開発中から私は「東がかわいい」と思っていて(笑)
一同:(笑)。
安藤:それが意外なんですよね。僕や東を作った男性デザイナーは、八神がいてゴツイ海藤さんがいて、それに対する弟分として東をデザインしました。もともとはひ弱な感じだったのが、なんとかがんばって強くなっていこうというキャラクターを想像したとき、細身で少し神経質かもしれないけど、ああいった悪ぶった感じになるのかなと。
本当は女性受けというか、そのあたりの層は杉浦君の担当だったんですよ(笑)。そこは置きに行ったというか、これならばカッコイイと思ってもらえるかなと作ったキャラクターなんです。だから、こうやって東の人気がすごく上がって正直ビックリしたのと、そういった女性の心がわかっていれば、もうちょっといいやり方もあったのにと(苦笑)。だからうれしい誤算というか……、素直にうれしいですけれども「なるほどね」という感じです。
――羽村に脅されて「お前 女みてえな声出すんだな」と言われたシーンを見て、これは人気が出るなと確信しました(笑)。
安藤:あのシーンはチーム内でも話題になりました。よくこんなセリフが出てくるねと。脚本で最初に読んだときに痺れて、ピエールさんに演技をもらったときにも痺れて、最後に完成した映像を見てまた痺れましたからね(笑)。
吉田:脚本を読んで映像が完成する前からずっと東が好きでしたが、そんな反応があったので「あ、みんなやはり思うんだな。俺だけじゃなくてよかった」と(笑)。
安藤:キャラクターチームとしては、海藤さんはいろいろな方面から人気が出るだろうなと。ドロップキックが素晴らしかったです。
――八神の「いや なんかすげえな あんた!」ですね(笑)。
安藤:はい(笑)。それが見た目的にも表現できたかなと。オレンジ色のシャツなんて、普通探偵は着ないと思うんですよね。でもキャラクター性をしっかり構築するという意味で、そこは大成功だったかなと。
――あとはサブキャラクターについても相当個性的なキャラクターが多いですが、なかでもユーザーの間でツクモが妙にリアルすぎると評判ですね。かなりデフォルメされたキャラクターですが、どこかにいそうな風貌で。
福田:当初、ツクモはプレーンなキャラクターでしたが、名越の要望で、キャラ性を強化しました。八神は社交的で人間関係が広く、見た目もかっこいい人物です。それに対してツクモは、見た目も気にせず、クセのあるしゃべり方をして、自分の内面にこもる、ある種対極的なイメージにあるキャラです。そんな交わりそうにない正反対の2人が、気軽に気さくにしゃべっている絵はおもしろそうだということもあり、あえてステレオタイプなオタクキャラクターにしました。
安藤:最初のデザインでは、『007』シリーズのQというキャラクターをイメージしていました。
吉田:ダニエル・クレイグが出演しているシリーズの、ベン・ウィショーが演じているQですね。
安藤:あれだとたぶん立体に起こすとカッコよすぎちゃうんです。もう少し今の方面に寄せていった感じですね。
――設定的なリアルさもさることながら、電話に出てくるビジュアルが妙にリアルというか(笑)。
安藤:とくに腕の立つスタッフたちがデザインを担当しているので、そういったサブキャラクターもしっかりリアルに表現できたのかなと。今までの『龍が如く』シリーズは、シナリオをしっかり構築できる、役を演じられるビジュアルを強く求められることが多かったんです。
結果としてそれはどんどんデフォルメされたり、マンガ的な表現になったりしていることもありました。たとえキャラクターを新しく作り直しても、デフォルメされた表現が『龍が如く』では続いていたんです。
今回は新規IPだったので1回そこをリセットしようと考えました。ただし、しっかりとストーリーを構築できる、役者として演じられるビジュアルであることは絶対に踏襲しつつ、そのなかでもう少し写実に寄せることをキャラ班ではテーマとしていました。
吉田:開発スタッフには理想的な顔がたくさんいるんですよ。京浜同盟の悪い奴に居そうな顔が(笑)。
一同:(笑)。
安藤:バトル班が使うキャラクターなので、そこは上原の顔を使ってしまえと(笑)。開発スタッフには個性が立っている方が多いんです。じつは変態さん(変態三銃士)にもモデルがいます。もちろん、実際にあんな変態ではないのですが(笑)。
パンティ教授などはキャラ班のスタッフがモデルなんです。ものすごい爬虫類マニアなのですが、そういう物事に執着している感じがパンティ教授にも通じるものがあったので、内輪受け狙いではないのですが、これはもう使うしかないなと。たぶんユーザーの方にも伝わったのではないでしょうか。
――バッチリ伝わりました!(笑)
