2019年2月26日(火)

『FFXIV』祖堅氏、ピアニストKeiko氏、尺八奏者・辻本好美氏も参加! Piano Collections収録レポート【電撃PS】

文:電撃PlayStation

 遡ること約5カ月、2018年9月中旬……オンラインRPG『ファイナルファンタジーXIV(以下、『FFXIV』)』がパッチ4.4アップデートを目前に控えたとある日。関東圏にあるコンサートホールに『FFXIV』のサウンドディレクター・祖堅正慶氏とスクウェア・エニックスの面々が集い、2日間に渡って何らかの収録が行われました。当時は「まだ詳細はいっさい言えないのですが……取材に来ませんか?」とだけ伝えられていたこの収録、後日明らかになったところによると、なんとその正体は3月に発売を迎える“Piano Collections FINAL FANTASY XIV”の収録だったのです!

『ファイナルファンタジーXIV』(FF14)

 ……というわけで、ようやく詳細が明らかにされた今このとき、9月に現地へ赴いた際のフォトレポートに加え、レコーディングに参加していた祖堅さん&ピアニストのKeikoさん&尺八奏者の辻本好美さん(※編注:辻の字は正しくは一点しんにょうのもの)の3者インタビューをお届けいたします!

 2018年9月当時のお話とはいえ、パッチ4.4楽曲について、“ファイナルファンタジーXIV ファンフェスティバル 2018-2019”について、そしてもちろん3月発売のピアノアレンジ盤の魅力についてまで話が及んでいますので、楽しみにしている方はぜひチェックしてみてください!

『ファイナルファンタジーXIV』(FF14)

コンサートホールに鳴り響くピアノ、そして尺八の音色――幸せ空間潜入レポート

 ほぼ一日がかり×2日間に渡って行われた今回の収録は、上質な音響を楽しめるコンサートホールの中で行われました。今回演奏された曲はPiano Collections FINAL FANTASY XIV公式サイトにも記載された名曲の数々。場内ところどころにマイクが並び、祖堅さんがさまざまな場所に立って音をチェックしていた……ということは、やはり5.1chでも収録しているということでしょうか。

『ファイナルファンタジーXIV』(FF14)
『ファイナルファンタジーXIV』(FF14)

 Keikoさんによる演奏はとても情感豊かで、ゲーム内でなじみ深いメロディーといえど、どの曲も全く異なる表情が垣間見えます。例えば“宵の海 ~紅玉海:夜~(Westward Tide)”なら、序盤のしっとりとした曲調からだんだんと波にゆらり揺られるようなリズムに変わっていくといった、聴いていて心躍るアレンジが施されていました。そんな演奏を、お客さんのいない大ホールで、しかも間近で聴くことができたわけで……なんというか、感無量。

『ファイナルファンタジーXIV』(FF14)
『ファイナルファンタジーXIV』(FF14)
『ファイナルファンタジーXIV』(FF14)
▲Keikoさんがピアノを演奏し、祖堅さん&髙田有紀子さんがそれを別室でチェック。プロの緊張感があふれた現場です。

 こちらは、祖堅さんと髙田さんによるピアノ特訓中(?)の1コマ。スマホで手元動画を撮りつつ練習していたようです。古傷 ~ギラバニア湖畔地帯:夜~(Old Wounds)をはじめ印象深い数々のピアノ楽曲を手掛けた髙田さん、そして祖堅さんにピアノコレクションズの魅力について尋ねたインタビューはコチラに掲載されていますので、ぜひチェックしてみてください。

『ファイナルファンタジーXIV』(FF14)

 収録2日目には、尺八奏者として世界を舞台に活躍する辻本好美さんも合流。曲目は言えないながら、「尺八が入るだけでこんなに音に厚みが出るのか」と率直に驚くくらい圧巻の演奏を見せてくれました。ちなみに、この曲をKeikoさんと辻本さんが合わせたのは本日が初とのことですが……とてもそうとは思えない調和っぷり。祖堅さんと「ここ、こういう感じにしたくて」と打ち合わせた直後にそれをサラッと演奏で実現してしまうあたり、トップクラスのプロの力量が垣間見えました。

