世界を魅了した至高のアクション・シューター

 

 アメリカで圧倒的な人気を誇るアクション・シューター『BIOSHOCK(バイオショック)』。電撃オンラインでは、開発スタジオ「2K Australia」のシニアデザイナーであるDean Tate氏と日本語版のプロデューサーである飯塚康弘氏に話を伺った。世界観を大事にしたという本作にかける意気込みと自信をぜひ感じ取ってみてほしい。

Dean Tate氏(画像左)
 2K Games開発スタジオ「2K Australia」シニアデザイナー。代表作にPC用ソフト『Tribes: Vengeance』、『Freedom Force vs. the Third Reich』、『Swat4: The Stetchkov Syndicate』などがある。


飯塚康弘氏(画像右)
 スパイク・プロデュース部海外グループプロデューサー。代表作にPS2用ソフト『 クリムゾンティアーズ』、『michigan(ミシガン)』、『WRC』シリーズなどがある。


朽ち果てた異形の楽園

──まず、本作『BIOSHOCK』の中で一番表現したかったことは何ですか?

Dean Tate氏(以下、Tate。敬称略):ゲームの舞台となる崩壊した海底都市「ラプチャー」の住人である“ビッグ・ダディ”と“リトル・シスター”の関係ですね。この2人の共生関係を主軸にした世界観やストーリーの構築に集中しました。

──世界的にも暴力的な表現が白眼視されている中で、子供のように見える“リトル・シスター”を「刈り取る」という刺激的な表現をあえて取り入れた意図は何ですか?

Tate:まず、世界観的にゲームのキーファクターとなる遺伝子物質「アダム」を生成できるのは“リトル・シスター”しかいません。すると、「ラプチャー」の住人である「スプライサー」は「アダム」を得るために“リトル・シスター”と戦うことになりますが、彼女の横には守護神として“ビッグ・ダディ”が存在している。そういう世界の住人となった場合、「「アダム」が欲しいから“リトル・シスター”を殺す」という選択肢と、「あえて助ける」という2つの選択肢が生まれますがが、「あなたならどうする?」という部分をトピック的にユーザーに投げかけたかったので、ゲーム中の選択肢として入れました。

──暴力的な表現が先にあったわけではなく、ゲームの世界観から導き出されているということですね。本作は、オーストラリア・ボストン・中国など、世界各地で作られていたとのことですが、実際の作業の分担や開発が分散していることのメリットについて伺えますか?

Tate:それぞれのチームで作っていたので、当然コミュニケーションをとるのは大変でした。でも、それ以上にモチベーションの部分をうまくコントロールできたという見返りがありました。実はこのゲームは5年間作っていましたが、もしボストンだけで作っていたら途中でゲームを作っていることに対して嫌になっていたかもしれません。それを解消するために、たとえばボストンで1年半働いたら今度はオーストラリアに行ったりと、一部のスタッフをシャッフルしていました。それからもう1つ。キャラクターのデザインなど、それぞれのチームで同じものを作ることも試みました。だから、たとえばボストンチームが自分たちが作っているものよりクオリティが高かった場合、それが逆に「俺たちオーストラリアチームもがんばらなきゃ」といった具合にモチベーションを高まっていって、このゲームをいいものにしてくれました。

飯塚康弘氏(以下、飯塚。敬称略)作業を分担するのではなく、お互い同じ物を作ることもあったということですね。

──そういった作り方はポピュラーなんですか?

Tate:小さい部分での協力はずっとやってきたし、周囲のチームがある程度のサポートをして作っているタイトルはありましたが、『BIOSHOCK』のように3つのチームがここまで一緒になって作ったというのは、今回が初めてです。また、スタッフをシャッフルすると、コミュニケーションに問題が生じたり、目指しているものが変わったりする危険性もありましたが、クリエイティブ・ディレクターのKen Levine氏、デザイン・ディレクターのJon Chen氏の2人が中心になって、そういったブレを極力なくしチームをまとめあげたので、ここまで持ってくることができたと思っています。

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──『BIOSHOCK』は5年間作っていたということですが。

Tate:前に作っていたタイトル『システムショック2』から『BIOSHOCK』の制作は始まっていました。当初は、第二次世界大戦で地上の話でしたが、ある程度作ったところで自分たちが求めているものと違うと思い、1回「ぶっ壊し」ました。その後もそういうことを2回3回繰り返してきました。


──これだけの長期間であるにもかかわらず完成にこぎつけた秘訣みたいなものはありますか?