福田:パンティ教授のサイドケースは、顔のモデルになった本人が演出も付けたんですよ。自分がモデルになったキャラクターを、いかに変態的に見せられるかという難しい課題でしたが、ノリノリで演出をつけてくれたのではないでしょうか(笑)。
安藤:一言で、写実的なリアルさを目指すと言っても難しい部分もあります。リアルを突き詰めていくことで、記号的な特徴が薄くなってしまい印象に残りにくくなってしまうことも起こってきます。しかも昨今は3Dスキャンである程度は写実的にできるため、どこの会社も同じようなものになってきてしまいます。
“龍が如くスタジオ”はストーリーがしっかりしている作品であり、それを表現できるビジュアルをとにかく意識しています。そのなかで、写実的に寄せているわけです。我々もどんどんステップアップしていかなくてはいけないので、そのあたりはすごく気を付けました。
――そういった意味で絶妙なキャラづくりだったのは城崎さおりだったと思いますが。
安藤:ある意味ヒロイン的ポジションである真冬よりも人気が出ましたからね。名越からの注文も、真冬よりさおりのほうが多かったと思います。もう少し前髪を伸ばしてくれないかとか。
――キャラ的には地味だけども、化粧をするとまさに“化ける”みたいな。
安藤:しっかり美人さんになるのに、普段はあの格好というのをかなり意識して作りました。
――ゲーム的にキャバ嬢になったり、ハニートラップをしかけたりなどがありますが、そういう展開もわかったうえでのデザインだったのでしょうか?
安藤:そうですね。変装して潜入することは知っていましたけど、あそこまでエディットできるようになるとは思ってはいませんでした。だから大変でしたね(笑)。
――あの着せ替えはとても楽しかったです。一番プレイヤーの傾向がでるシーンじゃないかなと思います。人によって全然コーディネートが違ったので。
吉田:みんな写メを撮って見せてくるんですよね「これ、うちのさおりちゃん」って(笑)。
伊東:今までの“キャバつく”で培った技術が生かされていると(笑)。
冨田:最初は入っていなかったですよね。エディットできるようにしてほしいという話があとから来て。
吉田:細川から「ぜひ入れてくれ」って話があったんですよ。
細川:そうだっけ?(笑)(ここでプロデューサーの細川氏が会話に参加)
一同:(笑)。
安藤:ひとまず1種類くらいでいいからという話でしたよね。
吉田:「もし追加予算が発生するならば、俺がなんとかするから」と、凄まじい熱意が(笑)。
――でもこれを入れたのは英断だったと思います!
吉田:ただ、担当できる者がいなかったので、僕が仕様を書くことに(笑)。
細川:「ここにこれを入れないでどうするんですか、予算を取ってきてくださいよ」と言われたような気がするんだけど……(苦笑)。
――“キャバつく”で着替えという要素がありながら、そのあとにさおり自身を操作する展開は新鮮でした。
細川:あれは開発の終盤に差し掛かったタイミングだったのですが、名越から入れてほしいというリクエストがあって、全員に相談して頼み込みながら実装した経緯があるんです。
伊東:あれはかなり大変でした。そもそも最初はプレイヤーを変更できるような設計ではなかったですし、八神なら歩けてもスカートだとダメな場所があったりで。プログラムの修正以外にも対応しなくてはいけない部分がたくさんあったので、各方面時間がないなか大変だったのではないかなと。今、全員がすごくうなずいていますが(笑)。
――結果的にはすごく印象的に残るイベントになったのかなと。あとは着替え後に主観視点になって、全身がキャバクラに着くまで見られないところも、心にくい演出でしたよね。
吉田:細かいことですが、視点もしっかりさおりの身長に合わせて変えていたりするんですよ。だいたいイメージが共有されているので、「こういう感じでわかるよね」とスタッフに伝えたら、思った通りのものが出来上がってきました。
細川:このタイミングなので話してしまってもいいのかな。主観視点はけっこう苦肉の策みたいなところもあるんですよ。八神を操作するときと同様に三人称視点にすると、プレイヤーキャラクターとしての専用のモーションやスペックが必要になるんです。
ですが、主観視点にしてしまえば、その問題はある程度までクリアできます。なので、自分がさおりを操作するときには主観になるわけです。聞くとつまらない話ですが(笑)。
――てっきり狙っているのかと思いましたが。
細川:いや、狙っていましたよ?(笑)
――でも結果として主観で歩いていて、男性に振り向かれるという体験ができたのでよかったです。
細川:狙い通りですね(笑)。
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