『ファイナルファンタジーXIV』(FF14)
『ファイナルファンタジーXIV』(FF14)
『ファイナルファンタジーXIV』(FF14)
『ファイナルファンタジーXIV』(FF14)
『ファイナルファンタジーXIV』(FF14)

※Keiko(写真左):日本を代表するピアニストの1人。『FFXIV』では、“From Astral to Umbral”“Duality”でピアノアレンジを編曲・演奏しているほか、2016年に日本で開かれた東京ファンフェスティバルでもピアノコンサートで楽曲を見事に奏で、多くの観客を感動させた。

※辻本好美(写真右):和楽器・尺八で洋楽も含むさまざまな楽曲を演奏し、世界的な知名度を得ている奏者。アメリカ、フランス、ドイツなどなど世界各国から招聘され、海外で多数の公演を行ってきた。『FFXIV』では、『紅蓮のリベレーター』の楽曲で尺八パートを担当しているとのこと。

“Piano Collections FINAL FANTASY XIV”収録曲一覧

・静穏の森
Serenity
・水車の調べ
Wailers And Waterwheels
・灼熱の地へ
To the Sun
・希望の都
A New Hope
・西風に乗せて
On Westerly Winds
・偉大なる母港
I Am the Sea
イマジネーション ~蒼天聖戦 魔科学研究所~
Imagination
・彩られし山麓 ~高地ドラヴァニア:昼~
Painted Foothills
・国境なき空
Borderless
・不吉なる前兆
Ominous Prognisticks
・英傑 ~ナイツ・オブ・ラウンド討滅戦~
Heroes
・雲霧街の夜霧 ~イシュガルド下層:夜~
Night in the Brume
・紅の夜更け ~クガネ:夜~
Crimson Sunset
・古傷 ~ギラバニア湖畔地帯:夜~
Old Wounds
・龍の尾 ~神龍討滅戦~
The Worm's Tail
・宵の海 ~紅玉海:夜~
Westward Tide
・万世の言葉 ~禁書回収 グブラ幻想図書館~
Ink Long Dry

収録を終えた祖堅さん&Keikoさん&辻本さんにインタビュー!

※本インタビューは9月の収録時に行われたものです。実施時点では「何の収録なのかはまだ詳細は教えられないので」と言われていたため、多少ぎこちない内容になっておりますが、ご容赦ください。

――さて、今回のインタビュー……現時点では“何のために何の曲の録音をやっていたかは言えないけれどお話だけはうかがう”というややこしい趣旨なわけですが……。

祖堅正慶氏(以下、敬称略):俺と、Keikoさんと……さらには尺八奏者の辻本さんまでいますからね。でもこれ“尺八奏者”って自己紹介しちゃったら、もう何の曲をやってるかわかっちゃうかな?(笑)

――どうでしょう(笑)。でも、尺八が入っている楽曲っていったら思い浮かぶのは……。

祖堅:うーん。いや、いくつかありますよ。尺八より高い音の出る、尺八に似た楽器とか。辻本さん、あれなんていう楽器でしたっけ。篠笛?

辻本好美氏(以下、敬称略):篠笛は横笛のやつですね。尺八は、一口に尺八と言っても長さ違いの種類がいろいろあって、出る音も異なりますよ。

祖堅:あ、じゃああれも尺八の一種なのか。じつはエディットに使う尺八の音源はファイル名が中国語なので、どれがどんな種類なのかよくわからないんですよね。まあ、ということはやっぱり尺八を使っている曲は複数あるはず。つまり尺八と言ってしまっても何の曲かはわからない! だから辻本さんは、「尺八奏者の辻本です」って堂々と名乗っても大丈夫!

――よかった! とはいえ今回の全貌が明らかになるのはまだ先とのこと。なので……聞き方が難しいですね。えーと、今回はどういった趣なんでしょうか?

祖堅:収録です! 何かの!(笑)

――で、ですよねー!

祖堅:ピアノも収録いたしました。プロの方にも来ていただいてね。

――『FFXIV』で“プロのピアニスト”といえば……ピアノアレンジ盤でおなじみKeikoさんですね?

