2019年1月31日(木)
パッチ4.5Part.1でリターン・トゥ・イヴァリース最終章や青魔道士、ドマ式麻雀など多数のコンテンツが実装され、後半となるPart.2に向けてますますの盛り上がりを見せるオンラインRPG『ファイナルファンタジーXIV(以下、『FFXIV』)』。そんな『FFXIV』の魅力をさらに拡大してお伝えすべく、そのときどきでタイムリーな話題を追いつつ展開する開発インタビュー連載企画も、本記事で3回目となりました。
今回お話をうかがったのは、『FFXIV』の音を司る我らがサウンドディレクター・祖堅正慶氏と、サウンドチームの髙田有紀子氏のお2人。近日発売予定の2つのアルバムの聴きどころから、パッチ4.5までの音作りについてのアレコレ、さらには北米ファンフェスティバルで公開された『漆黒のヴィランズ』ティザートレーラー制作にかけた想いまで、“今この時期だから聞ける『FFXIV』の音事情”を語っていただきました!
――まずは、THE PRIMALSについてお聞かせください。昨年行われたZeppツアーの模様を収録した、Live Blu-ray“THE PRIMALS Zepp Tour 2018 - Trial By Shadow”が、2月6日に発売されます。収録されているのは大阪公演ですが、ツアー全体を今振り返ってみて、いかがでしたか? けっこう激動のスケジュールだったと思いますが……!
祖堅正慶氏(以下、敬称略):大変でしたけれど、やっぱり楽しかったですね。このZeppツアー、きちんと音響、映像、照明のチームがいまして……しっかりとしたステージを準備でき、100%のパワーで音をぶつけることができました。正直、ファンフェスティバルでは、曲数や機材などいろいろな制約がつきまとっていて“音楽ステージ”の域を出ませんでしたが、今回は“ライブ”にできたと思っています。やっと「THE PRIMALSのライブというのは、こういうことをやりたかったんだ!」というものが、初めて実現できたと感じました。そういった意味で、僕たちにとって非常に意味のあるライブになったと思います。
――髙田さん的に、THE PRIMALSとして活動する祖堅さんの様子を見て、どういう印象ですか?
髙田有紀子氏(以下、敬称略):我々部下はお手伝いできないので、「大変そうだけど、がんばってください」という気持ちで見ています(笑)。
祖堅:メインの仕事はゲームなので、それをおろそかにしてまでTHE PRIMALSの活動をするっていうのはなかなかできません。毎日、机にかじりついて仕事をしていますよ。ということもあり、ライブもたくさんはできないんですよね……とか言いつつ、昨年11月には北米ファンフェスがあって、このあとも欧州・日本のファンフェスが続いたりと、ライブ活動も激しいですが!
――札幌でのライブでは、ギターのGUNNさんがボーカルを務めた“忘却の彼方 ~蛮神シヴァ討滅戦~がお披露目されましたが、そのスタジオ収録音源を聴くことができるのも注目ですね。
祖堅:EXTRA TRACKに収録しています。これをレコーディングするとき、GUNNさんが「ほんとにやるの?(笑)」って言いながらやってました(笑)。
――札幌ライブではとても盛り上がってましたし、SNSでも話題になっていました。収録されて、個人的にはうれしい限りです。
祖堅:やっぱりGUNNさんは歌が上手ですね! ……じゃあ、日本ファンフェスでの登場も考えときます(笑)。
――おおお、楽しみです! ちなみに、もう日本ファンフェスのセットリストはできているのでしょうか?
祖堅:いえ、一度リストを組んだのですが、いろいろあって再考しています。まだ確定はしていないです。
――Blu-rayに収録された映像特典は90分の大ボリュームとのことですが、その見どころなどをぜひ教えてください。内容のアピールなどなど。
祖堅:内容か~……。トラブルがいくつかあったので、映像内でボヤいてますかね(笑)。それとじつは、名古屋公演のセットリストでのお客さんたちの反応が、僕らの思っていたイメージとはちょっと違ったんです。ステージと内容自体はすごく反応がよかったのですが、僕たちが狙っていたところと少しズレていたといいますか……。それでメンバーがけっこう落ち込んでいるところも収録されていて……映像特典はそういう、わりと人間くさい感じの内容になっていますね(笑)。
――そのときは、どういった反応を予想していたのでしょうか?
