電撃ドットコム > 電撃オンライン > インタビュー > 『龍が如く』

SOFT  
龍が如く
 この冬、セガが満を持して送り出す話題のPS2用ソフト『龍が如く』。その制作の経緯や、リアリティを出すための苦労、そして一歩踏み込んだ開発時の裏話などをプロデューサーの名越稔洋氏に存分に語ってもらった。既存のゲームにはない、熱いこだわりの数々を感じとれ!
  ※このインタビューは、電撃プレイステーションVol.324、327で掲載されたインタビューの、オンライン版です。


●裏社会を真正面から扱った『龍が如く』のコンセプト
──まず本作を制作することになったきっかけをお聞かせください。
名越稔洋氏(以下、敬称略):
ゲームって、今イマイチ売れてないじゃないですか。それで各社、確実に一定量売れるシリーズ作を出したり、それなりの価格でそれなりの本数が売れるゲームを出したり、という形でしのいでいるという表現が正しいと思うんです。それってがんばってはいるんですが、ユーザーにとってはありがたくない話ですよね。だからゲームも過渡期を過ぎて、何か1つの提案をしなくちゃいけない時期に来たんだろうと思っていたんですよ。そんなとき、分社の統合で新しいチーム(※1)と組むことになって、何かやるんだったらこのタイミングだろうと思い、これまで自分が考えてきたことの結論となる作品を出そうと思ったんです。それは万人向けのゲームではなく、ある程度の人たちが引き寄せられるゲームで十分であり、それを完璧に完成させたいなと。もともと不特定のユーザーに対して、あいまいなままゲームを作ること自体が失礼と思うんです。最初はなかなかその考えを理解してもらえず、まずは会社、スタッフを説得するところから始めましたが。
――裏社会を真正面から扱った作品はこれまで前例がなかったと思いますが、悩まれたことや苦労された点はありますか?
名越:当初は裏社会をテーマとして描きたかったわけでなく、街を歩くことが楽しい、という感覚がストレートに実感できるゲームを作りたかったんです。街を探索したり、そこにいる人とのドラマが楽しめるような。それをストーリーとからめようとした際、一番わかりやすく、ゲームとしての性質上、バトルという要素も自然に盛り込もうと考えたときに、裏社会がいいだろうと。
──過激な描写や倫理的な部分には、かなり気を使ったと思うのですが?
名越:
まずは、いたずらに暴力を振るわない。理由があり、動機があったうえで力を振るう。基本は正当防衛じゃないといけません。あと麻薬であったり、子どもが殺されたりといった反社会的な出来事を、興味をひくためだけのフックとして使うのは絶対にやめようと決めていたんです。ゲームは産業的に発展して、ソフトも供給過多になるほど発売され、そこで抜きん出るために、さまざまなメーカーが刺激的な描写に走りました。ただ、その意識の持ち方がいい加減で、ゲームという表現媒体の可能性をあいまいにしてしまったと思うんです。本作のテーマは裏社会ですが、単に暴力表現を売りにしているのではなく、人間ドラマを追求した結果、このような設定のゲームになった。その根本的なポリシーの違いは理解してもらいたいですね。
──名越さん自身が考える人間ドラマはどんなものですか?
名越:
展開があれば何でもドラマにはなるんですが、本作では僕らが現実に生きている世界の理屈で物事が進行するものにしたかったんです。そのための舞台は、やはり現代の日本がいいだろうと。それに出来事の“大きさ”を競うのではなく“濃さ”で思わずコントローラを握り締めるようなものを作りたかった。そんな人間ドラマを目指してゲームの流れなどを考えながら、シナリオを後付けで考えていったんですが、僕はゲーム屋さんなんで、泣けるようなシナリオがなかなかまとまらなくて……。そこでプロの馳星周さんにシナリオの監修をお願いしたわけです。
──セリフなどの面で、ゲーム中に注意された点はありますか?
名越:
繁華街が舞台ということで過激で暴力的な文言はやはり多いです。でも過激さを前面に出したいわけではなく、リアルさを追求するうえで生の言葉を使いたかったんです。舞台設定を2005年の日本にしたからには、その世界を忠実に再現したい。例えば「おじさん、私とデートしない?」なんて言う女子高生って、現実にいないじゃないですか(笑)。いくらグラフィックがリアルでも、言葉使いに生々しさがないと、やっぱり世界のリアルさは薄れますしね。
──具体的な物語のテーマは?
名越:本作の最大のテーマは「生きることは逃げないこと」。実際に生きるってことは、○か×かで解決できるほど単純なものではなく、いろいろなしがらみを持って、そのしがらみを解決するために、また新たなしがらみを背負うことがたくさんあると思うんです。そんな気分が感じられるゲームがあっても僕はいいんじゃないかと。ですから本作の中でも、登場人物がさまざまな問題を抱えながら生きていく、といった状況がたくさんあります。どの問題から解決すべきなのか、解決した問題は正しかったのか。いろいろ考えながら、今の現実で生きるために必要な“たくましさ”を感じとってもらえればうれしいですね。そして前向きに生きることの大切さを伝えられる作品になれば、と思っています。