祖堅:どこまで言っちゃっていいんだろうか(笑)。はい、Keikoさんです!

Keiko氏(以下、敬称略):(笑)

――今回の録音現場は、“Duality”のときの録音と同じ音楽ホールとお聞きしました。音の響きなど、久々に来てみていかがでしたか?

Keiko:今回録音した音からは、弾いてるときに自分で聴こえる音とはまたぜんぜん違った音が聴こえるんだなと感じました。実際に弾いているときはもちろんダイレクトに音を聴いているのですが、場内いろいろなところにマイクが立っているので、客席で聴いているみたいな気分になれる音の録り方だなぁ、と。すごく響きがよいので、心地よく寝られるアルバムになると思います(笑)。

祖堅:とくに、観客席の後ろのほうにある5.1chマイクが相変わらずスーパー快眠マイクですね。心地よい。α波がめちゃくちゃ出ます。

――ということは前回と同じく音源がいくつかあって自由に切り替えられるような形に……?

祖堅:そこまで言っちゃうと情報出しすぎ……?(笑) まあ、そのつもりで録ってます。ステレオと、5.1chが2本の3stream。なので毎回録音が大変です。「ここを繋ぎましょう」って言っても、3本の音を確認しないといけない。

(ちなみに、今回の「Piano Collections FINAL FANTASY XIV」はCDでのリリースとなっている為、5.1chは収録されていない。ということは……?)

――祖堅さんが何カ所か立ち位置を変えてチェックしていたのも、その音を確認するためですか?

祖堅:ええ、位置によって音が全然違うので。このホールはとくに手前と奥で音がぜんぜん違いますね。

Keiko:そうですね。聴いていてそう思いました。

祖堅:ステージの奥側がけっこういい音だったので、最初はそこにマイクを1本置いていたんです。だけどそうすると今度は反射板とかの都合で音が濁っちゃって。「うまくいかねえな」って言いながらいろいろ試し、いいところを見つけて、今回はそこにマイクを立ててやっています。……どこに立てたかは内緒です(笑)。

――前回はたしか場内にドローンを飛ばそうとして会場側にNGを食らったということでしたが……今回もそういう試みはあったのでしょうか?

祖堅:いや、前回怒られたのでやめました(笑)。

Keiko、辻本:(笑)。

――そういえばピアノアレンジ盤は“Duality”以来になるんですね。その間、祖堅さんとKeikoさんのお2人は『FFXIV』関連でいくつか共通のお仕事があったと思いますが、いかがでしたか?

祖堅:“Duality”以来っていうと2年ぶりですね。まあでも、Keikoさんの場合だと……。

Keiko:オーケストラコンサート(『FFXIV』オーケストラコンサート“交響組曲エオルゼア”)がありましたね。2017年の9月に。

祖堅:そういえば、まだKeikoさんにオケコンの感想聞いてませんでしたね。どうでした?

Keiko:楽しかったです! スリリングでしたけれどね。ピアノだけで始まる曲もありましたし、私以外のみなさんは“東京フィルハーモニー交響楽団”として普段から一緒に演奏している方々ですから。そこにちょこんとゲストで入った感じだったので……私のせいでアンサンブルが崩れたと思われないようにがんばろう、と。

 それに、ピアノソロでやっているときとオーケストラのときは、音量のコントロールがかなり変わってきます。私の位置で弾いていてちょうどよくてもやっぱりダメで、「指揮者や客席の人たちには、オーケストラとピアノのバランスがどのように聞こえているんだろう」って想像しつつコントロールして演奏するのが意外と大変でした。すごく勉強になりました。

――合わせる時間はさほどなかっただろうにもかかわらず見事に調和させていて、本当に素晴らしかったです。最終公演で見させていただきました。

Keiko:ありがとうございます。最終公演は……感動的でしたね。

祖堅:あの反応はびっくりしましたね。

――辻本さんとのお仕事は、『紅蓮編』が始まってからになるのでしょうか?