祖堅:それは、映像特典を見てもらえればわかります。そのときの反応を受けて、「明日の大阪公演はどうしよう?」と。それから、みんなで悩みながらセットリストを組み替えたりしている姿が収録されています。
あとは、ツアー初日の東京で“メタル:ブルートジャスティスモード ~機工城アレキサンダー:律動編~”でトランペットを吹いたときに、「3日前にトランペットを吹くことに決まった」と話しましたけど、これ嘘じゃないんですよ。ちょうどその日、練習スタジオにメイキングを撮影するためにカメラが入っていて、初めてトランペットを鳴らすシーンとかも入っています。なんでトランペットを吹くことになったんでしょうね?
――そのトランペットは、祖堅さんのお父さん(※1)のものですよね。
祖堅:そうですね。ただ、そのトランペットを吹くと決まるまでほったらかしにしていたので、半分錆びちゃっていたんですよ……。慌ててポリッシュを買ってきて、前日の深夜に一生懸命磨きました。天国の父に「すいません」って言いながら(笑)。
――当日は、キラキラに輝いてました。パフォーマンスといえば、ライブで披露した“人間オタマトーン”も印象深いです。
祖堅:オタマトーンの演奏についても、ディスクの本編ではなく映像特典のほうに入っています。ステージでやっているところとか、練習しているところとか。
――こちらは、企画当初からやる予定だったんですか?
祖堅:いえ、それも思いつきでして。名古屋ライブの前日、友だちとコンビニに買い物に行っているときに、店内で胡弓の音楽が流れていて。それを口でマネしてたら、友だちから「それ、オタマトーンの代わりにやればいいじゃん」と言われて、「いいね、それ!」と(笑)。そのあと、すぐにスクウェア・エニックス内の音楽出版部に連絡を入れて、「人間オタマトーンやりたいから、オタマの音符のところを作って!」と依頼しましたね。
――突貫ですね(笑)。
祖堅:思いついちゃったから、しょうがないですね(笑)。
――そういえば、祖堅さんのTwitterを拝見していたら、昨年末頃にもスタジオ入りしていたようですが、何かしらのレコーディングだったのでしょうか?
祖堅:このBlu-rayとは関係ない、何かしらのレコーディングですね。ただ、このとき収録したものがどうなるかはちょっとわかりません。じつは、GUNNさんの“忘却の彼方”もかなり前から収録していて、THE PRIMALSのファーストアルバムの時点で音源は録り終えていたんです。ですが、シヴァの音楽が3つも入っているのはどうなのか、という意見が出てお蔵入りしていました。それを、タイミングが合ったので今回のDISCに収録したという形です。
年末のものも、やれるものがあるから同時にレコーディングをしただけで、それをどうパッケージングするかはこれからですね。そもそもリリースされるのかな、どうなのかな……といったような。今は、いろいろ貯金している感じですかね。
――ありがとうございます。ひとまずLive Blu-rayの話はここまでにして、続いて北米ファンフェスの思い出話もお聞きしたいと思います。北米ファンフェスでは、“これぞロックバンドのライブだ!”という非常にテンションの上がるセットリストでしたね。
祖堅:「ファンフェスにきてくれた人たちに満足してもらえるセットリストは、どんなものなんだろう?」ということは、参加する全員が毎回必死になって考えています。最終的には、バンドメンバーや吉田(直樹氏)を交えて、毎回取っ組み合いをしながら決めますね。
――まさか吉田さんによる“天つ風 ~白虎征魂戦~”が披露されるとは思いもよりませんでした。
祖堅:(笑)。あのとき、吉田は着物で歌っていましたけれど、僕は「特攻服で出てくれ」って言ったんですよ。ですがいろいろ問題があったみたいで、実現はしませんでしたけど。
髙田:(笑)。
――実装されてわりと間もない“天つ風”と“エスケープ ~次元の狭間オメガ:アルファ編~”もセットリストに組まれていましたが、かなり過密なスケジュールで練習されたのでは?