●グラフィックだけではないリアリティに対するこだわり
――本作では、シナリオ監修を作家の馳星周さんにお願いされたとのことですが、具体的にはどんなやりとりを?
名越:僕が考えた原案をもとに開発内のシナリオ担当者が書いたシナリオを、馳さんに説得力や調べが足りないかチェックしてもらって、それを直してまた見てもらう。これの繰り返しです。馳さんはかなり辛口で、最初の添削では、シナリオの表紙に「書くという作業をなめてるでしょ!」ってあって。シナリオ担当も相当ヘコんでましたね。でも、逆にこの赤字がなくなったらプロが認めたシナリオなんだ、とがんばりました。あと、あくまでもゲーム用のシナリオなので、ゲーム的に楽しくなければ意味がない。街の探索やバトルがテンポよく入りつつ、シナリオとしてもおもしろくなるような調整を、とことんやりましたね。正直、非常に大変な作業でしたが、苦労しただけあって、結果的にバランスのいいシナリオになったと思っています。
──プレイ時間としては、トータルで何時間ぐらいになりますか?
名越:
まずメインの物語を最後まで遊ぶだけで20時間ぐらいかかります。そのほかにサブ的な寄り道要素もたくさんあるので、それらも含めると2倍の40時間ぐらいになりますね。サブ的な遊びには、パチンコやバッティングセンターといった娯楽もあれば、ちょっとしたサブストーリーも多数あります。テストプレイでは、キャバクラばかり入り浸っていた人もいますね(笑)。キャバクラなんかもかなり作り込んでいるので楽しみにして下さい。
――画面を見ると、街にいる人が吹き出しで何か呼び込みのようなことをしている場面もありますね。
名越:
こちらから話しかける以外に、人の話が聞こえてきたりします。このあたりもこだわって、呼び込みのセリフだけでも、1,000文字以上チェックしましたね。この呼び込みは動きもイイですよ。特定の範囲に入ると、桐生が逃げても前へ前へ入り込むように動き、決まった縄張りから桐生が出ると追うのをやめる。あとは積極的な者もいれば、声しかかけない者もいます。たぶん、ここまでリアルに呼び込みを描いたゲームはないでしょうね(笑)。
――ドン・キホーテやサントリーの実在するお酒が出てくる点なども、リアルさを表現する演出の1つですよね。
名越:街の中を見たことある物だけにしたかったんです。ドン・キホーテやサントリー以外だと、コンビニで雑誌の立ち読みもできますね(後日、東京ゲームショウにおいて、安田美沙子さん、夏川純さん、後藤ゆきこさんのグラビアが見られることが発表された)。ほかのA・AVGと比較した場合、本作はすごく広大なマップというわけではありませんが、“濃さ”でいうと世界で一番濃密なマップになっていると思います。