祖堅:辻本さんも、なんだかんだでもう2年くらい会ってるのかな。『紅蓮編』楽曲は都内のスタジオで収録して……。

辻本:そうですね。あそこで録ったのが2年近く前じゃないかなと思います。

祖堅:もうそんなにたってるんですね。クガネを作ってるときだから……するってぇと……。

Keiko:するってぇと。

祖堅:去年(2017年)の3~4月かな、クガネを作ったのがそのくらいだから。だいたい1年半前ですかね。

辻本:そのときに着ていた服のことを、なぜかめっちゃ覚えてます(笑)

祖堅:ア●ィ●スでしたっけ。

辻本:ですね。ア●ィ●スのパーカーを上に着て。たしかコートは着てなかったんですよ。

祖堅:じゃあやっぱり4月くらいかなあ。なんかもう、「尺八奏者が来ます」って言ったら、こんな編み笠被った初老の方が、笛吹きながら来るんじゃないかって思うじゃないですか。

――虚無僧ですか(笑)。

辻本:そ、そうですね、精神を統一するところからやっぱり始めないと……(笑)。

祖堅:すんごい怖いオッサンが来るんだろうなってドキドキしてたんですよ。そしたらね、すごく明るく「おはようございますー!」って。「……だ、誰だろう……」みたいな(笑)。想像と違う、素晴らしい方が来てくれました。

――そして演奏を聴いて二度びっくり、と。

祖堅:そうなんですよ。あれこれ言ってもすぐ「はーい、わかりました!」って、見事に演奏していただいて。

――Keikoさんもそうですけれど、そのあたりのレスポンスの早さはやっぱりスゴいですよね。

辻本:ありがとうございます!

祖堅:お二方は面識あるんですよね?

Keiko:そうなんですよ。なのでびっくりしました。「よかった、辻本さんだー!」って。

辻本:私も! Keikoさんと演奏できるの、「幸せだなー」と思ってます。

――ピアノアレンジに関して、編曲自体はKeikoさんが手がけてらっしゃるのでしょうか。また、『FFXIV』楽曲の場合、全体的にどういった点を意識してアレンジするのでしょう?

Keiko:そうですね、アレンジは私です。毎回意識しているのは、“なるべく原曲の音を拾って元のイメージから離れすぎないようにするけれど、でも、ピアノの作品としてピアニスティックに”。原曲ではあそこにストリングスが鳴っていて、あそこにホルンが鳴っていて……って全部をピアノでまかなおうとするとすごく難度が上がってしまいますが、それらの音も極力拾いつつ、なおかつピアノらしくっていう意識ですね。前の2作品はちょっとクラシカル寄りに作っていたんですが、今回はちょっとジャジーなものもあったりして……私もジャズ系は大好物なので、楽しくアレンジできました。ラベルとかドビュッシーとか、昔弾いていたような作品をあらためて弾きなおしてみて、「あ、こういう技入れたいな」って勉強しなおしながら作った感じです。

――勉強しなおす、ってスゴいです。祖堅さん、そのコメントを聞いていかがですか?

祖堅:えっ。ど、ドビュッシーですか? 僕ぜんぜんわからないんで……。

Keiko:(笑)。

祖堅:って嘘ですけどね(笑)。いや、スゴいんですよ毎回。お願いするときに「静と動を入れてください」っていつも注文してるんです。ピアノって静も動もどちらもいける楽器だから、ピアノの魅力を伝えるためにも、必ず両方の面を入れてほしい、と。“美しい”と“激しい”の切り替えを、曲ごとに「この曲は、大きく2回で」「この曲は細かく4回で」って注文つけさせてもらったら……そのとおり素晴らしいものができ上がって来ました。なので「なんもないっす! そのまま弾いてください」という感じでした。譜面を見て「コレほんとに弾けるのかな」とは思いましたけど……軽々と弾いてましたね(笑)。

Keiko:難しくしちゃいましたね(笑)。

――素人の耳で恐縮ですが、本当に素晴らしい演奏でした。ピアノだけであんなに豊かな音が出るんだなあと。

祖堅:ほんとですよね。

Keiko:でも、今回は楽曲自体がだいぶバラエティ豊かですよね。

祖堅:ちょっと和物が増えたのも理由かもしれませんね。今まではオーケストラ調ばっかりだったのが、今回は独特な“メロディー主体の土着感”みたいなのが増えたのかなあ。だから、そこに尺八が入ってくるとピタッと合うんですよね。

――尺八のパートはどのように作られたのでしょうか?