祖堅:そうですね、実装してすぐのライブ演奏というのは、今までなかったですから。じつは、パッチ4.4リリース前からスタジオに入って練習していました。とくに“エスケープ”は、できあがった段階で「THE PRIMALSでやるべき曲だな」と思ったんです。その後、すぐメンバーたちに聴いてもらったら、彼らも「これは、やらないとダメだな!」という感じになって(笑)。
――ちなみに、「THE PRIMALSでやると映える曲にしよう」といったことを考えて作曲することはありますか?
祖堅:いえ、そういうことは全く意識しないですね。作曲する際はゲームのことしか考えていないので、“THE PRIMALSで使えそうか”は出来上がったあとに考えます。最初からTHE PRIMALSでやるかどうかを考えていたら、今の倍ぐらい制作に時間がほしいですね。BGMに関しては、本当にゲームに合うかどうかしか考えていません。
――これまで、髙田さんには個別にインタビューをする機会があまりなかったので、ぜひともいろいろなお話をお聞きできればと思います。まず、髙田さんが『FFXIV』の制作に携わるようになったのは、『蒼天編』の楽曲からでしょうか?
髙田:パッチ3.0開発時、サウンドチームが一番忙しい時期に入社しまして、そのまま開発に入りました。当時は作曲家というような肩書はなくて、名刺にはサウンドエディターと書かれていました。
――プレイヤーとしては、“髙田さんといえば、ピアノの楽曲を担当されている”という印象があります。
髙田:プレイヤーのみなさんに、そう思ってもらえるのはありがたいです。……ですが、ピアノの腕としてはじつはすごく弾けるというわけでなく、少し嗜む程度です。
祖堅:こんなこと言っていますけど、僕よりもぜんぜん弾けますよ(笑)。
髙田:いやいやいや!
――『蒼天編』『紅蓮編』のピアノ楽曲は、どのように作られたのでしょうか?
髙田:祖堅の手掛けた昼のフィールド曲ができ上がりしだい私に渡されるので、それをアレンジする形です。納期はタイトですが、1日1曲ぐらいの余裕はありました。
――余裕がある場合でも1日1曲ペースなんですか……!
髙田:そうですね。『蒼天編』も『紅蓮編』も、納期に向けてただひたすらにピアノアレンジを考えて作っていく感じでした。
――楽曲の発注は、髙田さんに直接送られてくるものなのでしょうか?
髙田:いえ、いったん祖堅が全部まとめて、「髙田、これ頼んでいい?」というように発注を下ろしてもらう感じです。
――ナマズオの神輿マウントのときも、かなり活躍されたと聞きました。
祖堅:あのときは発注があまりに多すぎて、発注側が「これは多すぎる」とセルフストップをかけていたんです。そんなときなのに、あんなおもしろいマウントを用意していて。僕が「なんで、このマウントの音楽が発注にないの?」と聞いたら、待ってましたとばかりに「え、いいですか?」と言い出して。「あ、そういうこと?」みたいな(笑)。
さすがにそのとき僕は手一杯だったので、髙田に「できる?」って聞いたら「もにゃもにゃもにゃ……」と口を濁していたので、発注側に「大丈夫です、やります」と伝えておきました。
髙田:あのときは、ナマズオ愛で乗り切りました(笑)。
――祖堅さんは、以前“ゲームのことを考えて、それに合うものを考えるとアイデアが降りてくる”とお話していました。その点で、髙田さんの曲の作り方はいかがですか?
髙田:私はダンジョンの曲を担当することが多いのですが、バトルをする道中であることを意識しつつも、ダンジョンの雰囲気を大事に考えて作っています。例えば、最初にダンジョンに突入したときのムービーが明けるタイミングですね。このときに、ダイナミックな曲調で始まるべきなのか、逆に静かに曲が流れているべきなのか……など、ダンジョンに突入して初めて耳にする曲の印象はとても気をつけています。
――コンテンツとして、ダンジョンと曲を合わせたうえでさらに調整も行うことはあるのでしょうか?
髙田:ダンジョンや曲がある程度できあがったら、デバッグ環境で実際にダンジョンをプレイします。そのうえで、最終的なアレンジの方向性の詰めを考えますね。
――ちなみに、祖堅さんは髙田さんの作ったものに対するチェックも行っているのでしょうか?