Tate:あきらめなかったことですね。作り直すたびに「作りたかったのはこんなゲームじゃない」というところを求め続けた結果、「ラプチャー」という世界ができあがり、最高のゲームに仕上がったんだと思っています。


──5年間で一番苦労したり時間をかけたところは?


Tate:5年間の初めはKenと数名から始まったのですが、ストーリーが一番時間がかかりました。実際、5年前からマスターアップするギリギリまでストーリーの部分を手直ししていました。


──では、ゲームを作りながら常にストーリーは手直しされていった?


Tate:そうですね。このゲームの中で最も伝えなくちゃいけない、がんばらなくちゃいけないところだと思っていたので、約5年間ストーリーを作り続けていました。


──世界観を作るにあたって、事件や物語など、ベースになったものはありますか?


Tate:設定が1960年代ということで、当時の世界情勢は意識しています。当時は戦争や不況、宗教的な問題があったりと、情勢はあまりよくなかった。ゲームに登場する科学者“アンドリュー・ライアン”は、誰にも干渉されない、自分たちが守れる国を作ろうということで、海の中に「ラプチャー」を作ったのですが、そういう部分が世界情勢と重なってきます。また、「ラプチャー」を作るにあたってインスパイアされたのが、1920~60代年のアメリカでした。服装や小物、看板などにうまく取り入れています。当時の建築的なムーブメント「アートデコ(日本ではアール・デコともいう)」も、このゲームの世界観を作るうえでモチーフとして使っていますね。

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──グラフィックも1つの見どころになっていると思いますが、特に力を入れた部分はどこですか?


Tate:主軸になるのは、「ラプチャー」の世界観です。絶対にずらしてはいけないところなので、家具などの細部にいたるまで「これはラプチャーに合うのか」、「これはラプチャーらしくない」と議論を重ねながら作っていきました。そういうこだわりが、デザインチームの中に「ラプチャーというのはこういうものだ」という意識を芽生えさせていきました。結果、ここまでのグラフィッククオリティを実現できました。どこか特定の、小さいところだけにこだわって作るのではなく、まず全体を見た上でチームが同じ方向を見ていたというところがよくなった秘訣ではないでしょうか。


──グラフィックの美しさとゲームとしての自由度というのは、往々にしてどちらかに偏りがちですが、2つを両立させるにあたってどういうところに注意を払われたのですか。


Tate:さっきも話したスタッフのシャッフルや、チーム同士が切磋琢磨した相乗効果だと思っています。あとは、『BIOSHOCK』というタイトルの世界観がみんな大好きで、それがぶれることがなかったこと、それがここまでの素晴らしいゲームになった理由だと考えています。

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──『BIOSHOCK』は、アメリカで非常に高い評価を受けましたが、最初から自信はあったのですか?


Tate:この結果を予想していたとは言えません。やはり心配していた部分はあります。唯一自信を持っていたのは、今発売されているゲームの中で、ここまでクオリティの高いゲームはないということでした。トップまでたどり着いたという自負はあります。その結果が、ユーザーやメディアに受け入れられて高い評価を得られたことはうれしいし、自信につながったと思います。


──日本語版についての質問です。海外版に比べて内容の変更などはありますか?


飯塚ありません。日本語版も100%オリジナルと同じ内容になっています。

──制作にあたって、オリジナルのスタッフから「こんな風にローカライズしてほしい」といった要求はありましたか?


飯塚ゲーム中でさまざまなキャラクターがいろいろなことを言っているんですが、ラプチャーの中のことだけではなく、個々の生活感に基づいたものや、彼らがどうしてこうなったのかという部分も含まれているんです。当初は字幕だけということも考えていました。でも、文章を読んでいるだけでは伝わらない部分というのがあるし、そういうものを大事にしようと思い、完璧な日本語ボイスを入れることになりました。ユーザーに世界観を伝えることを大事にしようと思った結果なので私たちはすごく満足していますし、彼らオリジナルのスタッフにも満足してもらっています。正直に言って最高の状態で発売できたと思っています。


──最後に日本のユーザーに向けて一言お願いします。


Tate:日本で発売されることは当然うれしいです。成功してほしいと思っているし、成功する自信もあります。

飯塚日本語版では、海外版で行われたアップデートがすでに反映されています。海外版のもつ世界観を最大限に活かしながら、日本のユーザーにも楽しんでいただける仕上がりになっているので、ぜひプレイしてみてください。


──本日はありがとうございました。