辻本:あ、じつはKeikoさんが作ってくれました。

Keiko:そうですね。土台を作って、辻本さんにデモを聞いてもらって、そこから吹きやすいようにアレンジしていただいて……。

――合わせたのは今日が初めてなんですか?

Keiko&辻本:はい。

――えっ。いきなりであのハイクオリティなんですか……?

祖堅:「初めてなのに?」でしょ? 「ホントに?」でしょ? おかしいんですよこの人たち(笑)。

辻本:いやいや、Keikoさんのおかげですよ。Keikoさんのピアノって、「あ、もっとこうしたい!」って思わせてくれるような印象です。音がもうすでに楽しいというか、力があるので。演奏していてすごく楽しいです。

Keiko:ほめられた!(笑)

――演奏面で、祖堅さんのほうから何かしら指示はあったのでしょうか?

祖堅:まあ、いくつかは。でも、そんなに細かくは……言ったっけ?

Keiko:フレーズのあいだに隙間を入れるとか。あとは客観的に聞いてどうだろうっていうところとか……。

祖堅:そう、お客さんが聞いたときに「ちょっと違うな」って思いそうなところを修正したくらいで、演奏自体に対して「あれはこう、ここはこう」っていうのは1つも言ってないですね。「曲の印象が違うので変えてください」ってだけです。……そう言っておくとね、勝手に直ってるんですよ(笑)。

Keiko:弾いている本人はわからないちょっとしたノイズとか、濁りとかいうのは指摘していただきましたね。

――ちなみに、『FFXIV』のピアノスコアは新生の際に出たものだけなので、アレンジスコアなどを期待する声が多いと聞いたのですが……いかがでしょう。

祖堅:でも、このアレンジ音源のピアノ譜をそのまま出してもですね。

――あ、弾ける人がいないかもしれませんね……。

祖堅:はい。弾ける人がほぼいないと思うので、正直僕は出す意味があんまりないんじゃないかなと思ってるんです。結局、譜面を見てMIDIに落とし込んで再現しても、それは何かが違うんじゃないかなと。“弾いて楽しい譜面”と“プロが弾く譜面”というのはやはり別物だと思っているので、もしもスコアを出すとしたら、“弾いていて楽しい譜面”を出したいなと思います。じゃあKeikoさんの譜面はどういう譜面かっていうと……弾いていてツラくなると思う(笑)。

Keiko&辻本:(笑)。

祖堅:それくらいスゴく難度が高いです。

Keiko:イージーバージョン、作りましょうか(笑)。

祖堅:それだったらいいかも?(笑)

――素人視点で恐縮ですが、プロの方々にとっての“譜面”って、どういうものなのでしょう? 自分にとっての、“演奏のためのメモ”的なものなのでしょうか。

Keiko:あ、そうですそうです。私にとってはまさにそうですね。もちろん人によって違うとは思います。例えば私はアレンジをするので楽譜はあくまでメモなんですが、アレンジをしない方にとっては楽譜がすべてで、その情報以外のことは弾かないということもあるでしょうし。……私にとってはメモというか地図というか、そんな感じですね。

――今日後ろから見させていただいて、譜面をずっと追いながら進めるのではないんだなあ、と感じました。もともとすべてを覚えていつつ、めくった瞬間にパッと見て内容を確認するための、記憶の媒体として使ってるんだなと。

祖堅:それはね、違うんですよ。勘違いしちゃいけません。普通はできることじゃないんです。限られた一握りの人しかできないことなんで……。あの真っ黒な譜面をちょっと見て頭の中に入れて、それでバーッって弾いてるんでしょ? 絶対できないって(笑)。できません、普通は!