祖堅:昔はある程度口出しはしていました。ですが、最近では『FFXIV』のゲーム性や物語もしっかり把握していますし、プレイヤーが置かれている状況がどういうものなのかまで考えて作れるようになっているので、基本的に髙田にすべてまかせています。Mixバランスやアーティキュレーションなど、テクニカルな部分の指摘はしますが、音楽そのものに対しての指摘は、今はほとんどしていません。
――最近のダンジョンだと、パッチ4.5で追加された“境界戦線 ギムリトダーク”のBGMも、髙田さんが担当されているのでしょうか?
髙田:はい、私です。
――この曲は、『紅蓮編』のいろいろなエリアの曲がきれいに取り入れられていて、“紅蓮の総集編”という印象を受けました。実際の発注は、どのような内容だったのでしょうか?
髙田:「帝国との戦争なので、帝国らしさは挟んでほしい」というオーダーがありつつ、パッチ4.Xラストのダンジョンなので、総集編にしたいという個人的な思いも織り交ぜています。また、ダンジョン自体が暗いエリアなので、曲を単調にしてしまうとプレイヤーの方がツライだろうなと考えました。そういったもろもろの考えから、曲は展開を多くしてドラマチックに仕上げ、プレイヤーのみなさんに楽しんでもらえるように意識して作っています。
――ちなみに、ダンジョンの曲はどのあたりから髙田さんが担当するようになっているのでしょうか?
髙田:拡張パッケージではなく、大型アップデートで追加されるダンジョンは、私が手がけています。
――となると、4.0で実装されたダンジョンの“悪党成敗 クガネ城”は祖堅さんですか?
祖堅:ああいう、うるさいやつはだいたい僕ですね。
――個人的な話で恐縮ですが、マウント・絶地(※2)がお気に入りでして……。絶地のBGMが“悪党成敗 クガネ城”なので、いつも暴れん○将軍の気分を味わっています(笑)。
祖堅:あれはですね。あんな目立つマウントなのに専用曲が付いていなくて、「なにか付けないの?」と聞いたら案の定「いいんですか?」と(笑)。それで、ダンジョンと関係ないけれど、コレが一番合うよねということで“悪党成敗 クガネ城”のBGMを付けました。そのときに、「海外の人はわかるかな?」という話にもなったんですが、「時代劇だし、大丈夫でしょう」となりました。
――乗って少したったあとに入る「テテッテッテテー♪」というイントロがとてもお気に入りです。
祖堅:殿っぽくて、いいですよね(笑)。「控えおろう!」みたいな。暴れん坊ヒカセンですね。
――話は戻りまして、髙田さんが手がけてきたピアノ楽曲も多数収録されている“Piano Collections FINAL FANTASY XIV”が、3月6日に発売予定となっております。本作の楽曲は、9月に発表された人気投票の結果も踏まえての選曲になっているのかなと感じました。実際は、どのように選曲していったのでしょうか?
祖堅:ピアノは、吉田の推薦以外は僕の独断で決めたものが多いですね。
――選曲は、パッチ4.3時点でのものなのでしょうか?
祖堅:そのくらいだったかな。ピアノオンリーのアルバムを出すという構想自体は、2枚目のアレンジアルバム“Duality”を出したころからありました。ただ、定期的にアルバムを出している関係上、なかなか実現には至らなかったんです。今回、やっとタイミングが合ったたので出すことができる感じですね。
――髙田さん的に、感慨深い音や曲はありますか?
髙田:じつは、自分の作った曲がどうこうという感情はあまりないんです。というのも、このアルバムのアレンジ&演奏は、Keikoさん(※3)が担当されていて、我々が作れる範疇を超えたアレンジになってくるので、純粋に聴き手として「スゴイなぁ」という思いが先行してしまうんです(笑)。
――以前、Keikoさんのアレンジについて、祖堅さんは「Keikoさんにアレンジをお願いすると、譜面が真っ黒になって返ってくる」と話していましたね。
祖堅:それを見て「こんなん、弾けないでしょ」と思いながらもレコーディングを迎えるんですけど、普通に弾いているんですよね。じつはKeikoさんはロボットなんじゃないかな! すごいですよね、ほんと。
髙田:「何を食べたら、こんなにピアノが上手くなるのかな」といつも祖堅が話していますが、本当にただただ感服しています。また、こんなに素敵なものを作ってもらえて感謝の気持ちが大きいです。なんだか、いちリスナーになっちゃいますね。
――お2人的に、“Piano Collections FINAL FANTASY XIV”ならではの推しポイントと、ピアノならではの魅力をお聞きできればと。
祖堅:お先にどうぞ。
髙田:えっ!? ……わ、わかりました。いくらピアノになったとしても、原曲とまったく同じものを弾いても代わり映えがしないですよね。今回のKeikoさんがやってくださったアレンジというのは、ゲームの中とはまったく違うものになっています。本当に楽しんでいただけるものになっているので、ぜひ聴いてみてください!
