∀ガンダム

◆メディア:TV ◆放映年月日:1999年4月〜2000年4月
◆話数:全50話 ◆総監督:富野由悠季
◆キャラクター原案:安田朗 ◆キャラクター設定:菱沼義仁
◆メカニカルデザイン:大河原邦男、シド・ミード、重田敦司、沙倉拓実
あらすじ

 時は正暦2343年、月に住むムーンレィスの少年ロラン・セアックは、地球帰還作戦の事前モニターのため、友人のキース、フランとともに地球へと降下する。産業革命前後まで文明の巻き戻ったような地球で、ロランはビシニティの町で鉱山を経営するハイム家の娘、キエルとソシエの姉妹に出会い、自動車の運転手として雇われることとなる。
 そして2年が経過し、ロランはソシエとともに成人式に参加。ホワイトドールと呼ばれる石像の前で、聖痕をつけあうのだった。そんななか、月の女王ディアナ・ソレルの命によって地球帰還作戦が開始され、月の義勇軍であるディアナ・カウンターが、モビルスーツ(MS)を用いてノックスの街に降り立つ。これを迎撃するイングレッサ・ミリシャとの戦いのなか、ディアナ・カウンターの攻撃によりホワイトドールが崩落。石像の中から現れたのは、白いMS─∀ガンダム─あった。ロランが乗り込むと、∀ガンダムは自動的にディアナ・カウンターを攻撃。しかし、ディアナ・カウンターとミリシャの戦いは続き、ハイム家に帰り着いたロランとソシエを待っていたのは、焼け野と化したビシニティの街であった。ソシエも父を失い、地球人のムーンレィスに対する憎悪は深まる……。

キャラクター

 この作品ではキャラクター原案に、『ストリートファイターⅡ』などのTVゲームクリエイターとして知られる安田朗氏を起用したことでも大きな話題を呼んだ。従来のシリーズ作品とは一線を画す独特のデザインは、この作品の世界観の構築に一 役買っている。特に主人公とヒロインの出来が秀逸だ。
 主人公のロランは、ビジュアル、キャラクター性ともに中性的なキャラクターとして位置づけられた。これも、それまでのガンダム作品にはなかったことである。先述した「生命を大事にしない人とは誰とでも戦う」という考え方も、どちらかといえば女性的な考え方だといえよう。このような主人公像の新たなあり方を示したロランは、大きな人気を呼んだ。
 この作品のもう一方の柱となる月の女王ディアナ(およびキエル)は、「竹取物語」と「とりかへばや物語」という2つの古典文学をベースとしたキャラクターである。「芸能」の復権を目指した富野総監督は、これらの数百年に渡って親しまれる普遍的な物語をとり入れることにより、この作品をロボットアニメでありながら、戦争ものを脱した一種おとぎ話的な物語という無二の存在へと昇華させたのである。
 一方で、敵方であるギム・ギンガナムの強烈なキャラクターも記憶に強く残るもので、声優の子安武人氏の熱演により、数多くの名言が誕生。多くのファンを獲得するにいたっている。

用語1

●黒歴史

 ムーンレィスに伝わる、かつて栄えた文明で起きた争いの記録。宇宙世紀、未来世紀、アフターコロニー、アフターウォーなど、さまざまな時代の戦いのてん末と兵器の数々が記録されている。その終焉は、∀ガンダムが月光蝶システムを発動させて地球全土にナノマシンを散布。兵器をはじめとしたあらゆる文明の産物を砂塵へと化したとされている。これにより、現在の地球の文明レベルは産業革命前後のような時代まで低下してしまっている。また、この際に∀ガンダムとターンXによる対決が行われており、∀ガンダムが勝利したとされている。
 なお、黒歴史の終焉に際して、月に逃れた人々の末裔が現在のムーンレィスであるとされる。黒歴史は月の首都ゲンガナムの、アグリッパ・メンテナー一族が管理する冬眠施設・冬の宮殿にて厳重に封印されており、一般の者が触れることができないようになっている。

©創通・サンライズ


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ストーリー

 1979年の同作以来、シリーズを重ねてきた『ガンダム』。時を経ていくに連れ、『新機動戦記ガンダムW』や『機動新世紀ガンダムX』など、『機動戦士ガンダム』の生みの親ともいうべき富野由悠季氏の手によらない作品も多く製作された。それらのすべてを、富野由悠季自らが「黒歴史」という形で包括・肯定してしまったのが『∀ガンダム』である。
 とはいえ、ガンダムシリーズのなかでもひときわ異彩を放つ作品だといえる。すでに地球の文明が一度滅び去っているという設定により、これまでのシリーズ作品にはなかった牧歌的な世界観が構築されているのだ。このことは第8話「ローラの牛」に顕著に現れている。これは幼い赤ん坊にミルクをあげるために、ロランが∀ガンダムを使って牛を運ぶエピソードである。ガンダムが生活の1シーンに溶け込むような情景は、ともすれば視聴者の目にはコミカルに写るかもしれない。しかし人間としての温かみに満ちた描写は、これまでのガンダム作品では見られなかったものであった。しかもこの回では、そのことが主人公のロランが戦う動機にもつながっている。「生命を大事にしない人とは誰とでも戦う」というロランの姿勢もまた、これまでのシリーズ作品にはないもので、人が生きるということの本質を視聴者に問いかけるものであった。

メカ

 この作品は、世界的な工業デザイナーであるシド・ミードがメカニカルデザインを手がけたことで知られる。彼が生み出した「ヒゲがある」∀ガンダムは、従来のガンダム観─ひいてはメカニックデザインの常識─を超越したものであった。この奇抜なデザインに旧来のファンは大きな衝撃を受けたが、どこか愛嬌すらうかがえる風貌は、温かみのある作品カラーによくマッチしたものであった。また、こうした既成概念にとらわれないデザインはシリーズ全体に新たな風をとり入れることとなり、のちのシリーズ作品へ大きな影響を及ぼしている。
 一方で『機動戦士ガンダム』に登場した量産型MSザクⅡが、ボルジャーノンと名を変えて登場したり、『機動戦士ガンダムZZ』では1話のみ用いられた水陸両用MSカプールにうりふたつのカプルがレギュラーMSとして活躍するなど、従来作に対するリスペクトも多く盛り込まれており、シリーズのファンを驚かせると同時に、大いに喜ばせた。

用語2

●マウンテン・サイクル

 モビルスーツ(MS)をはじめとし、正暦の時代にそぐわない物体が発掘される遺跡のこと。これらの発掘物は、黒歴史における文明埋葬の結果、ナノマシン堆積物に埋もれたかつての文明の産物である。ある程度はナノマシンの作用によって経時変化のよる劣化から保護されているらしく、発掘してまもなくの使用が可能な場合も多々ある。
 地球ではかねてより、各地の伝説に残る黒歴史の実在がささやかれており、マウンテン・サイクルはその論拠となっていた。マウンテン・サイクルを研究し、黒歴史に近づこうとする学者のことを鉱山師(やまし)と呼び、ビシニティのマウンテン・サイクルから初めて∀ガンダムが発見されたことから、その発掘・研究は急速に進んだ。マウンテン・サイクルの中には、鉱山師が忌避するロスト・マウンテン・サイクル(ロスト・マウンテン)と呼ばれるものもあり、これらは核や化学兵器の研究所など、危険な施設の名残だったのではないかと推測されている。なお、月面にもマウンテン・サイクルは存在し、ターンXやバンデットなどのMSが発掘されている。