Keiko:譜面にするのがまた難しかったんですよね。まずフリーでアレンジしながら弾いたものを録って、耳コピやらMIDIで1回データに起こして、それをさらに、譜面にするために直していくんです。けれど、拍に収まらないとか、もっといっぱい弾いているんだけれど譜面にするために音数を減らしたり、とか、そういう部分もありました。そしてそういうことをしながら譜面を作ったうえで、実際に演奏するときには、その場の雰囲気も加味しつつ、もう少し音を足す。でも守らなきゃいけないことは譜面に書いてあるので、それはもちろん弾きつつ……という感じです。

祖堅:そういえば、尺八の楽譜ってそもそも五線譜なんですか?

辻本:もともとの古典ものの尺八は尺八専用の楽譜があって、縦書きで“ロツレチリ”っていうようにカタカナで表記されてるんですよ。

祖堅:イロハニホ……みたいな。

辻本:そうですね。五線譜と違って、運指表記なんですよ。だから“ロ”っていうのは全部の穴をふさいだ音で、“ツ”っていうのは下から1つ目を空けた音、とか。

祖堅:なんの音かわからないんだ。吹いてみないと。

辻本:長さが決まっていればもちろん“その音”っていうのはわかるんですけど、基本的には尺八の楽譜は音程じゃなくて運指表記なんです。

――ということは、今回のようにオタマジャクシの譜面で尺八を演奏するというのはじつはあまりないことなのでしょうか?

辻本:古典は運指表記とはいえ、最近は尺八もいろいろな音楽をやるので……そういうときはみんな共通で見られる五線譜でやるのがほとんどですね。

祖堅:フォルテッシモみたいな“強”“弱”はどうしてるんだろう。譜面に“強”とか書いてあるの?

辻本:古典の譜面には、強弱記号ってないんですよ。新しめの邦楽の曲とかだとそれこそ“f(フォルテ)”とか書いてあるんですけれど、本当の古典には存在しないですね。

祖堅:じゃあ、そういう強弱は自分の解釈でやりなさいってことなのかな。

辻本:自分の解釈というよりは、師匠から習って、とか。基本的には口伝文化というか。

祖堅:あー、そういうことか! 太鼓もそうだもんね。基本的には譜面なんかなくて、お師匠から教わって、そしてまた継いでいくのが日本の楽器の文化ですもんね。

――ではみなさんに、今回の録音の感想をお聞かせいただけるとありがたいです。……謎の収録という形なので、ややコメントが難しいかもしれませんが!

辻本:本当に包み込むようなピアノの音色のなかで演奏させてもらって、自分自身すごく楽しくできました。そしてその音もよく録れていますので……みなさんにもそれを楽しんでもらえたら、本当に嬉しいなと思います。

Keiko:今回はいままでの作品にない連弾という試みも盛り込み、録り方もちょっと工夫させていただいています。曲調もバラエティ豊かで、いい作品になっていると思いますので、ぜひ楽しみにしていてください!

祖堅:いまKeikoさんが連弾を工夫して録ったっていうお話をしてくれましたが、違うんですよ。もともとは僕が弾くために楽譜を作ってくれたんです。ですが、言い訳するわけじゃないですけれどgamescom 2018があって、ドイツでオーケストラコンサートもあり、帰ってきたら14時間生放送があり、パッチ4.4の作業も併行していて……とてもピアノを練習する暇がなかったんですよ。なので、なんてことはないんですけれど科学の力を使ってKeikoさんを2人用意しまして。僕は一切手を出さない状態で連弾ができた、と。工夫をして……っておっしゃってましたけど違うんです。Keikoさんが2回弾いただけなんです(笑)。

 いつもピアノアレンジはホールで試行錯誤しながら録っているんですが、今回初めてピアノ以外の楽器が入りました。そう、尺八がやってきた。けっこう大革命に近いスパイスだと思っているので、これを機に、ほかにも何かいろいろできることがあったらいいなと思っています。「尺八、イイな。合うな……!」って。もう1つくらい尺八の曲作ろうかなあ。

辻本:ぜひ! ぜひ!

祖堅:また手伝ってもらってもいいですか!