祖堅:ピアノはメジャーな楽器ではありますが、計88鍵で高音から低音まで出せるという意味では、珍しい楽器なんですよ。ほかの楽器ですと高低のどちらかしか出ないことが多くて、だからオーケストラではさまざまな楽器が集まって大人数で演奏して、やっと1つの音楽を作り上げるんです。なので、ピアノという楽器1つでアレンジをし切るというのは、かなり難度が高いことだと思うんです。その人のセンスが問われるというか。
僕からKeikoさんに発注する際には、「1曲のなかに、動いているところと静かなところを必ず入れてほしい」と伝えています。そんなオーダーに対して、Keikoさんのアレンジ力が、このピアノコレクションズですごく表現されています。華やかなところと、激しいところと、繊細で折れちゃいそうなところ。1曲のなかでこれだけいろいろな表現をできるというのは、ピアノのアルバムとしてもとても珍しい内容だと思いますので、そんな部分を聴きながら楽しんでもらえるといいなと思います。
また、『紅蓮編』で主となっている“クガネのテーマ”がありますよね。あのクガネの尺八を吹いてもらった演奏者さんにホール入りしてもらって、ピアノと尺八のコラボ音源を収録しました。この2つだけの楽曲というのは、すごく珍しいものだと思うので、絶対に聴いてもらいたいですね。とてもいいものになっています。イヤなことがあってもきっと浄化されますよ。ふぁあ~~って(笑)。
髙田:傍で聴いている私たちのほうが感動しましたからね。すばらしかったです。
――ここからは、ゲーム内に戻ってパッチ4.4~4.5のお話をお聞きしていきます。パッチ4.4で実装された“次元の狭間オメガ:アルファ編”の楽曲は、とくに3~4層がとてもカッコよくてテンションが上がりました。以前、3層の“エスケープ ~次元の狭間オメガ:アルファ編~”が祖堅さんの一番のお気に入りという話をお聞きしましたが、今でもそうなのでしょうか?
祖堅:じつは、新しいお気に入りが出そうですね。何かは言わないですけど(笑)。
――“エスケープ”を作っていたころは、コージさん(※5)がよく口ずさんでいたという話をお聞きしました。祖堅さん的に、“エスケープ”ができた当初のテンションはいかがでしたか?
祖堅:僕は、曲ができ上がったあとに、会社の行き帰りの通勤電車の中でモニタリングするという作業を必ず行います。バトルしている間は、SEがドッカンバッキン鳴っているじゃないですか。雑踏のなかで曲を聴くと、そのコンテンツのなかで曲を聴くイメージと近いものがあるんです。もちろん、“エスケープ”もモニタリングしていましたが、単純に好きで、ついついヘビロテしていました。
――ノリがいい曲なので、気がつくと頭の中をぐるぐるしてますね。
祖堅:「アルファ編3は楽しい」という声のなかに、「BGMの影響が大きい」という意見をたくさん見て、「レイドの楽曲というのは、いろいろ考えないとダメだな」とあらためて思いました。反省点もあって、アルファ編2の曲のイメージが、心が折れそうなほど暗いじゃないですか。あれは要反省ですね。
――アルファ編4で流れる“心を持たぬ者”“空より現れし者”ですが、これは今までの総まとめとしてのオメガとの戦いをイメージして作られたのでしょうか?
