超時空世紀オーガス

◆メディア:TV ◆放映年月日:1983年7月~1984年4月
◆話数:全35話 ◆チーフ・ディレクター:石黒昇、三家本泰美
◆キャラクターデザイン:美樹本晴彦 ◆メカニックデザイン:宮武一貴
あらすじ

 西暦2062年、地球では自由宇宙軍ともう一方の大勢力との2陣営に分かれ、軍事的な緊張状態が続いていた。そんななか、自由宇宙軍は敵対勢力に、最重要拠点の1つである軌道エレベーターの占拠を許してしまう。事態を打開すべく、自由宇宙軍はD兵器─時空震動弾─の使用を決断。時空振動弾設置の任に赴いたパイロット、桂木桂とオルソン・D・ヴェルヌは、未調整の時空震動弾が引き起こした予期せぬ作用により、時空の歪みに飲みこまれてしまう。
 ただ1人目覚めた桂は、エマーン人の隊商の母艦であるグローマのなかで目覚めた。恋人であるティナ・アンダーソンと間違え、看護していたグローマのメンバー、ミムジィ・ラースにキスをして平手打ちを食らう桂。そこに、特異点反応を見つけたチラム軍が現れ、グローマのリーダー、シャイア・トーブに特異点である桂を渡すよう迫る。愛機ブロンコⅡでチラムを退けた桂は、ミムジィたちの頭部に触手が生えていることに気づき、自分がいく多の並行世界が混ざりあった20年後の地球─混乱時空世紀─に飛ばされたことを知る。

キャラクター

 『オーガス』最大級のインパクトは第1話冒頭。なんと、この作品のストーリーは主人公である桂と、その恋人であるティナのベッドシーンから始まるのである。この前代未聞、衝撃のワンシーンをもってして、桂のプレイボーイでお気楽というキャラクターは視聴者の脳裏に強烈に刻まれた。しかも、このシーンこそがのちのアテナ登場の伏線になるとは、誰も知るよしはなく、のちにあれが重要なシーンだったということに気づかされるギミックはお見事である。
 また、この作品では前作『超時空要塞マクロス』に引き続き、美樹本晴彦氏デザインの美少女キャラクターが数多く登場した。桂の子どもを身ごもるというアダルティな展開で視聴者に衝撃を与えたヒロイン、ミムジィの存在もさることながら、一途に桂を慕う看護用アンドロイドの少女、モームの健気な可愛らしさは多くの男性ファンからの人気を獲得。モームは、近年人気となったメイドロボットというジャンルの元祖ともいうべき存在で、20年以上前の作品にもかかわらず、現在にも通用するそのキャラクター設定には舌を巻くばかりである。

用語1

●時空振動弾

 自由宇宙軍が、敵対勢力から軌道エレベーターを奪取するために使用した兵器。ABC兵器(核兵器、生物兵器、化学兵器)に次ぐ第4のカテゴリ、D兵器(Dimension=時空兵器)に分類される。もともとはワープを可能とするために開発された技術が、その発展の途上で兵器として応用されたものである。使用レベルや周囲のエネルギー状況などにあわせて、専門の技術者による調整を必要とする、手間のかかる兵器である。桂は、調整が不完全な時空振動弾を作動させることで、複数の並行世界が混在する混乱時空世紀を招いてしまった。この際に、時空振動弾が大特異点となっている。
 なお、桂たちがいた世界が発展して形成されたチラムでは、D兵器に関連する技術が発達している。彼らが特異点なしで時空修復を行おうとしたD計画も、基本的には時空振動弾と同じ原理の装置を利用したものである。

©1983 ビックウエスト・TMS


ストーリー

 まず、混乱時空世紀の世界観が圧巻で、そもそも『オーガス』以前は、マルチバースに言及したアニメ作品自体がほとんど皆無であった。時空震動弾によって形成された、多数の並行世界が渾然一体と混じり合った世界。そして、特異点……。このSFマインドに満ち溢れた世界観は、当時としては少々の難解さをともなっていたが、現代の目で見れば、多数存在する並行世界ものの先駆けともいうべき斬新なものであった。また、この世界観はストーリーのバラエティを豊かにした。桂やオルソンのような人間が住む世界もあれば、エマーン人のような亜人種や、ムウのようなロボット国家も存在する。いわば、なんでもありの、ある種ファンタジー的要素も備えた世界なのである。次々と起こる、異世界ならではの事件や人々との交流は、見る者を飽きさせないギミックとなっていた。一例として人類とは別の進化を遂げ、恐竜のような姿をした「地球人」であるジャビーの存在や、女王マリアン・トワントが支配するファンスイと呼ばれるフランス革命を題材にした国などがある。これらの要素は多種多様な人種と様式を飲み込んだ混乱時空世紀を象徴するものといえるだろう。
 設定的には本格的なSFでありながら、随所にファンタジーの匂いもする『超時空世紀オーガス』は、その硬軟兼ね備えた作風が秀逸だ。もちろんキャラクターの魅力も大きく寄与しているが、話の大筋はかなり重苦しいものであるにもかかわらず、そのストーリー展開は陰うつさを感じさせない、じつに軽やかなものであった。

メカ

 『超時空要塞マクロス』の後番組として製作されたこの作品。『マクロス』でマクロスやゼントラーディ側の兵器を手がけた宮武一貴氏によるデザインの主役機オーガスには、『マクロス』のバルキリーで好評を得た多段変形が盛り込まれている。しかも、バルキリーからさらに1形態多く変形可能になり、4段変形となっている。劇中では上空に広がる相克界の設定により、フライヤー形態の出番は少なめで、もっぱらガウォーク形態(二脚浮揚形態)とオーガロイド形態(人型形態)での活躍が描かれているが、後述のとおりガウォークが重要な位置づけにあるこの作品だけに、至極当然の成り行きであろう。
 この作品における人型の機動兵器は、主役機であるオーガス(とその量産型であるオーガスⅡ)と、アテナやオルソンが乗るナイキック、ロボット国家ムウの兵士のみである点にも言及しておきたい。兵器を主軸にすえたロボットアニメにおいて、この種類の少なさに異質さを感じる人も多いだろう。一方、エマーン陣営が使用するドリファンドと呼ばれる巨大なマニュピレーター(腕部)を持った機体と、チラム陣営のガウォークという脚付きの機体は、いずれも異質な印象を与えるものであり、通常の世界とは異なる技術体系が発展していることが一目瞭然。混乱時空世紀を体現する秀逸なデザインであった。

用語2

●エマーン

 頭部から長く伸びる触手を持つ人々が住む世界。桂たちのような地球人(エマーン人からすれば、自らも地球人であるが)との外見的な差異は、触手以外にはない。一方、女性は16歳から17歳までの間に2回ほどの発熱があり、生殖期と呼ばれる子どもを作れる期間が終了してしまう。生殖期を過ぎた女性は、エマーン人の間では女性として認められず、男性に対して裸を見られるなどしても、羞恥心を抱くことがなくなる。
 国家としてのエマーンは、現在のベトナム、カンボジアあたりにあり、シャイアの実家であるトーブ家、ミムジィのラース家など、有力部族ごとに近未来的なドーム都市を構えて生活を営んでいる。原料を他国より輸入し、それを用いて生産した物品を、各地に隊商を派遣して売るという貿易立国であり、その科学力はチラムと並ぶほど高いものの、戦闘経験には乏しい。