――ゲーム内楽曲についての質問になってしまいますが、祖堅さんに朱雀の楽曲についてお伺いしてもよろしいでしょうか。これまでにないタイプの曲で、かなり新鮮でした。あらためて祖堅さんの引き出しの広さが感じられたなと。

祖堅:いやいやいや。勢いで作りました。……勢いで作ったにしてはけっこう時間かかったけど(笑)。やっぱり尺八を入れたくて入れたんですが、辻本さんに頼めばよかったなあ。和物のイメージはほしいとのことだったので和物を入れたものの、かれこれ100曲くらい和っぽい楽曲を作ってるわけで……和のイメージを持つ楽器でメロディーラインを奏でられるものって、尺八とか篠笛みたいな笛系とか琴とか三味線とか、そのくらいしかないんです。和物の楽器ってだいたいリズム系が多くて。なので、いざコードを作っても、そのコードを鳴らせる楽器が数種類しかない。で100曲作れって言われたら、バリエーション的に「ガラッと違うものを作ってください」って言われてもなかなか変えられないですよね。そのなかですごく四苦八苦して作ってきたので……難しい。

 というわけで「和物を作ってください」はもう難しい境地に達しているんですけど、それをこう、逆に“和物をスパイスとして使う”ことで解決していく域にきたので、作っていて楽しいは楽しいです。今回は三味線もいます。ヨナ抜き音階にしたりしてね。そんな工夫をしてます。あとは、南條さんの歌もがっつり入っていますので、そちらもお楽しみに。

――光の戦士にはおなじみの声優・南條愛乃さんに歌っていただくまでの経緯について、あらためておうかがいしてもいいですか?

祖堅:南條さんが「私の楽曲、ピコピコ音にしてくれませんか?」っていうから、「全然いいですよやりますよ。その代わりに、歌ってください」って。そこで快諾いただけたので、すぐお願いして……。で、南條さん曲のピコピコ化は、まだしていない、と(笑)。そろそろやんないと怒られるなあ。

――ちなみに、みなさんが今後アレンジしてみたい楽曲ってありますか? ピアノでも、尺八でも。

祖堅:やっぱり楽曲総選挙で1位になった「月下彼岸花 ~蛮神ツクヨミ討滅戦~」をやってほしいなあ。まだお渡ししてないですよね。

Keiko:そうですね。でも、たしか人気投票で上位だったほかの曲はけっこうやってるんですよね。

祖堅:意外とやってますね。でもツクヨミはやってない。比較的新しい曲だってのもあるけど。聞いてみたいっすね。いつもね、「お願いします!」って曲を投げて、何もしないで待ってるんです(笑)。

 しかし今回いろいろな曲の譜面を作っていただいて、あらためて思いましたね。「ちゃんとしないとダメだな」って。ちょっとめちゃくちゃな曲があるんですよ。8分の7から4分の3、4分の5……って拍子が変わっていく曲が。

Keiko:曲の中で拍子が変わって、1小節ごとにテンポが変わって……。

祖堅:それをですね、Keikoさんはきっちり譜面に起こしてくれたんです。めちゃくちゃ心が痛くなりましたよ。俺、無茶苦茶に作ってたなあ、って。

Keiko:あれは遊びながら作っている感じが素敵な曲ですからね。

祖堅:「あなたはこういう無茶なことをしているんですよ」っていうのが、譜面に表れて戻ってくるわけじゃないですか。なので、すごい罪悪感がありました(笑)。

――辻本さんは、今日までに聞かれた曲などで尺八で吹いてみたい曲はありますか?

辻本:私はもう、参加させていただけるものがあればなんでも参加したいくらいの勢いで(笑)。尺八は情熱で勢いを持って行きやすい楽器なので、ゲーム音楽とかだと一緒になって勢いを作っていけるところがあると思います。なのでぜひ尺八の曲を、よろしくお願いします!

祖堅:プッシュされた! でも、何でもできそうですね(笑)。『紅蓮編』の曲は尺八に合う曲が多いから、やってもらおうとしたらすごいいっぱいあるんじゃないかな、きっと。僕からKeikoさんにバッと曲を渡して、そしたらKeikoさんが“マ゛ッ”ってアレンジして、いつの間にかできている……なんてなったら素敵ですね!