祖堅:“次元の狭間オメガ”は、過去のFFシリーズ楽曲のアレンジメントが主となっていて、オリジナルはあまり存在していなかったんです。そんなレイドの最後を飾るオメガ戦はどうするかと話し合っていたときに、「BGMの引用元は『FFXIV』がいい」という意見が企画チームから上がってきました。
また、そもそものオーダーとしてアルファ編4は集大成の感じを出したいというものがあったので、だったら『FFXIV』の集大成にしようと。そこから話を詰めていく流れで、「“神なき世界”と“天より降りし力”のフレーズを入れたい」という意見も取り入れつつ、あのような形になりました。
――あえて無邪気に言ってしまいますが、“心を持たぬ者”“空より現れし者”のピアノアレンジも聴いてみたいです!
髙田:あれを!?
祖堅:うぅ~~ん……、やるならオーケストラのほうがいい気がしますね~。やれるかどうかは、わかりませんが!
――話は変わって、四聖獣奇譚のBGMは、ほかのコンテンツと比べて独特な趣があるものが多いと感じました。以前のインタビューで、「和ものの楽器をスパイスとして使うことで表現の幅が広がって、楽しくなってきた」とおうかがいしましたが、パッチ4.5の“青龍征魂戦”についてはいかがでしたか?
祖堅:オーダーとしては、“鬼神ズルワーンと同じように歌がないインストもので、かつテンポが早い和風の音楽”というものでした。「なにをムチャクチャ言ってんの!」みたいな感じですよね(笑)。
実際の制作ですが、今までは直感的にドーンと作っていた楽曲が多かったのですけど、“青龍征魂戦”は論理的に攻めた形の曲作りでした。コード進行も途中でわざと引っかかるところを作ったり、ベースがルートを外れてひたすら動いていたり、相当練習しないと弾けないようなピアノが入っていたりします。そういう意味でも、すごくテクニカルな要素をたくさん入れていますね。じつを言うと、作り始めはほかの征魂戦ほど“和”を意識してなくて。最終的に「奇跡的に和モノになったね」みたいな感じなんですよね(笑)。
――個人的には、白虎はこぶしの効いてそうな雰囲気、朱雀はきらびやかな曲、青龍は演劇やミュージカル的……といった印象がありましたが、やはりそういったイメージを先に持ちつつ作曲しているのでしょうか?
祖堅:そうですね。蛮神戦の曲は蛮神に由来しているので、蛮神のビジュアルイメージやバトル内容に紐づけています。プレイヤーのみなさんにそう感じてもらえたのなら、個人的にも「よかったー」と胸をなでおろすところですね。
――同様にパッチ4.5で実装されたドマ式麻雀のBGMですが、NPC戦はゴールドソーサーのBGMでありつつ控えめですよね。
祖堅:“静かな雀荘で何らかのBGMが流れているなかで落ち着いて打てる”みたいな感じのテイストにしています。とはいえ、あのBGM自体はほかのミニゲームでも使われているものなので、そこまで大事ではなかったです。要は、ゴールドソーサーのBGMそのままでは落ち着かないので、ドシっと落ち着いて打ちましょうということで、今回のBGMを設定しています。
髙田:ちなみに、対人戦ではドマ城の特設会場に飛んでいくので、ドマ城の麻雀アレンジ曲が流れるようになっています。
――なるほど、あそこはドマ城だったんですね。ほかに、祖堅さん的なパッチ4.5の聴きどころがあればぜひ教えてください。
祖堅:やっぱり、メインシナリオなどでクライマックス感が随所に出ているのを味わってもらいたいですね。あとは、アライアンスレイドの曲数もけっこう多く、カットシーン込みで表現の幅も広がっていると思うので、そこにも注目してもらえればと思います。
まぁ、聴きどころというか、コンテンツがめちゃくちゃたくさんあるので、いっぱい遊んでもらえればうれしいですね。もうね、パッチ4.5みたいなコンテンツの量を毎回制作していくのは、無理ッ!「これをずっと続けてください」と言われたら、僕は逃げます(笑)。それぐらい、パッチ4.5はしんどすぎましたね。
――本当に大ボリュームで、開発チームのがんばりがうかがえます。
祖堅:あと、パッチ4.5に限った話ではないですが、じつはサウンド環境の改善とかも少しずつ進めてきていました。例えば、マウント曲への蓄積されたリクエストをある程度消化したり、ゴールドソーサーのBGM自体も少し小さくしたり、とかですね。
――オンラインゲームなので、サウンドも生き物のように変化していくんですね。
祖堅:そのエリアを初めて訪れたときの印象を大きくするために、初回はBGMを他エリアより少し大き目に鳴らしているんです。ですが、行き慣れてくるとうるさくなってくるので、パッチごとにボリュームを少しずつ落としていったりします。パッチ4.5ともなると“最終的にこうしたい”というバランスで調整して、「金輪際触らなくても、しっかりバランスが取れています!」みたいな。気づく人が気づいてくれればいいのですけど、居心地のいい空間にできるように、日々サウンドを更新しています。
――言われてみれば、クガネのBGMも小さくなっている気がします。では、少し気が早いかもしれませんが、パッチ4.4以降の楽曲が収録されたサントラはいつ頃になるでしょうか……?