●多くの出会いによって誕生した登場人物たち
――主人公の桐生というキャラクターは、どんな経緯で生まれたのですか?
名越:
どういうゲームプレイをさせるかが重要だったので、見た目は後づけだったりしますが、本作のテーマに合わせ、無骨だけどたくましい、今の日本には少ない義理人情にあふれた人間を思い描いてビジュアルにしました。
──桐生以外でこだわりあるキャラはありますか?
名越:
どのキャラも思い入れはありますが、あえて選ぶなら、やはりもう1人の主人公の遥ですかね。泣けるシーンもかなりありますし、ぜひ注目してほしいキャラクターになっています。
──イベントシーンなどを見ると、遥などの表情がじつにリアルですよね。
名越:
人間しか登場しないゲームだから、とことん人にこだわろうということで、顔の表情は独自のエンジンを構築しました。リアルタイムの映像でここまで表情が生き生きと動く作品はないと思います。顔の動きだけを専門で2年間担当したスタッフもいたりして、このあたりの技術については、現在のチームとの出会いに感謝しますね。
――出会いという意味では、声優陣との出会いも大きかったかと。とくに渡哲也さんの起用は驚きました。
名越:渡さんは非常に真面目な方で、「アフレコは初めてなので、絶対予備日をとっておいてください」と言ってくださったり、セリフもあらかじめ暗記されていたり、こっちが恐縮しました。OKを出しても、「本当によかったんですか?」なんてあの声で言われたら(笑)。正直、収録前は大物すぎて浮いたらいやだな、などとも思っていたんですが、溶け込むような迫力のある声で、まったく違和感がなくて。本当に初めてのアフレコなのかと思うぐらいスムーズにいきました。
――麗奈役の三原じゅん子さんは、どのような経緯で参加されることになったのですか?
名越:
少しねっとりした色気のある声、という麗奈のイメージが、ずばり三原じゅん子さんで。サンプルを聞かせてもらったら、ホントにイメージどおりで、すぐにお願いする形になりました。
──意外だったのが、サイの花屋役の藤原喜明さんですね。
名越:
サンプルの中に朴訥(ぼくとつ)
だけど怪しくて、味がある声がありまして、それを僕が選んだんですよ。そうしたら、藤原さんだったと(笑)。もともと声優が本業の方ではないので、長いセリフでは苦労されましたが、非常に役に合った声になりましたね。
――では最後に、本作に期待する読者にひとことメッセージをお願いします。
名越:
ゲームって、事件が起きると、何かと原因にされますよね。小説や映画に影響を受けている人もいるはずなのに、ゲームを原因にしてしまう風潮があると思うんです。ゲームというメディアがまだ社会的に中途半端に見られているので、悪者にしやすいんですよね。そういう短絡的な見方をなくすためにも、良質な作品を作らなければいけないと、つねづね考えてきました。そんな現在のゲーム業界の状況、ゲームに対する価値観を変える1本に、本作がなってくれればと思っています。あとはぜひ、この社会のなかでがんばって生き抜いている大人の方にこそ、プレイしてもらいたいですね。



名越 稔洋 氏
名越稔洋氏
 『企画からシナリオの原案まで、多彩に手掛ける『龍が如く』の生みの親。代表作は『スパイクアウト』や『デイトナUSA』など。

龍が如く
画面写真
■メーカー:セガ
■対応機種:PS2
■ジャンル:A・AVG
■発売日:2005年12月8日
■価格:7,140円(税込)
■CERO年齢区分:18才以上対象
■関連サイト:・公式サイト / セガ

(C)SEGA, 2005

※1:主に元スマイルビットに所属していた『ジェットセットラジオ』シリーズや『パンツァードラグーン』の開発チーム。