――楽しみな展開です!

祖堅:そういえば、いつもは楽器が2つ以上ある場合は楽器個々の音をバラバラのマイクで録っているんです。それを1つずつデジタルで調整しているわけなんですが、今回はホールでピアノと尺八を同時に演奏してもらって録音しているので、調整がどうにもならないんですよ。なので今日は録っている最中に「ちょっとピアノが強い」「尺八が近くてKeikoさんが見えない」などと感じたらステージ上で実際に動いてもらって、ピアノやマイクも移動させたりして、物理的に調節したんです。それが個人的にすごく楽しかった。普通は録ったあとに調整するところを、マイクに入ってくる音の距離でなんとかしないとならないから「もっと向こうに行って」「もうちょっと弱く弾いて」っていうのをやったことが、斬新でおもしろかったなあと。

辻本:あんまりないですよね。

――普通はそれぞれの楽器で個々に録音するんですね。

Keiko:そうですね。ブースに入ったりして……。

祖堅:いっせーのせで録るのは最近少なくなりましたよね。誰かが先に録って、その上から「別の楽器を重ねて入れましょう」っていうのがほとんどです。

Keiko:クリック(※リズム維持のために鳴らされる音)がぜんぜんないっていうのも珍しいですよね。

祖堅:目くばせで弾いてもらってますね。

――完全にその場の息を読み取ってリズムを合わせているんですね。

辻本:いちおうKeikoさんを意識しながら、でも絶対に合わせてくれるという安心感のもと……「えいっ!」って。

祖堅:Keikoさんはそれを見ながら「おい今行くのかよ!」って合わせるという(笑)。

Keiko:でもピアニストってサポートすることが多いので、背中を見て合わせるっていうのはもうだいぶ慣れております(笑)。

祖堅:なかなか言えないセリフですよ、コレ。カッコイイ。

――Keikoさんはラスベガスのファンフェスティバルに行かれて、さらに日本のファンフェスもご予定に含まれていると思います。意気込みや、楽しみにしていることなどありましたらぜひ教えてほしいです。

Keiko:スーザン・キャロウェイさんとまた共演できることが楽しみです。そして、合わせる機会が少なく、リハのあとすぐに本番……ということで、スリリングでもあります。楽しみな反面、怖い部分もあるっていう感じですね。

祖堅:光の戦士たちはもうゲーム内楽曲は何千回って聴いてますからねー。エンドコンテンツの曲なんかは3分程度でループするとして、1日5~6時間遊んだとしたらその日だけで100回くらいは曲を聴くことになるわけですよ。それが1週間、1カ月ってなると、途方もない数になる……。なので、もしかしたら「あの部分の強弱は……」っていう印象のすり合わせが意外と大事なのかもしれません。「なんか違う!」って思われても残念ですしね。

辻本:もう曲が頭に刷り込まれてるってことですね。

祖堅:僕ら開発陣の手から離れて、プレイヤーさんの生活の一部になってるんですよね。そういう意味でも、反応がどうなるか気になります。

Keiko:“交響組曲エオルゼア”のときや前回の日本ファンフェスのときは、日本のお客さんは静かに聞いてくださってましたね。暖かい空気を毎回感じるんですけど、今回はどうかなー。

祖堅:国によって、お客さんのカラーはやっぱり違いますよ。日本とアメリカ、ヨーロッパ、中国、韓国、全部違いますね。熱さのポテンシャルは同じなんだけど、その表現の仕方が違うというか。ただ、どこに行っても熱いは熱い。すごい熱気で、びっくりします。といったように、日本ファンフェスもお楽しみ要素はたくさんあるということで(笑)。1日目の最後はKeikoさんのピアノをしっとりと聴いていただいて、2日目の最後はTHE PRIMALSが“ドジャーッ!”とやりますので、ぜひファンフェスを最後まで楽しんでください!

――ありがとうございました!

『ファイナルファンタジーXIV』(FF14)

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