祖堅:この間、パッチ4.4と4.5でサントラに入れるべき曲がいくつあるかを数えたら34曲もありまして。意外と多くて、どうしようかと思っています。仮に、『漆黒のヴィランズ』のサントラが出たときに一緒に入れようとすると、ボリュームが大変なことになりそうですし……。
なるべく早く出したいのですが、ちょっと考えます……って感じですかね。『紅蓮編』側だけでも出せるなら出したいとは思っているんですけど……。そっちのほうがいいですよね? ただ、通常のサントラと考えると曲数が少ないので……。プレイヤーの皆さんの意見を聞いてみたいです。
――たしかに、バランスが難しそうです。
祖堅:あと、最近はPS4を持っていない……要は、Blu-rayの再生機器を持っていないプレイヤーさんから、「サントラを買いたいけど再生できない」という声も多くて。そこは、どうにか解決したいと思っています。
映像作品であることを活かしつつ、なおかついつでもどこでも見られるようなメディアに対して、商品展開できるようにしていきたいと思っているんです。次のサントラは、そういったところまで見据えて考えているので、もう少しお待ち下さい。
――北米ファンフェスのときに、吉田さんが「祖堅がティザートレーラーのBGMについて戦々恐々としていた」とお話していました。具体的に、どういったところに不安を感じていたのでしょうか?
祖堅:拡張パッケージのティザートレーラーというのは、そのタイトルのメインPVみたいなものじゃないですか。今までオーケストラで表現してきたメインPVを、オーケストラでないもので表現するというのは、かなりのチャレンジでして。
髙田:じつは、歴代の『ファイナルファンタジー』ナンバリングタイトルのメインPVで、オーケストラ以外を使ったことはないんですよ。
――言われてみれば、たしかにそうですね。
祖堅:なので、ものすごくプレッシャーがありました。ただ、あの世界観とこれからのストーリーラインを表現する音として、“今回はオーケストラはふさわしくない”と思ったんですね。それで、「『ファイナルファンタジー』は挑戦するタイトルだから、挑戦させてくれ」と吉田に相談したら、「そんなに言うなら、トライしてみて」と返事をもらえて。それを受けて実際に作ってみたら、「めちゃくちゃいいじゃん!」という反応が返ってきました。
ただ、そう太鼓判を押してもらっても、歴代作品のセオリーに反する行為に対して“いいのかな”という思いは、自分の中ですごく……すごくありました。また、プレイヤーさんのなかにも“『ファイナルファンタジー』というイメージ像”があるはずです。そこに、ちゃんと入っていけるかどうかというのが、不安でたまらなかったんです。だから、公開する1~2分前まで、ラスベガスのステージの袖でドキドキしていました。
――蓋を開けてみると、プレイヤーさんにも大好評でしたね。
祖堅:音楽がいいと言ってくれる方がすごく多くて、とてもうれしかったです。映像から感じられる新拡張パッケージの世界観と音の印象がマッチして、いい方向に転がっていきそうな予感がしました。チャレンジといえば、インゲームで使われているジョブチェンジの音をティザートレーラーの中に積極的に入れていくというのもそうですね。
――ギターメインのBGMが渋く響いているなかでジョブチェンジしつつ戦っているあの画がとてもカッコよくて、期待感を煽られました。
祖堅:カッコよさはあるけれど、切ないというか、“まったく歯が立たない……!”無力感、というか。あの雰囲気を出したかったんです! 必死に耐え抜くというか。あの空気感はオーケストラではできなかったので、やれてよかったかなと。これからも、要所要所でこういったチャレンジをしていこうと思っています。
――ティザートレーラーのBGMで、とくにこだわったところはどこですか?
祖堅:ティザートレーラーの曲は、ずっと短調で進んでいくんですよ。ずーーっと短調で、暗黒騎士になって大剣をガツンと担ぐ瞬間だけ長調になり、最後にタイトルが出る頃にはまた短調に戻るんです。ずーーーっと短調で攻めて、一瞬だけ長調になる……こういう表現って、あんまりないよね?
髙田:そうですね。初めてかもしれないです。
祖堅:華やかなPVなのに、ずっとダークな短調でやっていくみたいな(笑)。
――私もですが、そのダークっぽい雰囲気が好きという人は多いと思います。ちなみに、『蒼天編』はハイファンタジー、『紅蓮編』はオリエンタルな印象の楽器の音・雰囲気があります。そういう流れでいうと、『漆黒のヴィランズ』で祖堅さんはどういう楽器・雰囲気に注目してもらいたいですか? やはりギターでしょうか?
祖堅:そういう意味でいうと、ギターというよりむしろパーカッションかもしれない……とだけ(笑)。“打楽器”という印象でもないんですけどね。言っちゃうとアレなので、言わないでおきます(笑)。
――そういえば、ティザートレーラーに登場するグレムリンの声は、どなたかの肉声だという話を聞いたのですが……?
祖堅:グレムリンの声は、「グローバルトレーラーなので、各言語に対して共通して使えるモンスターボイスをお願い」と言われまして。最初は、ライブラリにある音源を加工して、モンスター的なボイスをいくつか作って映像に合わせてエディットしたんですが、どうもハマりが悪くて。効果音を担当している僕の後輩が、ある日突然「家の押し入れに籠もって録ってきました!」と、あの音源を持ってきまして。
ハンディレコーダーで、1人寂しく一生懸命押し入れで録ってきた音源をエディットし、喜怒哀楽のボイスを作ってトレーラーに乗せてくれました。当人は、「これでいいんですかね?」なんて言っていましたが、ムービーの定例会に持っていったら「お、これでいいじゃん」といった反応で。なので、グレムリンの声はソイツです(笑)。効果音の現場は、けっこうそういう個人プレイが多いんですよ。
――では、最後に欧州ファンフェスやパッチ4.5 Part.2といった一連の流れを楽しみにしているプレイヤーの皆さんに向けて、メッセージをお願いします。
祖堅:お先にどうぞ。
髙田:あっ! ……えーと、が、がんばります!
祖堅:(笑)。先ほどの話で言う“『紅蓮編』のオリエンタルな色”は、このパッチ4.5で締めくくりを迎えます。サウンドもそういう方向の音楽は一度区切りを迎えるので、ぜひ聴き逃しのないように楽しんでもらえればと思います。パッチ4.5はコンテンツがとにかく多く、遊びの幅が広がっていると思うので、のんびり遊びつつ、それに付いているサウンドも楽しんでもらえれば幸いです!
ファンフェスに向けては、欧州ファンフェスがありつつ、“THE PRIMALS Zepp Tour 2018 - Trial By Shadow”や“Piano Collections FINAL FANTASY XIV”のDISCが発売されていきますので、そちらもよろしくお願いします。過密なスケジュールなので確定したことは言えないですが、もしいけるなら5.0がくる前に“何かもう1つ音楽で何かを発信できたらいいな”と思っています。
――お忙しいところ、ありがとうございました! 5.0も楽しみにしています!
祖堅:5.0はまだ話すには早いので、もうちょっとしたらまたインタビューにきてください(笑)。
※1:祖堅方正氏/元NHK交響楽団首席トランペット奏者。
※2:絶地/ディープダンジョン・アメノミハシラで手に入る馬のマウント。
※3:Keiko氏/多方面で活躍するピアニスト。ファンフェスでのライブや過去のアレンジアルバムなど、『FFXIV』関係の仕事にも数多くかかわる。
※4:マイケル・クリストファー・コージ・フォックス氏/『FFXIV』ローカライズディレクター。THE PRIMALSのボーカルの1人。
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IMAGE ILLUSTRATION: (C) 2016 YOSHITAKA AMANO
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